投票用紙に特定の候補者名を記載した場面を撮影して報告を求める」行為には、公職選挙法第228条1項(投票干渉罪)に該当する疑いがある
9月20日付のリテラに、横田一記者が、インパクトのある記事を掲載している。「沖縄県知事選で佐喜真陣営が公共事業予算アップをエサに建設業者を選挙運動に動員! 投票した人リストまで提出させ…」と題するもの。今、沖縄で何が起こっているのか、具体的で迫力に満ちた記事。民主主義とは、選挙とは、そしてアベ政権の本性とは…。考え込まざるを得ない。個々の選挙運動員における選挙違反の問題以前に、知事選の基本構造それ自体が、政権による利益誘導となっているという指摘なのだ。
https://lite-ra.com/2018/09/post-4267_2.html
その冒頭の一部を引用させていただく。
「沖縄県知事選で佐喜真淳・前宜野湾市長を推薦する自公維が、札びらで県民の頬を叩くような卑劣な選挙を始めた。告示翌日(9月14日)の建設業界の総決起大会で、建設業界職域代表の佐藤信秋参院議員(自民党)や公明党の太田昭宏・前国交大臣や維新の下地幹郎政調会長ら国会議員が次々と挨拶。辺野古反対の翁長雄志知事時代に一括交付金や公共事業予算が約500億円も減ったことを問題視する一方、“「対立から対話」を掲げる佐喜真知事誕生なら、公共事業予算は増加に転じて建設業者の労務単価(人件費)もアップする”という“にんじん”をぶら下げて、辺野古反対を言わない新基地容認派の佐喜真候補への支援を業者に呼びかけたからだ。
「ーさきま淳氏とともに建設産業の発展をー」と題された建設産業政策推進総決起大会は、14日の平日、金曜日の14時から開始。勤務時間中のはずなのに、那覇市内のホテルの会場に駆けつけた建設業者は「約1200人」(主催者)だったという。
会場入口では「内部資料」と記載された文書が配布されていた。「期日前投票の協力願い!!」と「『さきま淳』入会申込について(お願い)」を銘打った要請文2枚と、氏名や居住地を表に書き込む形式の「期日前実績調査票(個人報告用)」「入会申込書」がセットになっていた。いずれも県建設業協会の政治団体である「沖縄県建設産業政策推進連盟」が送付先でFAX番号が明記され、「期日前実績調査表」には次のようなただし書きがあった。
「※予定調査ではありません。実際に行った後にご報告下さい」
「※従業員・ご家族・親戚・友人・知人の方々の期日前の状況について、確認をお願い致します」
「※個人情報についての取り扱いには十分にご注意下さい。当方も十分に注意を致します」
「※氏名、地域、実行日については、必ず記入頂けますようよろしくお願いします」
●佐喜真陣営のなりふり構わぬ選挙戦略!期日前選挙に行った人の名簿まで提出
人手不足が深刻な建設業界としては、勤務時間帯に総決起大会に駆けつけるだけでもかなり負担に違いないが、さらなる“宿題”として従業員・ご家族・親戚・友人・知人に期日前投票を依頼、実際に行った人の名簿提出も要請されていたのだ。
民間企業経営者なら、気が重くなる“政治的活動要請”に見えるが、壇上で挨拶した国会議員の面々は違った。「大米建設」創業者の下地米一・元平良市長が父で、同社代表取締役会長の下地米蔵・建設業協会会長が兄の下地幹郎衆院議員(沖縄1区で落選・比例九州ブロックで復活)は、平然とこう言ってのけた。
「この選挙は日本にとっても沖縄にとっても大切な選挙ですので、仕事をやめて選挙運動しましょう」
つまり、勤務時間中の選挙運動(無償労働提供)を要請していたということになる。民間企業の経営者が利益創出に関係ない無償労働(政治的活動)を社員に指示すれば、株主から背任で訴えられる恐れがある。そのため、「佐喜真知事誕生のための選挙運動が建設会社の利益になる」という前提で、総決起大会出席や期日前投票調査票提出や後援会入会要請など“タダ働き”をさせているということではないのか。「無償労働提供による佐喜真氏支援活動」の見返りに「建設業者の利益拡大」を約束する“買収選挙”ともいえる。…」
この下地幹郎の発言は聞き捨てならない。建設業協会傘下の企業とその従業員に、「仕事をやめて選挙運動しましょう」と呼びかけたのだ。
横田記者は、下地の「仕事をやめて選挙運動しましょう」の呼びかけの意味を、「従業員に“タダ働き”をさせるということではないのか」と理解した。もちろん、仮にそうであったとしたら、それ自体が労働契約・労働基準法上の大きな問題ではあるが、常識的にそれはあり得ない。建設会社の社員が、協会や会社からの呼びかけに応じて「ただ働きの選挙運動」をするはずはない。明言はされていないが、各企業に対して、「社員の給料は減額することなく、会社の仕事をやめて選挙運動をさせなさい」、あるいは「選挙運動期間中は、通常の業務に替えて佐喜真支持の選挙運動への従事を業務命令として、本来の仕事ではなく選挙運動をさせるように」という呼びかけ以外に考えがたい。
この呼びかけの内容は、明らかな公職選挙法違反である。具体的には、運動員買収罪(公職選挙法221条1項・3年以下の懲役)に当たる。もちろん、「大切な選挙ですので、私は一定期間仕事をやめて選挙運動をします」と有権者個人が自発的に行動することは自由だ。しかし、それは飽くまで会社の指示によるものではなく、自主的な判断で、しかも自分の経済的な負担でしなければならない。本来選挙運動は無償でなければならないからだ。有権者が議会制民主主義の政治プロセスに参加する行為なのだから当然のことである。有償での選挙運動は、運動員買収罪として、金銭授受の当事者双方に犯罪が成立する。
経営者が社員に「仕事をやめて選挙運動を」と要請する場合に、「君たち、無償で選挙運動してくれ」と言えるはずはない。「給与は保証するから、佐喜真候補の当選のために働いてくれ」と言うしかない。その場合、選挙運動時間に相当する賃金分が運動員買収の対価となる。こうして、主権者個人ではなく、企業が選挙の主体となる。民主主義は大きくねじ曲げられることになる。しかも、留意すべきは、選挙運動を命じた企業だけではなく、これに応じた従業員の側にも犯罪が成立するのだ。
これまで、企業ぐるみ選挙の弊害が論じられてきた。私の過去のブログ「『ぐるみ・金権』選挙の徹底取り締まりを」(2013年9月17日)も参照いただきたい。
https://article9.jp/wordpress/?p=1190
「公選法は、選挙運動に対する報酬の支払いを禁じている。支払った方も、支払いを受けた方も選挙違反として犯罪にあたる。だから、徳州会から派遣された各職員は、所属する病院に1週間?1か月程度の欠勤や有給休暇を届け出た上で選挙運動を行っていた。もちろん、純粋に無給のボランティア活動であれば犯罪とはならない。「有給休暇中のボランティア」とするのが、カムフラージュの常套手段だ。実際のところは、欠勤・休暇は形だけで、欠勤で減額された給与分は、同月の賞与に上乗せして補填され、実質的な選挙運動の報酬が支払われていたという。鹿児島までの交通費やホテルの宿泊費なども、同会側が負担したとのこと。
選挙運動の自由は最大限保障されなければならない。一方、選挙の公正が金の力でゆがめられてはならない。金がものを言うこの世の中で、買収・供応等の金権選挙・企業ぐるみ選挙を許してはならない。経済的な格差を投票結果に反映させてはならず、取り締るべきは当然である。」
建設業協会の企業ぐるみ選挙推進との関係は必ずしも明確ではないが、9月21日の沖縄タイムスには、「誰に投票したか撮影して報告、とネットで話題に 沖縄知事選 弁護士有志が禁止要請」の記事が出ている。
沖縄弁護士会所属の弁護士有志の「投票の自由と秘密を守り公正な選挙を求める弁護士の会」(池宮城紀夫代表)は19日、県選挙管理委員会に対し、県知事選の投票所での写真撮影や録音、録画などの禁止の告知を徹底するよう要請した。
要請書では「特定の候補に投票したことを明らかにするため、投票用紙に候補者名を記載した場面を撮影して報告を求める企業があるとの情報がネット上で流れている」と指摘。これが事実であれば「有権者の投票の自由や投票の秘密を侵害する由々しき事態だ」とし、その企業が特定されなくても、同情報が流れていること自体が有権者の投票行動に悪影響を及ぼしかねないとして、禁止の周知徹底を求めている。
私は、「選挙人に対して、投票用紙に特定の候補者名を記載した場面を撮影して報告を求める」行為は、公職選挙法第228条1項の(投票干渉罪)に該当するものと思う。
同条1項は「投票所において正当な理由がなくて選挙人の投票に干渉し又は被選挙人の氏名を認知する方法を行つた者は、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する」と規定する。この条文は、他人に干渉されることなく、自由に候補者を選定することのできる選挙人の権利を保障するために、他からの干渉を処罰する規定である。選挙人に対して拒否しがたい影響力を持つ会社が、選挙人の意思如何にかかわらず、会社が指示する特定の候補者に投票するよう働きかけ、その干渉を確実に成功させる手段として、当該選挙人に対して、投票所において投票用紙に特定の候補者名を記載した場面を撮影して報告を求めているのだから、公職選挙法第228条1項(投票干渉罪)に該当する犯罪行為というべきである。
まだ判例はないだろう。捜査の対象としたという例も聞かない。しかし、明らかに投票の自由を侵害する可罰性の強い行為だ。このような指示をした者に対する告発があってしかるべきだと思うし、投票の自由と選挙の公正を確保するため、選挙管理委員会は厳正な対応をしなければならない。
(2018年9月23日・連続更新2002日)