「原発即時ゼロ」は心ある都民の声 ー都議選の争点その10
今、原発問題の焦点は、原子力規制委員会が策定した再稼動の「新規制基準」。この問題に、日本共産党の笠井亮議員が切り込んだ。
本日の赤旗が報道する、昨21日(金)の衆院原子力問題調査特別委員会での論戦でハイライトである。笠井亮委員が、原子力規制委員会の田中俊一委員長を問い糾した。これでは、同紙が見だしにしているとおり、「原発再稼働ありき」で、「国民安全は置き去り」新基準ではないか。
笠井 国民から寄せられた意見を受けて原案から最も変更した点は何か。
田中 基準の技術的内容を根本から変更したものはない。電源車やポンプ車の予備の台数を電力会社が設定できるようにした。
笠井 福島原発事故の原因究明はすすんでいるのか。
田中 現場は(放射)線量が高いので少し時間はかかる。
笠井 原子炉等規制法では放射性物質の「異常な水準」での放出による災害を防ぐよう定めている。田中委員長は最悪でも(ベントによる排出線量を)100テラベクレルに抑えるというが「異常な水準」の放出ではないのか。
田中 そういったことをせざるをえないこと自体が異常な状況だ。
笠井 工事の着工・完了はしなくても再稼働の申請を受け付けるのか。原発の運転延長を求めるなら、対策工事が完了してから許可を申請し、審査を受けるのが当たり前だ。
田中 実際の対策には時間がかかるので、(計画だけでよいと)そういう判断をしている。
笠井 原発立地自治体や住民への説明は不十分だ。
田中 (防災計画は)稼働判断と(法的には)直接リンクするものではない。
赤旗の報道は、以上の質疑を次のようにまとめている。
新基準は、炉心溶融を伴う重大事故の際、原子炉の格納容器の破損を防ぐため放射性物質を放出する「ベント(排気)」を行うことが柱の一つとなっています。新基準では、その際に放出するセシウム137を「最悪でも100テラベクレルに抑える」ことを目標にしています。笠井氏が「原子炉等規制法は放射性物質の『異常な水準』での放出による災害防止を定めているが、100テラベクレルの放出は『異常な水準』ではないのか」とただしました。原子力規制委員会の田中俊一委員長は「そういったことをせざるをえないこと自体が異常な状況」と認めざるをえませんでした。
笠井氏は、新基準で設置が求められる格納容器の「フィルター付きベント」は、加圧水型は「5年の猶予」が与えられ、猶予のない沸騰水型でも設置は「検討中」が多いと指摘。原則40年とする原発の運転期間も対策工事の計画だけで最長20年の延長を認めようとしているとして「結局、電力会社の意向をくんだだけだ」と批判しました。
田中委員長は「フィルターベントの設置は炉型によって違う」「対策を取る間に40年を超す原子炉もある」などと規制基準の骨抜きを正当化しました。
笠井氏は「そんな対応で、実際に重大事故が起こったら、どう責任をとるのか」と批判。「田中委員長は『世界でも一番厳しい規制基準』などというが、まったく実態を伴わない『安全神話』の復活だ」として原発再稼働をやめるよう主張しました。
こんなに成功した質問は珍しい。規制委員会の新規制基準が、財界や電力業界の意を受けて再稼働にお墨付きを与えるための杜撰なものであることが、余すところなく暴かれたと言ってよい。委員会の議事録全文をパンフレットにして頒布してはどうか。
ところで明日は都議戦の投票日。争点のひとつに、原発問題がある。原発問題の捉え方は多様だが、最大の電力消費地であり、福島第1原発から送電を受けていた都民の関心時でないわけはない。
再度、朝日(デジタル版)の、候補者アンケートを瞥見してみよう。
問:今後の原発依存度はどうすべきだと思いますか
回答の選択肢は、次の1?4である。
1 すぐゼロにする
2 少しずつ減らしてゼロにする
3 ゼロではないが事故前より減らす
4 事故前の水準にする
当然のことだが、共産党42人の候補者全員の回答が「1 すぐゼロにする」である。これに対極の自民は、59人の候補者中「1 すぐゼロにする」の回答は1人もいない。「2 少しずつ減らしてゼロにする」が9人、「3 ゼロではないが事故前より減らす」が26人、そして正直に「4 事故前の水準にする」が2人である。興味深いことに、選択肢の選択を拒否する無回答者が22名に上っていることである。ホンネは、原発賛成だが、不人気を覚悟でホンネを言いにくい空気があるということだろう。民主党は、圧倒的に「2 少しずつ減らしてゼロにする」だが、「1 すぐゼロにする」も、「3 ゼロではないが事故前より減らす」の回答も各3人ずつ。
注目すべきは、「1 すぐゼロにする」の回答は、共産党の専売特許ではないこと。民主党に3、社民党に1、ネットに5、諸派に4、無所属に2と分布している。3・11以後、原発即時ゼロの方針を打ち出し、もっとも真摯にその運動を進めてきた共産党と政策を同じくする候補者が少なくないことに心強さを覚える。この立場こそ、多くの心ある都民の共感を得ているのではないか。
「即時ゼロ」ではなく、「少し余裕をおいてゼロにする」というのが、いくつかの政党が提案している「脱原発基本法」のスタンス。そのスタンスで、脱原発派を糾合しようという発想には無理がある。脱原発を標榜する「緑茶会」なる市民グループが、脱原発基本法に賛同か否かを選挙での推薦基準にしている。結局は、反原発運動の特定勢力だけを支援するあり方として、運動に分裂を持ち込むものとならざるを得ないことになっている。
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『世界遺産・富士山は、自衛隊と米軍演習場に囲まれている』
美しい富士山が世界文化遺産に登録決定となった。三保松原も含まれたとのことで、まずは目出度い。しかし、次の指摘を受けて、ただ目出度いという気分ではいられない。
「裾野へのゴミ投棄や、無秩序な開発なども大きな問題ですが、なによりも考えなくてはならないのが演習場(基地)の存在です。トイレなどよりも質的にも量的にも重大な問題なのですが、マスコミなどもほとんど触れていません。憲法第9条や安保条約と正面から向き合わなければならなくなるからでしょう」(「今日は何の日、富士山の日」田代博著 新日本出版社)
観光で訪れてもなかなか気がつかないが、富士山の東にも北にも、おどろくほど広大な自衛隊とアメリカ海兵隊の射爆演習場がある。東富士演習場(8809?)と北富士演習場(4597?)だ。
東富士演習場は夏の一日、「富士総合火力演習」と称する陸上自衛隊による、戦車、ヘリコプター、色々な火砲による実弾演習が公開されることで有名である。
北富士演習場は戦後アメリカ軍に接収されていたが、朝鮮戦争の開始とともに、米海兵隊の訓練が激化した。霊峰富士へ向かっての砲撃中止を要求して、地元住民による着弾地座り込みなどの抗議が行われた。米軍演習によって奪われた、入会権の回復を計ってのことである。
「富士北麓に祖先が住み着き、荒蕪地を開拓し、苦難に耐えながら、農耕を生業とする傍ら、林野雑産物の採取などの入会行為などによってかろうじて生計を立ててきたという苦労のほどはとうてい筆舌に尽くせるものではない。そのような歴史を背負いながら、北麓山野に祖先が残してくれた入会収益を後世に伝承するため」と山中湖村旧三村入会組合連合会会長高村不二義氏は証言している。
全国からの支援をうけて激しい闘争が行われたが、結局、米軍演習場ではなく、自衛隊の演習場として使用することを認めての決着とせざるを得なかった。1988年、永年にわたる闘争の末に、「北富士演習場内国有入会地の使用に関する協定」が結ばれた。「地元住民が旧来から有する入会慣習を確認し、これを将来にわたって尊重する」という内容であった。
高村氏は「北富士演習場がある富士北麓一帯は我が国の代表的観光地であり、近年、中央、東名高速道路の開通に伴い開発は急速に進み、富士箱根伊豆国立公園の中枢的な拠点として発展しつつあり、北富士演習場は全面返還して平和的に活用することが理想であり、村民等しく希求するところである」と篤い望みを述べていた。しかし、残念なことにその希望は現在まで実現していない。
この住民の苦渋の歴史を見つめてきた「富士山」が、世界遺産登録を手放しで喜んでいるはずはない。美しい富士に戦争や武器や演習は全く似合わない。
ちなみに、「富士山」と一緒に認定申請した「鎌倉」も実は頭の上を軍事ヘリコプターが不気味に飛び回る場所である。「横須賀」と「厚木」「横田」を結ぶアメリカ軍の軍事航空路の下にあるからだ。由比ヶ浜に米軍ヘリコプターが不時着したことさえある。
ユネスコの世界遺産委員会は審議の基準として「軍事基地」の存在を考慮しないのだろうか。それともその存在に気がつかないのだろうか。世界遺産登録を機に、軍事基地撤去運動が盛りあがることはないのだろうか。美しい自然景観や文化と全く対極にあるのが醜悪な軍事施設だと思うのだが。
(2013年6月22日)