ある日の国会・法務委員会でー文京区・共謀罪学習会(寸劇シナリオ)
委員長…静粛に願います。
定刻になりましたので開会し、「テロ等準備罪法案」の審議を始めます。
質問者、福手ゆう子君。
Q 日本共産党の福手ゆう子でございます。
本日は、今、国民の関心が最も高い「共謀罪法案」。その基本構造について、法務大臣の見解をお尋ねします。
大臣。なぜ、今、共謀罪の新設が必要なのでしょうか。
この共謀罪法案が成立すれば、広範な犯罪について、実行行為がなくとも共謀あるいは準備行為の段階で刑罰を科すことが可能になります。当然に、捜査も可能となります。つまりは犯罪の着手がなくとも、常に一般の市民に逮捕や捜索の危険が生じることになります。私たちの生活が、常に捜査機関の監視のもとにおかれることにもなりかねません。
とりわけ、政府が好ましくないとする団体の行動については、恣意的に監視し取り締まることができるようになってしまいます。つまり、治安立法として、また弾圧法規として利用される危険な法案ではありませんか。だから、国民の強い反対を受けて、過去に3度も提案されながら、その都度廃案に追い込まれてきたではありませんか。
にもかかわらず、今回、4度目の法案提出となったその理由を明確に述べていただきたい。
委員長…澤藤大河法務大臣。
A 答弁のまえに、一言申しあげます。
今、委員のご質問に「共謀罪法案」という法案名が出てきました。しかし、「共謀罪法案」ではございません。正確には「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」でありまして、これを提案者である内閣は「テロ等準備罪法案」と略称しているわけでございます。
法律の名称は、正確におっしゃっていただきたい。あなた方は、すぐにレッテルを貼りたがるが、これまで3度廃案となった「共謀罪」と今回提案の「テロ等準備罪法案」とはまったく違うものであることを最初に申しあげておきます。
委員長…福手ゆう子君、どうぞ。あとはお二人で、時間まで適宜質疑と答弁を。
Q 今の答弁聞き捨てなりません。これまで3度廃案となった「共謀罪」と、今回提案の内閣が「テロ等準備罪法案」という法案が、どう違うのか。そこから、ご説明をいただきましょう。
A まず、分かり易いところでは、テロ等準備罪の対象となる犯罪の数が違います。
共謀罪法案では、実行行為への着手がなくても共謀の段階で処罰される犯罪の数は、676もあったのです。今回は、これをわずか91の法律の、たった277罪に絞り込んだのです。どうです。676を277ですよ。全然違うでしょう。
Q 大した違いではありません。これこそ現代版「五十歩百歩」というべきでしょう。刑法や憲法の大原則を崩していることが問題なのではありませんか。
A それだけではありません。何が犯罪で、何が犯罪ではないかが、大変明瞭になったのです。今ある組織的犯罪処罰法に、6条の2という、分かり易い条文を新設することにしました。どんなに分かり易くなったか、新しい条文を読み上げてみましょう。
「次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの 五年以下の懲役又は禁錮
二 別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 二年以下の懲役又は禁錮」
どうです。分かり易いでしょう。あとは、別表四と、別表三に書いてある277の罪のリストを探し、条文をよく読めばよいのです。しかも、捜査機関が濫用しないよう、厳格にいくつもの縛りがかけられていることがよくお分かりでしょう。
Q ちっとも、分かり易くないじゃないですか。
分かり易いというのは、「人を殺す」「人を傷つける」「財物を窃取(せっしゅ)する」という条文のことをいうのです。ことさらに分かりにくく作られているこんな条文がどう使われるのか、不安でなりません。
本筋に戻って、いったいなぜ、いま4度目の法案提出となったのかその理由をお聞かせいただきたい。
A これは、国際組織犯罪防止条約の批准のために必要な法案であると考えております。
この法案が成立すれば、条約の批准ができます。そうすることで、効果的に国際的な組織犯罪を防止し、テロをも防止することができます。
この条約は平成15年9月に発効しています。この条約については、同年5月にその締結について国会の承認を得ておりますが、我が国としても、早期に批准することが必要です。我が国も、国際社会の一員として、この条約を早期に批准し、国際社会と協力して、一層効果的に国際的な組織犯罪を防止するため、この条約が義務付けるところに従い、「テロ等準備罪」を新設する必要があることをご理解ください。
Q 国際組織犯罪防止条約、これはテロ対策とは無関係でしょう。だいたい何年に締結された条約ですか。
A 平成12年です。
Q 西暦2000年ですね。2001年の9・11事件の前年じゃないですか。テロが国際的な関心事になる前の条約ですよ。この条約はパレルモという都市で締結されて、パレルモ条約とも呼ばれているわけですが、パレルモとは、イタリア、シチリア島の最大都市でマフィアの本拠地といわれているところ。マフィアやヤクザ、そういう組織犯罪を対象にした条約ではありませんか。経済的なマネーロンダリングを防止することを主たる目的とした条約であって、政治的なテロを対象にした条約ではないことをお認めいただきたい。
A 委員は、よく勉強なさっているようですが、組織的な犯罪に対する対応は、経済的なマネーロンダリング防止だけではなく、この際、今や待ったなしのテロ対策を盛りこんだ方がよいに決まっていると考えています。
Q 新たな刑罰法規を作ろうというのですから、立法事実つまり差し迫った必要性がなくてはならないわけです。我が国に、テロの危険が差し迫っているというのでしようか。日本がテロの脅威にさらされているという具体的な根拠をお示しください。
A 世界中で、不安定な地域がたくさんあります。これだけ安全保障体制が揺らいでおるわけでありまして、先進諸国、たとえばアメリカでの9・11事件、イギリス・ロンドンでの連続爆破テロ、フランス・パリでの出版社襲撃事件などが起こっているわけです。
日本だけが、これらの事件に目を背けていていいのでしょうか。自由と民主主義・人権という共通の価値を守るために、憎むべきテロリストとの戦いに、日本だけが安穏としていることはできないのです。
Q 世界の情勢を聞いているのではありません。立法事実として、つまり、新たな法律を作らなければならない根拠として、日本にテロの具体的な危険があるかとお聞きしています。
A それはいろいろな考え方がありえます。日本人が、イラクやシリアで誘拐され、殺害される事件も起こっている。
Q 日本でテロの危険が差し迫っているのか。
A 我々は、テロの脅威から、国民を守るべき責務を負っております。常に備えなければならないのです。オリンピックも迫っております。安全なオリンピックを開催するためにも、どうしてもテロ等準備罪は必要なのです。
Q 日本にテロが迫っていると、あなたですら言えないような状態で、どうして包括的な共謀罪が必要と言えるでしょうか。
個別的なテロ対策としては、国連のテロ防止関連条約は13件あり、日本はすべてその批准を終え、それに対応した国内法の整備もできているではありませんか。たとえば、「テロリズム資金供与防止条約」「プラスチック爆薬探知条約」「核物質の防護に関する条約」「空港不法行為防止議定書」「海洋航行不法行為防止条約」「爆弾テロ防止条約」などなど。テロ対策の法整備はきちんとされており、共謀罪法案が成立しなければテロ対策がされていない訳ではありません。
どうして、屋上屋を重ねるような、「共謀罪」の新設が必要でしょうか。
A 政府といたしましては、国民をテロから守る責務を負うものです。屋の上に何重に屋を重ねても、念には念を入れて、国民の安全を守る法律を作ろうとしているわけでございます。
Q 問題は、不必要な法律というだけのものではなく、国民の人権を侵害する有害な法律であるということなのです。この共謀罪法案、もし成立してしまったら、犯罪を実行することなどなく、ただ話し合っただけで処罰されてしまうのではありませんか。
A そういう印象操作はやめていただきたい。絶対にそんなことは、ないのであります。先ほど読み上げた条文に書いてあったとおり、まずは、組織的犯罪集団の団体の活動でなければ、処罰されることはありません。しかも、共謀が成立しただけ、つまり計画しただけでは犯罪が成立しないことは、法文上明らかであります。「準備行為」が必要なのです。一般の方が話しているだけで犯罪者になるなど、絶対にあり得ません。
Q では「組織的犯罪集団」から、お伺いしましょう。労働組合や、市民団体が組織的犯罪集団に当たることはないのでしょうか。
A 組織的犯罪集団だけしか、対象とならないことは、明文で規定しております。
適法な活動をしている労働組合や、その他の団体は、その目的が犯罪はないのですから、当然対象とはなりません。繰り返しますが、この法律はテロリズム集団その他の組織的犯罪集団を取り締まるのが目的で、一般の方には無関係なのです。
Q 更にお尋ねします。既に存在する適法な団体の目的が、ある時点から犯罪目的に変化したと認定することはあり得ないのですか。
A 一般論としてお答えすると、この法律は組織的犯罪集団の組織的行為だけを処罰対象とし、一般人は対象とならないことは申しあげたとおりです。しかし、もしこれまでは合法的な活動をしていた団体が、ある時点から犯罪を企む集団となったとすれば、すでにその集団の構成員は一般人ではないのです。適法な団体の目的が、ある時点から犯罪目的に変化することがないとは言えません。
Q 今、大変な答弁が出た。つまり、「この法律が罰するのは、一般国民ではない」という意味は、「この法律が罰するときには、既に一般人ではないからだ」と、こういうことではないか。これでは、何の縛りにもならないではありませんか。
A 委員の解釈は、あまりに一方的で偏っているのではないでしょうか。重大犯罪を目的とする団体に、それと知って属しているということは、一般国民の目から見て、一般人とは呼べないことは通常の感覚ではないですか。
Q 企業でも、市民団体・労働組合、サークルでも、適法な通常の団体が、ある時点から犯罪目的だと認定されることはありうるのだから、国民誰でも、共謀罪の犯罪者になり得るということじゃないですか。
A 重大な犯罪を計画している団体に属して、具体的な重大犯罪を計画していたらできるだけ早期に、処罰せられるべきは当然ではありませんか。
Q ついに、国民の誰もが共謀罪適用の対象になりうることがよく分かりました。しかも、犯罪目的があるかどうか、計画があるかどうか、捜査段階では、判断するのは、裁判所ではなく、捜査機関。つまりは警察になるわけです。その結果、警察が、国民生活に監視の目を光らせ、あらゆる団体が犯罪目的をもっていないかを調べる。これは、まさに現在の治安維持法ではないか。
A 全くそうではございません。
治安維持法は、私有財産制を否定し、国体を変革しようとするという、思想そのもの、つまり、犯罪とは切り離して、特定思想を有する団体を結成すること、加入することを処罰する法律でございます。
今回の、テロ等準備罪は、思想のみを処罰するのものではありません。準備行為という外に表れた具体的行為の存在を要求しています。
また、団体も重大犯罪を目的とするという、犯罪集団に限って対象とするものですから、ご指摘はあたりません。
捜査についても、捜査機関は、刑事訴訟法、その他関連法令を遵守し、裁判所の令状審査を経て、適法な捜査を行うことになりますので、委員のご指摘はあたらないものと思います。
Q 結局は捜査機関が、最初の判断をする。政府に批判的な活動をしていると、犯罪を行っているとして、捜査の対象とされかねない。しかも、計画と準備で犯罪が成立するのだから、団体監視を常に行うことが主たる捜査方法になることは明白ではないか。団体に対する警察の監視、団体内部でも密告を恐れて活動が萎縮する。これこそ治安維持法そのものではないですか。
A 委員は、少し感情的になっておられる。お答えしたとおり、一般人が処罰されることはないのです。
治安維持法だって、一般人は処罰されることはなかったわけですよ。天皇制を否定したり、革命をたくらむような、当時の言葉でいえば、国賊・非国民を取り締まったわけで、けっして善良な一般人が取り締まりの対象となったわけではないのです。
Q 「共謀罪が現代の治安維持法」といわれているいみが、とてもよく分かりました。
処罰範囲拡大の危険性について、以下の具体例を想定してお聞きします。次の設例で、共謀罪は成立するのでしょうか。
米軍基地の建設に反対している沖縄の市民団体。ついに本格的工事着手が3日後に迫ってきた。市民団体幹部メンバーのXYZは、今度は工事現場のゲート前に座り込んででも、美しい自然を守ろうと話し合った。
翌日、Xはゴザを購入した。2日後、台風のせいで海が荒れ、結局工事は延期となり、座り込みは中止された。
どうですか。これで、一網打尽にXYZを、組織的威力妨害罪の共謀罪で逮捕し有罪にできますか。
A 細かい点がわからないため、具体的な事案ではお答えしかねる。
Q どこがわからないというのですか。
A 市民団体が団体の活動として多人数でゲート前に座り込んで現実に工事を妨害すれば、組織的威力業務妨害罪が成立することになります。問題は、この場合座り込みはないのですから、「テロ等準備罪」の要件としての共謀が成立したといえるのかは議論の様子を調べなければならない。準備行為があったと言えるためには、ゴザの購入目的なども検討しなくてはならない。犯罪の成否は軽々に答えられない。
Q つまり、犯罪が成立しうるから検討が必要だということですね。
A それはそのとおり。犯罪が成立するか否かは、常に微妙な事実の問題を含んでいるのであります。
最終的には裁判官が判断するわけでありまして、今、この事例についてどうかということは、大変難しく、諸般の事情をよく調べなければならない。
Q この例はどうでしようか。
「認可保育所の設置を求める文京ママの会」の会合で、区の保育所認可設置の問題も老人対策もいっこうに進展せず、もう我慢できない。みんなで区庁舎に押しかけて区長をカンヅメにして徹夜になっても徹底して談判しよう、同時に世論に訴えようという相談をした。決行の日を決めてその前日に、区長室を下見に行くまではしたが、決行予定の日が子どもたちの行事と重なることが分かってやっぱりやめた。
これも、組織的監禁罪の共謀罪ということになりませんか。
A 乱暴なママさんたちですね。日常的な監視対象とすることが必要だとは思いますが、「テロ等準備罪」として処罰可能かどうか、なんともお答えのしようがない。
Q つまり、犯罪は成立しうるから検討が必要だということですね。
A それはそのとおり。現実的に犯罪が成立するか否かは、常に微妙な事実の問題を含んで諸般の事情をよく調べなければなりません。
Q 諸般の事情をよく調べるとは、つまり、とりあえず逮捕や家宅捜査をしなければならないと言うことではありませんか。
A それは、そのとおりであることもあれば、そうではないこともある。一概には申しあげられないところです。
Q 結局、どちらの事案も共謀罪が成立しうること、少なくとも、絶対に共謀罪が成立しないわけではないという答弁であることを確認しました。
共謀罪は、国民の自由な団体活動のみならず、表現の大幅な萎縮を生み出し、思想・信条の自由を侵害する、違憲なものであることが明白になりました。けっして成立させるわけにはいきません。
治安維持法で大弾圧を受けた経験をもつ日本共産党は、絶対にこのような弾圧法規の成立を許さない。この法案の廃案を求める国民運動の先頭に立つ覚悟を述べて、私の質問を終わります。
(2017年4月15日)