ようやく開示されたNHK経営委議事録を読む ー ガバナンスが効いていないのは経営委員会だ
(2021年7月10日)
昨日(7月9日)、4月7日付で開示を請求(NHK独自の手続では「開示の求め」という)していた下記3点の文書(写)の交付を受けた。別紙を含め全部で47ページである。
(1) 別紙 1枚
(2) 2018年10月09日経営委員会議事録 表紙+本文8ページ
(3) 2018年10月23日経営委員会議事録 本文35ページ
(4) 2018年11月13日経営委員会議事録 表紙+本文2ページ
相当な分量だが、この議事録、なかなかに読み応えがある。我々が想像していたストーリーがこの議事録で細部にわたって裏付けられている。それだけでない。これは巧まずして出来上がったドラマだ。悪役と善玉のコントラストがくっきりしていてまことに分かり易い。これに、場と場をつなぐ裏のやりとりを加えれば、興味深い劇にもなる。映画にもなる。
ところで、放送法41条は、(議事録の公表)について、「経営委員長は、経営委員会の終了後、遅滞なく、経営委員会の定めるところにより、その議事録を作成し、これを公表しなければならない。」と定める。経営委員会というNHKの最高機関で何が議論されたのか、視聴者・国民に「遅滞なく公表せよ」というのが、法の要求するところ。これが、遅滞に遅滞を重ねて2年半を経てようやく日の目を見た。
「ようやく」の意味は、期間だけではない。NHK(実質においては経営委員会)は、抵抗に抵抗を重ねて、遂に矢尽き刀折れて開示せざるを得ないところまで追い込まれたのだ。2年半は、悪あがきの積み重ねだった。
まず毎日新聞などメディアがこの議事録の開示を求めて拒否され、NHKの内規に従った不服申立手続きである「再検討の求め」を申し立てた。この手続において諮問を受けた「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」は、20年5月開示すべしと明確に答申した。しかし、NHK(実質においては経営委員会)はこれを拒否した。
その後メディアなどからする3件の開示の求めがあり、その「再検討の求め」において、「審議委員会」は、再度開示せよと答申した。21年2月のことである。だが、NHKはこれにも従おうとはしなかった。そこで、NHKに関連する市民運動が乗りだした。市民団体の100余名が、仮に開示を拒否されれば提訴することを広言して、開示の求めをした。これが、4月7日のことである。
この開示の求めに対して、NHKは2度にわたっての「回答延期」を通知した。この段階で、104名が提訴した。6月14日のこと。そして、3度目の「回答延期」のあと、開示の通知に至った。
問題の議事録には、経営委員会の上田良一NHK会長(当時)に対する「厳しい注意」の経過が詳細に記載されている。注意とされた理由はガバナンスの不備である。経営委員会がいう「NHK会長のガバナンス」とはなんぞや。
NHKの番組「クローアップ現代+」で放映された、「かんぽ生命保険不正販売問題」について、郵政側はNHK会長に番組制作の現場を押さえこむよう期待した。しかし、NHKの番組制作現場は郵政との交渉において、一貫して「NHKでは、番組制作と経営は分離している。番組作成に会長は関与しない」と説明している。
「番組制作と経営は分離している」ことは報道機関のあり方として当然ことではないか。だが、日本郵政側はこれに納得しなかった。「放送法上編集権は会長にある」(形式的にはその通り)との立場で、NHKのガバナンスのあり方を問題としたのだ。つまり、郵政側が言う「NHKのガバナンスのあり方についての不満」とは、「かんぽ生命不正販売報道」を黙認し、その続編放映を中止させないNHK執行部の姿勢についての不満にほかならない。
ガバナンスとは、経営陣がしっかりと番組制作現場を押さえ込んでかつてな報道をさせないこと、なのだ議事録の中で議事録の中で森下俊三(当時、経営委員長代行)は、こう発言している。
(森下代行・現経営委員長)
本当は彼ら(郵政側)の気持ちは納得していないのは取材の内容なんです。こちら(NHKの取材)に納得していないから、経営委員会に言ってくるためにはこのポイント(ガバナンス)しか(ない)、経営委員会は番組のことは扱わないのでこう言ってきている(ガバナンス不備と言ってきている)けども。本質的にはそこ(取材の内容)で、本当は彼らが(番組の制作に)不満感を持っているということなんですよね。
(村田委員・現経営委員長代行)
それは森下代行言われたように、やっぱり彼ら(郵政側)の本来の不満は(取材の)内容にあって、内容については突けないからら、その手続論の小さな瑕疵のことで攻めてきてるんだけども。でも、この経営委員会の現実としても、手紙が来た以上経営委員会が返事しないわけにはいかないですよね。
誰もがよく分かっている。本当は、郵政側も経営委員会も、「クローアップ現代+」がとんでもない番組を作って放映したことを問題としているのだ。どうして、とんでもないか。総務省の天下り幹部を擁している、郵政グループの悪徳商法摘発などという、言わば「お上に楯突く」番組だからだ。しかし、そうは言えないから、「ガバナンスに不備がある」「今後は視聴者目線に立って適切な対応をする」というのだ。「視聴者目線」とは、悪徳商法被害者の目線ではない。加害者である悪徳業者側の目線に立つというのである。正気か。
今回開示された議事録が明らかにした当時の経営委員の責任は極めて重い。とりわけ森下俊三である。その責任は徹底して追及されなければならない。森下本人も、これを任命した政権も、である。