澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

猪瀬直樹氏の刑事責任

昨年の東京都知事選に絡んで、猪瀬直樹知事が「徳洲会」グループから選挙直前に5000万円の交付を受けていたことが発覚した。これは、犯罪ではないか。

金がものを言う世の中だが、選挙を金で動かしてはならない。また、公務員の職務も金で動かされてはならない。職務の公正さへの信頼をゆるがせにすることも許されない。

選挙運動資金規制あるいは政治資金規正の一環として、選挙運動資金や政治資金の収支には、高度の透明性が求められる。これは不合理な自由の制約ではない。合理性のある規制と言わねばならず、革新陣営としては、保守派の金権体質を徹底して追及しなければならない。

今回の猪瀬金銭受領発覚の経緯はよくわからないが、発覚後最初の猪瀬の態度は全面否定だった。昨日(11月21日)の朝日の報道では、「猪瀬氏は同日、朝日新聞の取材に『私はまったく関知しない』『知らないと言ったら知らない』などと全面的に関与を否定した」となっている。今の時点で振り返って、これは明らかに不自然な対応。

態度を一転して、本日(22日)の記者会見では、「個人としての借り入れで、選挙に使うつもりはなかった」と釈明したという(毎日)。これも、まことに不自然。

金銭の授受があったことは猪瀬自身が認めるところ。しかし、その金銭に関して返済の合意があったのかなかったのか、つまりは借りた金なのかそれとももらったものなのか、この点が極めて曖昧。曖昧であること自身が奇妙であり、後ろ暗さを推認させる。

5000万円の高額である。後ろ暗いところのない貸借であれば、金銭消費貸借契約書なり、借用書なりがなくてはならない。その原本でもコピーでも、すぐに示せばよいではないか。これが出てこないところがまことに不自然。金銭貸借の趣旨での金員交付であったとはにわかに信じがたい。

それだけではない。5000万円の貸借であったとすれば、なによりも弁済期の定め、さらには利息や遅延損害金の定めがあったろう。その言明がないことは、借りた金であるという言い分自体が怪しいことになる。5000万円もの金額が、銀行送金ではなく、現金での授受であったという点も、金銭の授受自体が明るみに出せないものであったとの推論につながる。

選挙直前という時期において、立候補の挨拶まわりが発端となった金銭授受でありながら、「選挙に使うつもりはなかった」というのは、到底信用しがたい。いったい何のために借りたというのか。また、借りた金をどうして捜査開始直後のこの時期に返却しなければならないことになったというのか。大金を借りて寝かせておいたというのも理解しかねる。妻の金庫に寝かせておくような金をどうして借りねばならなかったのか。

むしろ、端的に「表に出せない現金をポケットにねじ込まれた」、あるいは「袖の下で受けとった」という事情であったことが理解しやすい。借りた金ではなく、内密に「もらった金」だったのだろう。だから、後ろめたい金として一切外には出せなかったのだ。しかし、徳洲会側に捜査の手が伸びた以上は、ばれることは必至とみて、やむを得ず元に戻したのだろう。本当に「金を返した」というのなら、そのときに借用証の返済くらいはしてもらったろう。回収した借用書を出せないわけはない。

5000万円の本件金銭授受は端的に賄賂の授受だったのではないか。公務員が、その職務に関し、賄賂を収受したときは、5年以下の懲役に処される(刑法197条第1項前段)。この「単純収賄罪」は、請託は不要で、職務関連性さえあれば成立する。東京都知事は医事・薬事の広範な行政権限をもつ。知事候補への金員交付が、知事の職務に関連していることはほぼ疑いを容れない。

問題は、猪瀬が当時現職の知事ではなく、「知事になろうとする者」であった点にある。事前収賄罪(197条2項)の成立には「請託を受けて」の要件が加重される。この要件の具備如何は捜査の進展次第となろう。ただ、当時猪瀬が副知事だったことの問題は残る。金銭の授受が副知事の職務との関連性があれば、受託の要件は不要となる。この点も、捜査の進展を待ちたい。

賄賂罪の成立とはまったく別に、公職選挙法や選挙資金規正法の問題が出てくる。
まず、政治資金規正法では、寄付の禁止が問題となる。「何人も、公職の候補者の政治活動(選挙運動を除く)に関して金銭及び有価証券による寄附をしてはならない」のだ。そのうえに、政治活動に関して徳田虎雄が政党・政治団体に寄附することのできる金額の上限は年間に2000万円(総枠規制)。徳田虎雄が猪瀬に寄付することができる金額の上限は年間150万円(個別規制)と制限されている。5000万円は、遙かにこれを超える。政治資金収支報告には、載せられないわけだ。

では、選挙運動資金としてなら報告できるかと言えば、これも違法を告白することになる。公職選挙法上の選挙運動資金の上限規制は、「告示日における選挙人名簿登録者数×7+2420万円」となり、ほぼ6000万円となる。徳田虎雄からの「ひとりで5000万円」を掲載すれば、当然に上限規制を超えることになる。結局は、巨額に過ぎて報告書には載せられない、ことになる。

実質犯としての寄付禁止や費用上限規制違反だけでなく、収支報告を怠った罪、あるいは政治資金規正法上の収支報告書の不記載(重過失の場合を含む)のどちらかには、該当するものと考えられる。「5000万円の受領は、選挙運動資金とも政治資金とも関係がない」とする弁明はまことに不自然で、とうてい信用しがたい。

およそ、選挙運動資金として受領した金員については、当然に、そのすべてが公職選挙法上の選挙運動収支報告の対象になると考えるべきである。まさしく、本件のごとき不透明・不明朗な選挙運動資金の管理を許さないための収支報告の制度ではないか。いったん選挙運動資金として受領しておいて、これについて報告をするかどうかは、その後の事情の進展次第という不透明な取扱いを許容してはならない。

仮に、受領の趣旨が政治資金の原資としてのものであるとすれば、政治団体「猪瀬直樹の会」の報告書に記載することを要する。いずれにしても、猪瀬氏の報告義務違反の罪は逃れられないと考える。

公訴時効はずっと先のこと。厳正な捜査の進展による徹底した事実の解明を待ちたい。民主主義政治のサイクルは、まずは選挙から始まる。これを金にまみれたままに、放置しておくことはできない。
(2013年11月22日)

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Published in 土曜日, 11月 23rd, 2013, at 01:47, and filed under 未分類.

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