「安倍晋三年内不起訴へ」の報道には、とうてい納得し得ない。
(2020年12月19日)
本日(12月19日)の「毎日新聞」朝刊トップの見出しが、「安倍前首相を不起訴処分へ 本人聴取踏まえ、年内にも最終判断 東京地検特捜部」というもの。えっ? 安倍不起訴? おいおい、それはないだろう。ここまで捜査をした振りを見せておいて、これが精一杯です、と言うのかね。
同記事のリードは、こう述べている。
「安倍晋三前首相(66)の後援会が主催した「桜を見る会」の前夜祭を巡り、東京地検特捜部は、政治資金規正法違反などの容疑で告発状が出ていた安倍氏について、年内にも不起訴処分とする方向で上級庁と最終調整に入った模様だ。安倍氏本人の聴取結果を踏まえ、刑事責任の有無について最終判断する。開催費の費用補塡に関わった公設第1秘書らについては、同法違反(不記載)で略式起訴する方針とみられる。」
今年(2020年)の5月21日を第1陣として、全国の弁護士およそ1000人が共同して東京地検特捜部に提出した告発状の被疑者は、安倍晋三(衆議院議員・当時内閣総理大臣)、配川博之(安倍晋三公設第1秘書・後援会代表者)、阿立豊彦(安倍晋三後援会会計責任者)の3名。もちろん、安倍晋三がメインターゲットで他は添え物である。安倍がメインディッシュなら、他の二人は前菜程度。安倍がトカゲのアタマなら、他の二人は尻尾に過ぎない。前菜だけでメインディッシュはございません? 尻尾だけつかまえましたからご安心を? それで治まるはずはなかろう。
告発対象の被疑事実は二つ。政治資金規正法違反(政治資金収支報告書への不記載)と、公職選挙法違反(有権者に対する寄付)である。前者の法定刑は禁固5年以下、後者は罰金50万円以下。公選法違反は不問に付し、政治資金規正法違反は秘書だけ立件して、政治家本人には目こぼしだという。そんな検察の姿勢でよいのか。国民の信頼を得られるのか。
毎日の記事もこうは言っているのだ。
「関係者によると、公設第1秘書が代表を務める「安倍晋三後援会」は、前夜祭を2013年から東京都内のホテルで開催。安倍氏側がホテル側へ支払った開催費用は15?19年の5年間で約2300万円だったが、1人5000円だった会費の総額は約1400万円で、差額が生じていた。
安倍氏は国会答弁で「後援会としての収入、支出は一切なく、政治資金収支報告書への記載の必要はない」と説明していたが、捜査の結果、実際には、安倍氏側が差額分を補塡していたことが判明したという。
告発状の提出を受けた特捜部は今秋ごろから本格的に捜査を始め、安倍事務所関係者ら100人前後から聴取を重ねてきた。会費収入と、補塡分を含めた支出を、収支報告書に記載する必要があるとみている。」
つまり、捜査では、少なくも政治資金規正法法上の不記載罪の成立は明らかになった。安倍晋三は国会で虚偽答弁を続けていたことになる。
問題は、次の記載だ。
「特捜部は安倍氏本人の関与も捜査しているが、安倍氏本人が費用の補塡や収支報告書への不記載を指示していた明確な証拠は得られていないといい、刑事責任を問うのは難しいと判断している模様だ。」
これは、全てを秘書のせいにして、自らの責任を逃れようという、政治家の常套手段を黙過し容認するものと言わざるを得ない。
5年にわたる「前夜祭」である。少なくとも900万円の金のやりくりである。しかも、内閣総理大臣主催の「桜を見る会」の前夜祭である。この重要なイベントの収支を受益者が知らなかったはずはない。知らなかったで、済ませてはならない。
国民注視の「総理大臣の政治資金収支報告」である。ここで、おざなりの追及で「安倍本人が《費用の補塡や収支報告書への不記載》を指示していた《明確な証拠》が得られていない」として不起訴となれば、多くの政治家が「右へ倣え」して、秘書や会計責任者に責任を押し付け、責任逃れを図ることになろう。自らの無能を盾にして「政治資金収支報告書の違法を知らなかった」で済むはずがない。
捜査はおわっていない。問題は未解決である。毎日の記事も、
「補塡分の資金は、安倍氏側の政治団体から出されていたとみられ、特捜部は特定を進めている。」
と報じている。これは重要である。
これまでの報道だと、この問題の資金の出所は、安倍晋三の政治資金管理団体である「晋和会」からだという。会場のホテル側からの領収証の宛先が、「晋和会」宛てになっていたというのだ。
とすれば、晋和会の会計責任者の不記載罪が問われねばならないし、晋和会の代表者である安倍晋三の刑事責任も免れない。
政治資金規正法は、25条1項において「(政治団体の会計責任者が)政治資金収支報告書の提出をしなかつた場合に最高刑禁錮5年」とするとともに、同条2項は「前項の場合において、政治団体の代表者(安倍晋三)が当該政治団体(晋和会)の会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠つたときは、50万円以下の罰金に処する」と定める。
つまり、安倍晋三が「知らぬ、存ぜぬ」を押し通して、会計責任者とともに25条1項の罪責を負うことからは免れたとしても、「会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠つたとき」には、処罰されることになる。
この政治資金規正法第25条第2項の政治団体の責任者の罪は、過失犯(重過失を要せず、軽過失で犯罪が成立する)であるところ、会計責任者の不記載罪が成立した場合には、当然に過失の存在が推定されなければならない。資金管理団体を主宰する政治家が自らの政治資金の正確な収支報告書の作成に、常に注意し責任をもつべきは当然だからである。
被告発人安倍において、特別な措置をとったにもかかわらず会計責任者の虚偽記載を防止できなかったという特殊な事情のない限り、会計責任者の犯罪成立があれば直ちにその選任監督の刑事責任も生じるものと考えるべきである。
とりわけ、被告発人安倍晋三は、内閣総理大臣として行政府のトップにあって、行政全般の法令遵守に責任をもつべき立場にあった。自らが代表を務める資金管理団体の法令遵守についても厳格な態度を貫くべき責任を負わねばならない。
なお、被告発人安倍晋三が起訴されて有罪となり罰金刑が確定した場合には、政治資金規正法第28条第1項によって、その裁判確定の日から5年間公職選挙法に規定する選挙権及び被選挙権を失う。その結果、安倍晋三は公職選挙法99条の規定に基づき、衆議院議員としての地位を失う。
この結果は、法が当然に想定するところである。いかなる立場の政治家であろうとも、厳正な法の執行を甘受せざるを得ない。本件告発に、特別の政治的な配慮が絡んではならない。臆するところなく、検察は厳正な捜査を遂げるべきである。