近時のスラップ訴訟・紹介
(2022年11月30日)
ある会合でのミニ講演を引き受けて、スラップについて語ることになった。その報告のために、最近話題となったスラップをまとめてみた。その進行がどうなっているのか、リアルタイムでの把握は、なかなか面倒で難しい。
?スラップとは、言論の封殺を目的とする民事訴訟を意味する。訴訟提起による威嚇が目的だから、典型例は高額の請求となる。が、最近必ずしも、高額請求ばかりではなさそうだ。それでも、スラップの効果は十分に期待できるのだ。
こうして並べてみると、維新の面々によるスラップが目立つ。そして、時節柄統一教会絡みが大きな影を落としている。
?本年提起の主要スラップ
☆統一教会スラップ(下記5件の名誉毀損訴訟)
A 被告 紀藤正樹・讀賣テレビ (請求額2200万円)9月29日提訴
B 被告 本村健太郎・讀賣テレビ(請求額2200万円)9月29日提訴
C 被告 八代英輝・TBSテレビ(請求額2200万円)9月29日提訴
D 被告 紀藤正樹・TBSラジオ(請求額1100万円)10月27日提訴
E 被告 有田芳生・日本テレビ (請求額2200万円)10月27日提訴
☆猪瀬直樹 対三浦まり&朝日 (請求額1100万円)9月6日提訴
☆松井一郎対水道橋博士 スラップ(請求額550万円)3月31日提訴
☆橋下徹対大石あき子&日刊ゲンダイ(請求額300万円)3月11日第1回期日
☆山口敬之対大石あき子(請求額880万円)9月20日第1回口頭弁論
?現在進行のスラップ
☆世耕弘成対中野昌宏・青学教授(請求額150万円)提訴19年08月30日
?過去のスラップ
☆幸福の科学スラップ
☆武富士関係スラップ⇒武富士ボロ負け(武富士側弁護士に大きな責任)
☆DHCスラップ訴訟(DHC側弁護士に大きな責任)
(1)提訴日 2014年4月14日 被告 ジャーナリスト
請求金額 6000万円
訴えられた記事の媒体はウェブサイト
(2) 提訴日 2014年4月16日 被告 経済評論家
請求金額 2000万円
訴えられた記事の媒体はインターネット上のツィッター
(3) 提訴日 2014年4月16日 被告 弁護士(澤藤)
請求金額 当初2000万円 後に6000万円に増額
訴えられた記事の媒体はブログ。
(4) 提訴日 2014年4月16日 被告 業界紙新聞社
請求金額 当初2000万円 後に1億円に増額
訴えられた記事の媒体はウェブサイトと業界紙
(5) 提訴日 2014年4月16日 被告 弁護士(折本)→(15年1月15日一審判決)
請求金額 2000万円
訴えられた記事の媒体はブログ
(6) 提訴日 2014年4月25日 被告 出版社
請求金額 2億円
訴えられた記事の媒体は雑誌
(7) 提訴日 2014年5月8日 被告 出版社→(14年8月18日 訴の取下げ)
請求金額 6000万円
訴えられた記事の媒体は雑誌
(8) 提訴日 2014年6月16日 被告 出版社
請求金額 2億円
訴えられた記事の媒体は雑誌
(9) 提訴日 2014年6月16日 被告 ジャーナリスト
請求金額 2000万円
訴えられた記事の媒体は雑誌(寄稿記事)
(10) 提訴日 2014年6月16日 被告 ジャーナリスト
請求金額 4000万円
訴えられた記事の媒体は雑誌(寄稿記事)
?注目される世耕スラップ判決
世耕弘成対中野昌宏(青山学院大学教授・西洋思想史)事件では、被告側が世耕の提訴を違法なスラップだとして、本訴請求と同額の損害賠償請求の反訴を提起している。今月4日、当事者双方の本人尋問を終え、おそらくは来春判決になるものと思われる。この判決は注目すべきである。
世耕が名誉毀損文言と特定した中野のツィートは、「世耕弘成は原理研究会(統一教会)出身だそうですね。日本会議とシームレスにつながる。」というもの。これが「世耕の社会的評価を低下させる事実摘示」「だから「世耕弘成は原理研究会(統一教会)出身』であったか否かだけが唯一の問題」「その事実の挙証責任はもっぱら中野側にある」とするのが世耕側の主張。中野はこれにこう反論している。
「政治家(世耕)に対する市民(中野)の言論は公的なものとして、手厚く保護されなくてはならない。この裁判で市民側が敗訴するようなことでは、市民が政治家への疑惑や政治姿勢・思想について、証拠がないと論評できなくなる」。しかも、世耕は中野の投稿へ否定や反論、削除要請をせずに提訴しており、「世耕の提訴は、政権に批判的な言論を抑圧する意図で起こした『スラップ訴訟』として断罪されねばならない」どう喝や嫌がらせを主眼にした訴訟だと主張。
本人尋問で世耕は、旧統一教会に関連する団体の出身だと事実無根のツイッターに投稿で名誉を傷つけられたとして、「メッセージを送っただけで厳しい指摘を受ける中、元会員だったと言われ、政治家としての名誉を著しく傷つけられた」と述べた。一方、中野は、訴訟が言論を抑圧する目的で起こされた「スラップ訴訟」だとした上で、ツイートの趣旨は世耕議員の思想が旧統一教会の関連団体と近いものであると指摘するためだったと説明したという。
中野はこうも述べたという。「裁判所にお願いしたいのはスラップ訴訟を政治家が一般人に対して起こす訴訟は特別なので、一般の名誉毀損とは同じように扱われると意味が違う。公益的な言論をやっている中で萎縮させてしまう。」
これは事実上、合衆国連邦最高裁が1960年代に判例として確立したと言われる「現実的悪意の法理」の主張ではないか。
これは、公人(世耕)が表現行為の対象である場合に限っては、表現者(中野)がその表現にかかる事実が真実ではなくても、「虚偽であることを知り、又は、虚偽であるか否かを無謀にも無視し」た場合、つまり日本法でなら、「故意または重過失」あったことを原告(世耕)が立証しない限り名誉毀損の成立を認めない、とするもの。公人に対する表現の自由を手厚く保護するものだが、我が国の判例の取らないところとされている。
さて裁判所が、中野の声にどこまで耳を傾けるだろうか。注目に値するのだ。