憲法に試練の秋
秋9月。夏休みが終わって2学期が始まる。7月参院選後の束の間の休戦が終わって、いよいよ改憲に向けてのスケジュールが動き出す。抵抗運動も黙ってはおられない。
改憲だけでない。シリア状勢は緊迫しているし、福島第1原発の汚染水漏れ事故もたいへんな事態だ。安倍内閣と猪瀬都政は今月間もなくの東京五輪誘致で勢いを得ようとしているし、維新は堺市長選で党勢挽回を狙って懸命だ。
秋の臨時国会の開会は未定だが10月15日以降。ちょうど、靖国神社秋季例大祭(10月17日?20日)のころ。それまでに消費増税決行か否かが決まる。TPP問題も正念場を迎える。
臨時国会開会以前に、衆参の憲法審査会が動き出す。臨時国会が始まれば、下記の予定が目白押しだ。どれもこれも、一つ一つが、安倍自民にとっても、抵抗運動にとっても、容易ならざる問題。
*改憲手続き法(国民投票法)の「三つの宿題」実行
*集団的自衛権行使容認の解釈変更
*秘密保全法案の上程
*国家安全保障基本法案の上程
*日本版NSC設置法案(提出済み)の審議
*防衛計画の大綱の改定
*日米ガイドラインの改定
さて、今日は、夏休み明けの宿題提出の日。その日の朝刊が、与党も6年越しの宿題に本格的に手を付け始めると報道している。夏休み明けに提出の宿題には、優劣の差が大きい。一夏の時間をたっぷり掛けての出来映えもあれば、夏休みが押し詰まってからやっつけ仕事での間に合わせもある。与党が提出した宿題は、どうやらやっつけ仕事の類。しかも、全部ではなく、一部のみ。
周知のとおり、改憲手続き法(国民投票法)は2007年5月に成立した。3年後を施行期日とし、その間に「選挙年齢を18歳に引き下げ」「国民投票運動における公務員の政治的行為の制限緩和」「改憲以外にも国民投票のテーマ拡大」という「三つの宿題」の結論を出すよう定められた。第一次安倍内閣の政権投げ出しで、今日まで手付かずのままとなっている。
毎日の報道では、「自民、公明両党は1日、憲法改正の手続きを定めた国民投票の投票年齢を『18歳以上』に確定する国民投票法改正案を秋の臨時国会に共同で提出する方針を固めた」とのこと。成人年齢の引き下げか、少なくとも公職選挙法における選挙権年齢を18歳に引き下げることが予定されていたのを、改憲を急ぐために、改憲手続においてだけ、「18歳以上」としようというもの。それはないだろう。何をそんなに慌てふためいての宿題の提出なんだろうか。
「衆院憲法審査会は9月12?22日の日程で、9人がドイツなど欧州3カ国を視察する」そうだ。視察には保利氏のほか自民、民主、日本維新の会、公明、みんな、共産、生活の7党の幹事や委員が参加。ドイツでは憲法裁判所、イタリアでは原発を巡る国民投票について、チェコでは12年2月の憲法改正について実情を調査するという。臨時国会で再開する憲法審査会も最初の焦点は改憲手続き法(国民投票法)となる見通しだと報道されている。
さあ、私も、できることを探して、できるだけのことをしなければならない。
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「ジブチ」 唯一の自衛隊海外派兵基地
8月27日中東訪問中の安倍首相が「ジブチ」の自衛隊基地を慰問、自衛隊員を激励した。ジブチ共和国は紅海、アデン湾に面した元フランスの植民地でソマリアの隣国。ソマリアといえば海賊、そう私たちの頭にすり込まれている。2009年成立の「海賊対処法」に従って、ソマリア沖に出没する海賊から、日本関連の船舶を守るためとして、自衛隊の護衛艦2隻とP3C対潜哨戒機2機が派遣された。はじめアメリカ軍の基地を有料で借りていたが、2011年にはジブチの国際空港内に12haの敷地を借りて、自前で、280人用宿舎、駐機場、整備用格納庫を設置した。「海賊対処」を口実に、しっかり根を下ろした自衛隊の初の恒久的海外基地ができたわけである。
2009年「海賊対処法」成立時には、自衛隊の海外派遣について世論調査も行われた(海賊対策なら良し63%、それでも反対29%)が、恒常的海外駐留基地化は「ワーワー騒がれないうちに」「静かに行われた」ので、いつの間にか完成していた。軍艦や対潜哨戒機や200人からの自衛隊員が常駐しているのにだ。
最近は「ソマリアの海賊」の話もとんと聞かない。海賊活動は沈静化しているが、自衛隊が引き上げる気配は見えない。それどころか、今までは日本関連船舶のエスコートをしていた自衛隊だが、今年12月からは護衛艦の内の一隻がアメリカなどの多国籍部隊(CTF151)と一緒にペルシャ湾でも活動(ゾーンディフェンス)することになっている。そのうえ、安倍首相は今回のバーレーン訪問中、米第5艦隊司令官からP3Cを回すよう要求され、「前向きに検討したい」と約束したとのことである。
産経ニュース(8月29日)は「他国部隊との間で国際貢献活動を円滑に進めるには、集団的自衛権の行使を容認し、さまざまな事態に対応できるようにしておくことが望ましい。・・安倍首相は憲法解釈の変更など部隊が機能を十分に発揮できるよう、判断を急ぐべきだ」と言っている。
そういう観点からの布石が着々と打たれていると言えよう。貸したくない軍艦や哨戒機をシブシブ貸すわけではなく、渡りに船と、海外派兵も集団的自衛権も既成事実化しようというわけだ。もしかしたら、内閣法制局長官の国会答弁での解釈変更などなどないままに、既成事実は着々と進行してしまいかねない。
ところで、ジブチの自衛隊基地提供の根拠となっているのは、「ジブチ共和国における日本国の自衛隊等の地位に関する日本国政府とジブチ共和国政府との間の交換公文」。日米行政協定では自国内の基地を強国に提供する側だった日本が、この協定では逆に基地の提供を受ける側となる。その協定に注目したい。
その第8条は次のとおりである。
「日本国の権限のある当局は、ジブチ共和国の領域内において、ジブチ共和国の権限のある当局と協力して、日本国の法令によって与えられたすべての刑事裁判権及び懲戒上の権限をすべての要員について行使する権利を有する。」(外務省ホームページより)
すなわち、「自衛官、海上保安官らの日本人要員が任務中・任務外を問わず事件を起こした場合の刑事裁判権を、全面的に日本側に委ねるという、極度の治外法権が取り極められているのである」「日本人要員がジブチ国内でジブチ国民を強姦しようが暴力を振るおうが殺そうが、ジブチ側に一切の裁判権はないのである。これを書いている2012年10月段階で、沖縄における米兵のレイプ事件が大きな問題となっているが、仮に日本人要員の誰かがジブチの街中でジブチの女性をレイプした場合、裁判および処分はすべて日本側が日本の法により執り行い、ジブチ警察当局が基地内の捜索や証拠差押えをすることも認められない。これでは公正な判決が行われる保障など全くない」(高林敏之氏)という指摘がもっともである。
日本国民は地位協定の不平等に怒ってきたはず。今度は、自らが海外に基地を作り、しかも他国に不平等を押し付けているのだ。こんな「手口」は許しておけない。海外基地など撤去せよ。
(2013年9月2日)