頑張れ 清水勉さん
昨年暮れの特定秘密保護法案審議の最終盤では、「こんなにも広範囲の秘密・秘密では、国民の目の届かないところで行政が暴走しかねないではないか」という批判が巻き起こった。この批判をかわすために、安倍政権は「チェック機関創設の大盤振る舞い」をした。まずは、「保全監視委員会」「独立公文書管理監」「情報保全観察室」(いずれも仮称)なるものだったが、さっぱり何をするのか分からない。しかも、そのいずれもが行政内部の機関であって、ムジナにタヌキの監視をさせるようなもの。その評判の悪さに、安倍が最後の切り札として「第三者機関をつくる」と言いだしたのが、参院での採決強行の前日、12月5日。こうして、行政の外の第三者機関としての「情報保全諮問会議」が発足した。
出自からしてまことに怪しい組織。国民的に盛りあがった秘密法批判をかわすための「イチジクの葉」であることは歴然。成立した特定秘密保護法に、民主的な化粧のひとはけを施す茶番劇の小劇場という趣である。
諮問会議は、法の適正な運用のため内閣総理大臣に対し意見を述べることが役割で、会議のメンバーは下記の7名。
宇賀克也・東京大学大学院教授
塩入みほも・駒澤大学准教授
清水勉・日本弁護士連合会情報問題対策委員
住田裕子・弁護士
(主査)永野秀雄・法政大学教授
南場智子・株式会社ディー・エヌ・エー取締役
(座長)渡辺恒雄・読売新聞
渡辺恒雄が座長なのだから、この会議がどう動くことになるかは推して知るべし。
ただ、日弁連から清水勉弁護士が加わっているのが目を引く。彼は、特定秘密保護法の成立に最も鋭く反対した一人。それでも敢えて、この茶番に付き合おうという。私は、その意気を買いたいと思う。
特定秘密保護法は、「運用宜しきを得る」ことでなんとかなるしろものではあるまい。細部の修正ではなく、法の廃止を求めるのが筋だ。おそらく彼もそう思っているだろう。それでもなお、内部から批判を貫こうとしている。
会議参加への批判は、二つのレベルで考えられる。まずは、どうせ密室での個人の発言が会議の進行や政策に影響を与えることになろうはずはない。だから、発言しても無駄。また、仮に発言が外部に公開されたとしても、どうせ徹底批判意見は7分の1でしかない。結局は諮問会議全体の意見は翼賛的な見解にまとめられてしまうだろう。その結果、実質的には日弁連代表も加わって、特定秘密保護法の運用が定着した、という安倍政権の形づくりの思惑に手を貸すだけではないか。
その批判を意識して、本日の毎日「そこが聞きたい」欄で、清水さんが記者の質問に答えている。
−−諮問会議は「会議として」首相に意見を述べることになっています。反対派が1人では、多数派に取り込まれるだけではありませんか。
「そうはならないでしょう。秘密保護法18条には『首相は(秘密指定などの)基準を定めるときは、識見を有する者の意見を聴いたうえで案を作成する』とあります。『識見を有する者』という個人の立場で意見を言えるから参加しました。問題意識や専門性の高い人が、情報の適正管理という観点から公的な場で言った意見を踏まえ、法律が運用されていくのが正しい筋道だと思います。」
「この7人で何か具体的な議論をして決めるとは思いません。自分の分かっていること、見えていることに問題意識を持って発言することが一人一人に求められています。」
−−反対派である自身の役割は。
「賛成、反対ではなく、経過をなるべく公表公開する必要があると思っています。議事録には発言者の氏名を入れることになりました。意味のある発言を公的な場で記録することが重要です。後からでも意見が生きればよいと思います。基準案作りに向け、資料をなるべく多く見せてもらい、考え抜いて意見をまとめたいと思っています。」
つまり、7人の見解をまとめた合意形成は予定されていない。しかも、密室の会議ではない。発言内容は、国民に届くはず。という彼の読みなのだ。外は外で、法の廃止を求めた運動をつくっていけばよい。彼は彼で、諮問会議の中で頑張ろうというのだ。もちろん、会議の中で「法の廃止」などと言えるわけはない。法の実施を前提としたものになるのは当然として、どのような法の運用になるかの幅は極めて大きい。大いに期待したい。
ところで、せっかく作成された議事録。是非目を通してみよう。
まずは、官邸のホームページで、第1回会議の議事次第、配布資料と議事要旨が入手できる。URLは、以下のとおり。
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/jyouhouhozen/index.html
ところが、議事録はホームページ掲載とはならない。第1回会議(本年1月17日)の議事録は、メディア各社が情報公開請求をしていたがなかなか開示されず、これが批判の対象となっていた。ようやく、2月12日に公開があって各社が入手したようだ。1時間余の会議の記録で全文14頁。さっそく読みたいと思ったが、どのメディアも全文掲載をしていない。探したら、福島瑞穂議員のホームページで読める。そのURLは、以下のとおり。
http://satta158.web.fc2.com/docs/140212-minutes-of-security-law-council.pdf
安倍晋三が、2度にわたってかなり長い発言をしている。また、渡辺座長の、自分の立ち場をよく心得たという発言もある。そして、清水弁護士はブレない発言を貫いているという印象。私は、彼を応援する。
そしてなにより大切なのは、第2回以後も、情報保全諮問会議議事録の公開を堅持させることだ。この点は、みんなで声を揃えよう。
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接ぎ木ロボット
実の成る野菜を作るには、今は「接ぎ木苗」を使う。種をまいて、立派な実物(みもの)を収穫するのはなかなか難しい。素人の家庭菜園だけでなく栽培農家も「接ぎ木苗」を植える時代らしい。そうでなければ栽培農家でも、八百屋さんに並んでいるような、大きくて色つやがよく、味のよい商品価値のある実物は作れない。その結果、「接ぎ木苗」は主要5品種(キュウリ、スイカ、メロン、ナス、トマト)で年間6億本も生産されている。
いったい「接ぎ木苗」とは何か。味や収量、見栄えを求めて、野菜は続々と品種改良されている。しかし、この優良品種は概して病害に弱い。味がよくて、そのうえ病気に強いものが求められる。その難問を解決するのが「接ぎ木苗」なのだ。
植物は昔から、挿し木や接ぎ木で殖やされてきた。土壌病害に強い根っこをもった「台木」に、弱いけれどおいしい実の成る「穂木」を接ぎ木したらと試行錯誤された。芽生えて間もない苗を使って、適切にカットした両者を接着しておけば、2週間もしないうちにカット面が活着して1本の苗になる。
スイカの台木にはカンピョウ(ユウガオ)を使う。キュウリやメロンにはカボチャを、ナスにはアカナスが台木となる。味のよいトマトには根の強いトマトが台木として使われる。
素人はカボチャ味のキュウリやメロンができはしないかと心配になるが、そんなことはない。しかし、「ナスの木にトマトのような赤い実が成った」「キュウリやスイカを作ったらカボチャが成った」ということは間々あるという。穂木が衰えて、勢いの強い台木のほうが育って実を結んだのだ。
以前各農家は、自分の畑に植える「接ぎ木苗」を自分で作っていた。しかしこのごろは、お好みのものを農協やホームセンターで手に入れる。家庭菜園の主も少々高価だがワクワクしながら、珍しい品種にチャレンジする。たいてい八百屋で入手した方が安上がりな結果になるけれど、愚かにも、園芸店に苗が並ぶと今年こそはと苗に手が伸びてしまう。
日経の記事(2014/02/13)によると、この膨大な6億本にものぼる「接ぎ木苗」を作っているのは、実はロボットなのだ。1本の腕がトレイに並べられた「実生苗?」の上部をカットして捨てる。もう1本の腕は別のトレイに並べられた別の品種の「実生苗?」をカットして、カットした上の部分を根のついた「実生苗?」のところへもっていき、パイプでとめる。人間は「実生苗?」と「実生苗?」を間違えないようにセットするだけでいい。もし人間がそのセットを間違えると、キュウリが成らずにカボチャが成ることになる。
人間なら1時間あたり200本のところを、ロボットは1000本の苗を作る。今までこの種苗会社は、苗生産の時期(2?5月)には200人の臨時パートを時給900円で雇っていた。このロボット購入に1億円かかったが、今まで行っていた人間の採用、教育、労務管理が大幅に省けるので充分ペイすると社長は満足げに語っている。
仕事のなくなったパートさんがロボットを作る仕事に就けるなら、まだいい。しかし、このロボットを作る会社はオランダの企業だという。こうして大量生産された「接ぎ木苗」に成るキュウリは誰が買うことになるのだろう。収入のなくなったパートさんには買えない。コスト削減のための接ぎ木ロボットは、人を幸せにするだろうか。住みやすい社会をつくるだろうか。結局は貧富の差を産み出すだけになってしまわないか。かつてのラッダイト運動とおなじように、ロボットを壊したくなる人がきっと出てくるに違いない。
(2014年2月19日)