澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

人権侵害アンケート実施の張本人橋下徹の個人責任追及を

下記は、本日(3月26日)「赤旗」1面の記事。
「大阪高裁 大阪市に賠償命じる
橋下徹前大阪市長による市職員への憲法違反の「思想調査アンケート」(市職員への労使関係アンケート調査)で「精神的苦痛をうけた」として、職員とOB計59人が市に1900万円余りの賠償を求めた訴訟の控訴審判決が25日、大阪高裁でありました。田中敦裁判長は、一審大阪地裁に続いて、アンケートの一部を違憲と断定。大阪市に賠償を命じました。賠償額は一審判決の1人6000円を変更し5000円としました。
 田中裁判長は、アンケートの四つの設問について、団結権(憲法28条)やプライバシー権(同13条)を違法に侵害したと断罪。一審で団結権侵害が認められた組合費の使い道の設問については侵害にあたらないと判断しました。橋下前市長には、アンケートが職員の権利を侵害しないよう確認する注意義務があったのに違反したとして損害賠償を認めました。
 判決後の記者会見で、弁護団の西晃事務局長は「アンケートが憲法に抵触する内容を含む違法な公権力の行使であったと明確に判断された勝利判決だ。市は上告することなくこの判決を受け入れてほしい」と話しました。
 原告団長の永谷孝代さん(60)は「みなさんの励ましの中でたたかってきて本当によかった。職員が働きがいが持てない職場の状況、市民が苦しむ市政が続くなか、みなさんとともに大阪市が良くなるように運動していきたい」とのべ、大阪市役所労働組合(市労組・全労連加盟)の田所賢治委員長は「憲法守る市役所づくりのために引き続き奮闘する」と話しました。」

他紙の報道では、「アンケートは組合の「政治活動」を問題視した橋下市長(当時)が、職務命令で回答を義務づけて実施。」「昨年12月に組合5団体と市職員29人が原告となった同様の訴訟で、大阪市におよそ80万円の賠償を命じる市側敗訴の大阪高裁判決が確定している。」「今回の判決も上告なく確定する模様」とのこと。

同業者として恥ずかしい限りだが、この件には弁護士が深く関わっている。この違法アンケートを強制した責任者である当時市長の橋下徹が弁護士。そして橋下からの依頼で「特別顧問」となり違法アンケート実施の実務を担当したのが野村修也、やはり弁護士である。権力に対峙して人権を擁護すべき弁護士が人権侵害の側にまわっているのだ。

事件は2012年2月のこと。大阪市は、職員およそ3万人を対象に労働組合の活動への参加や、特定の政治家を応援する活動経験について記名式のアンケート調査を行った。しかも、「このアンケートは任意の調査ではありません。市長の業務命令として、全職員に、真実を正確に回答していただくことを求めます。」「正確に回答がなされない場合は処分の対象となりえます。」と述べて、従わない場合は処分もあり得ることが明示されていた。公権力による思想表白強制といわざるを得ない。常軌を逸しているというほかはない。

当時、この橋下流の乱暴に世論の批判は高く、「このような被告職員の人権を著しく侵害する本件思想調査に対して、労働組合や法律家団体、広範な市民から激しい抗議がなされた。その結果、本件思想調査回答期限後の2月17日、野村修也は、データ開封作業や集計などを「凍結」することを表明せざるを得なくなった。また、同月22日には、大阪府労働委員会が、大阪市労働組合連合会らの実効確保の措置申立てに対して、市の責任において、本件思想調査を中止するよう異例の勧告を出した」(訴状)

そのため、結局は集めたアンケートの回答は未開封のまま廃棄されたが、これで納得しない職員の2グループが、訴訟を提起した。2件の訴訟ともに、職員らが原告となってアンケートの回答強制が人権侵害の憲法違反だとするもの。特定の公務員の故意または過失にもとづく違法な公権力の行使があって、その結果損害が生じたとする国家賠償請求訴訟である。両事件とも、1・2審を通じて、大阪市の敗訴となった。

2件の訴訟はこれで確定する。大阪市は原告らに損害を賠償することになる。ということは、市長の違法行為によって、市が損害を被るということだ。実はその損害の範囲は、必ずしも判決で命じられた賠償額にとどまらない。違法なアンケート調査にかかった費用、たとえば特別顧問野村修也への報酬など、が因果関係ある損害たりうる。余計な紛争の処理に要した費用も同様である。市が不当労働行為救済申し立てや、損害賠償請求訴訟に対応するために出費したものについても、市長の違法行為による損害となり得る。

判決を読む機会に恵まれていないが、判決では、大阪市の公権力行使が違法というだけでなく、市長の故意または過失が明確になったはず。ならば、市長の責任が問われなければならない。具体的な手段は、監査請求前置の住民訴訟である。

国立市に好個の参考事例がある。マンション事業者の明和地所が、国立市の違法な公権力行使によって損害を被ったとして国家賠償訴訟を提起し、2500万円の請求を認容する判決が確定した。市は明和地所に対して遅延損害金を含む賠償金を支払ったが、市民のなかから「市長の違法行為によって、市に損害が生じたのだから、市は当然に元市長に損害分を求償すべきだ。市長は市の損害分を個人で負担すべきだ」というグループが現れて、監査請求を経て原告となり東京地裁に「国立市は、明和地所に支払った損害賠償金と同額を元市長個人(上原公子)に対して請求せよ」との判決を求める住民訴訟を提起した。住民が原告となり、被告は元市長という訴訟である。

東京地裁はこの請求を認容する判決を言い渡し確定した。国立市は、判決にしたがって、元市長に請求したが、拒絶されて元市長に対する損害賠償請求訴訟を提起した。今度は、原告が市、被告は元市長という訴訟である。

その一審判決直前に国立市議会は元市長に対する賠償請求権を放棄することを議決している。一審判決はこれを踏まえて、「国立市議会が上原公子元市長に対する賠償請求権の放棄を議決しているにもかかわらず、現市長がそれに異議を申し立てることもせず、そのまま請求を続けたことが『信義則に反する』」として、国立市の請求を棄却するものとなった。市の債権がなくなったとしたのではなく、議会の債権放棄の議決によっても債権が存続することを前提として、請求を信義則違反としたのだ。なかなか分かりにくいところ。

ところが、控訴審継続中に議会の構成が逆転して、求償権の行使を求める議決が可決される事態となった。これを受けて、控訴審判決は一審とは逆に請求を全部認容するものとなっている。

国立市の事例と同様に、違法なアンケート調査によって大阪市に損害を与えた橋下徹の責任追及は、元市長橋下徹に対しても可能ではないか。大阪市の住民であれば、誰でも原告となれるのが住民訴訟だ。大阪在住のどなたかに、具体化していただきたいものと思う。

なお、大阪市議会の定数は86。与党である「大阪維新の会」の議員数は37である。幸いに半数に達していない。しかし、あと7人を語らえば、債権放棄決議が可能となる。議会の決議で、違法な市長の責任を免じることの不当は明らかというべきではないか。
(2016年3月26日)

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