澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

盛岡地裁「浜の一揆訴訟」 傍聴満席の法廷で

原告ら代理人の澤藤大河です。原告準備書面(5)の内容を要約して陳述いたします。
本準備書面は、次回から立証段階にはいる予定で、主張段階最後の準備書面として、原被告双方の主張を整理し、原告主張を補充する目的とするものです。
その目的に従って、準備書面の構成は下記の4部になっています。
第1 原被告の各主張の整理
第2 被告の本案前の主張について
第3 「水産資源の保護培養の必要」について
第4 「漁業調整の必要」について

まず、第1に、原被告各主張の整理です。
この訴訟は、原告らのサケ刺し網漁許可申請に対して、被告・岩手県知事が不許可処分を行ったため、この処分の取消を求めるとともに、許可の義務付けを求める訴訟です。

取消訴訟における訴訟物、すなわち訴訟の対象となる法律関係は、処分の違法性です。 原告としては、処分を特定し、違法であることを主張すればそれで足りるものです。 本来、処分の違法性について、原告が証明する必要はありません。処分が適法で理由があることについて被告に証明すべき責任があるのです。

ところが、被告は、自らの行った処分適法の根拠について一切主張も証明もしようとしません。これまでの主張書面においても、具体的な事実関係は主張しない旨繰り返し述べていますし、それについての証明もするつもりもないということなのです。そのため、通説的な証明責任の分配の議論からすれば、当然に請求認容判決がなされなければならない状況にあります。
被告が、現在述べている意味のある主張は、義務付けの請求に関連して、原告らの許可申請が適法な申請ではないので、訴訟要件に欠けているということだけです。 訴訟提起から1年も経ってから、今更、訴訟前の申請手続が不適法だったなどとは、不誠実な主張と言うほかありません。この点については後に、第2で述べることにします。

他方で、私たちは、証明責任がないからといって、実質的な議論を避けるつもりはありません。

三陸沖を泳ぐサケは、無主物であり、そもそも誰が採るのも自由。これが原則であり、議論の出発点です。

魚類採取の自由は、経済活動としては憲法22条1項の営業の自由として、あるいは個別の行為自体は憲法13条によって保障されています。この憲法上の自由を制限するためには、公共の福祉による高度の合理性・必要性がなくてはなりません。

漁業法・水産資源保護法及び岩手県漁業調整規則は、特に「資源保護培養の必要性」と「漁業調整の必要性」がある場合に限り、サケ漁の許可申請を不許可にすることができると定めているのです。私たちは、資源保護培養の必要性や、漁業調整の必要性という実体法上の要件について、十分な議論を行うつもりですし、証明も行う予定です。
サケ漁の許可申請を拒否する根拠としての資源保護培養の必要性とは何か。それが本件では存在しないことについては第3で、また、漁業調整の必要性については同じく第4で詳しく述べます。

次に、本準備書面第2において、被告の本案前の主張について反論しています。
被告は、原告らの申請から2年、提訴から1年も経ってから、突然、原告らの申請は適法なものではないので義務付け訴訟の要件を満たさないと主張し始めました。被告の対応を信用して、今まで手続を重ねてきた原告らにとって、驚くべき主張と言うほかありません。
そもそも、原告らの申請は、被告側窓口である岩手県水産振興課と数ヶ月にわたる交渉、被告からの指示による要式の遵守と補正を繰り返して行ったものです。いまさら不適法だったなどとは、行政手続への信頼を裏切るものとして、許される主張ではありません。
原告らは、経済的にも困窮して、速やかなサケ刺し網漁を求めて提訴したのです。この期に及んで、1年もの時間を浪費させるような主張は受け入れられません。

裁判所にとっても、これまでの審理を無駄にする、大変な訴訟不経済をもたらすものではありませんか。もともと、これらの申請が不適法ならば、被告は不許可処分ではなく、申請に対して却下処分とすべきだったのです。却下処分をせず、間違えて不許可処分をしてしまったと突然言い張り、その不利益を原告に押しつけることは、到底許されません。

第3は、水産資源の保護培養の必要性についてです。
被告は、資源保護培養の必要性の実質的内容についての主張は一切していません。
それでも、被告は、資源保護の観点から、原告らに許可は出すべきではないと言いたいようです。
しかし、以下に述べるとおり、サケ資源の保護培養は十分に達成されており、原告の申請を不許可にする理由にはならないのです。
サケは、現在自然産卵によって増殖しているわけではなく、極めて大規模な人工増殖事業により繁殖しています。
サケ資源の再生産のためにはこの人工増殖事業に必要な卵の採取ができれば良いのであり、その分の卵が確保できれば、他の魚種のように、採りすぎを危惧する必要はありません。
許可申請の時点である2015年のデータを基に計算してみれば、岩手県内のサケ河川捕獲は45万尾でした。仮に、原告らに本件各請求にかかる許可を与えたとしても、原告らの刺し網漁により減少する河川捕獲サケは最大で90トン、2万7000尾程度に過ぎません。
すると、原告らの刺し網漁の分を差し引いても、なお、42万尾余りの河川捕獲が確保されることになります。
42万尾のサケの半数がメスとして、21万尾のメスから、一匹あたり約3500粒の卵が採取でき、7億3500万粒の卵が確保できます。この年の人工増殖事業で必要とされた卵の数は4億7000万粒程度ですから、本件許可をしたとしてもなお、必要量の倍量近くを確保できることになります。

資源保護培養の必要性という理由で、本件申請を不許可にすることはできないのです。

第4は、漁業調整の必要性です。
やはり、被告は、漁業調整の必要性の内容についての主張は一切していません。
それでも、漁業調整の観点からしても、原告らに許可は出すべきではないと言いたいようです。しかし、漁業調整の必要性の観点からは、むしろ原告らの申請を許可すべきことは導けても、不許可の理由を導くことは全くできないことなのです。

「漁業調整」とは、漁業関係法規によく出てくるテクニカルタームですが、その具体的内容が法律に定められているわけではありません。結局のところ、各漁業主体に漁業資源をどのように配分するのか、どのような手続で配分を決するべきかを指している言葉だと理解するしかありません。

では、どのような原則に基づいて分配すべきなのでしょうか。
漁業法で定められている、「民主化」という理念に基づき、何よりも平等公平に分配されることが必要なのです。現在、被告は、定置網事業者に、サケ資源の採取を独占させています。しかし、定置網事業者以外にも平等・公平にサケの採取を許可しなければならないのです。

主要事実として主張はしていないのですが、被告は、定置網事業者に、サケ資源を独占させている理由を、
?定置網運営漁協から各組合員に十分な利益配当があること、
?定置網業者の孵化事業への貢献、及び
?孵化事業への税金の投入がある、
などと言うようです。
しかし、
?定置網運営漁協から組合員に到底十分な利益配当があると言える状態ではありません。十分な配当があれば、原告らが不満をもって提訴に及ぶはずがありません。
定置網では十分な配当ができないということなら、定置網は投資に対する効率が悪いのです。むしろ刺し網漁を主体に、サケ漁全体の構造を変革すべきなのです。
?定置網業者の孵化事業への貢献
現在、サケの水揚げ量に応じて、7%の賦課金が課されています。定置網業者の孵化事業への貢献とはそれだけのことです。サケを採取した者がこれを負担することは当然のことです。原告らが、許可された場合には、当然これらの賦課金を負担することになります。
?孵化事業への税金の投入
税金を投じていることは、県民だれにもサケ漁への参入を認めるべき強い理由となります。税金を投じていればこそ、サケ漁にはより公平により平等に広く漁民の参入を認めるべきです。原告らも県民であり、税金納入者なのです。税金を投じたサケ孵化事業からの利益を、定置網事業者のみに独占させることの不当性は明らかで、原告らの申請を不許可とする理由とはなりえません。

最後に、特に強調したいことを申しあげます。本件では、漁民の利益と漁協の利益の衝突が問題になっています。被告は、「漁協が経営する定置網漁のサケ漁獲に影響があり得るから、漁民のサケ漁は認めない」という姿勢です。しかし、これは明らかにおかしい。

水産業協同組合法4条は、漁協存在の目的を「組合員のために直接の奉仕をすることを目的とする」と明記しているではありませんか。漁民あっての漁協であって、漁協あっての漁民ではないのです。主人公であるはずの漁民よりも、「組合員のために直接の奉仕をすることを目的とする」と法に定められた漁協を優先して、漁協の漁獲への影響を心配して、漁民のサケ採捕の申請を不許可にするとは、本末転倒甚だしいというほかありません。

しかも、原告は漁協の定置漁経営をやめろなどと言っているのではない。原告らに無制限にサケをとらせろと言っているのでもない。原告一人当たり、年間10トンに制限した、ささやかなサケの漁獲の許可を求めているに過ぎないのです。この点をご理解いただきたいと存じます。

以上の事実を証明するため、3人の証人と、4人の原告の人証の申請をいたします。
(2017年1月27日)

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    「DHCスラップ」勝利報告集会は明日(土曜日)午後
         弁護士 澤藤統一郎
私自身が訴えられ、6000万円を請求された「DHCスラップ訴訟」。その勝訴確定報告集会が明後日の土曜日に迫りました。その勝訴の意義を確認するとともに、攻守ところを変えた反撃訴訟の出発点ともいたします。ぜひ、集会にご参加ください。

日程と場所は以下のとおりです。
☆時 2017年1月28日(土)午後(1時30分?4時)
☆所 日比谷公園内の「千代田区立日比谷図書文化館」4階
   「スタジオプラス小ホール」
☆進行
弁護団長挨拶
田島泰彦先生記念講演(「国際動向のなかの名誉毀損法改革とスラップ訴訟」)
常任弁護団員からの解説
テーマは、
「名誉毀損訴訟の構造」
「サプリメントの消費者問題」
「反撃訴訟の内容」
☆会場発言(スラップ被害経験者+支援者)
☆澤藤挨拶
・資料集を配布いたします。反撃訴訟の訴状案も用意いたします。
・資料代500円をお願いいたします。
言論の自由の大切さと思われる皆さまに、集会へのご参加と、ご発言をお願いいたします。

        「DHCスラップ訴訟」とは
私は、ブログ「澤藤統一郎の憲法日記」を毎日連載しています。既に、連続1400日になろうとしています。
そのブログに、DHC・吉田嘉明を批判する記事を3本載せました。「カネで政治を操ろうとした」ことに対する政治的批判の記事です。
DHC・吉田はこれを「名誉毀損」として、私を被告とする2000万円の損害賠償請求訴訟を提起しました。2014年4月のことです。
私は、この提訴をスラップ訴訟として違法だとブログに掲載しました。「DHCスラップ訴訟を許さない」とするテーマでの掲載は既に、98回になっています。そうしたら、DHCと吉田嘉明は私のスラップ批判のブログ記事を違法として、私に対する損害賠償請求額を6000万円に跳ね上げました。
この訴訟は、いったい何だったのでしょうか。その提訴と応訴が応訴が持つ意味は、次のように整理できると思います。
1 言論の自由に対する攻撃とその反撃であった。
2 とりわけ政治的言論(攻撃されたものは「政治とカネ」に関わる政治的言論)の自由をめぐる攻防であった。
3 またすぐれて消費者問題であった。(攻撃されたものは「消費者利益を目的とする行政規制」)
4 さらに、民事訴訟の訴権濫用の問題であった。

私は、言論萎縮を狙ったスラップ訴訟の悪辣さ、その害悪を身をもって体験しました。「これは自分一人の問題ではない」「自分が萎縮すれば、多くの人の言論の自由が損なわれることになる」「不当な攻撃とは闘わなければならない」「闘いを放棄すれば、DHC・吉田の思う壺ではないか」「私は弁護士だ。自分の権利も擁護できないで、依頼者の人権を守ることはできない」。そう思い、自分を励ましながらの応訴でした。
DHCスラップ訴訟に勝訴はしましたが、降りかかる火の粉を避けたに過ぎません。スラップ訴訟による言論萎縮の効果を払拭するまでには至っていないのです。
スラップ常習者であるDHC・吉田には、反撃訴訟が必要だと思います。
引き続いてのご支援をお願いいたします。

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