児玉龍彦さんの緊急の問題提起に耳を傾けよう
おなじみになった、米ジョンズ・ホプキンズ大の集計。新型コロナウイルス感染症による死者数が本日(4月11日)、世界全体で10万人を超えたという。5万人を超えたのが今月2日。9日間で倍増したことになる。9日ごとに倍増というこの勢いがしばらく続くと仮定すれば、世界中が恐るべき事態となる。人の悲劇が数の大きさだけで表される深刻さに戦慄する。
身近には、東京都内本日の新たな陽性確認患者が197人だという。その推移は、
8日に144人
9日に178人
10日に189人
11日に197人
で、「4日連続過去最多更新」とされている。
しかし、この推移をどう評価すべきか私にはよく分からない。絶対数として無視し得ないことは明らかだが、指数関数的に爆発的な増加ではない。果たして、「オーバーシュート」寸前なのか、よく抑えている成果が現れているとみるべきなのか。危機的なのか危機的とは言えないのか、危機的であるとしてどの程度のものなのか。
専門家諸氏が、いったい何をどれだけ分かっているのか、実は分かってはいないのか。将来予測をするためにはどのようなデータが必要で、そのデータを得る努力はどのようにされているのか。あるいはそれどころではなく、何もされてはいないのか。中国、台湾、韓国、イタリア、スベイン、フランス、ドイツ、アメリカ各国の、積極消極の各教訓はどのように認識され、生かされているのか。ドイツや、韓国に比較して、日本の検査率が、かくも極端に低いのはなぜなのか。
政府は、「接触機会の低減に徹底的に取り組めば、事態を収束に向かわせることが可能であり、以下の対策を進めることにより、最低7割、極力8割程度の接触機会の低減を目指す。」という。「接触機会の低減」だけが有効対策なのか。「接触機会」とは何を言うのか。どう計測するのか。いつを規準に8割というのか。家族間の人的接触や施設での介護は、あるいは公共交通機関の利用はどうカウントするのか。生存に絶対必要な食料品調達や受診による医師との接触も分母に入るのか。それを除いての8割なのか。
この間、安倍・小池や、そのスジの専門家の言うことは、到底納得しがたい。とりわけ、日本のPCR検査のハードルがかくも高く実施率がかくも低度であることがどうしても理解できない。
この間、専門家として説得力のある解説をしているのは、児玉龍彦さん(専門は分子生物学、システム医学。東大アイソトープ総合センター長)である。彼は、分かっていることと分からないことをきちんと区分して語っている。下記の各動画は、政権の政策への問題提起として、必見といえよう。
新型コロナ重大局面 東京はニューヨークになるか (4月3日)
https://www.youtube.com/watch?v=r-3QyWfSsCQ
自分で考え いのちを守れ! 新型コロナと闘う その先の未来へ(4月8日)
https://www.youtube.com/watch?v=RUrC57UZjYk
ここで語られていることは、専門家委員会(個人ではなく)の胡散臭さである。安倍・小池が都合よく使っている「専門家」だが、これを至急に取り換えねばならないという彼の提言には、頷かざるを得ない。
あらためて思う。権力を握る者の責任の重さである。今の時期、日本国民も東京都民も、とんでもない人物を頼らざるを得ない窮地に陥ってしまっている。せめて、背後霊のようにくっついている「専門家」の適格性を至急検証しなければならない。
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なお、本年2月25日時点で、ネットにアップされた「サンデー毎日」の記事の一部を抜粋して引用したい。児玉さんの主張の骨格が見えると思う。
新興感染症にどう対応?
「予防ワクチンと、重症化抑止の抗ウイルス剤がまだできていない。従って、入り口の『ウイルス診断』と出口の『重症呼吸不全』への対応が致命的に重要だ」
今回はどんなウイルス?
「風邪のような症状と、嘔吐(おうと)と下痢をおこすタイプと2種類あるが、武漢からの報告では、今回のは両方起こす。そのため予防策が混乱する。飛沫(ひまつ)感染が中心だが、食事を介する感染が目立つ。武漢は食品市場で起こり、日本でも屋形船で感染した。SARSではクラスBの対応だったが、コレラ並みのクラスAを推奨する論文も出ており、感染予防に特別の注意が必要だ」
感染か否かの診断は?
「咽頭(いんとう)のぬぐい液などからウイルスの中にある遺伝子情報であるRNAを増幅して診断するリアルタイムPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)という方法が有効だ。これはゲノム診断でもよく用いられる簡易的な方法で、測定機械は一般の大学や研究機関、民間の検査企業にかなりの台数がある。さらにシークエンサーで見れば偽陽性か本当の感染か、比較的簡単に区別できる」
クルーズ船対策。どこで間違った?
「安倍首相が突然入国拒否と言い出したところだ。今までインバウンド、クルーズ船誘致と言ってきたのが、入国拒否という一種のヘイト的非人道措置を打ち出した。WHO(世界保健機関)がやるべきでないというところに飛びついてしまった。汚染船内に閉じ込めるということは、感染拡大につながる。少なくともいったん船から降ろして全部消毒すべきだったが、閉じ込めたままにした。専門家ではない厚労官僚が対応、PCRや重症化の対応も知らなかったことで、『監禁船での感染実験』と批判される羽目になった」
PCR検査も遅れた。
「先述したように簡易な検査だ。もっと民間の検査機関を活用すべきだったが、厚労省が自分たちの組織内でやることにこだわった。厚労技官や国立感染症研究所が予算確保の好機と考えた節もある。政権は(2月)14日、153億円の緊急対策を決めたが、最大の問題であるウイルス診断と、重症呼吸不全の緊急対応問題がほとんど理解されていない」
(2月)17日発表の「相談・受診の目安」では、「37・5度以上の熱が4日以上」続けば受診しろというが。
「普通の人が4日熱を出して重い症状になると病院に行けなくなる。武漢の例を見ると、呼吸不全が突然重症化する例が多い。まずやるべきはPCR検査のできる場所を大量に増やすことだ。研究機関レベルのスクリーニングでもいい。偽陽性になった人が専門的な外来でチェックする。つまり、スクリーニング自体のやり方を変える必要がある。今は検体をいったん国立感染研に集める形式を取っているが、官僚統制はすぐにやめ、迅速に動ける民間企業にやらせた方がいい」
「ただ、検査の問題は時間とともに解決する。最大の問題は、一定数で発生する重症者、特に高齢者、合併症保持者への対策だ。大量の排気をするし、一般の人工呼吸器でやると大量のウイルスを出す。重症者を受け入れる病棟を特設しないと院内感染は防げない」
ミスの重なりが痛い。
「医療行政としては薬害エイズに匹敵する失態だ。80年代血友病患者に対し、加熱処理してウイルスを不活性化しなかった血液凝固因子製剤(非加熱製剤)を治療に使用、多数のHIV感染者を生み出した。 「医療の問題というのは、分子レベルから社会レベルまでいろんな階層があるが、全体状況を統合できる専門家が必要だ。ある意味で正しい政策が別の面では失敗を招く。薬害エイズでは、血友病治療に熱心だった医師に血液製剤の知識がなく、今回は検疫をするにあたり、船内の人のことを考える人がいなかった。ただ、日本の医学界にも心ある人は大勢いるし、日本の科学技術の水準は今回のように低いものではない。医学界全体が大きく反省し目を覚ますべき時だと感じる。医療従事者を助けるためにも行政にPCR検査体制整備や重症施設特設を早急にやらせる必要があり、言論の役割も非常に大きい」
(2020年4月11日)