「デジタル改革関連法案」が指向する、監視社会化・管理社会化の危険を警戒しなければならない。
(2021年2月18日)
2月9日、政府は「デジタル庁設置法」を含む、「デジタル改革関連法案」を閣議決定し、同日衆院に提出した。典型的な束ね法案で、新設・改正の法案数は計64本に及ぶ。政府は、今国会で成立を図り、「デジタル化推進の司令塔」としてのデジタル庁を9月創設の予定という。
報じられているところでは、法案は、▽デジタル庁設置▽理念を定めた基本法▽マイナンバーと預金口座のひもづけ▽押印廃止などの社会整備▽自治体のシステム標準化―の5分野からなり、政府はこれを一括して審議することを想定しているという。
新設されるデジタル庁は、首相をトップとして、担当大臣や副大臣も配置。事務方のトップには特別職の「デジタル監」を置く。500人規模の組織とし、民間から局長級を含め100人程度の登用を想定しているという。
他省庁への勧告権を持ちながら、国の情報システムの整備・管理や、自治体のシステム共通化に向けた企画・総合調整などを担う。政府が重要課題に掲げるマイナンバーカードの普及についても司令塔となる。
政府は、「デジタル化」によって、国民生活の利便が向上することを強調する。説明資料には、「国民の幸福な生活の実現」「人に優しいデジタル化」「誰一人取り残さないデジタル社会の実現」「安心して参加できるデジタル社会の実現」などいう、歯の浮くような言葉がならぶ。
首相は成長戦略の柱の一つにデジタルを掲げ、平井卓也デジタル改革相は「スマートフォン一つで60秒以内であらゆる行政手続きができるようにする」とまでいう。あたかも、デジタル化によって、バラ色の社会が開け、国民が豊かに幸福度が増していくかのごとき幻想が振りまかれている。本当に、そうだろうか。
デジタル技術自体に善悪の色はない。良くも悪くも使われる道具でしかないが、使い方を間違えると取り返しのつかない大きな障害をもたらす凶器となる。とりわけ、信頼できない権力が推進するデジタル化とは、極端な監視社会・管理社会を目指すものとなる危険を孕んでいる。
IT技術の発達は、個人の監視と管理の徹底を可能とする。国民は家族歴・生育歴・交友歴を把握される。健康情報も、教育歴も、経済生活歴も丸裸にされる。誰と会って、どんな本を購入し、どんなデモに参加したかさえ、一瞬にして可視化される。
今回の「デジタル改革関連法案」も『国民生活の利便促進』を名目に、実は『IT技術による全国民直接監視社会』『監視の徹底による国民管理』を指向する危険を警戒しなければならない。
国家が集積する圧倒的な情報量は、丸裸にされた国民の自由を形骸化する。国家は、全国民のあらゆる情報を握って国民に対する意識や行動の操作を可能として、民主主義を形骸化する。既に、中国にその萌芽を見ることができよう。
デジタル改革関連主要6法案の概要は以下のとおりである。
【デジタル庁設置法案】
・首相をトップとし、担当大臣らも配置
・国の情報システムを統括、監理
・他省庁への勧告権などの権限を持つ
【デジタル社会形成基本法案】
・ゆとりと豊かさを実感できる国民生活の実現
・デジタル化の目標や達成時期を定めた重点計画の作成
【預貯金口座の登録、管理に関する2法案】
・本人の同意でマイナンバーにひもづけた口座で、公的な給付金の受け取り、災害や相続時に照会が可能に
【デジタル社会形成関係整備法案】
・各自治体でばらつきがある個人情報保護のルールを統一化
・行政手続きの押印廃止の推進
・マイナンバーカードの機能をスマホに搭載
・引っ越し先に転出届の情報を事前通知
【地方公共団体情報システム標準化法案】
・自治体ごとにばらばらなシステムを、国が策定した基準に合わせるよう求める