燃え盛る「聖火」を消せ。あの禍々しい劫火を。
(2021年7月30日)
火は妖しくも美しい。それ故に火は人を呼び寄せ人を惑わす。火はときに、その危うさを人に忘れさせ、人は火に魅入られて身を焼き身を滅ぼす。火に群がる蛾と人と変わるところはない。
今、少なからぬ人々が「聖火」に引き寄せられ、その虚飾に惑わされ酔わされている。その火の危険を忘れ、あるいは危険を正視せず、危険に気付かないふりをし続けている。その怠惰は、多くの人々の身を焼き身を滅ぼすことになる。今必要なのは、一刻も早く、その危険を正視して「聖火」を消すことだ。直視せよ。あれは、人々の災厄を招いている劫火なのだ。
昨日(7月29日)の東京都内新規コロナ感染確認者数は3865人と発表された。全国では10699人、初めて1万人の大台を超えた。言葉の真の意味での緊急事態である。東京では直近1週間の人口10万人当たりの感染者数111人を超えた。ステージ4下限の4倍を上回る。国民の生命と健康、そして生活が脅かされている。
東京五輪は、7月23日に開会となった。その日から昨日までの東京の感染者数の推移は、下記のとおりである。
7月23日(金) 1659人 (開会式当日)
7月24日(土) 1128人
7月25日(日) 1763人
7月26日(月) 1429人 (連休明け初日)
7月27日(火) 2748人 (連休明け2日目)
7月28日(水) 3177人 (連休明け3日目)
7月29日(木) 3865人 (連休明け4日目)
4連休が明けてからは、感染爆発と言って誇張ではない。この感染爆発が東京五輪開催と無関係という強弁は通らない。「東京五輪は、国民の犠牲を厭わず開催されねばならない」「都民やアスリートの安全よりも、東京五輪が重要だ」「まだ、アルマゲドンは起こっていない」と言うのなら、話の筋は通っている。危険この上ないスジではあるが。
東京五輪の安全安心がお題目だけのことであるのは、誰もが知っている。バブルには「どこでもドア」が完備している。今回のオリンピックに限らず、選手の素行がよいわけはない。本日正午までの五輪関係感染者数は累計193人である。母数を確定しがたいが、これは無視できない多数である。しかも潜伏期間を考えれば、これからが心配なのだ。
祝祭としての東京五輪が、「感動」を呼ぶものであればあるだけ、「感動」しやすい人々にパンデミックの現状認識を稀薄化させている。限りある医療リソースが東京五輪に奪われている。
この事態に、菅義偉・小池百合子のコメントの情けなさは、言語に絶する。この二人への批判を機に、「楽観バイアス」という言葉が飛び交うようになった。今年の流行語大賞の有力候補である。人には、見たいものしか見えない。「聖火」に吸い寄せられた人には、その火の恐ろしさは見えない。見えても語らない。菅・小池とも、この事態に楽観論しか語らない。
楽観バイアス・シンドロームは、菅・小池にとどまらない。立憲民主党の安住淳国対委員長が、東京オリンピックに関し「選手村でクラスターが起きるなど新たな状況が生まれない限り、中止は現実的でない」と述べたという。まず、これには驚いた。、菅・小池を糾弾して、誰が国民の味方であるかをアピールする絶好の機会を逃したのではないか。
さらに、同党の枝野幸男代表までがこれに続いた、昨日(7月29日)の記者会見で、新型コロナウイルス感染拡大の中で開催されている東京五輪について、わざわざ中止を求めないと述べたという。その理由として、「すでに五輪の日程が進んでおり、多くの選手や関係者が来日して活動している」「中止すればかえって大きな混乱を招くと強く危惧している」と述べたとのこと。国民の命と健康を犠牲にしてまで実現しなければならない「混乱回避」とはいったい何なのだ。
さらに、「アスリートの皆さんには競技に集中して全力を出していただきたい」「長年の努力の成果を自信を持って発揮できるよう、テレビの前で応援しているし、日本選手の活躍を喜んでいる」とまで語ったという。
恐るべし、楽観バイアス・シンドローム。そして、「聖火」の危険な魅力。だからこそ、直ちにその火を消さなければならない。