澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

NHK受信料支払い半年間凍結運動への訴訟リスクについて

4月21日付の日刊ゲンダイが、市民団体「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」による籾井勝人会長ら辞任要求運動を大きく紹介した。その要求貫徹のための実効手段として、「受信料半年間支払い凍結」を視聴者に呼びかける運動に関して、次の記事を掲載している。

「気になるのは“凍結運動”に賛同した場合のリスクだ。最近、NHKは受信料を払わない個人に対して容赦なく支払いを求める訴えを起こしているからだ。」

この記事を書いたゲンダイ記者は、NHK会長辞任要求運動へのシンパシーを隠そうともしていない。その記者にして、提訴されることを「気になるリスク」と表現している。誰だって、訴訟の被告などになりたくはない。裁判所から呼び出しが来るだけで気が滅入る。中には、「得難い経験をするチャンス」「法廷で思う存分言いたいことを言ってやろう」「敗訴したところで、たいした金額ではない」という方もいようが、所詮はごく少数派。

なによりも、「提訴されることを、気になるリスク」とする普通の感覚の持ち主にNHK批判の運動に参加してもらう必要がある。安倍政権のNHK支配を阻止する大きなうねりをつくるためには、避けられるものなら提訴リスクは避けた方がよいに決まっている。

提訴リスクの有無の検証として、ゲンダイは、以下の紀藤正樹さんのコメントをもち出した。ゲンダイから見て、紀藤さんは穏当で適切なコメンテーターなのだろう。

「弁護士の紀藤正樹氏はこう言う。訴えられたら負ける可能性はあります。ただ、果たしてNHKが裁判に訴えられるかどうか。判決が出るまで、普通は5カ月程度はかかる。半年後には支払う可能性が高いのに、わざわざ裁判を起こすのかどうか。しかも、賛同者が数万人になったら裁判費用は巨額になる。1人当たり1万円程度の受信料のために、訴訟費用だけで赤字になってしまう。なにより、裁判沙汰になったら、世論を喚起し、運動が拡大する可能性がある。損得を計算したら訴えるとは考えづらい」
目くばりの行き届いた、なかなかのコメントではないか。

まずは、「訴えられたら負ける可能性はあります」という。「勝ち味はありません」「絶対負けます」とは言わない。しかし、もちろん、「法廷で断固闘えば勝てます」などと無責任なことも言わない。「万が一訴えられたら、正々堂々と法廷で自分の意見を言いましょう」とも言ってくれないが、これはやむを得ないところ。

「果たしてNHKが裁判に訴えられるかどうか。…(NHKが)訴えるとは考えづらい」というのが結論となっている。訴訟における勝敗の帰趨とは別の問題で、NHKが原告となって、「半年間受信料凍結運動参加者」に受信料支払い請求の裁判を起こすことは、実際にはあり得ないだろうという。私も同意見だ。

その理由は3点挙げられている。第1点が、審理に要する期間の問題である。予定された賃料支払い凍結期間(半年)のうちに判決言い渡しが間に合うかといえば、「それは無理」というのが常識的な判断。どうせ無駄になるような裁判に、手間暇とコストをかけるような愚を犯すはずはないだろう、ということ。凍結期間が短く限定されていることから、ある程度の審理期間の必要性が不可避な提訴という手段が実効性をもたないというわけだ。

第2点がNHKにとっての訴訟コストの問題。「賛同者が数万人になったら裁判費用は巨額になる。1人当たり1万円程度の受信料のために、訴訟費用だけで赤字になってしまう」ことが目に見えている。NHKの受信料請求の訴訟提起の動機は、決して訴訟で債権回収を企図しようというのではない。謂わば、一罰百戒の威嚇効果を狙ってのものだ。提訴1件当たりの収支を計算すればコスト割れしていることは必定。だから提訴数を増大することは困難である。さらに、凍結運動参加者が増えれば、到底コストの点でペイするはずもなく、お手上げとなってしまう。

第3点が、「裁判沙汰になったら、世論を喚起し、運動が拡大する可能性がある」との指摘。私もそのとおりだと思う。籾井発言は誰の目にも不当なもの。籾井辞めよという世論を顧みないための受信料支払い凍結ではないか。しかも、時期を半年と区切ってのもの。この運動は、目的も手段も、極めて妥当なものではないか。これに対して、NHKが報復的な提訴で対抗すれば、火に油を注ぐことになるだろう。その点からも、NHKが「受信料支払い凍結者」への提訴は考えにくい。

また、ゲンダイ紙面には、もう一人(「NHK関係者」)のコメントが紹介されている。「もし、受信料の支払い凍結運動が大きくなったら、籾井さんは辞めざるをえないでしょう。なにしろ、NHKの事業収入6997億円のうち、受信料収入は6725億円と96%を占める。単純計算でも契約者の1割が1カ月間“支払い凍結”しただけで56億円の収入が途絶え、NHKの業務はマヒしてしまう。かつてNHKのドンと呼ばれた海老沢会長も“受信料の不払い”が急増したことで辞任に追い込まれています」

常識的に考えて、訴訟を提起されて被告となるリスクは限りなく小さい。そして、NHKに対する影響という意味での効果は絶大。これは、実によく練られた運動だと思う。本日が4月28日。籾井会長がNHKを救うための辞任の期限まであと48時間ほどである。
(2014年4月28日)

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Published in 月曜日, 4月 28th, 2014, at 23:54, and filed under NHK問題.

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