澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

不透明な政治資金の動きには徹底的な解明のメスを

昨日(10月4日)の朝日が、新たな渡辺喜美関係の政治資金規正法違反疑惑を報道した。今年3月にDHC吉田からの「8億円裏金疑惑」が表に出たが、渡辺は自らすべてを報告しようとはしなかった。4月には弁護士2名と公認会計士をメンバーとした「みんなの党調査チーム」の報告書が発表されたが、これも未解明部分を残したものとなった。そして今また「新たな疑惑」である。もちろん、これで終わりではない。あきらかに解明しなければならない疑惑は残っている。この上は特捜の強制捜査に期待したい。捜査の徹底によって、渡辺喜美・みんなの党の内部だけでなく、この人物この政党と関係したすべての者との金銭の出入りを明確にしてもらいたい。

当ブログで何度も繰り返した。「政治資金の流れは透明でなければならない」「可視性が確保されなければならない」「政治資金の公開の制度は、民主々義の基本的要請である」「その監視と批判は主権者国民の責務である」。巨額の政治資金の動きが、献金ではなく貸付金だからという理由で、裏に隠されたままでよいことにはならない。しかも、本当に貸付金であるか、怪しい金の動きについては、主権者の良識が納得を得るだけの徹底した疑惑の解明が必要である。

朝日が報道した「新しい疑惑」は、その金の流れ自体は既に、本年4月24日付けの「みんなの党調査チーム・報告書」で明らかにされていたものである。同報告書は、本文12頁に、6頁の図表、3頁の別表、そして3件のメールの写で構成されている。その図表1から、昨日の朝日に掲載された「2010年参院選の前後の渡辺喜美前代表をめぐる資金の流れ」の図が作成されている。

みんなの党調査報告書の該当部分を、改めて抜き書きしてみる(すべて2010年) 。
(1) 3月26日 Aから渡辺喜美(りそな銀行衆議院支店)に5000万円貸付
(2) 3月29日 渡辺喜美からみんなの党に5000万円貸付
(3) 6 月18日 Aから渡辺(りそな銀行衆議院支店)に4000万円貸付
(4) 6月21日 渡辺喜美からみんなの党に5000万円貸付
(5) 6月21日 みんなの党が供託金(1億3800万円)支払い
(6) 6月30日 DHC吉田から渡辺(りそな銀行衆議院支店)に3億円貸付
(7) 7月13日 渡辺(りそな銀行衆議院支店)から「A」に9000万円返済
要するに、Aから渡辺に9000万円が貸し付けられ、4か月後に渡辺がこれを返還しているが、その返済の原資はDHC吉田から借用した3億円の一部である。

この報告書では、Aを個人と明示してはいない。しかし、Aが政治資金規制法における収支報告を義務づけられた政治団体だとも指摘していない。多くの読み手は、AをDHC吉田と同様の個人と理解してしまうだろう。うかつにも、私もその一人だった。朝日は調査して、このAが政治団体「渡辺美智雄政治経済研究所」(栃木県宇都宮市・代表者渡辺喜美)だと報道したのだ。自分が主宰する政治団体から自分に9000万円を貸し付け、これを政党に貸し付けている。はて、面妖な。

2010(平成22)年の「渡辺美智雄政治経済研究所」の総務省への収支報告書は以下のURLで読むことができる。
http://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/seijishikin/contents/111130/2460000021.pdf
4000万円の支出も、5000万円の支出も記載がない。「貸付先ごとの残高が100万円を超える貸付金」「借入先ごとの残高が100万円を超える借入金」について、「無」と明記されてもいる。繰り越しを含む年間総収入が592万円、支出総額が527万円である。9000万円の支出などできるはずもない。

朝日が、どんな資料を把握しているのかは分からない。慎重に、出稿前に渡辺喜美側に取材し言い分を聞いている。記事は次のとおり。

「渡辺喜美前代表の事務所は3日、朝日新聞の取材に対し、9千万円の貸し付けと返済について『渡辺議員に対する貸し付けは、ご指摘の政治団体(渡辺美智雄政治経済研究所)の資金ではありません。政治団体の収支に関係しないので収支報告書に記載する必要はありません。政治資金規正法に反するのではないかとの指摘は誤りです』と書面で回答した。同研究所名義の銀行口座から出入金されたかどうかの質問には、回答がなかった。」という。

朝日は、「同研究所名義の銀行口座から9000万円の出入金があったか」と質問したが、渡辺側からの「回答はなかった」という。常識的には、「これで勝負あった」ということになる。

もっとも、渡辺喜美側は、4日になって「朝日の指摘は全く当たらない」と反論するコメントを発表した、という。
「コメントは『口座の名義は、政治団体の経理担当者の政治団体名の肩書を付けた個人名義』と説明。『政治団体の資産ではなく、収支報告書に記載すべき収支には当たらない』としている」(時事)という。

これは不自然きわまる苦しい言い訳。「政治団体の経理担当者の政治団体名の肩書を付けた個人名義」って、いったいそりゃ何のことだ。個人名義と言いたいのだろうが、それならなぜ政治団体名を付したのか。本当に、経理担当者個人が9000万円を渡辺喜美個人に貸し、9000万円を返してもらったというのか。いったい何のために、そんな操作をしたのか。そもそも経理担当者(収支報告書には、「会計責任者薄井等」とされている)が、どのようにして9000万円を調達したというのだろうか。
今回の朝日の報道では問題とされていないが、みんなの党の報告書にはAだけではなく、B、C、D、Eまで出てくる。特に、BはAと並んで同時期(2010年6 月18日)に、渡辺喜美に8000万円を貸し付けている。このBとは誰のことだろうか。やはり、政治資金規正法上の収支報告を義務づけられている政治団体である可能性が高い。

渡辺喜美もみんなの党も、そして調査チームも、徹底解明の意欲に欠けている。朝日の報道で、調査チーム報告の疑惑解明不徹底が明瞭になった。私もこの件の告発代理人の一人に名を連ねている。特捜には、是非とも徹底して疑惑を解明してもらいたい。かりに、現行法での捜査の限界があるというのであれば、貸付金の報告義務や量的制限についての立法措置の必要まで視野に置くべきであろう。
(2014年10月5日)

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