徳丸印のガマの油だ、お立ち会い。
さあて、お立ち合い。御用とおいそぎのない方は、ゆっくりと聞いておいで。
遠目山越し笠の内。聞かざる時は、物の善悪・黒白がトーンと分からない。山寺の鐘ゴーンと鳴ると雖も、童子一人来たって鐘に撞木をあてざれば、鐘が鳴るやら撞木がなるやら、その音色も分からない。
さて、手前ここに取りい出だしたるこれなるこの包み。
この中には1000万円の札束が五つ。合計5000万円がはいっている。山吹色は目の薬、目の保養。命の洗濯にもなる。1000万円を拝めば、1年の寿命が延びるというもの。つい先ほど貸金庫から取り出してきたばかりの、めったに見られぬ5000万円のお宝だ。5年の寿命を保障する。さあさあ、とくとご覧じろ。帯封がついたままじゃ。
なに? この札束、借りてきたのか、もらったものかとな? ヤボなこと聞くんじゃないよ。差し障りがなけりゃ私のポッポに収まるし、都合が悪くなったら「借りた金」。鎌倉方面に返しに行くのさ。あんたも子どもじゃあるまい。そのくらいは、お分かりだろう。
この札束をナツメの中に入れて大道に置くときは、天の光と地の湿りを受けて、阿吽の呼吸が天地陰陽の合体をなし、パッと蓋が開く。ナツメから札束が躍り出て、札束がものを言う、札束が芸をする。ツカツカツカと進むが虎の小走り虎走り、虎が踊るや虎の舞。スポンサーにあやかって、虎にまつわる芸当は十二通りだ。
おっと、お立ち会い。札束がものを言う、踊り出すくらいのことで、投げ銭や放り銭はおことわり。大道商いはしておれども、これでも本業はルポライター、副業に首都の知事もやっている。給与一年返上と言えども、投げ銭や放り銭を拾うわけにはまいらぬ。
しからばお前、投げ銭や放り銭を断って、いったい何をなさんとしているかと言えば、手前商わんとするは、金看板示すが如く、徳丸印の妙薬は陣中膏ガマの油だ。ガマの油だよ、お立ち会い。
さて。 手前取りい出したるは一匹のガマ。縁の下や流しの下、そこにもいるここにもいるというひきがえるの類とはちと格が違う。薬石効能の足しになるのは、5本の指がみんな丸く5輪をなしたる、お・も・て・な・しのガマでなくっちゃならない。銭儲けの功徳あらたかな五輪のガマだよ、お立ち会い。
このガマは、相模の国は鎌倉の湘南鎌倉総合病院辺りで、黄金色の山吹の花だけを食して育つ。ほれ、このガマの肌つやが黄金色に輝いているのをご覧じろ。大きな口だろう。これがガマグチ。
此のガマから油を採るにはどうするか。四面に鏡を張った箱を用意する。この箱に、ガマを追い込んでロウソク1本立てるときには、ガマは鏡に写った己の醜い姿に、己が己に驚いて、タラーリタラーリと油の汗を流す。ブエノスアイレスでは、格好よかったはずと思いきや、鏡に照らしだされた真実の己の姿の醜さに、びっくり仰天いたしまして、額から汗が出るやら、脇の下から油が出るやら。
このびっしょりの油汗をば下の金網にてすき取り、三七は二十と一日の間、柳の小枝でトローリトロリと煎じて煮詰め、徳丸印の秘伝の神薬に、赤い辰砂、椰子の油、テレメンテーカにマンテーカ、かような唐・天竺・南蛮渡りの妙薬をば、練り合わせて、造ったのが、これぞ此の徳丸印の軍中膏ガマの油じゃ。お立ち会い。
ガマの油の効能は、火傷・金創・槍傷・刀傷・鉄砲傷・擦り傷・掠り傷・歯の痛み・外傷一切をたちまちにして直す。血止め、痛み止めにも効能あらたかだ。何たって、徳丸虎印の妙薬じゃ。あっちでばらまき、こっちでこっそり包んだ、巨額の製造コストがかかっている。
正直にお断りしておこう。それでも、直せないいくつかの病がある。
まずは、金権病・お金大好き病・威張りたがり病・嘘つき病、こそこそ病、そして「にぎにぎ病」と「袖の下病」などなどだ。一度壊れた政治家のイメージも直せない。
さあて、お立ち合い。お立会いの中には、そんなに効目あらたかなそのガマの油、いったい幾らで分けてくれるかという方があったら、此のガマの油、本来は一貝が2万円でパーティー券とセットなのだが、今日ははるばると出張っての御披露目。
男度胸で女は愛嬌、坊さんお経で、山じゃ鶯ホウホケキョウ、筑波山の天辺から真逆様にドカンと飛び下りたと思って、その半額の1万円。たったの1万円だよ。
私は義理で、これ売らなきゃならない。お世話を受けたら、親切な方には、ご恩返しをしなくっちゃね。これが、人の道というものだろう。汗をかいても、油にまみれても、ご恩返しに、「徳丸印のガマの油」を売り込んているんだよ。433万人が買ってくれると見込んでの大商い。感動的な噺じゃないかね。
残りの品もまことに数が少ない。ハイと、お手を上げた方から、お早いが勝ちだ。さあ、どうだ?
何? どなたもお買い求めにならない? はて、面妖な。
(2013年12月16日)