澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

中国政府は、国連人権弁務官のウイグル調査を無条件に認めよ。

(2021年5月18日)
 いかなる一地域の人権状況も、世界の関心事でなくてはならない。今、ウィグルで何が起こっているのか、とうてい無関心ではおられない。予てから漢民族のウィグル族に対する人権侵害の報道は少なくなかった。アメリカは、中国政府の行為をジェノサイドと呼んで非難するまでになっている。これを裏付ける国外に逃れた人々の恐るべき被害の証言も積み重ねられてはいる。

 報じられているのは、強制労働や不妊手術の強制、子供に対する同化教育、そして、治安対策としてウイグル人らへの監視や取り締まり、「再教育施設」への強制収容、100万人以上が中国国内で強制収容されているとの見方もある。

 まさかそれほどでもあるまいと思う気持ちが強かったが、理不尽な香港での事態の報道に接して以来、見方は変わった。外部の目の届かないチベットやウィグルで、中国政府当局の大規模な人権侵害はありえよう。これまで信じがたいとしてきたウィグル族弾圧報道が真実味を帯びてきている。

 しかも最近の報道は、国際的に定評のある信頼すべきメディアのものだ。とりわけ、世界中に大きな衝撃を与えたものが、2月2日の英BBCの報道だった。新疆ウイグル自治区の「再教育」施設で組織的レイプや性的虐待、拷問が行われてきたとする証言を、被害者の顔と名前つきで放送した。

 中国政府の反応は素早く、中国外務省の汪文斌副報道局長は2月3日の記者会見でBBCの報道は「事実無根」だとした上で、「そもそも『再教育施設』なるものは存在しない。過去の報道で取材を受けた人の中には、誤情報を拡散する「役者」だと判明した人もいる」とした。

真実を求めて多くのジャーナリストがウィグルでの取材を試みたが、厳しい情報統制のため、外部からの実態把握は難しい。当局の妨害を受けたという記事を発信している。

 この事態に国連が腰をあげ、バチェレ人権高等弁務官が現地を訪問しての調査を申し出た。この人、ベロニカ・ミチェル・バチェレ・ヘリア(1951年9月29日生)は、女性初のチリ大統領を2期務めた政治家だが、外科医であり小児科医でもあるという。

 中国政府も、さすがに「NO」とは言えない。しかし、何をどのように調査するのか、調査の条件にこだわって調査は実現していない。

 そのようななか、5月5日には日本を含む主要7カ国(G7)が国連人権高等弁務官による現地調査の受け入れを中国に求めた。英国で開かれたG7外相会合の共同声明は、現地の少数民族ウイグル族らを対象に「再教育のための大規模な収容所が存在し、強制労働や強制不妊が報告されている」として、深い懸念を示している。

 また、5月12日には米英独の国連代表部などは、新疆ウイグル自治区の人権状況を議論するオンラインの会義を開いた。主催側によると、47か国が参加。少数民族ウイグル族らへの抑圧を非難し、国連のバチェレ人権高等弁務官による無条件での現地調査を即時受け入れるよう求める声が相次いだ。中国はこれにも、強く反発したと報道されている。

 トーマスグリーンフィールド米国連大使は「中国がウイグル族らへの(民族根絶を図る)ジェノサイドや人道に対する罪をやめるまで声を上げ続ける」と強調。ドイツのホイスゲン国連大使は「隠すことがないなら、なぜ人権高等弁務官の制限なき訪問を承諾しないのか」と中国を批判した。

 この日はバチェレ氏は欠席したが、国連側からフェルナンド・ドバレンヌ特別報告者(少数派問題担当)が登壇。「ことの重大さを考えれば、国連が中国政府に対し(調査への)協力をもっと強く要求しないのは、臆病だと言わざるをえない」と語ったという。(以上の事実関係は、ほぼ毎日新聞の報道に基づく)

 また、この席で、ウイグル族の権利擁護を訴え、中国に投獄されている研究者、イリハム・トフティ氏の娘のジュハールさんが参加し「私の父の運命は国際社会にかかっています。人道危機を止めるために結束して行動する必要があります」と訴えたという。事態は深刻なのだ。

 これに対して中国側は、会合に参加しないよう各国に呼びかけたほか、中国の国連代表部は12日、報道官の声明で「うそにあふれ、中国をたたくための政治的なたくらみだ」とアメリカを非難した。(NHK)

 現地での検証が不可欠であり、中国は速やかに調査を受け入れるべきが当然なのだ。しかし、こうまで中国が居丈高なのは、国連人権理事会の構成は、中国支持派が多数で、機能不全に陥っているからなのだという。なんということだ。

 国際連盟の時代、柳条湖事件勃発後のリットン調査団を、当時の日本でさえ受け容れたではないか。中国も、まずはバチェレ調査を受け容れるべきだ。そうでなければ、国連人権理事会の賛否がどうであれ、中国の言い分に耳を貸そうという人を確実に減らすことになろう。 

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