澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

大事なのは、「トップの人が言ったことに従う」ことなのか。

重苦しい雰囲気である。「非常時」、「戦時色」、「臨戦態勢」などの言葉が現実味を帯びつつある。そして、この社会の重苦しさの原因として、政権への批判を封じる同調圧力が感じられる。コロナも恐いが、「一億一心」になりかねない人心も恐い。一歩間違うと、非国民非難になりかねない。

本日(4月18日)の毎日新聞・スポーツ面に、リーチ・マイケルの囲み記事。タイトルは、「外出自粛で“ワンチーム”に リーチ・マイケルが呼びかけ 『油断が危ない』」というもの。

ラグビー・ワールドカップで活躍したリーチ・マイケルが17日、ウェブでの記者会見で報道陣の取材に応じ、新型コロナウイルス感染拡大防止に向け、W杯日本代表のスローガンを引き合いに「ひとりひとりが責任を持ち『ワンチーム』として外出自粛などの行動ができれば拡大は防げる。油断が危ないので正しい行動を取って」と呼びかけたという。官製企画に、スポーツ界もメティアも踊らされている図である。

NHKもこう報じている。
「一人一人が責任持って行動を」リーチ マイケル選手 呼びかけ
「『大事なことは一人一人が責任を持って行動することだ。そうすればウイルスの感染拡大を防げるし、ワンチームになれる』とファンなどに呼びかけました。」

ところが、この動画を眺めて気が付いたのは、彼がこう言っていることだ。もちろん、日本語である。
「トップの人が言ったことに従う。それをやればワンチームになれる」

つまり、大事なことは一人一人が責任を持って判断することではない。「トップの人が言ったことに従って行動すること」だというのだ。ワンチームとは、チームの中に諸チームがないこと、一つのチームがスッキリとまとまり良いことなのだろう。トップに対する批判など、もってのほかなのだ。

念のためと思って、産経の電子版を見ると果たして、こうある。

新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けては、(リーチは)安倍晋三首相や東京都の小池百合子知事の名を挙げて「トップが言ったことに従う」必要性と、各自の責任ある行動を呼びかける。「慣れて油断するのが一番危ない。だから毎日毎日、正しい行動をとれたかを見直す。難しいが、できるだけ家に」。レビュー(振り返り)を通して成長を遂げ、W杯8強にたどり着いた代表チームの軌跡と重ね合わせる。

これが恐い。国難だから、非常時だから、「みんな一丸となってトップが言ったことに従うべきだ」というのだ。単純に短絡的に、チームを国家と同一視して、ワンチームを称揚することで、「全国民がトップの言ったことに従う」という美風を肯定し、そのための「ワンネーション」を目指そうというのだ。

結局のところ、国難だから、非常時だから、「安倍晋三や小池百合子など『トップが言ったことに従うべきだ』と、リーチは引っ張り出されて語らせられているのだ。今後、この動きに警戒し、批判を続けなければならない。

同様の問題意識で、快調にヒットを重ねるリテラが、4月15日に下記の痛快な記事を掲載している。
https://lite-ra.com/2020/04/post-5372.html

糸井重里、山下達郎、太田光…「責めるな」「いまは団結を」と安倍政権批判を封じ込める有名人がわかっていないこと

 安倍政権の酷すぎるコロナ対策、多くの人が怒りの声をあげているのは当然だろう。一方で、「いま批判するのはやめよう」「いまは誰かを責めている時期じゃない」と、政権批判や補償を求める声を封じ込めようとする動きが起き始めた。3.11のときも「国民が一つなって危機をのりこえるべきときで、責任を追及する時期じゃない」と、原発批判が封じ込められたが、まったく同じ状況になっている。

その代表が糸井重里だ。糸井は4月9日にこんなツイートをした。

〈わかったことがある。
新型コロナウイルスのことばかり聞いているのがつらいのではなかった。
ずっと、誰かが誰かを責め立てている。これを感じるのがつらいのだ。〉
〈責めるな。じぶんのことをしろ。〉

これに批判が殺到した。映画評論家の町山智浩〈糸井重里さん、もうレトリックはいいですよ。言いたいことをはっきり、「庶民はお上に逆らうな」「政府に補償を求めるな」「マスク二枚で満足しろ」「お前らは犬だ」「奴隷だ」と言えばいいじゃないですか〉と糸井の本音を喝破。小島慶子〈はー。責めるな、自分のことをやれとどこかのお殿様が呟いたようだけど、コロナ危機なんて他人事なのでしょう…お城に篭っておくつろぎ遊ばせ。あなたに言われなくても、みんな自分のことも他人のことも懸命にやってますから〉と一刀両断にした。

さらに、秀逸だったのはライターの武田砂鉄の皮肉たっぷりのツイートだ。
〈わかったことがある。
「商売が成り立たない」「これからどうしたらいいかわからない」「だから補償を」という悲鳴を、こうやって「責め立てている」なんて変換されるのがつらいのだ。〉

そのとおりだ。大切なのは、「トップの人が言ったことに従う」ことではない。批判の精神を持続して発言し続けることなのだ。
(2020年4月18日)

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