(2023年12月18日)
12月17日付の赤旗社会面に、「外国人差別あおる」「DHC元会長がまた」という記事。吉田嘉明の、「また」「ヘイト」発言の冒頭は、「極悪人もバカも、無審査のフリーパスで日本国民にしているのです」という悪質なデマ。
これは、既に消された「大和心」のホームページにアップされたものではなく媒体は新聞折り込みのチラシ、消しようもない印刷文書である。赤旗の記事は、「新聞チラシ なぜ折り込み」と、横見出しを付けている。「なぜ折り込み?」についての突っ込みは物足りない。続報や解説記事を期待したい。
ところで業界では、「新聞とは、インテリが作りヤクザが売る」と言いならわされてきた。その真偽のほどはよくわからないが、社会の木鐸をもって任じる新聞のイメージが、販売の場面で損なわれる事例はいくつもある。新聞社内の編集部門と営業部門の角逐も見てきた。今回は、「大和心」というヘイト企業の新聞広告の問題ではなく、形式上は他企業である新聞販売店による折り込みチラシである。
赤旗が確認したのは、朝日と東京新聞への新聞折り込み。もちろん、新聞社本体が関与しているとは思えない。しかし、吉田嘉明の「大和心」という高名なヘイト企業の広告チラシである。これを新聞に折り込んで配達することは、外形的にはヘイト発言の共犯行為である。少なくも、ヘイト発言の伝達を幇助し、ヘイトの蔓延に加担することである。
ヘイトのチラシを容認しているから、「大和心」というヘイト企業に対する十分な批判の記事が書けないのではないか、記事に手心が加えられているのではないか。本当にスポンサーに対する忖度はないのか、と疑念をもたれることになる。
唾棄すべきヘイト企業「大和心」の新聞広告をすべきではないことは当然として、チラシの新聞折り込みも許してはならない。その根拠の一つを赤旗の記事が提供している。
各新聞販売店でのヘイトチラシの折り込みは、朝日新聞のグループ企業、朝日オリコミからの依頼によるものだという。そのホームページを開いてみると、下記のとおりの立派な「経営理念」が掲載されている。
一、私たちは、折込広告を通して、社会に愛され信頼される会社を目指します。
一、私たちは、折込広告を通して、地域社会の繁栄と人々の豊かな暮らしに貢献します。
一、私たちは、朝日新聞と共に歩み、新聞の戸別配達をサポートします。
そして「朝日オリコミ 折込広告倫理網領」が掲げられている。
一、折込広告は、真実を伝えるものでなければならない。
一、折込広告は、新聞読者、消費者に不利益を与えるものであってはならない。
一、折込広告は、新聞事業の品格を損なうものであってはならない。
一、折込広告は、関係諸法規に違反するものであってはならない。
この経営理念、この倫理網領に照らして、新聞販売業者は吉田嘉明の広告や大和心のチラシを、今後一切取り扱うべきではない。
そして、繰り返す。ヘイトに加担の最大の責任は消費者にある。全国の消費者よ、吉田嘉明・「大和心」の商品購入をやめよう。
(2023年12月16日)
「野ざらし」といえば柳好である。録音で聴くだけだが、何とも噺のリズムが心地よい。向島で、餌も付けずに釣り糸垂れた八五郎が唱う鼻歌の一つに、「よせば良いのに 舌切り雀さ ちょいとなめたが コラサノサ 身のつまり サイサイサイ」とある。これが名調子。ちょいとなめては後悔を繰り返す凡夫の心情を巧みに表現して秀逸な歌詞。
これ、昨日の敗訴判決を受けた猪瀬直樹の心境であろうかと思う。「こんな裁判やらなきゃよかった」「そもそも女性候補者の身体に触らなきゃよかったんだ」、不注意にチョイとあんなことをやり、勢いで裁判までやってしまったのが大きな恥になってしまった。あ~あ、ノリなんぞ舐めるんじゃなかった、という舌切り雀の後悔の心境。
昨日(12月15日)猪瀬直樹の全面敗訴の判決言い渡しがあった。維新の猪瀬直樹が原告なって、朝日新聞社と政治学者の三浦まり上智大教授を被告とした、名誉毀損不法行為による1100万円の損害賠償請求訴訟。東京地裁民事6部に係属していたが、中島崇裁判長が猪瀬の請求を棄却した。
猪瀬の敗訴は当然だが、負け方がひどい。判決理由では「意図的に女性の胸に触れたのは真実と認められる」と認定された、と報じられている。まさしく、「チョイと舐めたばかりの大きな恥」というところなのだ。
報じられている「猪瀬のセクハラ」は昨年(2022年)6月12日、JR吉祥寺駅前の公道でのこと。同月22日の参院選公示日を目前に、維新の街頭演説会の最中で起きた。全国比例で立候補予定だったのが猪瀬、東京選挙区の候補予定者だったのが海老澤由紀。猪瀬が海老原を紹介する際に、不必要に海老原の身体を触ったということなのだ。
朝日新聞はその5日後、「『たとえ本人がよくても…』演説中に女性触った猪瀬氏、その問題点」と題した記事を出した。その記事の中で、三浦教授は「映像では、胸に触れていたように見えました。間違いなくセクハラではないでしょうか」「その場では女性本人も拒絶することができない、そういう瞬間だったと思います」とコメントしている。
海老澤にすれば、迷惑な話である。「衆人環視の中でのセクハラ被害」である。しかし、加害者は同じ政党の高齢立候補者。抗議の声を上げることもできない。そして、このことがマイナスに働いたからでもあろう。落選している。維新にしてみれば、愚かな猪瀬の行為に怒り心頭であろうが、敵対勢力からはニンマリと「さすが猪瀬、よくぞやってくれた」とも言いたいところ。
選挙(7月10日開票)後の9月3日、猪瀬が提訴に及んだ。こんな事件を引き受けた弁護士もいたということだ。そして15か月後の昨日、予想のとおり猪瀬全面敗訴判決言い渡しとなった。
判決書きを見ていないが、以下のような論理構造となっているはず。
(1) 一般読者の通常の読み方を基準として、当該三浦コメントが、猪瀬の社会的評価を低下せしめるものであるか。この点を肯定して、 (2)以下に進む。
(2) 一般読者の通常の読み方を基準として、当該三浦コメントは「事実の摘示」であるか。あるいは「意見(ないし論評)」であるか。
この点は大きな争点だが、常識的に「事実の摘示」ではなく、「意見・論評」であるとして、以下に進む。
(3) とすれば、当該三浦コメントは「ことさらに猪瀬の人格攻撃などに踏み込んでおらず、『意見・論評』の域を超えるものではない」ので、公共性・公益性の存在を認め、「意図的に女性の胸に触れたこと」は真実と認められると「『意見・論評』が前提とする事実が重要部分で真実であるとの証明がある」と認定した。
(4) だから、三浦コメントは、猪瀬の社会的評価を低下させる名誉毀損表現であるが、表現の自由保障の観点から、違法性を欠く。⇒よって請求を棄却する。
判決についての報道は、「原告(猪瀬)の女性(海老澤)の胸を触ったという行為が客観的にみて性的な意味を持っているかどうかは、評価であってそれ自体事実(摘示)ではない」とした上、記事(三浦コメント)の公共性、公益目的を認め、「論評が、意見ないし論評としての域を逸脱したものでもない」とした。注目すべきは、判決が評価の前提である「意図的に女性(海老澤)の胸に触れたこと」を明確に真実と認定したことである。三浦のコメントを、「真実と信じたことに相当な理由がある」という相当性のレベルでの故意・過失欠缺の問題とはしなかった。この点、猪瀬の完敗と言ってよい。
判決後、猪瀬は「不当な判決であり、到底承服できない」とのコメントを発表。直ちに控訴する意向を示した、と報じられている。このごろ、お行儀が悪いと話題の猪瀬だが、条件反射的な発言は慎んだ方がよい。
一審を受任した弁護士がどう言っていたかは知らないが、控訴をするか否かは、複数の弁護士に相談することをお勧めする。
さて、この件についての、ネットでのいくつかのつぶやきを拾ってみる。こちらの方が耳を傾けるに値する。
「自分で裁判起こして裁判所から「も」セクハラ認定された間抜けがこちら」「スラップ訴訟失敗。恥の上塗り」「5000万バッグがチラついて笑ってしまう。セクハラ敗訴まで上乗せしないで。しかも何故か毎回上から目線で自信満々の態度なんだよなぁ」「猪瀬直樹も今や維新議員。維新お家芸のスラップ訴訟に目覚めてしまったか」「公式にこんな認定されて動画も残ってて、どうして税金でこいつを養わなきゃいけないのか。国会の品位を汚したって理由で辞職勧告出す案件では」「朝日新聞憎しは分からんでもないけど、ありゃどう見てもセクハラというより、私には痴漢レベルに見えましたな」「あ、あ、あの、バッグ持って汗ダラダラ流してたお爺さんですか?」「5000万円もらったり、お触りしたり、裁判起こしたり、作家したり忙しいな猪瀬氏は」「これ訴えない方が良かったのでは? なぜ負ける裁判をするのか」
誰もが疑問に思うのは、猪瀬が勝てそうにもない訴訟と知りつつも、敢えて提訴したこと。そして今、敢えて控訴しようとしていること。
私の過去ログ「澤藤統一郎の憲法日記」のいくつかを参照願いたい。
竹田恒泰のスラップ完敗判決から学ぶべきこと
https://article9.jp/wordpress/?p=16267(2021年2月7日)
「明治天皇の玄孫」を自称の竹田恒泰、重ねてのスラップ敗訴
https://article9.jp/wordpress/?p=17436(2021年8月25日)
スラップの提訴受任は、弁護士の非行として懲戒事由になり得る ー 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第193弾
https://article9.jp/wordpress/?p=17196(2021年7月12日)
猪瀬の提訴時には、下記のブログを書いた。その一部を再掲しておきたい。
猪瀬直樹の対朝日提訴に勝ち目はない。
https://article9.jp/wordpress/?p=19917(2022年9月8日)
結局のところ、猪瀬側に勝ち目のない訴訟と評せざるを得ない。そのことを猪瀬自身が知らぬはずもない。ではなぜ、敢えて提訴か。自分に対する批判の言論に対する萎縮効果を狙ってのものと考えるしかない。これがスラップである。
むしろ本件は、明らかに法的・事実的な根拠を欠いた民事訴訟の提起とされる可能性が高い。猪瀬がその根拠を欠くことを知りながら提訴におよんだか、あるいは、通常人であれば容易にそのことを知り得たのに敢えて提訴におよんだと認定されれば、この民事訴訟提起自体が不法行為となり、猪瀬に損害賠償が命じられかねない。それが判例のとる立場である。
猪瀬は今、危ない橋を渡り始めたのだ
そして今、猪瀬が渡り始めた危ない橋の橋桁が抜けた。後戻りは難しい。切られた雀の舌は戻らない。
(2023年12月14日)
筋金入りのヘイト言論常習者として著明な元DHCの吉田嘉明。その彼が新しく起こした企業が「大和心」。先月の6日にホームページを立ち上げ、同月21日に「宣言」と「解説」を掲載した。ビジネスの体裁を借りた、韓国・朝鮮そして中国に対する差別主義イデオロギー宣言文書である。この人、おそらくはヘイト嗜癖依存症。酒やタバコをやめられぬように、ヘイト発言を抑えきれないのだ。こういう人物が、いまだにこの社会に生存している。
11月30日、メディアが吉田嘉明のヘイト発言を取りあげた。私も、その日のブログに下記のとおり、批判の意見を書いた。ご参照いただきたい。
https://article9.jp/wordpress/?p=21329
そしたらどうだ。なんと、吉田嘉明はさっさと批判されたヘイト発言を削除した。削除の理由も、経過についての説明もなく、引っ込めたのだ。尻尾を巻いて逃げたというにふさわしいみっともなさ。自分の言葉に責任をもたぬ卑怯なやりかた。
「大和心」のホームページから、ヘイトにまみれた「宣言」が消えて、「大和心」という社名の由来らしきもの説明が残されている。「敷島のやまと心を人とはゞ、朝日に匂ふ山桜花」と本居宣長の歌に、「『大和心』についてはいろいろな解釈がありますが、弊社代表の吉田は『武士道』と解釈しております」と添えられている。何を言わんとしているのやら、本人も分かってはおるまい。
宣長は皇国史観というカルトの祖と言ってよいが、もとより武士ではない。宣長の歌と武士道を並べてみせると、なんとなく国粋的な、なんとなく排外的で右翼的な雰囲気が醸し出される。という程度のもので、それ以上のなにものでもない。
桜は散り際が美しいとして旧軍に好まれた。神風特攻隊として最初に編成された4隊は、本居宣長の歌を典拠に、敷島隊、大和隊、朝日隊および山桜隊と命名されている。泉下の宣長が、眉をしかめたか、あるいは膝を打ったかはわからない。
この歌は、敗色濃厚となった1943年刊の、第5期国定国語教科書初等科国語7「御民われ」に載せられ、国民学校初等科6年前期教材として教えられたという。 山中恒の解説によれば、宣長の歌は次のように紹介されている。宣長、桜、やまと魂とつなげられている。
「敷島のやまとごころを人とはば朝日ににほふやまざくら花
さしのぼる朝日の光に輝いて、らんまんと咲きにほふ山桜の花は、いかにもわがやまと魂をよくあらはしてゐます。本居宣長は、江戸時代の有名な学者で、古事記伝を大成して、わが国民精神の発揚につとめました。まことにこの人に ふさわしい歌であります。」
孫引きだが、『大日本国体物語』(白井勇、1940年刊博文館)という書物に、下記の記述があるそうだ。
「日本の武士は決して死をおそれませんでした。うまく生きのびようとするよりもどうして立派な死にようをしようかと考えている武士は、死ぬべきときがくると桜の花のようにいさぎよく散っていったのです。だから本居宣長という人は、
敷島の大和心を人とはば朝日ににほふ山桜花
という歌を歌って、日本人の心は朝日に照りかがやいている桜のようだと言ったのです。」
武士道と言い、桜と言うときには、散りぎわ、死にざまのいさぎよさがイメージされている。「うまく生きのびようとするよりもどうして立派な死にようをしようかと考えている武士は、死ぬべきときがくると桜の花のようにいさぎよく散っていった」というのは、受け容れるわけにはいかない危険な美学である。
が、吉田嘉明のヘイトとはこれと違う。潔く散る危険な美学とはまったく異なり、まことに見苦しい。みっともないのだ。およそ、武士道の美学の片鱗もない。いや、真逆である。
何度でも繰り返そう。こういう見苦しい人物が経営する企業に、一円のカネも支払ってはならない。それが、正しく賢い消費者のありかたである。日本を健全な社会に育てる、あるべき消費者主権の行使なのだ。
(2023年12月8日)
12月8日である。82年前の今日、日本は英米蘭3国に宣戦を布告した。が、その宣戦布告以前に奇襲は始まっていた。奇襲実行のはるか以前に、戦闘準備を整えた艦隊は出航している。日米交渉継続中の一方的な宣戦布告なき奇襲攻撃の日と記憶されねばならない。いかにも、天皇を大元帥と戴く軍隊にふさわしい、薄汚いやりくち。4年を経てその代償の深刻さを思い知ることになる。
対英米戦は、日中戦争が打開できないままに、何の成算もないままに日本の国民を塗炭の苦しみに追いやり、周辺諸国の多くの人を死地に追い込んだ無謀な戦争。
開戦時の閣僚の一人に、鈴木禎一という人物かいた。国家総動員体制を担った企画院の総裁。この「背広を着た軍人」がこう言っている。「物が足りないのにいくさをした」との批評があるがそうではない、「物が足りなかったから戦争になった」のだ、と。物とは、何よりも石油であった。対中戦争を完遂するための石油である。他国の土地と富を奪おうとの戦争を継続するための新たな戦争と始めた愚かさ。
しかし、省みるべきは、勝ち目のない戦争を始めた愚かさではない。戦争を企てたこと自体の理不尽である。繰り返してはならないのは、勝ち目のない戦争ではなく、多くの人にこの上ない不幸をもたらすすべての戦争
ウクライナに戦火が止まず、ガザの虐殺が激しさを増す中での今年の12月8日だが、東京は晴れわたって穏やかである。東京だって、気候と天候に恵まれれば、なかなかの街並み。街路樹の紅葉も美しい。ウクライナやガザの戦火に心を痛めつつも、平和で暮らせることがなによりもありがたい。
(2023年12月6日)
安倍晋三の亡霊が各地を徘徊している。関係団体の資金を妻昭恵に集約したかと思えば、大阪夢洲の税金食い潰しに精を出し、昨今は永田町での裏金作りパーティ問題や、岸田文雄の統一教会との関わりにも一役買って、世の耳目を惹いている。あらためて、安倍晋三という人物の負の遺産の大きさと多面性を再認識せざるを得ない。この亡霊が、昨日(12月5日)は仙台高等裁判所に出た。
長く一貫して政府自身が違憲(憲法9条違反)としてきた集団的自衛権の行使。その解釈を変更したのが2014年7月の閣議決定、そして翌年強行採決で成立の「安全保障関連法」、別名「戦争法」である。政治を私物化し、歴史を改ざんし、公文書の改竄・隠蔽を繰り返し、国会では虚偽答弁を連発し、あらゆる部門の人事に手を突っ込み、国民生活に格差と貧困を招じて、日本に経済停滞をもたらし…、罪状数限りない安倍晋三だが、その最大の悪業は、集団的自衛権の行使を容認して日本を戦争の危険に曝したことである。
安保法制を憲法違反だとして、各地に集団訴訟が起こされた。全国22地裁・支部(計25件)に提起された訴訟で、これまで地裁と高裁で39件の判決が出ていた(「安保法制違憲訴訟の会」)。多くは違憲国賠訴訟だが、そもそも原告に具体的な権利ないし法的利益の侵害が認められないとして、憲法判断に踏み込んだ判決は一件もなかった。
そのような事態で、40件目となる昨日の仙台高裁判決を迎えた。事件は、福島県内の戦争経験者や家族ら170人が1人あたり1万円の国家賠償を求めた「ふくしま平和訴訟」の控訴審判決。実は、もしかしたら…、と期待と注目度の高かった判決。
もしかしたら…、の理由の一つは、裁判長が評判の良い小林久起裁判官だったからであり、もう一つの理由は、審理の過程で原告側から申請のあった証人長谷部恭男教授(憲法)を採用して裁判長自身が異例の長時間の尋問をしたからでもある。
しかし、現実は甘くなかった。「もしかしたら…」は実現せず、「ああ、やっぱり…」という控訴棄却の判決となった。
報道では、判決理由中の幾つかのリップサービスを好意的に紹介しているものもある。「憲法の基本理念である平和主義に重大な影響を及ぼす可能性のある憲法解釈の変更だ」「武力行使の限界を超えると解する余地もある」「解釈運用に、不確実性が生ずること自体は免れない」などの指摘についてである。しかし、結論は「このような限定的な場合に限り政府が一貫して許されないと解釈されてきた集団的自衛権の行使が、安全保障関連法によって憲法上容認されるとなったとしても憲法9条の規定や平和主義の理念に明白に違反し、違憲性が明白であると断定することまではできない」というものであった。
違憲と判断できないのであれば、行政・立法を追認しただけのこと。すべては、「安保国会」で政権側が説明したことを、期待の判決も容認したということなのだ。
判決後の記者会見で、原告側は「期待に反しての全面敗訴となった。安保法制を肯定し、政府の一機関になったといっても過言ではないような内容で、不当判決と言わざるを得ない」「政治が暴走したときに、ブレーキをかけるのが裁判所といわれているが、きょうの判決の内容は情けなかった。平和を求めるわれわれの戦いは子孫のためにも責任がある」と述べ、防衛省は「国の主張が認められたものと受け止めています」とコメントしたという。どちらも、そのとおりと言えよう。
問題は、この判決が憲法判断を回避せずに初めて踏み込んで、「安保法制は違憲とは言えない」と判断したことである。これを評価する向きもあるようだが、とうてい納得し得ない。
我々は、裁判官を励ましてきた。「勇気をもって憲法判断に向かい合え」「憲法判断から逃げてはいけない」と。憲法判断は、当然に保守政権の違憲政治を撃つことになるはずとの思いからである。ところが、小林久起判決は、逃げずに憲法判断を行って、あろうことか、安保法制に違憲とは言えないというお墨付きを与えた。
非戦のために戦力不保持を謳った憲法9条は、旧来の政府解釈では「憲法は国家の自衛権までは否定していない」「自衛のための実力部隊は禁じられた戦力に当たらない」とされて、自衛隊の存在と増強が容認されてきた。安倍政権はさらに一歩を進めて、集団的自衛権の行使を容認したが、小林久起判決はこれを追認した。
司法とは何のための存在かが問われている。我が国の三権分立は崩壊しつつあるのではないか。これも、あの妖怪安倍の亡霊の仕業であろうか。
(2023年12月4日)
「法と民主主義」2023年12月号【584号】の特集は、「関東大震災 朝鮮人・中国人虐殺から100年 ― その今を問う」である。この特集の編集は私が務めた。
私のリードは、下記のURLでお読みいただける。
https://www.jdla.jp/houmin/backnumber/pdf/202312_01.pdf
また、巻末の「ひろば」には、「映画『福田村事件』を通じて平和を考える」という表題で、岡山の則武透弁護士が平仄を合わせている。その末尾に引用されているのが次の一文。
朝鮮人あまた殺され
その血百里の間に連なれり
何の惨虐ぞ、われ怒りて視る
(萩原朔太郎『近日所感』)
https://www.jdla.jp/houmin/backnumber/pdf/202312_03.pdf
**************************************************************************
法と民主主義2023年12月号【584号】(目次)
特集●関東大震災 朝鮮人・中国人虐殺から100年 ― その今を問う。
◆特集にあたって … 編集委員会・澤藤統一郎
◆朝鮮人虐殺事件はなぜ起きたのか、その責任の所在は
── 埼玉の事件から考える … 関原正裕
◆関東大震災から100年・虐殺された朝鮮人追悼の現状 … 西崎雅夫
◆「朝鮮人虐殺」の事実を見つめようとする者と覆い隠そうとする者 ── そのせめぎ合いの今 … 加藤直樹
◆「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典」運動史と東京都の責務 … 宮川泰彦
◆虐殺の事実すら認めない自民党政権 ── 歴史の抹殺は許されない … 藤田高景
◆朝鮮人虐殺とメディアの責任
── 100年前の「誤報の構造」は清算されているか … 北野隆一
◆関東大震災朝鮮人虐殺についての教科書記述の現状 … 鈴木敏夫
◆人権侵害の事実を認めないことの問題 ── 国際人権法の観点から … 申 惠丰
◆虐殺の対象となった在日コリアンの法的・社会的地位
── その100年前と現在と … 金 哲敏
◆人種差別撤廃法制定に向けて ── 弁護士の取組と課題 … 師岡康子
◆日弁連勧告と無視し続ける政府、その歴史的意味 … 森川文人
◆参考資料
**************************************************************************
お申し込みは、ぜひ下記の「法と民主主義」ホームページから
「法と民主主義」(略称「法民」)は、日民協の活動の基幹となる月刊の法律雑誌です(2/3月号と8/9月号は合併号なので発行は年10回)。毎月、編集委員会を開き、全て会員の手で作っています。憲法、原発、司法、天皇制など、情勢に即応したテーマで、法理論と法律家運動の実践を結合した内容を発信し、法律家だけでなく、広くジャーナリストや市民の方々からもご好評をいただいています。定期購読も、1冊からのご購入も可能です(1冊1000円)。
https://www.jdla.jp/houmin/index.html
(2023年11月30日)
しばらく吉田嘉明の蠢動が見えなかった。が、突然話題の人となった。「三つ子の魂百まで」「雀百まで踊り忘れず」とはよく言ったもの。やはり、差別主義者としての話題である。
「DHC元会長が新会社HPでまた差別表現 競合企業経営者の実名挙げ」(毎日)、「DHC元会長がまた差別表現 新会社HPで競合他社トップを『在日の疑い』『100%の朝鮮系』」(東京新聞)、「DHC元会長吉田嘉明氏の新会社HP『お顔の特徴から在日の疑い』と競合経営者を中傷で批判続出」(日刊スポーツ)との見出し。
スポーツ紙では、「化粧品会社ディーエイチシー(DHC)の元会長吉田嘉明氏が代表を務める22年7月設立の通信販売会社「大和心」に批判の声が相次いでいる」「『大和心』のホームページの文言に批判が殺到している」「根拠不明の情報を載せ、同業他社を挑発している」「SNS上では『こんなに堂々とヘイトしちゃってどうするの?』『会社のHPで書くことじゃない』『大和心名乗りながらコカ・コーラ売ってて草』『思想が強すぎて従業員さん気の毒』などの声が上がっていた」と手厳しい。
通常人の神経では、差別主義者と言われることは堪えがたく恥ずべきことである。当然、そう言われることを避けようとする。ところが、この人物に限ってはそうではない。ある人にとってタバコやアルコールという嗜癖を離脱できないように、差別主義の言動をやめることができない。根っからの差別主義者なのだ。差別言動依存症と評しても差し支えなかろう。
だが、こうも考えられる。もしかしたらこの人、差別言動が商売になると思い込んでいるのではないのだろうか。
「この日本社会の建前では、確かに人は平等だ。しかし、実はみんな本音のところでは、差別を容認し、差別言動を歓迎しているはずではないか。それなら、差別主義はウリになる。他人が臆して言わない差別を公言し、公然と差別主義者として振る舞うことが、商売に有利なのではないか。DHCでも差別を広言してうまくやってきた」
日本社会の闇の底に、このようないびつな考えを支える一定の層が存在することを否定し得ない。しかし、けっして多数派ではないし、明るいところに出てこられる輩ではない。このようないびつな層に支えられた吉田嘉明の姿勢を容認してはならない。成功体験を与えてはならない。
吉田嘉明が新たに始めた会社が「大和心」である。今月6日にホームページを開設し、同21日に下記の「宣言」と「解説」を掲載した。イデオロギー的ビジネス文書と言うよりは、ビジネスの体裁を借りた、韓国・朝鮮そして中国に対する差別主義イデオロギー宣言である。こういう人物が、まだこの社会にいることを恥じなければならない。
何度でも繰り返す。こういう人物が経営する企業に、一円のカネも払ってはならない。それが、賢い消費者のありかたであり、日本を健全な社会に育てる消費者行動なのだ。
**************************************************************************
大和心の宣言
1.大和心は、日本人による日本人のための本格的超高速通販です。
2.大和心は、日本が再び強く美しい国になることを心から念願しています。
3.大和心は、高齢の方を心から尊敬し大切にします。
4.大和心は、正しく立派な商品を、長年製造し続けているメーカーとのみ取引をします。テレビ宣伝等で派手に消費者を騙しているような行儀の悪い会社とは、一切かつ永久に取引は致しません。
5.大和心は、日本と敵対している国(中国・ロシア・北朝鮮)の製品、生鮮食品及びその加工品は、一切とり扱いません。
「大和心の宣言」についての解説
- 大手総合通販で、トップが純粋な日本人なのは、大和心だけのようです。最大のアマゾン・ジャパンの社長は、ジャスパー・チャンという中国人です。楽天の 会長三木谷さんは、お顔の特徴から、しばしば在日の疑いがかけられていますが、ご自身自らが頑なに否定しておられるので、あなた自身でご判断ください。ヨドバシカメラの社長藤澤さんも、ヤフージャパンの社長川邉さんも、「在日通名大全」によると、100%の朝鮮系とされています。大手通販はこのとおりですが、弱小の通販も似たり寄ったりのようです。元々は外国人の方に、日本人の心が理解できるのでしょうか? 疑問です。 (略)
- アメリカの前大統領トランプさんはMake America great again. 「アメリカを再び偉大な国にしよう」と謳っていますが、私たちもMake Japan beautiful again. と、日本が再び美しく変わるまで言い続けます。過去の美しい伝統・文化が急速に失われつつあります。あの美しかった日本がどこに行ってしまったのでしょうか。
- (略)
- ロシアや北朝鮮の商品を購入する機会はあまりないと思われますので、ここは中国製品だけに的を絞って取り上げましょう。習近平の性格から見て、数年のうちに台湾を侵略してくるのはほぼ確実と思われます。その際は、もちろん中国対台湾・米国・日本の大戦争へと発展します。中国製品は輸入禁止となり、使いたくても使えません。日本も米国も大量の中国製品を輸入していますが、これらの売り上げはほとんどが中国の戦費として使用されるのです。核弾頭もさらに増産中で、現在500発以上を保有していますが、数年後には1,000発を超えるだろうと推計されています。 今、中国では日本の東電の海洋処理水を核の汚染水と称して、さかんに世界に向かって対日本の対抗宣伝をしていますが、そんなことを言うのなら、中国にはもっととんでもない話があります。一時、世界の工場と言われていた中国では国のいたる所が工場だらけのため、工場の廃液が河川に溢れており、黄色や青色や赤色の汚染水がどこの河川でも見られるのが普通でした。さすがの共産党も工場の廃液を未処理のままたれ流すことは法律で禁止したのです。問題はそこからです。工場の汚染水を化学処理して無害水にするには相当な設備投資が必要ですが、誰もそんな余計なことはしません。自分の工場内の敷地に穴を掘り、工場からの廃液をそのままポンプで流し込んでいたのです。そこで中国全土の地下水は汚染水だらけになり、その地下水を吸って育った野菜は食べられる代物ではありません。それを知っている中国人は自国の野菜は食べようとはせず、輸入ものを食べているのです。日本のスーパーには中国製の野菜が安い値段で売られているため日本人が喜んで食べているというわけです。恐ろしい話ですね。
令和5年11月21日
大和心会長 吉田嘉明
(2023年11月22日)
旧統一教会が、有田芳生さんの口を封じようと提起した《統一教会スラップ・有田訴訟》。11月28日(火)に結審となります。
この訴訟では、「統一教会は反社会的集団である」ことが立証対象となり、被告有田側は、教会の違法を認めた、これまでの民事・刑事の判例を積み上げました。この立証活動は、統一教会に対する解散命令請求での「悪質性・組織性・継続性の立証」に重なります。
はからずも、本件有田訴訟は、解散命令裁判を先取りするものとして、注目されることになりました。
昨年8月19日、日本テレビの「スッキリ」に出演した有田芳生さんが、「(旧統一教会は)霊感商法をやってきた反社会的集団だってのは警察庁も、もう認めている」と発言したところ、統一教会は、これを名誉毀損だとして、有田さんと日本テレビを訴えました。
その結果、「統一教会は反社会的集団である」(真実性)ことが、立証対象の一つとなり、有田訴訟が、統一教会の解散命令裁判を先取りするものとなっています。
11月28日午後3時から、東京地裁103号法廷で開かれる、結審の法廷では、有田さんの意見陳述と、被告有田代理人のパワポを使った主張の説明をいたします。
閉廷後の報告集会は、下記のとおりの予定です。
11 月 28 日 午後 3 時 30 分〜 法曹会館(法務省の北側)「富士の間」
弁護団から、訴訟進行・法人解散命令請求事件についての報告
トークセッション(青木理、鈴木エイト。有田芳生=進行・二木啓孝)
他に、参加者からの発言 など
《統一教会スラップ・有田訴訟》進行経過
東京地裁民事第7部(野村武範裁判長)
R4(ワ)第27243号名誉毀損事件
原告 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)
被告 日本テレビ放送網株式会社・有田芳生
(※裁判所、◆原告、◎被告有田、☆被告日テレ、★訴訟外事件)
★22・07・08 安倍元首相銃撃事件
★22・08・19 日テレ「スッキリ」番組放映(萩生田光一批判がテーマ)
◆22・10・27 提訴 訴状と甲1?6
請求の趣旨
(1) 被告らは連帯して2200万円(名誉毀損慰謝料と弁護士費用)を支払え
(2) 日テレは番組で、有田はツィッターで、謝罪せよ
請求の原因
(名誉毀損文言を、有田の番組内発言における「霊感商法をやってきた反社会的集団だって言うのは、警察庁ももう認めているわけですから」と特定)
※22・11・10 被告有田宛訴状送達(第1回期日未指定のまま)
※23・01・23 On-line 進行協議
◎23・02・27 被告有田・答弁書提出 証拠説明書(1) 丙1?7提出
(本件発言は、一般視聴者の認識において全て意見であり、当該意見が原告の社会的評価を低下させるものではない。仮定的に、真実性の抗弁を援用)
☆23・02・27 被告日テレ・答弁書提出 乙1(番組の反訳書)提出
◆23・03・07 原告準備書面(1) (被告日テレの求釈明に対する回答)提出
◆23・03・14 原告準備書面(2) (被告有田に対する反論) 甲7?12提出
◎23・05・09 被告有田準備書面1 提出
☆23・05・09 被告日テレ・第1準備書面
◎23・05・12 被告有田準備書面2 証拠説明書(2) 丙8?13 提出
※23・05・16 第1回口頭弁論期日(103号法廷) 閉廷後報告集会
島薗進氏の記念講演、望月衣塑子・佐高信・鈴木エイト各氏らの発言
◆23・06・26 原告準備書面(3) (有田準備書面1に対する反論) 甲13?25
◆23・06・26 原告準備書面(4) (有田準備書面2に対する反論)
◆23・06・26 原告準備書面(5) (日テレに対する反論)
◎23・07・17 被告有田準備書面3 提出
※23・07・18 On-line 進行協議
◆23・07・20 原告甲26(番組全体の録画データ)提出
◎23・08・31 被告有田 証拠説明書(3) 丙14?19
証拠説明書(4) 丙20?23
証拠説明書(5) 丙24?27
証拠説明書(6) 丙28?43
☆23・09・15 被告日テレ・第2準備書面 証拠説明書(2) 乙2?7
◎23・09・22 被告有田準備書面4
(甲26ビデオを通覧すれば、「警察庁ももう認めているわけですから」は、一般視聴者の印象に残る表現ではない。早期の結審を求める)
◆23・09・22 原告証拠説明書 甲27?29
※23・09・26 第2回口頭弁論期日(103号法廷)
裁判所 「双方なお主張あれば、10月30日までに」
◎23・10・27 被告有田「早期結審を求める意見」書を提出
さらなる主張はない。次回で結審を。
◆23・10・30 原告準備書面(6)提出 内容は横田陳述書(甲30)を援用するもの
証拠申出・証人横田一芳(国際勝共連合) 甲30・横田陳述書提出
◎23・10・31 被告有田、証人(横田)申請を却下し重ねて次回結審を求める意見。
※23・11・07 On-line 進行協議 原告の証人申請却下
次回結審とし、法廷では15分の被告有田側の意見陳述を認める。
※23・11・28 第3回口頭弁論期日(103号法廷) 結審 閉廷後報告集会
※判決期日 未定(28日に期日指定あるはず)
《有田さんのメッセージ》
▼教団が韓国で生まれて68年目。統一教会=家庭連合は組織内外に多くの被害者を生んできました。まさに反社会的集団です。私は元信者はもちろん現役信者とも交流してきて思ったものです。日本史に埋め込まれた朝鮮半島への贖罪意識を巧みに利用して真面目な信者を違法行為に駆り立ててきた統一教会の犯罪的行為の数々は絶対に許すわけにはいきません。
▼安倍晋三元総理銃撃事件をきっかけに、自民党との癒着など「戦後史の闇」の蓋が開きはじめました。私は信頼する弁護団と、社会課題についてはたとえ立場が異なれども教団に立ち向かう一点で集ってくれた「有田さんと闘う会」の高い志を抱きしめて、みなさんとともに、統一教会と徹底的に本気で闘っていきます。
《何が争われているか》
?本訴訟の主要なテーマは、「統一教会の反社会的集団としての性格」をめぐる攻防です。「統一教会を、反社会的集団と言ってはならない」というのが原告(統一教会)の主張。「統一教会が霊感商法や高額献金勧誘をしてきた反社会的集団であることは厳然たる事実。これを指摘できないようでは、言論の自由の保障が泣く」というのが有田側の反論。
?「霊感商法をやってきた反社会的集団だって言うのは、警察庁ももう認めているわけですから」というのが、番組の中での有田さんの発言。その「霊感商法をやってきた」「反社会的集団である」「警察庁も認めている」のすべてが真実ではない、と原告は主張。被告有田は、これに全面的に反論し、証拠を積み上げています。
?有田さんの発言を、原告は自分の「名誉」を侵害した違法行為とし、被告は「表現の自由」の保障を享受すべき適法かつ有用な言論とする立場です。《人を批判する表現の自由》と、《批判される人の名誉権》との衝突を、どのように調整するかの問題ですが、訴訟実務の枠組みは概ね次のとおりです。
?言論全般を、《事実の摘示》と《意見ないし論評》との2種の構成部分からなるものと考えます。このうち、《事実の摘示》部分に、(人の社会的評価を低下させる)名誉毀損表現があれば原則違法とされ、発言者は、自分の事実摘示の言論が、公共の利害にかかり、もっぱら公益目的によるもので、しかも真実であることを立証すれば、損害賠償の責めを免れることになるという構造です。実務では「公共性」「公益性」のハードルは低く、重要なのは『真実性』です。
?《意見ないし論評》によっても名誉毀損が成立しうるというのが判例の立場です。しかし、通例、公共性・公益性ある限り、《意見ないし論評》こそは、最大限に表現の自由が保障されなければならない場面として、人格的攻撃などの逸脱ない限り、原則違法性はないものとされます。
もっとも、《意見ないし論評》は、何らかの《事実の指摘》を前提とすることが多く、その意見・論評の根拠とされた前提事実については、やはり真実性が要求されることになります。
《当事者の主張と立証活動は》
?原告・統一教会の主張の骨格と立証
有田発言の名誉毀損文言を、「(原告が)霊感商法をやってきた反社会的集団だっていうのは警察庁ももう認めているわけですから」と特定して、これは事実摘示である。少なくも、「警察庁ももう認めている」という表現部分は、事実摘示による名誉毀損文言であると主張。
そのうえで、「原告は組織として霊感商法をしたことがない」「原告自身が反社会的行為をしたと認定された判決はない」「警察庁が原告を反社会的集団と認定した事実はない」から、有田発言の事実摘示は真実性を欠くと言います。
?被告有田の主張の骨格と立証
テレビ放映におけるある発言が名誉毀損となりうるか否かは、《一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準》として判断するというのが、判例の立場。ビデオを再現して視聴してみると、この番組は萩生田光一批判をテーマにするもので、有田発言も萩生田批判の発言のごく一部。一般視聴者にとって統一教会批判の文言として印象に残るものではなく、そもそも名誉毀損にあたらない。仮に、有田発言が統一教会の社会的評価を低下させるものであったとしても、発言の全てが意見ないし論評である。また、その前提とする事実は公知の事実である。「反社会性」というキーワードを支える判例は、これまで数多く言い渡され、確定している。「警察庁も認めている」も国会答弁などから真実である。被告有田の提出した書証の多くは、統一教会の霊感商法や高額献金勧誘を違法としたこれまでの判決例です。
《本件は統一教会によるスラップである》
?統一教会は、自身への批判の言論を嫌って、名誉毀損訴訟を濫発しています。
下記のすべてが、統一教会批判言論の萎縮を狙ったスラップ訴訟です。
被告 紀藤正樹・讀賣テレビ (請求額2200万円)9月29日提訴
被告 本村健太郎・讀賣テレビ(請求額2200万円)9月29日提訴
被告 八代英輝・TBSテレビ(請求額2200万円)9月29日提訴
被告 紀藤正樹・TBSラジオ(請求額1100万円)10月27日提訴
被告 有田芳生・日本テレビ (請求額2200万円)10月27日提訴
統一教会スラップ5事件のトップを切って、八代英輝事件での東京地裁判決がありました。当然のことながら統一教会の敗訴、請求棄却判決でした。有田事件も、これに続きたいと思います。
(2023年11月19日)
全国110名余の視聴者が原告になって、NHK経営委員会議事録と録音データの開示を求めているこの訴訟。下記のとおり、明後日の結審の法廷と記者会見を兼ねた報告集会をご案内いたします。ぜひ、法廷傍聴の上、報告集会にご参加ください。
2023年11月21日(火)10時15?45分
東京地裁103号大法廷 最終口頭弁論
(法廷では、原告2人と代理人弁護士1名が、口頭意見陳述を行います。弁護士の陳述はパワーポイントで、論点を分かり易く解説します。)
同日閉廷後、東京弁護士会507号会議室で記者会見を兼ねた報告集会
この訴訟の被告は、NHKと森下俊三経営委員長の2名。形式的にはNHKを被告とせざるを得ませんが、実質的な責任の追及対象はNHK経営の最高機関である経営委員会を代表する森下氏なのです。
NHK経営委員は、内閣総理大臣が両院の同意を得て任命します。近時この経営委員選任がまことに恣意的で不適切、その結果としての重大事件が2018年10月23日経営委員会席上での、上田良一会長に対する『厳重注意』でした。
NHK番組「クローズアップ現代+」が、かんぽ生命保険の不正販売問題を取りあげ放映したところ、これに反発した加害者郵政グループが、この番組続編の制作妨害をくわだてました。同グループの上級副社長(元総務事務次官)鈴木康雄氏が森下氏を手がかりに経営委員会に働きかけ、経営委員会は「会長厳重注意」までして、いったんは番組潰しに成功したのです。だから、議事録の開示も公表もできなかったのです。
本来公共放送の独立と公正を守るべき経営委員会が、外部勢力と結託して、NHK執行部に圧力をかけ、良心的な番組つぶしに走ったのです。
この訴訟の提起直後に、被告は「議事録のようなもの(録音の粗起こし)」を原告らに交付しました。しかし、放送法が命じる適式の議事録ではありません。NHKホームページに公表もしていません。法定の手続に則った「適式の議事録」および、消去されたはずのない「会議の録音データ」を開示せよというのが、原告らの請求。これに判決がどう応えるか注目されるところです。そして、森下氏に対する不法行為損害賠償請求も。
ぜひ、傍聴と報告集会参加をお願いいたします。
NHK文書開示等請求訴訟 原告団・弁護団
《NHK文書開示請求訴訟》経過と概要
原告 受信契約者(視聴者) 114名
被告 NHK(形式上の被告)
森下俊三(責任追及対象としての被告)
請求の趣旨
? 被告NHKは原告らに対し、下記各文書をいずれも正確に複写(電磁的記録については複製)して交付する方法で開示せよ
1.放送法41条及びNHK経営委員会議事運営規則第5条に基づいて作成された、下記各経営委員会議事録(「上田良一会長」に対する厳重注意に関する議事における各発言者ならびに発言内容が明記されているもの)
?「第1315回経営委員会議事録」(2018年10月 9日開催)
?「第1316回経営委員会議事録」(2018年10月23日開催)
?「第1317回経営委員会議事録」(2018年11月13日開催)
2.下記各経営委員会議事録作成のために、各議事内容を録音または録画した電磁的記録。
?「第1315回経営委員会議事録」(2018年10月 9日開催)
?「第1316回経営委員会議事録」(2018年10月23日開催)
?「第1317回経営委員会議事録」(2018年11月13日開催)
? 被告らは連帯して各原告に対し各金2万円、ならびにこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払い済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え
事実と訴訟進行の経過
? 提訴前の経過(2018年)
04月24日 「クローズアップ現代+」「かんぽ生命の不正販売問題」放映
07月07日 同月14日 NHKネットに続編制作のための被害情報募集動画掲載
07月11日 郵政3社社長連名での会長宛抗議文
08月02日 郵政3社社長連名での会長宛動画削除要求書
08月03日 NHK8月10日放映予定の続編延期を決定
被害情報募集の動画掲載を取りやめ
(「金融商品トラブル」番組でかんぽ生命不正販売を取りあげる予定が発覚)
09月25日 郵政の上級副社長鈴木康雄 森下を訪問
10月05日 日本郵政から経営委員会宛に抗議文
10月23日 1316回経営委員会 上田会長厳重注意
10月25日 同月30日に予定されていた「金融商品トラブル」番組内での
「かんぽ生命不正販売」問題放映をカットする決定。
? 提訴前の経過(2019年)
09月26日 毎日新聞朝刊が、1面トップで「NHK経営委 会長を注意」の記事
09月30日 毎日新聞続報「『厳重注意』議事録なし」の記事
「『かんぽNHK問題』野党合同ヒアリング」の連続開催
? 10月3日(出席経営委員・森下俊三、甲6)「議事録は作っておりません」
? 10月4日(出席経営委員・高橋正美、甲7)「探したが議事録はない」
? 10月8日(出席経営委員・森下俊三、甲8)「議事録はない」
? 10月15日
? 10月16日(出席経営委員・森下俊三、甲11)「議事録はある」
? 2019年10月30日
? 2019年12月24日
09月11日 衆議院予算委員会 議事録ないことを前提の質疑(甲9)
09月15日 NHKのサイトに若干の書き足し修正
? 先行する開示の求めに対する審議委員会答申
2020年05月22日 797・798号答申 「開示せよ」→従わず
2021年02月04日 814・815・816号答申 「開示せよ」→従わず
? 訴訟の経過
(※裁判所、◎原告、?被告NHK、★被告森下、?★形式NHK・実質森下)
◎2021年4月7日 文書開示の求め(これに対する2度の延期通知)
◎2021年6月14日 第1次提訴(原告104名・被告2名〈NHKと森下〉)
a 被告NHKに対する文書開示請求
開示請求対象文書の主たるものは、下記経営委員会議事録の未公開部分
「第1315回経営委員会議事録」(2018年10月 9日開催)
「第1316回経営委員会議事録」(2018年10月23日開催)上田会長厳重注意
「第1317回経営委員会議事録」(2018年11月13日開催)
b 被告両名に対する損害賠償請求(慰謝料・弁護士費用、原告1人各2万円)
?★同年7月9日 「3会議の議事録(のようなもの・粗起こし)」を開示
◎同年 9月16日 第2次提訴 (原告10名・被告2名)1次訴訟に併合
☆同年 9月15日 被告NHK答弁書(現時点では対象文書は全て開示済み)
★同年 9月21日 被告森下答弁書(不法行為はない、請求棄却を求める)
◎同年 9月23日 原告 被告NHKに対する求釈明
◎同年 9月24日 原告 甲1の1?4 NHK開示文書提出
※同年 9月28日 第1回口頭弁論期日(103号)
(西川さん・長井さん・醍醐さんの原告3名と代理人1名の意見陳述)
☆同年 12月3日 被告NHK準備書面(1)「現時点で、所定の議事録作成手続は完了しておらず、放送法41条の定める議事録とはなっていない」
★同年 12月3日 被告森下 準備書面(1) 「本件各文書はいずれも開示済」と言いつつも、「粗起しのもので、適式の議事録でない」ことを自認。
★同日 被告森下丙1?32号証 提出
◎2022年1月12日 原告第1書面(被告森下の求釈明に対する回答)提出
☆同年 1月17日 被告NHK 乙1(放送法逐条解説・29条部分)提出
※同年 1月19日 第2回口頭弁論期日(103号)
★同年 2月28日 被告森下 準備書面(2)
◎同年 3月 2日 原告第2準備書面
◎同年 4月 7日 原告第3準備書面
☆同年 4月22日 被告NHK 準備書面(2)
★同年 4月22日 被告森下 準備書面(3)
※同年 4月27日 第3回口頭弁論期日(103号)
◎同年 4月28日 原告第4準備書面(求釈明)
★同年 6月14日 被告森下 準備書面(4) (電磁記録は消去済みである)
☆同年 6月21日 被告NHK 準備書面(3)
◎同年 7月 1日 原告第5準備書面(求釈明)
※同年 7月14日 進行協議
★同年 8月22日 被告森下準備書面(5) (求釈明に対する回答)
☆同年 8月25日 被告NHK 準備書面(4)
◎同年 8月30日 原告第6準備書面
※同年 9月 6日 第4回口頭弁論期日(103号)
☆同年 10月14日 被告NHK 準備書面(5)
★同年 10月14日 被告森下準備書面(6)
◎同年 10月16日 原告請求の趣旨の変更(縮減) 開示請求文書の特定。
議事録(未公表部分)と録音データ。以後、録音データの存否が主たる争点に。
◎同年 10月16日 原告第7準備書面
※同年 10月26日 進行協議(415号)
◎同年 11月16日 原告第8準備書面
★同年 12月13日 被告森下準備書面(7)
☆同年 12月14日 被告NHK 準備書面(6)
◎同年 12月20日 原告証拠申出書
※2023年6月7日 口頭弁論(人証調べ)期日 中原・森下・長井 尋問
◎同年 7月4日 原告・追加の証人採用についての意見
※同年 7月10日 Web進行協議
◎同年 8月2日 原告第9準備書面 甲4?12
★同年 8月7日 被告森下準備書面(8)
※同年 8月9日 Web進行協議(裁判所・原告の挙証責任論に同意の心証を開示)
★同年 9月12日 被告森下準備書面(9)丙39?41提出
◎同年 9月21日 原告第10準備書面提出
※同年 9月28日 Web弁論準備期日
◎同年 11月14日 原告第11(最終)準備書面提出
※同年 11月21日(火)10時15分? 103号法廷 口頭弁論期日・結審予定。
(2023年11月4日)
抑圧と差別の累積は、いつの日か爆発する。ある日マグマが噴出するように、あるいはプレートに亀裂が走るように。
抑圧され差別された者の爆発が、抑圧と差別を解消させるとは限らない。制圧されて、さらなる抑圧と差別に苦しむことになるかも知れない。しかし、新たな抑圧と差別の累積は、またいつの日か爆発せざるを得ない。国内の治安でも、国際関係に平和でも。
抑圧と差別を解消する努力を重ねることが、国内の治安を維持し、国際関係で平和を擁護する要諦である。戦争は武力の増大で防止できない。粘り強い国際協調と外交の努力を通じて国際的抑圧と不合理な差別を解消することが、戦争回避の王道ではないか。
パレスチナの惨状はそのように教えている。その教えの対価は、あまりに大きいものとなってしまっているのだが…。