(2020年12月7日)
大村秀章愛知県知事に対する大義のないリコール運動。その署名の偽造・水増し疑惑がいよいよ本格的にメディアに報じられるところとなってきた。この動き、河村たかしと高須克弥とが前面に出てはしゃいでいた印象だが、実務を支えた事務局長は田中孝博という人物。元は減税日本に所属し、現在は維新の愛知5区支部長で同選挙区からの公認立候補予定者である。なるほど、類は友を呼ぶというわけだ。醜悪なトライアングル。
この問題、ネットで疑惑として話題となり、当ブログでも何度か取りあげた。最近のものでは、以下を参照されたい。
リコール署名の偽造・水増しは、犯罪である。その隠蔽は許されない。
https://article9.jp/wordpress/?p=15962 (2020年11月23日)
その偽造署名疑惑、明らかに局面は変わった。これまで、この運動を支えていた複数の人々が、告発者として名乗りを上げ、12月4日記者会見を開いたのだ。各紙、各テレビ局が、この告発内容を報じ、自らも取材し始めている。どうせ、成立見込みのないリコール運動に大したニュースバリューはないが、名古屋市長が関わった運動に大量の偽造署名疑惑があるとなれば、報道の価値は十分である。
まずは、読売新聞記事を紹介しよう。河村や高須のイデオロギーに遠慮するところなく、事実を伝えている。
高須克弥院長らの知事リコール運動「署名7?8割が偽造だろう」…請求代表者ら
美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長らによる愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動で、署名集めの請求代表者となっている男性らが4日、県庁で記者会見し、「署名簿に偽造が疑われる不審点が多数見つかった」と主張した。
記者会見したのは複数の請求代表者、街頭活動で署名を集めたり、署名簿に番号を割り振る作業に参加したりしたボランティアら。
会見で請求代表者らは「提出前の署名簿には、明らかに同一の筆跡とみられるものが多数あった。指印も同一とみられる」などと説明。選挙管理委員会に提出した名簿の真偽を各選管を訪ねて確認中という請求代表者の1人は「7?8割が偽造だろう」と述べた。
リコール活動を担っていた田中孝博事務局長は取材に対し、「不正を行う時間はなかった」などと語り、事務局の偽造署名への関与を否定した。
また、共同は、「愛知県知事リコール運動で『不正署名多数』と参加者」として、下記の記事を配信した。
美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長らが展開した愛知県の大村秀章知事の解職請求(リコール)運動を巡り、署名活動を担った男性らが4日、名古屋市内で記者会見し「不正な署名が多数あった」と主張した。リコール運動の事務局は不正を否定した。
大村知事は4日の会見で「署名の不正が行われていたら日本の民主主義を揺るがすことになる。関係者が明らかにしてほしい」と指摘した。
男性らは運動発起人の「請求代表者」や署名集めの委任を受けた「受任者」として活動した。会見で「明らかに同一筆跡の署名が多数あった」と証言。瀬戸市で活動した水野昇さん(68)は「一生懸命署名を集めた人は怒っている。真実を解明したい」と語った。
リコール運動事務局の担当者は取材に「不正行為をやる理由がない」と否定した上で「一部受任者が不正の証拠と称し署名簿を盗んだ疑いがある」と訴えた。
高須氏らは11月、43万5231人分の署名を各選挙管理委員会に提出。解職の賛否を問う住民投票実施に必要な法定数約86万6000人の半分ほどにとどまった。県選管によると、提出署名が法定数を満たさない限り、署名が有効かの審査は行わない。(共同)
さらに、地元「東海テレビ」の報道が素晴らしい。誰にも忖度するところのない報道。ぜひ、これを視聴いただきたい。
https://www.tokai-tv.com/tokainews/article_20201204_150292
愛知県の大村知事に対するリコール署名活動を巡り、ある疑惑が浮上しました。署名集めをしたグループなどが4日に会見し、「同じ人物が複数の署名を偽造した疑いがある」と訴えました。
不正に署名された疑いのある住所へ実際に向かってみると、驚きの事実が明らかになりました。
4日午後、愛知県庁で会見を開いたのは、大村知事に対するリコール署名で実際に署名を集めた「受任者」らのグループや、その責任者にあたる「請求代表者」。会見の場で訴えたのは『署名集め”不正”疑惑』です。
請求代表者:
「筆跡が全部同じである。誰かが住民データを側に置いて、それをずっと丸写ししていったんだろうな」
なんと「同じ人が複数の署名を書き、偽造した疑いがある」と訴えたのです。
去年開かれた『あいちトリエンナーレ』を巡り、高須クリニックの高須克弥院長と名古屋市の河村たかし市長が進めた、大村知事のリコール運動。
11月、高須院長の体調不良が理由で、署名集めは途中で終了しましたが、2か月で必要な署名の半数にあたる43万余りの署名が集まりました。その署名に浮上した今回の疑惑。一体どういうことなのか…。
実際に、署名簿のコピーを見せてもらうと…。
リコール署名元受任者の水野さん:
「日にちが違うし、名前がほとんど同筆跡なんですよ」
別々の人の名前が書かれた文字を抜き出してみると、「子」や「増」などよく似た筆跡がいくつもあり、書かれた署名の住所を並べてみても、確かに似ているように見えます。
不審な点に気付いたという水野昇さんは、受任者として集まった署名を提出する作業を手伝っていた11月4日、同一人物とみられる筆跡があることに気付いたといいます。
水野さん:
「誰が見たって筆跡一緒ですよ。量から見て計画的です。驚きました」
水野さんによると、なんと300余りの署名が、たった2人の手によって書かれた可能性があるといいます。
不正は実際に行われていたのでしょうか。名簿に書かれた尾張旭市内の住所に向かってみると、衝撃の事実が明らかになりました。
Q.こちらの住所・お名前は、ご自身で間違いないですか?
署名簿に記載されていた人:
「間違いありません、生年月日もあってるし。ただこの筆跡には全然覚えがないんです。(Q.リコール署名された?)書いたことはありません。書いてません」
住所と名前が一致する人物はいましたが、「署名を書いていない」ことが明らかになりました。さらに別の住所でも…。
Q.こちらご自身ですか?
署名簿に記載されていた別の人:
「えぇ、私ですけど字が違うな…。(書いた覚えは)ないです」
Q.この(署名の)お名前は娘さんですか?
また別の人:
「はい、娘です。今いないです、嫁いで。もう20年くらい前」
取材した5人のうち、2人が「署名を書いていない」と証言。さらに残りの3人は、記載された住所に住んでいませんでした。
請求代表者:
「各選管を回っています。それで不正とみられる署名簿が8割」
不正とみられる署名は蟹江町などでも確認されていて、署名集めの責任者にあたる請求代表者らは、地方自治法違反の疑いで刑事告発を検討。警察と相談を進めています。
今回浮上した不正疑惑について、リコール活動を全面的に支援していた河村市長は…。
Q.不正疑惑についてどのように受け止めている?
河村名古屋市長:
「まず不正不正言っとるけど、無効ですわね、それ。考えられんですよ、審査ですぐ分かるんだから、無効って」
一方、大村知事は…。
大村愛知県知事:
「いろんな情報が私の耳にも入ってきますけれども、投票の偽装と署名の偽造はですね、全く同じ量刑・同じ罰則・罪でありますから、軽くない。事実関係は明らかにされなければならない。関係者は事実関係を明らかにする義務がある」
現在、各地の選管で保管されている署名は、1月にもリコール活動をしていた団体に返却されますが、団体の事務局は「プライバシー保護のため、署名簿は溶かして処分する」としています。
醜悪なトライアングル、やることがいかにも汚い。潔さがない。高須が「リコールの会が仮提出した署名簿は、封印したまま僕の目の前で溶解液に入れて破棄する方針だ。万が一、リコールの会が集めた署名簿の情報が漏洩した場合、すべて責任は取ります」と発言している。
なんという姑息な発言。組織的な大量の署名偽造疑惑が問題とされている。もちろん、高須自身も、その疑惑の首謀者として被疑者の一人とならざるを得ない。にもかかわらず、自ら疑惑を晴らす努力をしょうというのではなく、疑惑の証拠となるべき署名簿を溶解してしまおうというのだ。サクラ疑惑を追及されるや、直ちに名簿を廃棄した、かの前政権並みの汚い手口。「関係者は事実関係を明らかにする義務がある」という、大村知事の提言が虚しい。しかも、「リコールの会が集めた署名簿の情報が漏洩した場合、すべて責任は取ります」と上辺を飾っての取り繕いがみっともない。
関係者の内、高須には最初から特に失うものの持ち合わせはない。維新の傷も大したことはなかろう。しかし、河村の政治生命には致命的な傷が付くのではないか。署名の偽造に少しでも関わっていればアウトだし、直接には不正署名に関わりなくとも、軽挙妄動のみっともなさが際立つことになる。犯罪との指摘を含む不正行為が、自分が肩入れした運動で生じたのだ。事務を担当した田中は、元は減税日本に所属していた知己でもある。監督不行き届きの政治責任は免れない。
記者会見に臨んだ者たちは刑事告発を検討中だという。ぜひとも厳正な捜査の結果を待ちたい。健全な民主主義のために。
(2020年12月6日)
一昨日(12月4日)大阪地裁で言い渡された、大飯原発の設置許可を取り消す判決が、日本の社会に大きな衝撃をもたらしている。付された事件名は、平成24年(行ウ)第117号「発電所運転停止命令義務付け請求事件」。福井県や近畿地方の住民ら127人が原告となって被告行政庁を原子力規制委員会とする行政訴訟だが、2012年の提訴以来8年を経ての判決。提訴当時は、原子力規制委員会に「関電に対しての運転停止命令を義務付け」請求であったが、「関電に対する運転許可処分取消」を求める請求の趣旨への変更となり、これが全面的に認容された。なお、被告側に関西電力が参加している。
判決の主文は以下のとおりである。
原子力規制委員会が平成29年5月24日付けで被告参加人(関西電力)に対してした大飯発電所3号機及び4号機に係る発電用原子炉の設置変更許可を取り消す。
これは関電にとってだけでなく、財界にとっても、そして政権にとっても、政権を支えてきた原子力ムラにとっても、この上ない衝撃の判決。原発の稼働を直接差し止める判決ではないが、この判決が確定すれば、大飯原発の3・4号機は稼働不能となる。
判決主文だけでなく、その許可処分取消理由のシンプルさが、また衝撃である。このシンプルな理由を全国の原発(の許可処分)に当てはめてみるとどうなるだろうか。毎日は、「大飯3、4号機以外でも、これまでに8原発14基が大飯と同様の考え方で規制委の安全審査を通過した。判決が確定した場合、審査のやり直しを迫られる可能性がある。」と報じている。
まず、裁判所が作成した「判決骨子」(全文)をご覧いただきたい。争点は、原子炉の耐震設計基準の定め方にある。
「関西電力は,大飯原発3号機及び4号機の設置変更許可申請において,各原子炉の耐震性判断に必要な地震を想定する際,地質調査結果等に基づき設定した震源断層面積を経験式に当てはめて計算した平均値としての地震規模をそのまま用いた。新規制基準は,経験式による想定を超える規模の地震が発生し得ることを考慮しなければならないとしていたから,新規制基準に基づき基準となる地震動を想定する際には,少なくとも経験式による想定を上乗せする要否を検討する必要があった。原子力規制委員会は,そのような要否自体を検討することなく,上記申請を許可した。原子力規制委員会の調査審議及び判断は,審査すべき点を審査していないので違法である。以 上」
判決書きの全文は、200ページを越す大部なものだが、その判断の核心は、以上の「骨子」に尽きている。あっけないとも、素っ気ないともいうべき判決理由。
問題は、「原子炉の耐震性判断に必要な地震動の基準」である。これを「基準地震動」という。原子炉は、少なくも「基準地震動」を越える耐震性をもつように設計されるが、その基準値は合理的なものでなくてはならない。ところが、判決はこの基準値震動の設定において、原子力規制委員会の調査審議及び判断にはミスがあって、許可処分は違法だというのである。
キーワードは、「基準地震動」と「平均値」そして「ばらつき」である。
原子力規制委員会は、「基準地震動」を策定するに際して、当地の地質調査結果等に基づき設定した震源断層面積を経験式に当てはめて計算した「平均値」をそのまま用いた。しかし、原子力規制委員会自らが定めた規制基準は,「平均値」では足りず、「ばらつき」を考慮して少なくとも経験式による想定を上乗せする要否を検討する必要があった。それをしていない処分は看過しがたい過誤や欠落があったとして違法、というのである。
「数式から算定される想定基準値震動は飽くまで平均値に過ぎず、現実に発生しうる地震が想定の平均値より大きくなる可能性を考慮していないことを違法と判断した」と言ってよいと思う。だから、原告住民側の弁護団は「全ての原発の基準地震動の設定に関する重大な問題。ただちに策定をやり直すべきだ」との声明を出した。
この判決の「衝撃」は、普段滅多に出るはずのない行政に厳格な判決が出たことによる。だが、本来司法とは行政に厳格でなくてはならないもの。実は、この判決は「大道廃れて仁義あり」の類いではないだろうか。「司法の正義廃れて名判決の衝撃あり」の感が深い。
以下に、弁護団声明、原告団声明、判決要旨を掲載する。
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弁護団声明
2020年 12月 4日
大飯原子力発電所設置許可取消請求弁護団
本日大阪地方裁判所は画期的判決を言い渡した。
真塾かっ真剣な審理の結果に対し敬意を表する次第である。
本訴訟の最大の争点は基準地震動の設定が安全性を担保する適切な値として定められているか、そして、国の規制機関である原子力規制委員会がその基準地震動を認めるにあたって、適切な審査をしたか否かにあった。
国が定めた「地震動審査ガイドJには、基準地震動を定めるにあたって、経験式から導かれる数値は「平均値としての地震規模を与えるものであることから、経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある」と規定している。しかし、これまで、すべての原発についてこの「ばらつき」は考慮されず、したがって、基準地震動は過小評価されて設定されていた。
本判決は、この基準地震動を過小評価として、それを見過ごした設置許可処分を違法として取消を命じたものである。
この問題は、すべての原発の基準地震動の設定に関係する重大な問題であるから、直ちに全原発について、基準地震動の策定をやり直し、もしくは、一刻も早く危険な原子力発電所を廃止すべきであることを強く訴えるものである。
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原告団声明
12月4日 大阪地裁は国に対し大飯原発3・4号の設置許可取り消しを命じる
大飯3・4号は地震に耐えられないと、原告の主張を認める判決国は控訴を断念して設置許可を取り消し、すべての原発等について耐震性の見直しを行え
本日(12 月 4 日)大阪地裁の行政訴訟において、大飯原発の基準地震動は過小評価であるとして、設置許可を取り消せとの判決が出された。これは福島原発事故後に新たに導入された地震動審査ガイドの規定を踏まえた結果である。原子力規制委員会は直ちに大飯3・4号の設置許可を取り消し、国は人々の安全を守るために控訴を断念すべきである。この判決は8年半にわたる長い闘いの成果である。
原子力規制委員会は、これまで自ら策定したガイドにおける地震規模の「ばらつき」を考慮せよとの規定を無視し、適用を退けてきた。大飯原発で、基準地震動の基礎となる地震規模を決める入倉・三宅式は、過去に起こった世界中の 53 個のデータの平均値である。しかし実データはばらついていて平均式との間に乖離があり、平均式より大きい地震規模が発生する可能性をはらんでいる。
この事実に基づいてガイドは、「経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから、経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある」と規定している。この規定について、原子力規制委員会は 2018 年 12 月 19 日付「新規制基準の考え方[改訂版]」において、「当該経験式の前提とされた観測データとの間の乖離の度合いまでを踏まえる必要があることを意味している」との見解を出している。
今年 1 月 30 日に裁判長は被告に対してこの乖離の度合いとして、少なくとも標準偏差を考慮しても、設置許可基準規則 4 条 3 項が規定する「地震による損傷の防止」が成り立つことを示すよう指示した。「ばらつき」の考慮が福島事故後に初めて策定されたことの意味を考えるようとも指摘した。
現行では「不確かさ」を考慮した場合の 856 ガルが最大加速度である。それにさらに「ばらつき」の標準偏差を考慮すれば 1,150 ガルとなる。それでも上記基準規則の成立を示すことが事実上求められたのである。
ところが被告は、標準偏差は考慮したものの、今度は現行の「不確かさ」考慮をとり払い、現行より低い 812 ガルにしかならないと主張した。これでは裁判長が基準規則適合性を求めた意味が消し飛んでしまう。
このような愚論を判決ははっきりと退けた。地震が過去の平均値で起こるとは限らないとの法則性を裁判所が認定したのである。
原子力規制委員会はこの判決を踏まえて、すべての原発及び原子力施設等について、地震規模(地震モーメント及びマグニチュード)の見直しを行うべきである。
関西電力に関しては、大飯原発の地震規模の見直しはもちろんのこと、とりわけ老朽美浜3号炉の耐震性が大きな問題になる。敷地のほぼ直下にある C 断層が現行でも 993 ガルをもたらすが、「ばらつき」の標準偏差を考慮しただけで 1,330 ガルに跳ね上がる。老朽化に伴う諸問題を抱えながら、このような危険性が放置されてよいはずはない。再稼働を中止し、耐震性の見直しを行うべきである。
全国各地の原発に関して、耐震性の見直しを要求する取組みを協力して進めていこう。
2020 年 12 月 4 日 おおい原発止めよう裁判の会
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平成 24年(行ウ)第 11 7号 発電所運転停止命令義務付け請求事件
裁判官 森鍵一,齋藤毅,豊臣亮輔(言渡日 2020年12月4日)
判決要旨
1 事案の概要
(1) 原子力規制委員会は,平成29年5月24日付けで,被告参加人(関西電力)に対し,大飯原発 3号機及び 4号機(本件各原子炉)の設置変更を許可した(本件処分)。
本件は,福井県等に居住する原告らが,本件処分に係る参加人の許可申請(本件申請)が当時の「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則」 (設置許可基準規則)で定める基準に適合するものでないにもかかわらず,本件処分がされたものであることなどから,本件処分は当時の核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律43条の3の6第1項4号等に反し違法である旨主張して,その取消しを求める事案である。
(2) 本件の争点は,本件各原子炉の耐震性判断のための基準となる地震動(基準地震動)を策定(想定)するに当たり行われた地震規模(地震モーメント)の設定が,新規制基準に適合している旨の原子力規制委員会の判断に不合理な点があるか否かのほか,原告らが主張するその余の違法事由(基準地震動を想定するための経験式(入倉・三宅式)の選択の違法,制御棒挿入時間の基準超過,F-6破砕帯を活断層と判断しなかったための地盤安定性の見誤り,基準津波の設定の誤り,重大事故時の溶融炉心冷却設備及び放射性物質拡大抑制設備の不備)が認められるか否かである。
2 判断の概要
裁判所は,概要,以下の理由から,本件申請について,基準地震動を策定するに当たり行われた地震モーメントの設定が新規制基準に適合している旨の原子力規制委員会の判断に不合理な点があるとして,本件処分は違法である旨判断した。
なお,原告らが主張するその余の違法事由はいずれも採用することができないものと判断した。
(1) 判断枠組み
原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる発電用原子炉設置(変更)許可処分の取消訴訟における裁判所の審理,判断は,原子力規制委員会の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって,現在の科学技術水準に照らし,原子力規制委員会の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該発電用原子炉の設置(変更)許可申請が上記具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると認められる場合には,原子力規制委員会の判断に不合理な点があるものとして,その判断に基づく上記処分は違法であると解するのが相当である(伊方原発事件に関する最高裁平成4年1 0月 29日判決)。
(2) 新規制基準における基準地震動の策定に関する定めア 設置許可基準規則 4条 3項は,発電用原子炉施設のうち,一定の重要なものは,その供用中に当該施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力(基準地震動による地震力)に対して安全機能(設置許可基準規則 2条 2項 5号参照)が損なわれるおそれがないものでなければならない旨を定める。
イ 基準地震動の策定に当たっては,敷地に大きな影響を与えると予想される地震について,震源の特性を主要なパラメータで表した震源モデルを設定しなければならない。この点について,設置許可基準規則を受けて原子力規制委員会が定めた内規である当時の「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則の解釈J (規則の解釈)は,基準地震動の策定過程に伴う各種の不確かさ(震源断層の長さ,地震発生層の上端深さ・下端深さ,断層傾斜角等の不確かさ並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさ)については,敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析した上で,必要に応じて不確かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮する旨を定める。
ウ そして,設置許可基準規則及び規則の解釈の趣旨を十分踏まえ,基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的として原子力規制委員会が定めた「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」 (地震動審査ガイド)は, 「震源、モデ、ルの長さ又は面積,あるいは 1回の活動による変位量と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する。その際,経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから,経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。」 (I. 3. 2. 3 (2)。本件ばらつき条項)と定める。
(3) 本件ばらつき条項の意義
経験式は,二つの物理量(ここでは,震源断層面積と地震規模)の間の原理的関係を示すものではなく,観測等により得られたデータを基に推測された経験的関係を示すものであり,経験式によって算出される地震規模は平均値である。そこで,実際に発生する地震の地震規模は平均値からかい離することが当然に想定されている。地震規模(地震モーメント)は,震源モデルの重要なパラメータの一つであり,その他のパラメータの算出に用いられるものであって,基準地震動の策定における重要な要素であるといえる。そうすると,経験式を用いて地震モーメントを設定する場合には,経験式によって算出される平均値をもってそのまま震源モデルにおける地震モーメントとして設定するのではなく,実際に発生する地震の地震モーメントが平均値より大きい方向にかい離する可能性を考慮、して地震モーメントを設定するのが相当であると考えられる(例えば,経験式を導く基礎となったデータの標準偏差分を加味するなど)。ただし,他のパラメータの設定に当たり,上記のような方法で地震モーメントを設定するのと同視し得るような考慮など,相応の合理性を有する考慮、がされていれば足りるものと考えられる。また,経験式が有するばらつきを検証して,経験式によって算出される平均値に何らかの上乗せをする必要があるか否かを検討した結果,その必要がないといえる場合には,経験式によって算出される平均値をもってそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値とすることも妨げられないものと解される。
本件ばらつき条項の第 2文は,以上の趣旨をいうものと解される。このような解釈は,平成 23年 3月 11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発の事故を受けて耐震設計審査指針等が改訂される過程において,委員から,経験式より大きな地震が発生することを想定すべきであるとの指摘を受けて,本件ばらつき条項の第 2文に相当する定めが置かれるに至った経緯とも整合する。
(4) 原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程における過誤,欠落参加人は,本件申請において基準地震動を策定する際,地質調査結果等に基づき設定した震源断層面積を経験式に当てはめて計算された地震モーメントをそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値としたものであり,例えば,経験式が有するばらつきを考慮するために,当該経験式の基礎となったデータの標準偏差分を加味するなどの方法により,実際に発生する地震の地震モーメントが平均値より大きい方向にかい離する可能性を考慮して地震モーメントを設定する必要があるか否かということ自体を検討しておらず,現に,そのような設定(上乗せ)をしなかった。
原子力規制委員会は,経験式が有するばらつきを考慮した場合,これに基づき算出された地震モーメントの値に何らかの上乗せをする必要があるか否か等について何ら検討することなく,本件申請が設置許可基準規則 4条 3項に適合し,地震動審査ガイドを踏まえているとした。このような原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程には,看過し難い過誤,欠落があるものというべきである。 以 上
(2020年12月5日)
第203臨時国会は実質的に昨日(12月4日)閉会した。夕刻、菅首相が官邸で記者会見を行って、記者の質問にも応じた。正式な形の記者会見を国内で開くのは、首相就任直後の9月16日以来、2か月半ぶり2回目のこと。この人、極端に記者会見が嫌いなのだ。官房長官時代には記者を威圧して黙らせてはいたが、論理をたたかわせて納得を得る自信がないからなのだ。政治家としてはそれだけで失格だろう。
録画の会見を見たが、なんとも締まらない、面白くもない50分。高揚感に乏しい、おざなりの言葉のやり取り。一国のリーダーとして、国民に明日の希望を語りかけるなどという芸当にはほど遠く、つまらなさとむなしさだけが印象の全てである。
国会での質疑のテーマも、記者会見の題材も、実は問題山積である。コロナの問題一つを取っても、記者として聞かねばならないこと、正さねばならないことは山ほどもある。が、この日の会見の全てが、一方通行の原稿棒読みの印象。この首相の口から出る言葉には血が通っていない、感情も込められていない。発せられる言葉は、記号として理解するしかないが、その記号としての言葉も論理が成り立っていない。問に対応する回答がなく歯がゆさだけが積もっていく。本当につまらない国会の終わりに、つまらない首相から、つまらない記者会見を見せつけられた。この人、いったいいつまでもつだろうか。
下記が、「賢問愚答」の好例である。これは幹事社としての質問。予め、質問が官邸に届けられ、官邸が棒読み用の原稿を用意している。それでいて、この愚答である。
(毎日新聞・笈田記者)総理の説明責任に関連してお伺いします。日本学術会議の会員6名を任命されなかった問題をめぐって、今国会でも説明不足を指摘する声が相次いでいました。会員任命後、国内で総理が記者会見をされるのは今日が初めてとなりますので、(改めて伺います。)
(A)6人を任命しなかった理由と今後の対応、また、6人の方は具体的にどのような活動が認められれば将来的に任命される可能性があるのか、御説明いただけますでしょうか。
(B)また、学術会議の在り方の見直しについて、政府から独立した組織にすべきとお考えでしょうか。いつまでに結論を出し、いつから適用するお考えか、お聞かせください。
また、説明責任の関連で、説明不足を指摘する声は、桜を見る会の前夜祭で安倍前総理側が費用負担していた問題に関しても強まっています。検察は前総理を聴取する方針で、安倍前総理も今日聴取があれば応じる考えをお示しになりましたが、
(C)当時の官房長官として、前総理本人を含めて事実関係を確認した上で、国民に御説明するお考えはありますでしょうか。
総理は、過去の国会答弁については、答弁をした責任は私にあり、事実が違った場合は対応すると、今国会で答弁されました。
(D)誰のどういった判断を基に事実と異なるかどうかを御確認されて、具体的にどのような対応を採るお考えでしょうか。御説明ください。
首相の説明責任に関連しての質問だが、日本学術会議の会員6名に対する任命拒否問題について、(A)(B)の2問、桜を見る会の前夜祭について(C)(D)の2問である。これに対する答弁が次のとおり。
(菅総理)まず、私の会見の話でありますけれども、日本学術会議の任命について国会で何回となく質問を受けて、そこは丁寧にお答えをさせていただいています。この学術会議法にのっとって、学術会議に求められる役割も踏まえて、任命権者として適切な判断を行ったものです。
また、憲法第15条に基づいて、必ず推薦をされたとおりに任命しなければならないわけではないということについては、これは内閣法制局の了解を経た政府としての一貫した考え方であります。
そして、いずれにしろ、会員の皆さんを任命しますと公務員になるわけであります。公務員と同様でありますので、その理由についてはやはり人事に関することで、お答えを差し控えさせていただい。是非このことは御理解を頂きたいと思います。
また、一連の手続は終わっておりますので、新たに任命を行う場合には学術会議から推薦をいただくという必要があるというふうに思います。
また、私、梶田(かじた)会長とお会いをして、今後、学術会議として国民から理解をされる存在として、よりよいものをつくっていきたい、こういうことで合意しました。
そして、今後、どのように行っていくかについては、井上担当大臣の下で、梶田会長を始め学術会議の皆さんとコミュニケーションを取って議論をしているところであります。その方向性というのは、その議論の中で出てくるだろうと思います。
また、桜を見る会の中で、参議院予算委員会において私の答弁がありました。私は国会で答弁したことについて責任を持つことは当然である、そういう意味合いで私自身申し上げたことであります。
また、安倍前総理の関係団体の行事に関する私のこれまでの答弁については、安倍前総理が国会で答弁されたこと、あるいは必要があれば私自身が安倍前総理に確認しながら答弁を行ってきた、そういうことであります。
さて、(A)(B)(C)(D)の具体的な問に、回答があるか探してみよう。
(Aの回答)「6人を任命しなかった理由」については、決してお答えいたしません。お答えしない理由は、「人事に関することだから」という以上には、申し上げるつもりはありません。既に手続としては済んだことですので、「今後の対応」としては、学術会議から新たな推薦をいただくという必要があるというふうに思います。では、その場合、「6人の方は具体的にどのような活動が認められれば将来的に任命される可能性があるのか」については、お答えする意思はありません。
(Bの回答)また、「学術会議の在り方の見直しについて、政府から独立した組織にすべきとお考えでしょうか」「いつまでに結論を出し、いつから適用するお考えか、お聞かせください」という質問は、いずれも私の考え方を問うものですが、お答えいたしません。お答えすると、いろいろと方々に差し支えが生じることになるので、決してお答えいたしません。
(Cの回答)「当時の官房長官として、前総理本人を含めて事実関係を確認した上で、国民に御説明するお考えはありますでしょうか。」というご質問に、回答の意思はございません。そもそも回答の筋合いはないと思います。
(Dの回答)「誰のどういった判断を基に事実と異なるかどうかを御確認されて、具体的にどのような対応を採るお考えでしょうか。御説明ください。」と言われましても、説明できることと出来ないこととあるんじゃありませんか。この件については、ご説明できません。
菅流答弁の第一は、聞かれたことに答えないことにある。上手に躱しているというのでもなく、質問が不適切だということをアピールするでもなく、的を射た質問に、ひたすら回答を拒否するのみ。
そして、第二。なんともあからさまに平気でウソをつく。「日本学術会議の任命について国会で何回となく質問を受けて、そこは丁寧にお答えをさせていただいています。」とはよく言えたもの。
だから、記者会見がつまらなく虚しいのだ。
(2020年12月4日)
かつては漠然と信じていた。歴史とは、野蛮から文明への進歩の過程である、と。野蛮を克服して文明が興り、曲折はあるにせよ文明が野蛮を感化し、野蛮は文明によって淘汰されていく。これが歴史の大道であり、野蛮と文明が接すれば、やがて野蛮は文明に教化され包摂されていくに違いない…。その信念が揺るぎそうな昨今の状況である。とりわけ香港の事態が目立って深刻である。
香港では、専政から民主制へと進歩すべき歴史が逆流している。法の支配は暴力による支配に置き換えられ、権力の恣意によって自由や人権が抑圧されている。野蛮が横行して、文明を逼塞させているのだ。
権力の恣意的な発動を抑制して人権を擁護する装置として、文明は権力分立という理念と制度を普遍的な原則として採用した。香港市民は、公教育で「三権分立」を近代以後の世界の常識と学んで育った。教科書にも当然の原理として書き込まれていた。ところが、香港行政庁の林鄭月娥長官は「香港に三権分立はない」と明言した。「中国本土と同様に、香港の三権はおしなべて中国共産党の支配下にある」との意であろう。教科書も書き換えられつつあるという。
突然に香港の市民から奪われた「三権分立原則」の中で、とりわけ重要なのが人権の砦としての司法権であり、その独立である。裁判官は本来、中国共産党の顔色を窺うことなく、法と良心に従った判決を言い渡さねばならないが、それは期待すべくもない事態。
林鄭月娥は、「11月の施政方針演説では、裁判官が就任時に政府への『忠誠』を宣誓しない場合の規定を盛り込んだ条例改正をすると述べた」(時事)という。法と良心に対する忠誠を求めるというのではない、政府への忠誠である。いうまでもなく、「政府」を通じての「中国共産党」への忠誠が強要されているのだ。
中国本土では、中国共産党が当然のごとく司法部門を「指導」し、「司法権の独立」を観念する余地はないとされる。これに対し香港基本法(香港での憲法に相当する)は「司法の独立」を明記している。中国政府側は香港に「司法改革」が必要だと主張しており、行政が司法を主導する仕組みを指示していると報道されている。明らかに、ここでは文明が野蛮に侵蝕され、席巻されているのだ。
その事態の中で、一昨日(12月2日)注目されていた黄之鋒・周庭・林朗彦3氏に対する判決言い渡しがあり、その量刑はそれぞれ13月半・10月・7月の禁錮となった。いずれも執行猶予の付かない実刑である。罪状は、昨年(2019年)6月に警察本部を包囲したデモを「扇動・組織し、参加した」罪だという。
暴力的なデモではない。破壊的なデモでもない。政治的な要求を掲げた表現の自由行使に対する刑事罰。文字どおり野蛮な政治的弾圧にほかならない。文明が、野蛮に組み敷かれているのだ。
黄氏は判決後、支持者に向かい「つらいが耐え抜こう」と大声で呼びかけ、林氏も「後悔はしない」と叫んだという。これに、支持者らは「がんばれ、出てくるのを待っているぞ」と応えたと報じられている。
しかし、周氏については少し違う光景となった。同氏は下獄の経験はない。香港メディアによると、判決言い渡しの際に法廷で泣き崩れたという。私は、この報道に胸を打たれる。判決日の翌日(12月3日)に24歳の誕生日を迎えるという彼女は、判決前に自分の誕生日を自宅で過ごすことができるだろうかとの心配を隠さず、ネットに配信していた。
泣き崩れたところを見せた彼女は、決して絵に描いたような闘士ではない。自分を励ましつつ、良心に従って運動に参加してきた「普通の市民」の一人なのだ。歴史には、強靱な意思をもった多くの闘士が登場するが、その闘士像は後の世の伝説が作りあげた虚像なのではないか。むしろ、特別の人ではない、投獄は恐いと自分の弱さを隠さない普通の市民の活動こそが、多くの人の共感を呼び、運動につながる人々を励ますことになるのだと思う。
民主派支持の論調で知られる香港紙「蘋果(りんご)日報」の創業者、黎智英(ジミー・ライ)氏も2日に詐欺罪で身柄を拘束され、起訴された。そして裁判所は3日、黎氏の保釈申請を却下。黎氏は来年4月16日の次回公判まで勾留される見通し。香港では起訴後に保釈されることが多く、異例の長期身柄拘束と言える(毎日からの引用)という。
黎氏に対する起訴罪名が詐欺であることが一驚である。一見して、でっち上げ以外の何ものでもない内容。何でもありなのだ。しかも、詐欺事件にもかかわらず国安法事件を担当する裁判官(蘇恵徳)が保釈を不許可とした。今後、政府の意向に従わない裁判官の解任が心配されている。既に、民主派に無罪判決を出した裁判官が、中国系香港紙に紙面で批判されるケースも出ていると報じられている。あらためて、法の支配を貫徹する独立した司法の役割の重要性を痛感する。
中国の野蛮が、香港市民の文明を蹂躙している。人権の擁護は国際的に共通の課題である。中国の蛮行は、国際法違反である。世界人権宣言や国際人権規約、あるいはウィーン宣言など国際成文法にも反すると言わなければならない。
微力でも「中国の野蛮を許さない」「香港の民主派を支持する」という声を上げ続けたいと思う。
(2020年12月3日)
自分の望まない真実は、なかなかに受け容れがたいもの。時に人は、厭うべき歴史を修正して認識し、望ましからぬ眼前の事実さえも否定する。
戦後長く、ブラジルやハワイの日本人社会に、「勝ち組」と「負け組」の熾烈な対立があった。「勝ち組」とは、天皇制日本の敗戦を認められない人たちである。神国の敗北という情報は、敵の謀略であり陰謀に違いないと本気になって信じていた。いまだに繰り返される、「南京大虐殺はなかった」「関東大震災時の朝鮮人虐殺はデマだ」の類は、日本人性善説を信じたい人々の同じ心理のなせる業。
いま、トランプが「勝ち組」を煽動している。バイデンの大統領選勝利は不正があったからに違いない。これは、大がかりな謀略であり陰謀の結果である。本当はトランプが勝っていたのだ。「真実のために最後までたたかう」というトランプ自身の悪あがきは、政治的な計算あってのことだろうが、多くのトランプ支持者が本気でトランプの逆転勝利を信じているという。
NBCテレビの集計によると、トランプ陣営や関係者が各地で起こした選挙関連訴訟は少なくとも41件あるという。そのうち、既に27件が敗訴や取り下げに追い込まれた。トランプ側勝訴は一件もない。14件が、未確定ということになるが、常識的に選挙結果の逆転はあり得ない。
とうとう、トランプ政権のウィリアム・バー司法長官(法務大臣に相当)までが、「大規模な不正は見つかっていない」「大規模不正見つからず」と、AP通信のインタビューに語るに至っている。「集票システムが操作されるなど組織的な不正行為があったとの主張に対して国土安全保障省と共に調査したが、その事実を裏付けるものは何も見つかっていない」と明言したとの報道である。
もちろん、バーは共和党員。トランプに最も忠実な側近の一人だという。その司法行政担当閣僚によるギブアップ宣言である。悪あがきも、これでおしまいだと思うのが普通の感覚だが、それでも自分の望まない真実はなかなかに受け容れがたいものなのだ。トランプ陣営は、法廷闘争を続ける姿勢を改めて強調する声明を発している。
奇妙でもあり興味深くもあることは、日本国内の右翼諸君がトランプの「勝ち組」と同じ心理状況となっていることだ。
11月29日(日)に、「『トランプ米大統領再選支持』集会・デモ In 東京」という催しがあった。そのポスターが、「決着はまだついていない」「マスコミのフェイクに惑わされるな」「日本の左派、マスコミの巨悪を許さない」というもの。「正義は必ず勝つ」という、神風待望論もここでは健在なのだ。
アジア太平洋戦争の末期を彷彿させる。客観的な戦況を無視して、負けを認めない天皇や軍部と、皇国の敗戦を信じたくない国民たちとの関係。今のトランプと、その支持者たちによく似ているではないか。
(2020年12月2日)
「桜を見る会前夜祭」にまつわる首相の犯罪を刑事告発したのが、「『桜を見る会』を追及する法律家の会」。5月21日の第1次告発状提出時には622名だった。その後の告発を含め、現在は会員941名となっている。
その「法律家の会」が、東京地検特捜部捜査開始の報道を受けて、昨日(12月1日)、地検に徹底した捜査と起訴を行うよう要請した。その後、司法記者クラブで会見した「法律家の会」事務局長の小野寺義象弁護士はこう述べた。
「(5月に告発を行ってから)やっとここまで来た。これは首相の犯罪なんだという私たちの告発が正しいと裏付けられる段階になった」と強調。その上で、「(不起訴処分や略式起訴の)軽い処分で済ませることは絶対にしてはならない。刑事裁判の場でこの問題をはっきりさせることが求められる」(赤旗)
同日、「追求する会」は、下記の緊急声明を発表している。そのポイントは以下の2点である。
「検察においては、徹底捜査のうえ、安倍前首相をはじめとする被告発人らを正式起訴するよう、強く求める。略式起訴などの軽い処分で終わらせることは、絶対に許されない。」
「安倍前首相は自らの刑事責任を認めて、国会で真相を語り、国会議員を辞職して、潔く政界から引退すべきである。」
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要 請 書
2020年12月1日
東京地方検察庁特別捜査部 御 中
「桜を見る会」を追及する法律家の会
事務局長 弁護士 小野寺 義 象
世話人 弁護士 米 倉 洋 子
世話人 弁護士 泉 澤 章
外
1 要請の趣旨
「桜を見る会」前夜祭をめぐる問題について、今後も徹底した捜査と真相究明を求めるとともに、現在告発されている安倍晋三氏ら被告発人3名について、不処分ないし略式起訴などで終わらせるのではなく、正式起訴を行うよう、強く要請する。
2 要請の理由
? われわれ「桜を見る会」を追求する法律家の会は、本年5月21日、安倍晋三前首相の首相在任中、後援会主催で行われていた「桜を見る会」前夜祭において、参加者から集めた参加費の合計とそれを上回る宴会費用との差額分を、安倍前首相及び後援会関係者ら被告発人3名が共謀して補填した疑いがあるとして、政治資金規正法違反(不記載)及び公職選挙法違反(寄附行為)で、御庁に告発した。その後8月6日に第二次告発として提出した告発状を加えれば、現時点で941名分もの告発状が御庁に提出されている。
? この間、御庁から本件捜査に関する進展の報告などは一切なかったが、本年11月23日、一部マスコミによって、御庁が本件告発にかかる事件の関係者複数から、事情聴取をしているとの報道がなされた。そして、その後のマスコミ各社の報道によれば、安倍前首相らが「桜を見る会」前夜祭において差額を補填してきたことは紛れもない事実であって、このことは安倍前首相をはじめとする被告発人らも認めているというのである。つまり、安倍前首相が国会において「補填は一切ない」としてきた答弁はまったくの虚偽であるとともに、私たちが御庁に提出した告発状の内容こそ事実であったということが、あらためて裏付けられたのである。
? 今回の事態を踏まえ、われわれ法律家の会としては、御庁に対して、さらに徹底して本件の真相究明に取り組むよう強く求める。特に、ホテルに支払った差額分の領収書の宛名は、後援会ではなく、安倍前首相の政治資金管理団体である晋和会だったと報道されているが、仮にそうなのであれば、実際に晋和会から金銭が出ているのか、その資金はどこから捻出されたのか等々、あらたな違法行為に結びつく疑問が次から次へと出てきており、さらなる真相の究明こそが求められている。
? 本件のような政治資金がらみの事件といえば、かつて東京佐川急便の違法献金問題(1992年)では、当時与党の実力者(自民党副総裁)であった金丸信氏が、違法献金を受けていた事実が明らかになったにもかかわらず、正式に起訴されずに略式起訴となったことで、国民の検察に対する信頼が大きく揺らいだことを、今一度思い出していただきたい。
今回、仮にでも前首相に対する“忖度”から捜査の手を緩め、不処分や略式起訴のような軽い処分を選択するようなことがあるならば、検察に対する国民の信頼が再び地に堕ちるであろうことは確実である。御庁は、本件の真相解明へ向けて徹底した捜査を行い、そこで明らかとなった事実を前提として、安倍前首相ら被告発人を正式起訴すべきである。
3 結語
本件は、前首相の関与した犯罪という意味で国政上の重大事件であって、その社会的影響は計り知れず、わが国の民主主義体制に与える影響も極めて甚大である。
御庁は、国民の期待と信頼に応え、法の支配を貫徹させるために、ぜひ要請の趣旨に則った捜査を進めていただきたい。
以上
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緊急声明
徹底捜査、正式起訴によって「首相の犯罪」の全容に迫るべきである
―東京地検特捜部の「桜を見る会・前夜祭」捜査報道を受けてー
2020年12月1日
「桜を見る会」を追及する法律家の会 事務局長小野寺義象
私たち「桜を見る会」を追及する法律家の会(以下「法律家の会」)は、本年5月21日、662名の弁護士・法学者が告発人となり、「桜を見る会」前夜祭に関する政治資金規正法違反・公職選挙法違反で、安倍首相(当時)らを東京地方検察庁に告発した(なお、その後本年8月6日に第2次告発を行い、告発人は現在941名となっている。)。
この間、捜査の進捗に関する情報はなかったが、最初の告発から半年が経過した本年11月23日、東京地検特捜部が上記告発に関して関係者への捜査を行っていると、一部のマスコミが突然報じ始め、以後続々と報道がなされている。
このような情勢の変化を踏まえ、私たちは、現在報道されている事実をもとに、告発を取りまとめた者の責任として、下記の声明を発表する。
記
1 国民の力が検察を動かした
今回の情勢は、私たち法律家の会の告発が契機となっているものの、それだけで切り開かれたものではない。「桜を見る会」前夜祭問題の徹底捜査を求める署名が全国各地から寄せられ、各種世論調査でも、「桜を見る会・前夜祭」に対する安倍首相の対応を批判する世論が示された。さらに、検察支配を画策した東京高検検事長定年延長問題・検察庁法改正問題に対しても、SNS等で国民の強い批判が日本中で湧きあがり、安倍政権の横暴を許さなかった。
このような国民の力が検察庁を動かしたのであり、このこと自体が、民主主義の大きな成果であるといえる。
2 告発内容の正しさが裏付けられた
現在なされている報道を総合すれば、安倍前首相らが、「桜を見る会」前夜祭において、参加者から集めた会費合計とそれを上回る宴会費用との差額を補填していたことは紛れもない事実であって、そのことは、安倍前首相らも認めているというのである。つまり、安倍前首相が国会において「補填は一切ない」としてきた答弁はまったくの虚偽であり、私たちが東京地検に提出した告発状の内容こそが事実であったということが、あらためて裏付けられたのである。
報道されていることが事実なら、安倍前首相らにおいて、政治資金規正法違反(不記載)及び公職選挙法違反(寄附行為)の成立を免れることは、到底できないのである。
3 犯罪内容は極めて悪質で深刻なものである
この間の報道内容をみると、私たちが当初想定していた以上に、犯罪内容は悪質かつ深刻であることは明らかである。
まず、前夜祭宴会費用の不足分は、安倍前首相の後援会ではなく、安倍前首相の資金管理団体である晋和会が補填しつつ、晋和会の収支報告にも補填の記載がなかったというのである。このことは、安倍前首相に関連する2つの政治団体が、まさに“一体となって”、政治資金規正法違反を行っていたことを意味している。しかも、その補填金の出処が未解明であるということは、この問題のさらなる根深さを伺わせている。
また、2013年には補填金を晋和会がホテルに支払ったかたちをとっているが、なんと安倍前首相側は、収支報告の記載方法について総務省に問合せをして、「(報告書に)記載すべき」との回答を得ていたと報道されている。そうであれば、安倍前首相側は、この回答を知りつつ、あえて無視して翌2014年から不記載としたことになるのであって、意識的な「計画的犯行」だったと言わざるを得ない。その意味で本件は極めて悪質であり、日本の民主主義にとって深刻な影響を与えている。
4 安倍前首相のこれまでの対応、態度も悪質である
「桜を見る会」前夜祭における安倍前首相らの行為は、日本の国政を担当する当時の最高責任者らによる犯罪であるだけでなく、収支不記載罪(時効未完成分)だけでも2015年から2019年まで5年の長期にわたって、補填金累計900万円以上にも及ぶ、反復継続された犯罪である。つまり、数百名に及ぶ安倍前首相の後援会員に対する900万円を超える饗応を、首相在任7年間にわって継続して行うという、悪質極まりない特筆すべき金権政治犯罪なのである。
安倍前首相は、このような悪質きわまりない金権政治犯罪について、2019年11月の国会で問題を指摘された後、虚偽答弁を繰り返し、国権の最高機関である国会を愚弄し、民主主義を蹂躙してきた。
さらに、国会での虚偽答弁にとどまらず、安倍前首相は自らの責任を免れるために、料金設定についてはホテル側に、「桜を見る会」の開門時刻で後援会員に便宜を図った問題については旅行会社に、契約主体が誰かとい問題については後援会会員に、それぞれ責任を転嫁してきた。
そして今回、安倍前首相は、検察捜査が進展するにつれて、秘書に責任を転嫁しようとしており、自らが真摯に反省する態度などは、全くみせていない。安倍前首相に対しては、これまで同人が国会内外で行ってきた発言や行動を見極めたうえで、厳しい対応が求められている。
5 安倍前首相に対して
以上のような「桜を見る会」前夜祭におけるこれまでの安倍前首相の発言や行動を前提とすれば、安倍前首相は自らの刑事責任を認めて、国会で真相を語り、国会議員を辞職して、潔く政界から引退すべきである。自らの犯罪に関わる事項について、国会の場で説明責任を果さないばかりか、虚偽答弁を繰り返して国民を愚弄した政治家に、政治を語る資格はない。
6 検察に対して
検察は、これまでの捜査をさらに遂行し、安倍前首相及び菅現政権に忖度することなく、厳正公平・不偏不党の立場を貫き、「桜を見る会・前夜祭」事件に対して、強制捜査も含む徹底した捜査を行い、事件の真相究明と刑事責任の追及を行わなければならない。
上述した本件の悪質性や社会的影響の大きさに鑑みれば、安倍前首相らを不処分で終わらせたり、秘書をはじめ後援会や会計責任者など安倍前首相の部下だけを、略式起訴などの軽い処分で終わらせることは、絶対に許されない。
検察においては、徹底捜査のうえ、安倍前首相をはじめとする被告発人らを正式起訴するよう、強く求める。
7 菅政権・自民党に対して
菅政権・自民党は、前首相・前総裁が犯罪を行うとともに、国会で虚偽答弁を繰り返してきた事態の深刻さを、大いに自覚すべきである。
そして、「捜査中」を口実に、事実の究明・責任追及を曖昧にすることなく、菅政権及び自民党の責任において、「桜を見る会」前夜祭にとどまらず、安倍政権のもとで発生した「森友学園」問題、「加計学園」問題など一連の政治の私物化問題の徹底解明を行うべきである。
とくに菅首相は、安倍政権において官房長官という重要な地位に就いて、安倍前首相の政治の私物化に深く関与し続けてきた。
菅首相は、これまでの対応を根本的に改め、「桜を見る会」をめぐる問題での自らの関与を明らかにしたうえで、首相に相ふさわしい政治的責任をとるよう、強く求める。
8 国民の皆さんに
この間の全国の取組みに敬意を表するとともに、今後とも、政治を政治家任せにすることなく、また、政治の現状にあきらめることなく、法の支配、民主主義を守り、国政の私物化、更には独裁化を許さない運動にともに取り組んでいただくことを心から期待する。
以上
(2020年12月1日・連続更新2801日)
早いもので、コロナ禍の年も今日から師走である。不忍池の弁天堂には冬ザクラ2本が、さびしげに花を咲かせている。一方、政界は季節外れの「桜を見る会前夜祭」問題で盛りあがっている。
11月23日以来の「サクラ疑惑」再燃だが、25日の東京新聞社説が厳しい内容だった。「『桜』疑惑で聴取 検察の独立を示すとき」という表題。「権力に対峙する検察力を発揮してほしい」「検察が独立していないと政治権力へのチェックはできない。『桜』の疑惑解明は、検察の独立と良心を示す機会でもある」という、検察へのエールとなっている。
権力の分立と均衡が正常に働かず、官邸一極が権力を集中して恣にしてきた現実のなかで、検察への期待の声が上がるのは当然というべきか。社説は、「東京地検には粛々と調べを尽くすことを求める。何より東京地検には過去にロッキード事件やリクルート事件など政界腐敗に切り込んだ歴史がある。それゆえなのか、安倍氏は首相時代に検察幹部の人事に介入しようとした。いわゆる黒川検事長問題である。検察官の定年を定めた検察庁法があるのに、国家公務員の定年延長規定を用いるという解釈変更を強行したが、世論の猛反発もあって挫折した。」と述べている。
産経の11月26日付【主張】も、「桜を見る会 安倍氏はしっかり説明を」と掲げた。こちらは、検察に期待はしていない。「特捜部の捜査を待たずとも、事務所の内部調査で十分に事足りる」という立場。その代わり、安倍晋三には「しっかり説明を」とならざるを得ない。安倍晋三よ、身内同然の産経社説をどう聞くか。
「政治家には説明責任がある。まして首相在任時の国会答弁が事実ではなかった可能性がある。捜査とは別に、自ら進んで経緯をつまびらかにすべきだろう。」「ずるずるとこの問題を長引かせることこそ最悪である。安倍晋三前首相には、迅速で明確な説明を求めたい。」「政治とカネをめぐるさまざまな事件で、『秘書が』『秘書が』と繰り返す政治家の情けない姿をみてきた。安倍氏には前首相として、そうした過去の醜態とは一線を画す潔い姿をみせてほしい。」
「潔い姿をみせての、迅速で明確な説明」のあと、安倍晋三はどうすべきだろうか。産経は明言してないが、議員辞職すべきが当然だろう。産経といえども、議員の職に恋々とする安倍晋三を「潔い姿」とは言えないだろう。
そして、本日(12月1日)の朝日社説である。「国会最終盤 安倍氏の説明欠かせぬ」という表題で、「桜」「学術会議」「森友」の3件のテーマを論じている。
まずは、「桜を見る会」の前夜祭をめぐる問題である。…安倍氏が1年にわたって繰り返してきた説明は偽りだったことになる。国会審議の土台を崩す、看過できない重大事だ。安倍氏は知らなかったと伝えられるが、国会では連日厳しい追及が続いていた。事実関係をどこまで真剣に確かめたのか。直近の5年間で900万円を超える補填の原資はどこから捻出したのか。安倍氏に直接たださねばならない疑問点は尽きない。…刑事責任の有無を判断する捜査とは別に、首相の任にあった者の重い政治責任を踏まえれば、すすんで国会に出て、説明を尽くすのが当然ではないか。
さらに、日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命拒否の問題である。
法の趣旨に背き、学術会議の独立性・中立性を脅かす判断に対し、菅首相は「人事の秘密」などを盾に、明確な理由を語っていない。一方で、政府・与党は学術会議のあり方への「論点ずらし」に余念がない。…杉田和博氏本人から国会で直接事情を聴くことなしに、実態は明らかになるまい。
森友問題の解明も進んでいない。自ら命を絶った近畿財務局職員が公文書改ざんの経緯を詳細に記したとされるファイルの提出を、衆院調査局が要求したところ、財務省は訴訟中を理由に文書の存否さえ答えなかったことが報告された。
最後に、本日の毎日新聞社説。「森友問題への政府対応 歯止めかからぬ国会軽視」と題して、森友問題一色である。
学校法人「森友学園」への国有地売却に関する公文書改ざん問題で、財務省が国会から求められた資料の提出を拒んでいる。国会を軽んじる異例の事態だ。
国会には、憲法62条に定める国政調査権がある。これを補完するため、少数会派でも活用できる「予備的調査」という制度が衆院規則で設けられている。40人以上の議員が要請すれば、衆院調査局長らが官公庁に協力を求めて調査する制度だ。今回は野党議員128人が要請していた。
ところが、麻生太郎財務相は、赤木さんの妻と国などの間で民事訴訟が続いているとし、「訴訟に影響を及ぼすべきではないので回答を控えたい」と語っている。財務省の対応は、制度の趣旨や議長の提案をないがしろにするものだ。
麻生氏や当時の佐川宣寿理財局長らが約1年半の間に、この問題について国会で事実と異なる答弁を139回していたことも調査で明らかになった。
国会を尊重し、これを機能させるのが内閣の責務だ。虚偽答弁や調査への回答拒否が続けば、国会は本来の役割を果たせない。
安倍晋三政権は何のレガシーも残さなかった。残したものは、国政私物化の後始末であり、国会軽視の「嘘とゴマカシ」の政治姿勢の後遺症である。はしなくも、本日の朝日・毎日両氏の社説が、危機感をもってこの点に触れている。
朝日は「今国会は残り5日となり、政府・与党は会期を延長しない方針だ。しかし、一連の疑惑をうやむやにしたまま終わっては、立法府の存在意義が揺らぐことになろう。」と言い、毎日は「議会は民主主義の土台だ。前政権から続く国会軽視の姿勢を、政府は改める必要がある」と言っている。そう指摘せざるを得ない事態なのだ。まさしく、民主主義の土台を揺るがせてきた、安倍・菅両政権の責任は重い。
(2020年11月30日・連続更新2800日)
昨日(11月29日・日曜日)国会では、「議会開設130年記念式典」なる催しがあった。不明にして、こんな行事の予定があったことは知らなかったが、参列者全員マスクを着けてのやや滑稽な儀式。コロナ禍のさなかに不要不急な行事の典型でもある。税金の無駄使いというだけではない、そんな暇があったら臨時国会の会期末が近い貴重なこの一日、集中審議に使ったら国民のためにさぞかし有益であったろうに。
マスクの天皇(徳仁)は、式辞で新型コロナウイルスの感染拡大で世界各国が困難な状況に直面しているとした上で、「国会が国権の最高機関として、国の繁栄と世界の平和のために果たすべき責務はますます重要になってきていると思います」と、述べたそうだ。おやおや、天皇の言としては少し危うい。「国会の…果たすべき責務は、ますます重要になってきている」などという上から目線調、天皇が主権者に向かっていう言葉だろうか。
130年前、1890年11月29日に明治天皇(睦仁)が、第1回の貴族院開院式で「朕 貴族院及衆議院ノ各員ニ告ク」と、正真正銘の上から目線で勅語を発し、これに対して貴衆両院は、臣下として「奉答文」を奉ったという。11月29日は、国民主権の国会開設の日ではなく、天皇協賛の帝国議会が始まった記念日なのだ。そんな日を記念して、議会開設記念式典は1990年から10年ごとに実施されているという。バカバカしさに呆れるしかない。
各党各会派の代表者らが出席する中、共産党だけは「戦前の帝国議会と戦後の国会の歴史を厳格に区別していない」との理由で欠席した(共同)という。これは救いだが、どうして欠席は共産党だけなのだろうか。他の議員は、みんな喜々としてこんな式典に出席しているのだろうか。議員諸君の知性のレベルと、社会的同調圧力の底の深さを見る思いである。
あらためて、この式典の狙いを考えざるを得ない。「明治100年」も「150年」も、「元号」も、「日の丸・君が代」も、そしてなにより天皇制の存続自体が、敗戦と新憲法の制定で、日本社会の構造が根本的な転換を遂げたことを覆い隠そうというものなのだ。戦前の天皇制国家との断絶を明確に意識するところから、国民主権も、民主主義も、人権も、恒久平和も出発する。戦前も戦後も、帝国議会も国会も、連綿と続いているというイデオロギーを峻拒しなければならない。
なお、この日の式典では新型コロナ感染の危険に配慮して、国歌(「君が代」)は斉唱せずに演奏のみが行われたという。別に、唱わなかったからといって、何の不都合もなかったはず。次には演奏を止めてみてはいかがか。そして、全国の学校でも、これに倣ってまずは斉唱を止めてみるべきであろう。
(2020年11月29日)
11月26日、日本民主法律家協会の機関誌「法と民主主義」2020年11月号【通算553号】が予定どおりに発刊となった。
今号は、特集?「2020年夏 教科書採択をめぐるたたかいの成果と教訓」と、特集?「第5回 『原発と人権』全国研究・市民交流集会ーー福島原発事故から10年─これまでとこれから」の二本建て。「法民」ならではの内容で充実していると思う。
目次は以下のとおり。
特集 ? 2020年夏 教科書採択をめぐるたたかいの成果と教訓
◆特集にあたって … 編集委員会・澤藤統一郎
◆欺瞞と瑕疵事項だらけの教科書制度
──教育者・市民と法律家との連携による是正活動への期待 … ?嶋伸欣
◆「つくる会」系教科書の激減と今後の課題 … 鈴木敏夫
◆これが、問題教科書の内容だ … 石山久男
◆教科書づくりの現場からの報告 … 吉田典裕
◆教科書づくりの夢を語る … 関 誠
◆この夏、全国の運動はこうだった。
── 自由法曹団の取り組みについて … 穂積匡史
特集 ? 第5回 「原発と人権」全国研究・市民交流集会 in ふくしま オンラインプレシンポジウム 福島原発事故から10年─これまでとこれから
◆特集にあたって … 「第5回 『原発と人権』全国研究・市民交流集会 in ふくしま」実行委員長・礒野弥生
◆講演:技術の存否や倫理的側面の議論を
── 核燃料サイクルと核エネルギーのあり方を考える … 池内 了
◆報告:10 年目の被災地の今 … 伊東達也
◆報告:飯舘などリスクの高い復興を問う
── 復興核災害の危険性 … 糸長浩司
◆訴訟報告:被害者訴訟の司法戦略について
── 裁判の到達点と今後 … 南雲芳夫
◆訴訟報告:いわき避難者訴訟・第一陣
仙台高裁判決の意義と、上告審における東電主張の問題点 … 米倉 勉
◆各地からの報告 … 東島浩幸/谷崎嘉治/今大地晴美/佐藤嘉幸
◆集会のまとめと閉会の挨拶 … 松野信夫
◆司法をめぐる動き〈61〉
・安保法制違憲訴訟の意義と課題
── 前橋地裁判決を受けて … 大塚武一
・10月の動き… 司法制度委員会
◆メディアウオッチ2020 《菅内閣のメディア政策》
自著も改変、批判に「怒り」 「世論」狙って、あの手この手 … 丸山重威
◆改憲動向レポート〈No.28〉
日本学術会議問題の陰でも進む「壊憲」 … 飯島滋明
◆書籍紹介
◆時評 「デジタル化」と向き合う日本の民事司法 … 今村与一
◆ひろば 継承されるミーナーの精神 … 清末愛砂
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特集?のリードだけをご紹介しておきたい。編集担当者として、私が書いたもの。
本号の第一特集は、《2020年夏 教科書採択をめぐるたたかいの成果と教訓》である。教科書採択をめぐる運動に成果あったことを確認して、その成果を生み出した運動の教訓を汲み取ろうというもの。
教育をめぐる時代の状況が決して楽観できるものでないことは、共通の認識と言えよう。そのような中でも、各地の地道な運動が、貴重な「たたかいの成果」を生み出し得ることは、それ自体が学ぶべき教訓である。
学校教育において、教科書は重要な存在である。とりわけ、義務教育の授業で使われる「歴史」や「公民」の教科書の記述の在り方は、次代の国民の主権者意識に大きな影響を及ぼす。そのため、どのような教科書を作るか、どのような教科書を採択するかについて、自ずから熾烈なせめぎ合いとなる。その結果は民主主義の成熟度を示す象徴的なバロメータともなる。
近年、このバロメータの指し示すところが思わしくなかった。この国の政治の現状と符合して、歴史修正主義や国家主義、改憲指向の教科書の採択が無視し得ないシェアを獲得してきたからである。
今年・2020年は、4年に一度の中学校教科書採択の年、熱い夏の攻防の焦点は、「歴史」と「公民」の教科書だったが、「つくる会」系の、育鵬社・自由社の教科書採択は両者ともに激減した。企業としての採算点を大きく割り込んでいることが報告されている。もちろん、自然にそうなったのではない。各地で積み重ねられた、教科書採択をめぐる運動の成果である。
6件の論稿は、全体として、原理的な教科書検定や採択の制度や運用の問題点を指摘しつつも、今夏の運動が獲得した成果と意義とを正確に把握し、これを勝ち取った全国の運動を素描するものとなっている。
「欺瞞と瑕疵事項だらけの教科書制度」(高嶋伸欣・琉球大学名誉教授)は、本質的に戦前と変わりのない教科書検定制度とその運用の実態の問題点を指摘して、その打開のために法律家への連携を呼びかけるものとなっている。
「『作る会』系教科書の激減と今後の課題」(鈴木敏夫・教科書ネット21事務局長)は、一覧表にして教科書採択シェアの激変を解説している。実践に携わった立場からの現場の運動の報告として貴重なものである。
「これが、問題教科書の内容だ」(石山久男・教科書ネット21代表委員)は、問題教科書の、歴史修正主義・侵略戦争と植民地支配の美化・改憲への誘導の具体的記述についての明快な指摘である。その上で、具体的な改善の道筋を提言して示唆に富む。
「教科書づくりの現場からの報告」(吉田典裕・出版労連教科書対策部事務局長)は、教科書を作る側からの貴重なレポートである。教科書を使う側の視点しかない者には、気が付かない「現実」を教えてくれる。教科書に自由を取り戻すための提言も興味深い。
「教科書づくりの夢を語る」(関誠・公立中学校社会科教師)は、現役の歴史教員が、「子どもと学ぶ」教育実践の中から、「学び舎」の歴史教科書を作った報告である。筆者の「教科書は誰のものか」という問いかけは重い。
「この夏、全国の運動はこうだった。ー 自由法曹団の取り組みについて」(穂積匡史・弁護士)は、法律家の運動のありかたについての典型を示している。成果著しかった神奈川と大阪の具体例が報告されているが、学ぶべきところが大きい。
全体として、成果ばかりが強調されてはいない。運動あればこそ、多くの課題も見えてきている。まずは、その両面を共通の認識としたい。
(編集委員 澤藤統一郎)
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「法と民主主義」紹介のホームページは下記のとおり。
https://www.jdla.jp/houmin/index.html
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(2020年11月28日)
安倍晋三の「桜疑惑」再燃は、11月23日読売朝刊のスクープ以来のこと。それまで、9月に体調不良で退任したはずの安倍晋三が、あちこちではしゃいだ不快発言を繰り返していた。その一つが、慰安婦問題判決にコメントした11月20日フェイスブック投稿。安倍晋三のなんたるかをよく物語っている。
本日(11月28日)10時0分配信の共同通信配信記事のリードを引用する。標題は、「安倍前首相がSNS投稿で”事実誤認” 慰安婦報道の最高裁判決で削除要求」というもの。”事実誤認”と、ダブルクォーテーションが付けられている。
「従軍慰安婦報道に関する名誉毀損訴訟を巡り、安倍晋三前首相が会員制交流サイト(SNS)に事実と異なる投稿をしたとして、削除要求の内容証明を送りつけられる騒動が起きている。訴訟は、従軍慰安婦に関する記事を「捏造(ねつぞう)」と決めつけられたとして、朝日新聞元記者の植村隆氏(62)がジャーナリストの桜井よしこ氏(75)らに損害賠償を求め、札幌地裁に2015年に提訴。一、二審は請求を棄却し、最高裁が今月18日に上告を退けて原告敗訴が確定した。」
安倍晋三は、自身のフェイスブックに、植村隆対櫻井よしこ訴訟の最高裁判決を報じた産経新聞の記事を添えて、「植村記者と朝日新聞の捏造が事実として確定したという事ですね」と投稿したのだ。「セカンドレイプ」という言葉を思い出させる。植村隆と朝日に対する櫻井よしこの悪罵を繰り返して、再び「捏造」と言ってのけたのだ。問題は小さくない。
真正の歴史修正主義者たる安倍晋三という人物、従軍慰安婦に関する記事は「捏造」であると言いたくて仕方がないのだ。こういう発言をすることで、自分の政治的支持者が喜び、自分の政治基盤が固まると計算もしているのだろう。
しかし、「最高裁判決によって、植村記者と朝日新聞の捏造が事実として確定した」という安倍晋三の投稿は、明らかなフェイクである。「ウソとごまかし」をもっぱらとしてきた彼らしい一文。ファクトチェックで正されなければならない。
民事訴訟の構造から言えば、「植村に対して、『捏造』という悪罵を投げつけた櫻井よしこの名誉毀損論稿」が、法的に損害賠償請求を根拠付けるには至らなかったという判決が確定したというにとどまり、裁判所が「1991年に植村が書いた記事が、『捏造』に当たる」と認定したものではない。
この点を共同配信記事は、「確定判決は植村氏に対する名誉毀損を認めた上で『植村氏が事実と異なる記事を執筆したと(桜井氏が)信じたのには相当な理由がある』とした内容。植村氏も『法廷では桜井氏自身が事実誤認を認め、捏造でなかったことも裁判で明らかになった』と話している。」としている。
櫻井よしこの論稿を不法行為として損害賠償を認定するためには、
(1) 当該論稿が植村の名誉を毀損し、
(2) しかも、当該論稿の摘示事実が真実性を欠く、だけでは足りない。
(3) 櫻井よしこが、自分の間違った事実摘示を真実と信じるについて相当な理由があった場合は不法行為の成立要件である違法性が阻却される。
この裁判では、(1)と(2)は明確に認められ、(3)の論点で争われた。結果的に、植村敗訴となったことは残念だが、ジャーナリスト櫻井よしこにとっては、真実性のレベルでは勝てなかったのだから、薄氷を踏む厳しい判決内容でもあった。11月26日付植村弁護団の声明をよくお読みいただきたい。
2014年に週刊文春が火付け役になった植村・朝日バッシングが、私には衝撃の体験だった。とりわけ、文春や、産経や、西岡力や、櫻井よしこらの煽動に踊らされた、いわゆるネトウヨ族の跳梁には、背筋に寒いものを感じざるを得なかった。時代はここまで退行しているのか、日本の社会はここまで劣化しているのか、という絶望にも似た恐怖感である。
とりわけ、「植村氏の娘の実名や高校名、顔写真などがネット上にさらされ「(娘を)必ず殺す」と書かれた脅迫状が届き、警察が身辺警護に動いた時期もあった。植村氏は、家族や勤務先の大学を巻き込んだバッシングを止めるため、桜井氏らを札幌地裁に、同様の主張をしていた西岡力・東京基督教大教授(当時)と文芸春秋を東京地裁に、それぞれ提訴した。」のは緊急避難的意味合いが強かった。「植村氏が非常勤講師を務める札幌の大学には、爆破予告などの脅迫状が相次いで届いた」という事情もあった。
当時から、このような時代の空気を作った張本人として、安倍晋三の名が上がっていた。しかし、さすがに首相が個別事件に口を出すことはなかった。今、首相の座を離れた安倍晋三が、自ら当時の推測を証明しているのだ。
その安倍晋三フェイスブックのフェイク投稿、削除要求の期限は、12月3日となろう。注目したい。
なお、判決内容の評価については、リテラが「捏造したのは櫻井よしこのほうなのに…『慰安婦報道を捏造』と攻撃された元朝日記者・植村隆の名誉毀損裁判で不当判決」との表題で詳しく報じている。
https://lite-ra.com/2018/11/post-4354_4.html
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最高裁判決を踏まえての植村訴訟札幌弁護団声明
植村隆氏が櫻井よし子氏らを相手取った名誉毀損訴訟で、最高裁判所第2小法廷は去る11月18日付で上告棄却・上告不受理決定を出しました。
これによって、櫻井氏が植村氏の記事を「捏造」と書いたことが名誉棄損に当たることを認めつつも、「捏造」記事と信じたことに相当の理由があるとして櫻井氏を免責した札幌地裁判決(2018年11月9日付)が確定しました。
この札幌地裁判決は、「従軍慰安婦とは、太平洋戦争終結前の公娼制度の下で戦地において売春に従事していた女性などの呼称のひとつ」などと、河野談話をはじめとする政府見解にも反する特異な歴史観をあからさまに示した上で、櫻井氏による名誉毀損行為を安易に免責した不当判決にほかなりません。札幌高裁判決もこれを追認しました。
最高裁がこれまで幾多の判断で営々と積み上げてきた名誉毀損の免責法理を正当に適用せずに、植村氏への直接取材もしないなど確実な資料・根拠もなく「捏造」と決めつけた櫻井氏を免責する不当判決を追認してしまったことに、強い憤りを覚えるものです。
とはいえ、札幌訴訟の一連の司法判断は、「捏造」と決めつけた櫻井氏の表現行為に真実性を認めたものではなく、むしろ、札幌地裁判決でも「継父によって人身売買され慰安婦にさせられた」という櫻井氏の表現が真実であると認めることは困難である旨を認定しています。
また、櫻井氏自身も、元慰安婦の1人が日本政府を相手取った訴状には「14歳の時、継父によって40円で売られたと書かれている」と真実に反することを述べていたことを被告本人尋問で認め、産経新聞とWillに訂正記事を出さざるを得なくなりました。
何よりも、植村氏が敢然と訴訟に立ち上がったことによって、櫻井氏による一連の「捏造」表現を契機とした植村氏への激しいバッシング、同氏やその家族あるいは勤務先だった北星学園大学に対する脅迫行為を止めることができました。
私たちは、こうした成果を確信するとともに、植村氏の訴訟をこれまで支援してくださった皆さまに対し、心からの感謝を申し上げます。
そして、植村氏の東京訴訟の勝利のために引き続き連帯を強めることを決意するとともに、二度とこのような人権侵害が繰り返されることのないよう、取り組みを続けていく所存です。
2020年11月26日
植村訴訟札幌弁護団