澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

テレビ放送での名誉毀損発言の内容は、「一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準」に特定されなければならない。

(2023年6月30日)
 久しぶりのブログ投稿。なんとなく懐かしい心もち。日課としていた毎日の更新から解放されたこの3か月、なんと気が楽で心穏やかな日々となったことだろう。10年間の連日ブログ更新は相当の重荷だった。あらためて、これからやれと言われてもできることではない。とは言え、何もしないでは物足りない。時折に、気ままに、永く書き続けたい。

 本日午後、統一教会スラップ5事件のトップを切って、八代英輝事件での東京地裁判決があった。当然のことながら統一教会の敗訴、請求棄却判決である。もちろん、敗訴判決で統一教会側がめげることはない。もともと勝てると思っての提訴ではないからだ。だから、当然控訴ということになるだろう。

 これを、教団内部では「法難」というのだろうか。「左翼勢力が仕掛けた教団バッシングに裁判所までが乗せられ欺されている」「受難の時代には、正義の訴えも届かない」「不当判決の試練を乗り越えよう」…。どのようにも、ものは言いようなのだ。

 ちょうど、安倍晋三銃撃一週年を目前のタイミング。統一教会問題とは何なのか、このカルトが安倍や萩生田などの右翼政治家となにゆえにどのように結びついていたのか。再確認の好機ではある。

 統一教会スラップとは、下記5件の名誉毀損訴訟である。
 いずれも原告・統一教会から、テレビあるいはラジオ放送での発言で、原告法人の名誉を毀損したとして、当該発言者と放送局を訴えたもの。(提訴日は、いずれも2022年)

  被告 紀藤正樹・讀賣テレビ (請求額2200万円)9月29日提訴
  被告 本村健太郎・讀賣テレビ(請求額2200万円)9月29日提訴
  被告 八代英輝・TBSテレビ(請求額2200万円)9月29日提訴
  被告 紀藤正樹・TBSラジオ(請求額1100万円)10月27日提訴
  被告 有田芳生・日本テレビ (請求額2200万円)10月27日提訴

 もちろん、それぞれの事件で論点は違ってくる。八代英輝事件訴状に記載された名誉毀損文言は長い。当該部分を転載してみよう。

 《被告八代は,令和4(2022)年9月1日,被告会社(TBSテレビ)が制作放送する「ひるおび」(以下,「本件番祖」という。)にコメンテ一ターとしてテレビ出演し,「信 教の自由ということを大上段に振りかかったら,調査もだめですし,自ら点検することも僕はダメだと思います。先ずは点検してそれを公表求めるわけですから。ですから,一緒です。ですからその信教の自由の問題ではないということを先ず自民党の方々に理解して頂くのがこのスタートであって,これは数々の消費者被害を生んだ,カルト団体であって,思想の根底に反日的な思想を持っている,あの組織の問題だと,いうことで,誰もこの党,あのこの統―教会の教義そのものを点検しようなんて話はしてないんですよ。ですから,教義が内容云々で,それをその思想内容を調査しようとしているんではなく,この教団がやっている外形的な犯罪行為等をですねそういうことに着目しているわけです。反セクト法,あの反カルト法もまさにそういう意味,部分で,外形に着目して,信教のその内心の教義ということは問題にしないってこと,だからこそ許されてるわけです,フランスでも。ですから,そこの部分はやはりその,信教の自由に逃げてしまうということになると,ちょっと,あのー,それは違うんじやないかなっていう風に僕には見えてしますね」と発言した。
 上記発言は,一般視聴者をして,原告が犯罪行為等を現に行っていると認識させるものであり,原告の社会的評価を低下させ,その名誉を著しく毀損するものである(以下「本件名誉毀損行為」という。)。なお,上記発言は事実に反する。原告が「犯罪行為等」を現に行い,又は過去にこれを行ったという事実はない。》

 話し言葉を録音して反訳した文章ゆえの読みにくさはあるが、内容はごく常識的な発言である。「統一教会の教義や布教活動のあり方を問題にすれば、信教の自由に対する不当な弾圧となってしまう。それを避けるためには、飽くまで信教の自由に関わる問題とせずに、この教団がやっている外形的な犯罪行為等に着目すべきである。 そうすれば、教団に対する調査も点検も許される」との意味であろう。

 この八代発言を違法な名誉毀損行為とする原告(統一教会)側の主張の建て方は、こうであろう。
(1) 「教団がやっている外形的な犯罪行為等」が存在するとは何ごとか。これこそ、原告法人(統一教会)の名誉を毀損する違法な発言である。
(2) もっとも、「教団がやっている外形的な犯罪行為等が存在する」という発言が真実であることを被告が立証した場合には、発言の違法性が阻却されて責任追及はできない。
(3) だから、この事件の争点は「教団がやっている外形的な犯罪行為等の存否に尽きる」ことになる。そして、「教団が犯罪行為等を現に行い,又は過去にこれを行ったという事実はない」のだから、被告八代の発言は違法であり、損害賠償の責任は免れない。

 「統一教会が過去に犯罪を行ったことはない」は、微妙な問題である。が、統一教会としては、「統一教会自体として、あるいは統一教会の代表者として有罪判決を受けた例はない」という立場である。

 しかし、判決は原告(統一教会)の思うような判断の仕方にはならなかった。原告主張の判断過程(1)の前に、「一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準」として、八代発言の意味を、字義のとおりではなく「実質的な意味」に理解したのだ。これは、いわゆる「ダイオキシン事件」における最高裁判決が定立した以下の解釈基準によるものである。

 《テレビジョン放送された報道番組による事実摘示型の名誉毀損における社会的評価の低下の有無、およびそこで摘示された事実がどのようなものであるかについては、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準として判断すべきである》(2003(平成15).10.16第一小法廷判決)

 まだ、私はこの判決書を読んでいない。しかし、複数の報道を総合すると、本日の地裁判決はこう判断したようである。

 《一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とすれば、八代発言の「教団がやっている外形的な犯罪行為等」は、実質的に「数々の消費者被害を生み出していること」の意味と捉えるべきである。その上で、この発言の真否を考えれば、教団が信者に違法な献金や物品購入の勧誘をしたと認定した判決が複数あることから、発言の実質的な内容は「真実と認められる」。また、「(教団の)構成員の行為に起因して数々の消費者被害が生じたとする点は真実である以上は、これにもとづいた発言の全体が意見や論評として尊重されるべきであり、意見や論評の域を逸脱するとはいえない》

 関連事件にとって、幸先のよい第一号判決となった。他事件も順次これに続いての判決となるが、よもや取りこぼしはないだろう。

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