澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

NHK経営委員会委員長・森下俊三の放送法違反が明確になっている。この責任の放置は内閣と国会の責任だ。

(2022年1月19日)
 本日午後、東京地裁103号法廷で「NHK文書開示等請求」訴訟の第2回口頭弁論期日。原告(受信契約者)ら代理人の佐藤真理弁護士が弁論を担当した。

 この訴訟、たいへんに興味深い展開になっている。この事件の被告は、法人としてのNHK(日本放送協会)と、個人としての森下俊三(経営委員会委員長)の二人。この被告両名の応訴姿勢が明らかに異なっている。森下は、自分の行為に違法はないとムキになっているのだが、NHKの姿勢は頗る微妙、決して森下に同調していない。むしろ、言外に「森下には困ったものだ」と言わんばかりの主張。真っ当ならざる森下と、真っ当に見えるNHKの主張が対照的である。

 原告はNHKに対してかなり広範な文書開示を請求しているが、そのメインとなるものは、「上田NHK会長に厳重注意を言い渡した2018年10月23日開催の経営委員会議事録」である。この議事録の開示を求めて本件訴訟提起前に5度に渡る「文書開示の求め」があったが、ことごとく斥けられた。

 そこで、本件原告らは、「もしまた、不開示とするときには文書開示請求の訴訟を提起する」ことを広言して、「文書開示の求め」の手続に及び、所定の期間内に開示に至らなかったため、21年6月14日に本件文書開示請求訴訟を提起した。その結果、ようやく同年7月9日に至って「議事録と思しき文書」が開示されたのだ。

 おそらくは、これだけで大きな成果と言ってよい。この「議事録」では、森下らが、日本郵政の上級副社長鈴木康雄と意を通じて、「クローズアップ現代+」の《かんぽ生命保険不正販売問題報道》を妨害しようとたくらんだことが明確になったからだ。この局面では明らかに、経営委員会の無法にNHK執行部と番組作成現場が蹂躙されている構図である。結局は安倍政権以来、政権が関わる人事の全てがおかしいのだ。

 もっとも、この「議事録と思しき文書」は、所定の手続を経て作成されるべき「議事録」ではない。NHKが「議事録草案」と呼ぶものである。放送法41条で、「経営委員会委員長は、経営委員会の終了後、遅滞なく、経営委員会の定めるところにより、その議事録を作成し、これを公表しなければならない」とされている、適式の「議事録」については、いまだに不開示ということになる。真実、放送法の規定に反して、いまだに適式の議事録が作成されておらず、公表もされていないとすれば、森下の責任は重大である。その理由はどこにあるのか。森下主導の経営委員会が、放送法(32条)に違反して、番組(「クローズアップ現代+」)制作に介入していることが明らかになることを恐れたからである。

 責任は、経営委員会、なかんづく委員長・森下俊三にある。無法・横暴な経営委員会とその委員長によって、NHK執行部と番組制作現場の報道の自由が蹂躙されている構図である。NHKは、一昨日乙1号証として「放送法逐条解説・29条部分」を提出して、文中の「経営委員会は、協会(NHK)の最高意思決定機関として設置したものである」という記述にマーカーを付けている。NHK執行部が、経営委員会にもの申すなどできようもない、という内心の溜息が聞こえる。

 NHKが暴走することのないよう、放送法は、NHKの最高意思決定機関として経営委員会を置き、その重責を担う経営委員12名を「国民の代表である衆・参両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する」という制度設計をした。当然に良識を備えた経営委員の選任を想定してのことである。ところが、この経営委員会が、とりわけその委員長が、政権の思惑で送り込まれ、明らかな違法をして恥じない。この事態に、内閣と国会とはどう責任をとろうというのだ。

 本日陳述の原告第1準備書面の末尾は、以下の「被告森下に対する求釈明」である。

1 被告森下は、準備書面(1)(16ページ) において、「1315回の経営委員会において本件ガバナンス問題を審議するに先立ち、…その議事経過および資料を非公表とすることを協議して確認した」と主張している。しかし、同委員会議事内容の「粗起こし」と説明されている丙14には、そのような記載はまったくない。
  録音を止めて協議し確認に至ったのか。後刻、この部分の録音を消去したのか。あるいは、他になにか事情があるのか。「丙14に非公表とすることを協議して確認した」形跡のないことの理由を明らかにされたい。
  また、誰からどのような提案があって、どのような意見交換を経て、そのような確認に至ったのかを明らかにされたい。
2 被告森下も、適式な経営委員会議事録については、NHKのホームページ上 に公表すべきことを認めている。(準備書面(1) 12ページ)
  今後速やかに、第1315?1317回の本件各経営委員会議事録を適式に作成の上、NHKのホームページ上に公表すべき予定ないしは意向があるか。

その回答を待ちたい。

なお、ここまでの訴訟進行の経過は下記のとおりである。

対NHK文書開示請求訴訟進行経過

               

?2021年6月14日 第1次提訴 (原告104名・被告2名)
 ☆被告NHKに対する文書開示請求
開示対象は2グループの文書
  その主たるものは、下記経営委員会議事録。
  「第1315回経営委員会議事録」(2018年10月 9日開催)
  「第1316回経営委員会議事録」(2018年10月23日開催)上田会長厳重注意
  「第1317回経営委員会議事録」(2018年11月13日開催)
 ☆被告両名に対する各損害賠償請求(慰謝料・弁護士費用、各1万円)
?同年   7月9日 NHK「3会議の議事録草案」原告らに開示
(?同年  9月16日 第2次提訴 (原告10名・被告2名)1次訴訟に併合)

?同年  9月15日 被告NHK答弁書(現時点では対象文書は開示済み)
?同年  9月21日 被告森下 答弁書
?同年  9月23日 原告 被告NHKに対する求釈明
?同年  9月24日 原告 甲1の1?4 NHK開示文書提出
◎同年  9月28日 第1回口頭弁論期日
(西川さん・長井さん・醍醐さんの原告3名と代理人1名の意見陳述)
?同年 12月 3日 被告NHK準備書面(1)「現時点で、所定の議事録作成手続は完了しておらず、放送法41条の定める議事録とはなっていない」
?同年 12月 3日 被告森下 準備書面(1)「本件各文書はいずれも開示済」と言いながら、「粗起しのもので、適式の議事録でない」ことを自認している。
?同日        被告森下丙1?32号証 提出
?2022年1月12日 原告第1書面(被告森下の求釈明に対する回答)提出
?同年   1月17日 被告NHK 乙1(放送法逐条解説・29条部分)提出
◎同年   1月19日(本日)第2回口頭弁論期日

本日の法廷で陳述の原告第1準備書面の概要は以下のとおり。
 ?被告森下の原告に対する不法行為成立要件についての下記求釈明事項3点に対する回答をメインとするもの
 ?(1) 違法行為の特定
   経営委員として及び経営委員会委員長としての議事録作成・公表すべき義務を定めた放送法41条違反(その動機として32条違反)に連なる一連の行為が、行政法規違反というだけでなく民事的な違法ともなっている。
 ?(2) 被侵害権利は、受信契約に基づく各原告の情報開示請求権であるが、これは国民の「知る権利」を具体化した民事的請求権である。
 ?(3) 慰謝料請求額を1万円とした根拠は、請求金額の常識的な最低額としての金額設定である。
 
今後の日程は、
2月末日までに被告森下が求釈明に回答の準備書面を提出、
その内容を踏まえて、原告からの本格書面を提出。
次回第3回口頭弁論期日は、4月27日(水)午後2時開廷。
その頃には第6波収束を願うばかり。

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