澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

明日(3月11日)「浜の一揆訴訟」第2回法廷

けっして忘れることができない、あの「3・11」被災の日から、明日(2016年3月11日)が5年目の日となる。たまたま、その日が盛岡地裁での浜の一揆訴訟、第2回口頭弁論の日となった。

盛岡の各メティアに宛てた、取材依頼と記者レクチャー用のレジメを掲載する。
これで、訴訟の現段階までの経過と、意義をご理解いただけるものと思う。

私は1月15日の等ブログに、次の趣旨を書いた。

「被告の反論は当然にありうる。その有力なものは、漁協や漁連は漁民の民主的な自治組織であるのだから、行政が漁協中心主義の政策をとることは正しい、というものである。行政が海区調整委員会の議を経て、漁協に漁獲を独占させ、個別の漁民にはサケの漁獲を禁じているのは、すべて民主的に行われているのでなんの問題もない、というわけだ。

私は、それなりに耳を傾けるべきことではないかと思うのだが、この論法、原告漁民たちには鼻先であしらわれて、まったく通じない。

よく考えると、この理屈、個人よりも家が大切。社員よりも会社が大事。住民よりも自治体が。国民よりも国家に価値あり。という論法と軌を一にするものではないか。個人の漁を漁協が取り上げ、漁協存続のためのサケ漁独占となっているのが岩手沿岸漁業の現状なのだ。漁協栄えて漁民亡ぶの本末転倒の図なのである。

形だけの民主主義は、支配の道具になりはてる。民主主義には、常に命を吹き込まなければならない。いま、三陸の漁民100人がそのような意識で起ち上がって行動している。

これが、「浜の一揆」である。民主主義の覚醒なのだ。
(2016年3月10日) **************************************************************************

盛岡・司法記者クラブ 殿
同 ・県政記者クラブ 殿
                   弁護士 澤藤統一郎
      「浜の一揆」第2回法廷・記者レクチャー・メモ
第1 当日の日程
 東日本大震災5周年の3月11日
 盛岡地裁「浜の一揆」訴訟の第2回法廷のご案内をいたします。
 取材方をよろしくお願いします。
1 三陸沿岸の漁民は、予てから沿岸で秋サケの採捕を禁じられていることの不合理を不満とし、これまで岩手県水産行政に請願や陳情を重ねてきたが、なんの進展もみませんでした。とりわけ、3・11の被災後はこの不合理を耐えがたいものと感じることとなり、昨年11月5日、100人の漁民が岩手県(知事)を被告として、盛岡地裁に行政訴訟を提起しました。原告らは、これを「浜の一揆」訴訟と呼んでいます。
 訴訟における請求の内容は、県知事の行った「サケ採捕申請不許可処分」の取消と、知事に対する「各漁民のサケ採捕申請許可」義務付けを求めるものです。
 小型漁船で零細な漁業を営む漁民に「サケを獲らせろ」という要求の実現を目指すもので、このことは、「漁民を保護して、漁業がなり立つ手立てを講じよ」という行政への批判と、「後継者が育つ漁業」をという切実な願いを背景にするものです。
2 本件は県政の水産行政のあり方を問うとともに、地域の民主主義のあり方を問う訴訟でもあります。また、3・11被災後の沿岸漁業と地域経済の復興にも、重大な影響をもつものとも考えています。
 原告ら漁民は、岩手県民の理解を得たいと願う立場から、県内メティアの取材を希望いたします。
3 スケジュール
  午後1時30分 盛岡地裁301号法廷 第2回口頭弁論
          原告の意見陳述と、代理人陳述があります。
  午後2時 原告ら報告集会 盛岡市勤労福祉会館401号・402号室
        (盛岡市紺屋町2-9  019-654-3480)
   午後2時30分ころ 同所で集会途中で記者会見

第2 経過概要
 1 県知事宛許可申請⇒小型漁船による固定式刺し網漁のサケ採捕許可申請
    2014年9月30日 第1次申請
    2014年11月4日 第2次申請
    2015年1月30日 第3次申請
 2 不許可決定(102名に対するもの)
    2015年6月12日 岩手県知事・不許可決定(277号・278号)
     *277号は、固定式刺し網漁の許可を得ている者  53名
     *278号は、固定式刺し網漁の許可を得ていない者 49名
 3 審査請求
    2015年7月29日 農水大臣宛審査請求(102名)
    2015年9月17日 県側からの弁明書提出
    2015年10月30日 審査請求の翌日から3か月を経過
 4 提訴と訴訟の経過
    2015年11月5日 岩手県知事を被告とする行政訴訟の提起
    2016年1月14日 第1回法廷 瀧澤さん意見陳述 訴状・答弁書陳述
    2016年3月11日(本日) 第2回法廷 戸羽さん意見陳述

第3 提訴の内容
 1 当事者 原告 三陸沿岸の小型漁船漁業を営む一般漁民100名
          (すべて許可申請・不許可・審査請求の手続を経ている者)
         被告 岩手県(処分庁 岩手県知事達増拓也) 
   ☆農林水産大臣の裁決を待たず提訴する者   ⇒100名
   ☆審査請求に対する農林水産大臣の裁決を待つ者⇒  2名
 2 請求の内容
   *知事の不許可処分(277号・278号)を取消せ
     *277号処分原告(既に固定式刺し網漁の許可を得ている者) 51名
     *278号処分原告(固定式刺し網漁の許可を得ていない者)  49名
   *知事に対するサケ漁許可の義務づけ(全原告について)
    「年間10トンの漁獲量を上限とするサケの採捕を目的とする固定式刺網漁業許可申請について、申請のとおりの許可をせよ。」

第4 争点の概略
 1 処分取消請求における、知事のした不許可処分の違法の有無
(1) 手続的違法
    行政手続法は、行政処分に理由の付記を要求している。付記すべき理由とは、形式的なもの(適用法条を示すだけ)では足りず、実質的な不許可の根拠を記載しなければならない。
    しかし、本件不許可処分には、「内部の取扱方針でそう決めたから」というだけで、まったく実質的な理由が書かれていない。
  (2) 実質的違法
    法は、申請あれば許可処分を原則としているが、許可障害事由ある場合には不許可処分となる。下記2点がサケ採捕の許可申請に対する障害事由として認められるか。飽くまで、主張・立証の責任は岩手県側にある。
  ?漁業調整の必要←漁業法65条1項
  ?水産資源の保護培養の必要←水産資源保護法4条1項
 2 義務づけの要件の有無 上記1と表裏一体。 

第5 答弁書の内容
 *訴えの適法性についての問題点の指摘はない。
 *許可申請と不許可の経過、不許可の理由は訴状の主張を認める。
 *争点について、不許可理由は処分時のものを繰り返すだけ。
 *なお、漁業法が言う「漁業の民主化」とは、「漁協・漁連・海区調整委員会の意見を尊重すること」だということが強調されている。

第6 本日陳述の原告準備書面(1)の内容
 1 基本的な考え方
  *憲法22条1項は営業の自由を保障している。
    ⇒漁民がサケの漁をすることは原則として自由(憲法上の権利)
    ⇒自由の制限には、合理性・必要性に支えられた理由がなくてはならない。
  *漁業法65条1項は、「漁業調整」の必要あれば、
   水産資源保護法4条1項は、水産資源の保護培養の必要あれば、
    「知事の許可を受けなければならないこととすることができる。」
  *岩手県漁業調整規則23条
「知事は、「漁業調整」又は「水産資源の保護培養」のため必要があると認める場合は、漁業の認可をしない。」
     ⇒県知事が、「漁業調整」「水産資源の保護培養」の必要性について
      具体的な事由を提示し、証明しなければならない。
 2 ところが、被告(県知事)は、不許可事由として、「漁業調整」「水産資源の保護培養」の必要性にまったく触れるところがない。
   不許可の理由は形式的に「庁内で作成した「取扱方針」(2002年制定)にそう書いてあるから」というだけ。
   この理由付記は最高裁判例が求める要件を欠き、不許可処分が違法となる。
 3 しかも、知事が適用している「取扱方針」の条項は、
   「固定式刺し網漁不許可」に関するもので、「サケ漁の許可」に関するものではない。51名の原告は「固定式刺し網漁不許可」は既に得ているので、被告(知事)の不許可処分の理由は、論理的に破綻している。
 4 原告は、被告に9項目の求釈明をして、回答を求めた。
   回答次第で、審理の進行は大きく変わって来ることになる。
     以 上

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