ここにもアベのギワク。「下町ボブスレー」の闇と埃。
ピョンチャンの喧噪が終わった。
隣国のイベントでこの騒ぎ。この間の国会論戦からの目眩まし効果には顕著なものがあった。東京五輪ともなれば、さらに「政権の政権による政権のための五輪」になるだろう。あるいは、「ナショナルのナショナリストによるナショナリズムのための東京五輪」。さらには、「財界の商業主義による徹底した利潤追求のための東京五輪」。そんなものはご勘弁願いたい。この願いかなわねば、20年夏の東京の喧噪を避けて、穏やかで静かな地への疎開を本気で考えなければならない。
ところで、ピョンチャン五輪での注目すべき2点。一つは、南北宥和のきっかけである。五輪と言えば「平和のための祭典」だろうが、このきっかけが米朝対話と平和の実現にどう繋がることになるか。五輪後を注目したい。
もう一つが、ジャマイカの下町ボブスレー採用拒否事件。「メンバー・オブ・アベノセイダーズ」の視点から、関心をもたざるを得ない。この件、もっと大きく「アベのせいだ」事件として取り上げられてしかるべきだろう。メディアは、下町ボブスレープロジェクトと安倍政権の関係に、鋭く切り込んでいただきたい。
五輪出場権を得たジャマイカ・チームが、無償で提供された「下町ボブスレー」をなぜ拒否したか。この点は各紙が伝えている。たとえば、朝日は、「遅い、安全でない、検査不合格」と見出しを付けて、ジャマイカ側の言い分を紹介している。
「(下町ボブスレープロジェクト推進)委員会によると、使用しないのは五輪出場を決めた女子チーム。「スピードが遅い」「規格違反で失格のリスクがある」などを理由として挙げているという。同チームは下町ボブスレーを使い続けていたが、昨年12月からラトビア製を使い「こちらの方が速い」などと主張しているという。
下町ボブスレープロジェクトは町工場の高い技術力を世界に示そうと2011年に開始。日本チームにはソチ五輪、平昌五輪と採用されなかったが、16年にジャマイカとの契約に成功した。」
委員会側の反論もあげてはいるが説得力はない。ラトビアの小工場に負けたことを潔く認めて、恥の上塗りを避けるしかなかろう。
ところが、問題はもっと別のところにある。アベが深く絡んでいるのだ。6000万円の補助金も出ている。これは裏の埃を徹底してはたき、闇に光を当てなければならない。
東京新聞2月14日の「こちら特報部」が「下町ボブスレー騒動の根を探る」という上手な記事にまとめている。タイトルは、「首相お墨付き美談一転、物議」「町工場を超え官民一体事業」。このタイトルで大方のことは想像がつくだろう。
リードは、「平昌五輪での数々のドラマが報じられる中、「下町ボブスレー」をめぐる一件が騒ぎになっている。東京都大田区の町工場の有志らが競技用そりを製作。だが、無償提供を受けていたジャマイカ代表チームが五輪開幕直前に使わないと通告し、損害賠償請求に発展しつつある問題だ。ただ、この事業は当初の下町の美談を超え、いつしか官民一体のプロジェクトに変容していた。問題の根はそこにもありそうだ。」というもの。
不明にして知らなかった多くのことをこの記事で教えられた。「教育出版」というアベ御用の出版社が、小学5年生の道徳教科書に「下町ボブスレーに乗って笑顔でポーズを決めるアベ」の写真掲載と聞いて仰天した。えっ? アベと道徳? そりゃ水と油、氷と炭、月とすっぽん、提灯に釣り鐘、泥と雲。およそこれほど似つかわしくない取り合わせも考えがたい。
この東京の記事、コメンテータとしての早川タダノリの起用が適切で、問題のとらえ方に説得力がある。
だが、この東京新聞記事は、やや品がよすぎる。その分インパクトに欠ける。たとえば、この下町ボブスレー・プロジェクト推進委のジェネラルマネージャーが、加計問題の加計孝太郎、森友問題の籠池泰典に当たる人物なのだが、さりげなくその顔写真は出しても名前までは出さない。
それに比較して、適当に品が悪くそれだけに突っ込み鋭い記事がリテラ(2月13日)である。タイトルは、「下町ボブスレーに“韓国ヘイト”と森友加計そっくりの“アベ友優遇”疑惑! 補助金にも安倍首相が介入か」と具体的。
リテラはいつもお薦めだが、これは特に是非お読みいただきたい。「下町ボブスレー・プロジェクト」に、いかに深くアベが関わっていたか、その思惑はなにかが、よく分かる。
http://lite-ra.com/2018/02/post-3798.html
まず、ヘイトの問題。「下町ボブスレーネットワークプロジェクト推進委員会」なる運営団体の公式ツイッターが口汚い中国、韓国ヘイトを投稿していた。リテラは、「こんな差別体質の組織のソリがオリンピックに参加していたらと思うと、空恐ろしくなる」と言っているが、このことについては割愛する。
必要な範囲で引用しておきたい。
「大田区の企業経営者ら産業振興目的でこのプロジェクトを立ち上げたのは、2011年。当時はほとんどスポンサーも付いておらず、ここまで大きな話題になっていなかった。ところが、2013年2月、安倍首相が政権に返り咲いて最初の国会の施政方針演説で、いきなりこの下町ボブスレーのことを紹介する。
『小さな町工場からフェラーリやBMWに果敢に挑戦している皆さんがいます。自動車ではありません。東京都大田区の中小企業を経営する細貝さんは仲間とともにボブスレー競技用ソリの国産化プロジェクトを立ち上げました。世界最速のマシンをつくりたい。30社を超える町工場がこれまで培ってきたものづくりの力を結集して、来年のソチ五輪を目指し、世界に挑んでいます。高い技術と意欲をもつ中小企業、小規模事業者の挑戦を応援します』」
「以後、ANA、伊藤忠商事、東芝など、名だたる企業が名乗りをあげ、NHKでのドラマ化も決定。マスコミの取材が殺到するようになる。さらに、2013年6月30日、自民党が開いて中小企業小規模事業者政策緊急フォーラムなる会合には、下町ボブスレーのソリの現物が会場に運び込まれ、安倍首相が乗り込むパフォーマンスを披露。この様子も多くのメディアに紹介され、右派系の『教育出版』の小学校道徳教科書にはその写真が掲載された。
下町ボブスレーにとっては、大宣伝になったわけだが、安倍政権は宣伝に協力しただけではない。施政方針演説の数カ月後の同年6月、政府は、このプロジェクトに直接、資金を投入することを決めた。経済産業省が下町ボブスレーを『JAPANブランド育成支援事業』に採択し、以後3年間にわたって、上限2000万円の補助金を交付し続けたのだ。」
このプロジェクトの中心人物が、下町ボブスレーネットワークプロジェクト推進委員会のゼネラルマネージャー・細貝淳一。大田区で防衛機器、OA機器向けの金属材料販売加工を行う会社を経営しているが、下町ボブスレーを立ち上げ、以来、スポンサー集めから運営までを取り仕切ってきた。今、「安倍総理に最も影響力がある中小企業の社長」と言われているという。
「その細貝が、クラウドファウンディングのサイト「zenmono」で、安倍効果についてこう語っている。
「ここで安倍晋三さんが大ヒットを飛ばしてくれる」「総理になられた時、施政方針演説ってあるじゃないですか。あそこで大田区の企業が下町ボブスレーというプロジェクトで世界を目指していると。」「下町ボブスレーに対して信用がついて、そこでスポンサーがドドドドッと。だから後付けなんだよ、もう全部。先に走っちゃうから、金使うこと前提。あとは奇跡がボンボンボンって。」
まるで森友学園・籠池理事長の「神風が吹いた」を思い出させる発言だが、実際、森友・加計疑惑と全く同じように、安倍首相の鶴の一声、施政方針演説をきっかけに、日本政府全体が一斉に下町ボブスレー支援に動いたのは間違いない。」
さらに、注目すべきは、大田区を地盤とする平将明衆議院議員(自民)がこう語っていること。“細貝さんが安倍さんに『補助金の申請書類が多すぎる』と言ったら、安倍さんから茂木さんに話が降りてきて、茂木さんから私に話が降りきて、申請書類を半分にした”というエピソード。
「これ、時期的に見ても、下町ボブスレーが上限2000万円の補助金を2013年から3年間受けた経産省中小企業庁の『JAPANブランド育成支援事業』の申請をにらんでの要望だったと考えられる。
ようするに、安倍首相は、オトモダチの要望に応じて、補助金の申請書類が少なく済むように役所に圧力をかけさせたということではないか。
いや、安倍首相の圧力はたんに申請書類の分量だけでなく、採択そのものにも影響を与えた可能性がある。申請書類をめぐる動きで、安倍首相がどんなプロジェクトに補助金を出したがっているかは当然、役所に伝わり、そうなれば、官僚が忖度して動くのは火を見るより明らかだからだ。
まさに何から何までモリカケとそっくりな展開になってきた下町ボブスレー問題。政府が全面協力しながらラトビアの町工場に技術力で負けてしまった責任やその敗北を認めずに損害賠償をちらつかせる姿勢、オリンピックに参加しようというプロジェクト運営者がヘイトを繰り返していたという事実は、それだけで言語道断であり非難に値するが、この問題にはもっと深い闇がある。
いったいどういう経緯で、政府が一プロジェクトにここまで肩入れし、国民の血税をつぎ込むに至ったのか。それこそモリカケ並みの徹底追及が必要だろう。」
ここにも、摘出すべきアベ忖度政治の病巣がある。
(2018年2月26日)