澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

谷垣禎一さん、重要法案にふさわしい徹底審議をお願いする

私は、自民党という政党を、けっして、大資本の利益の代弁者としてのみ見てきたわけではない。とりわけ、わが故郷岩手の地での自民党は、農民・漁民や中小業者の利益代弁者としての性格を色濃く持っていた。自民党は一色ではない。少なくとも、ついこの間までは。代表する利益集団も様々であり、思想も幅広い。「国民政党」といえば聞こえはよいが、実は鵺のごとき、異質な者の連合体でしかない。しかしまあ、なんと強靱な鵺であろうか。

鵺のごとき自民党という形容には、同党が安倍晋三のごとき唾棄すべき極右からのみ成り立っているわけではないという認識にもとづいている。とりわけ、かつては保守本流を任じていた宏池会に連なる、大平・鈴木・宮沢・加藤、そして古賀・谷垣などの諸氏には、「自由・民主」の理念を掲げた党名に恥じないリベラルな雰囲気を感じさせるものがあった。

とりわけ、弁護士でもある谷垣禎一議員には、自民党内の良識を代表するリベラル派として好意を感じていた。よく知られているとおり、同議員は、かつて「われら自民党議員『スパイ防止法案』に反対する」という論稿を「中央公論」1987年4月号に掲載している。その内容たるや、リベラル派議員としての面目躍如たるものがある。

同論文のリードは、次のとおり。
「わが国が自由と民主主義にもとづく国家体制を前提とする限り、国政に関する情報は主権者たる国民に対し基本的に開かれていなければならない。国民がこれにアクセスすることは自由であるのが原則なのだ。そしてこの国政に関する情報に、防衛情報が含められていることも論を俟たない」

1985年時点での国会の論争で、「国家機密法」(提案側は「スパイ防止法」)の法案に反対した側の論理を、さすがに正確に捉え巧みにまとめている。このような趣旨の論文を雑誌に発表した経過は、同論文自体が以下のように語っている。

自民党内で、「日本はスパイ天国であり、スパイ防止法を制定する必要がある」との議論が高まったのは、1980年1月の宮永元陸将補による防衛庁秘密文書漏えい事件。これを機に、党内に特別小委員会が設けられ、
同年4月に「防衛秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」(第1次案)
82年7月に、第2次案
84年「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」(第3次案)
85年6月、第3次案を第102通常国会に自民党案として提案したが、
同年12月、103臨時国会で審議未了廃案。
86年5月、党総務会に「防衛秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」(3次案に修正を施したもの)提案 激しい議論になる。
同年11月 谷垣・白川(勝彦)の起案で、計12名の議員が反対の1次意見書提出。
同年12月 谷垣・白川が詳細な逐条の2次反対意見書を提出。
87年4月 中央公論に論文と、両意見書を掲載

なお、連名した当時の12人の自民党議員たちは以下のとおり。
大島理森(衆)、太田誠一(衆)、熊谷弘(衆)、熊川次男(衆)、白川勝彦(衆)、杉浦正建(衆)、谷垣禎一(衆)、鳩山由紀夫(衆)、村上誠一郎(衆)、谷津義男(衆)、石井一二(衆)、佐藤栄佐久(参)

当ブログでも紹介したとおり、村上誠一郎議員だけは、今回の「秘密保護法案」に明確な反対意見を表明している。その首尾一貫した姿勢は賞賛に値する。もちろん、秘密の範囲を大きく広げたこと、精密な罰則規定を盛り込んで萎縮効果を狙っていること、適性評価の制度を新設したことなど、「特定秘密保護法」は、かつての「スパイ防止法」より格段に「悪く」なっている。谷垣議員や大島議員は、態度を変えたことについて、説明の責任があろう。

それにしても、87年の谷垣論文は、いま参考にすべき点を多々含むものとなっている。少し、重要部分を抜き書きしてみる。

「国民が国政に関する情報にアクセスすることは自由であることが原則なのだ。」「(防衛秘密は)あくまで原則に対する例外であるから、何でも秘密だというのでは、自由の原則が崩れてしまう。例外の認定は限定的でなければならないのだ。まして刑罰で秘密を守ろうという場合は、よくよく絞りをかけておかないと人の活動をいたずらに萎縮させることになりかねない」「しかし、秘密は例外であり、例外の認定は限定的でなければならないという考え方は、現在のスパイ防止法のとるところではない」

「この法案については、ジャーナリストの取材活動への制約や一般人にまで処罰が及ぶことへの警戒が語られるが、自由であるべき政治活動が制約され、萎縮するのではないかという点も私は危惧する」

「多くの人が、この法案の犯罪構成要件の絞りが十分でないと指摘している…。このような批判に対しては、運用のよろしきと判例による絞りによってこの難点を解消できるという人がある。しかし、どんな行為が処罰されるかは判決が出るまでわからないというのであれば、人は『ヤバいかも知れない』と思った途端にその行動を(本来許されている行為かも知れないのに)トーン・ダウンさせるであろう。このような萎縮効果の積み重ねこそが、自由な社会にとって一番問題なのである」

「(処罰の対象とされている)情報収集活動については、それが本来国民の自由な活動に属すべきことがらであるから、特に違法性の高い行為=本来のスパイ活動に限定して処罰規定を設けるべきだと考える」

以上の記述の「スパイ防止法」を「特定秘密保護法」に置き換えれば、そのまま中央公論の来月号の記事になる。その言やまことによし、である。とりわけ、スパイ防止法案を、「このような発想でつくられた法案が、国家による情報統制法の色彩を持つことを避けられない」との記述は、さすがにリベラル派ならではのもの。

「いまになって、態度を変えて怪しからん」と論難しても詮方なきこと。しかし、谷垣さん、あなたの良心にお願いしたい。この法案は、そもそも立法事実に欠けている。少なくとも、この法律を早期に成立させなければならない理由は皆無である。性急な審議の促進にも、審議未了の打ち切りにも、一片の道理もない。この法案のもつ意味の重大性にふさわしく、十分な時間をかけて論議を徹底していただきたい。かつてはあなた自身も指摘したとおり、問題点は数え切れないほどある。十分に審議を尽くすなかで、国民の十分な理解に基づく賛否の意見分布を見極めていただきたい。それこそが、「わが国が自由と民主主義にもとづく国家体制を前提とする限りの大原則」ではないか。法案の問題点を、国民の目から隠すための審議の打ち切りなどは、絶対にあってはならない。
(2013年11月16日)

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