澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

あらためて問う、NHK経営委員長森下俊三の違法行為と安倍晋三の任命責任。

(2022年3月30日・明日で連続更新満9年)
 NHKの予算決算は国会の承認事項となっている。衆参両院の本会議に諮られる前に、各院の総務委員会で質疑が行われる。今年は、3月24日に衆院の、昨日3月29日に参議院の各総務委員会でNHK予算についての質疑が行われた。この質疑において、衆院では宮本岳志、参院では伊藤岳の、共産党の両議員が、経営委員会の議事録開示問題に関して、鋭く的確な質問を行った。

 参院総務委員会での伊藤岳議員の反対討論を紹介しておきたい。

 「日本共産党はNHKのかんぽ生命不正販売に関するクローズアップ現代プラスの報道をめぐって、NHKが日本郵政グループからの圧力に屈して、第二弾の放送を取り止め、さらに経営委員会が会長を厳重注意したことは、放送番組は何人からも干渉されないとする放送法第3条、および第32条第2項に違反する行為であると指摘してきました。しかも経営委員会は、放送法第41条に反して、会長を厳重注意した議事録の公開にも背を向けてきました。こうしたもと、わが党は2020年度、21年度のNHK予算の承認に反対しました。昨年7月、経営員会は『議事起こし』を情報公開請求者などに対して開示しました。そこには、日本郵政からの圧力に屈する経営委員会の対応が生々しく記されていました。しかし、未だに全文を議事録として作成・公表しておりません。放送の自主自律を遵守せず、視聴者・国民への説明責任も放棄したNHKの対応に、国民の信頼は揺らいだままです。こうしたもとで、執行部が編成し、経営委員会が議決をした予算を承認することは出来ません」

 まことにこのとおりである。念のために、細かいことだが、用語の説明をしておきたい。NHKはその内規で、独自の情報公開制度を設けている。「情報公開」の態様を、「情報の開示」と「情報の提供」に分け、前者を開示請求者に対する「文書開示」とし、後者はホームページに掲載など全ての視聴者に閲覧可能とする。経営委員会議事録については、内規ではなく法律(放送法41条)が、遅滞なく作成して「公表」するよう命じている。公表はホームページに掲載して行われる。なお、『議事起こし』とは、経営委員会の議事の速記録と思われるが、文書開示請求者には開示されたが、NHKのホームページに掲載する方法での「公表」はなされていない。

 言うまでもなく、健全なジャーナリズムは健全な民主主義の基盤である。ジャーナリズムが権力の膝下におかれた状況では、平和も国際協調も人権も自由も平等も全てが危うくなる。

 歴史的経緯があって、日本のジャーナリズムの中心にはNHKが位置すると言って過言でない。おそらく今もなお、NHKは日本で最も影響力の大きなメディアである。その報道姿勢の如何は、日本の民主主義のあり方に死活的な影響を及ぼす。

 NHK執行部を監督する立場にあって、会長の任免権を持つNHKの最高機関が経営委員会である。内閣総理大臣の任命によるが、安倍晋三国政私物化内閣が成立して以来、この経営委員会の人選がメチャクチャである。ジャーナリズムのなんたるかを理解し、その理念を貫徹しようという委員の存在はまったく見えない。とりわけ、委員長森下俊三の不適切性は際立っている。

 今、100名余の原告がNHK情報公開訴訟に取り組んでおり、私も弁護団の一員である。原告らは、いずれも、これまでNHKに対する監視と批判の市民運動に携わってきた者。NHKが権力から独立していないことに危機感をもちつつも、NHKに真っ当なジャーナリズムの精神を期待して、一面批判し、一面激励してきたという立場である。

 その訴訟における最重要の請求は、「2018年10月23日経営委員会議事録の開示」である。この会議で、経営委員会は上田良一NHK会長(当時)を呼びつけて厳重注意を言い渡している。明らかにNHKの良心的看板番組「クローズアップ現代+」が、日本郵政グループによる「かんぽ生命保険の不正販売問題」に切り込んだ報道をしたことに対する牽制であり、続編の制作妨害を意図した恫喝である。

 これは、明々白々な経営委員会による番組制作への介入であって、放送法32条に違反する違法行為である。内閣総理大臣が任命した12人の経営委員が、このようなあからさまな違法行為を行っているのだ。

 我が国の民主主義のあり方に重大な影響力をもつ公共放送の最高機関である経営委員会がどのように運営されているか。また、その識見を見込まれて内閣総理大臣が任命した各経営委員が、それぞれの問題について、どのような発言をしているか。その言動に関して、視聴者に対する徹底した透明性が確保されなければならない。その「透明性」「説明責任」の確保があって始めて、視聴者の経営委員会批判やNHKのあり方への批判が可能となり、その自由で闊達な批判の言論こそが公共放送のあり方を健全なものとし、日本の民主主義の発展に資するべきことが想定されている。

 ところが、日本郵政グループの上級副社長・鈴木康雄と意を通じて、違法な「会長厳重注意」をリードした中心人物が、当時経営委員会委員長代行だった森下俊三である。こんな違法をやっているのだから、法が公表を明示しているにもかかわらず、議事録は出せない、出したくもない。2年にもわたって非公開とされ、文書開示請求も拒絶してきた。

 もとより、情報公開とは、行政に不都合な情報の開示を強制する制度である。行政の透明性を高め、歪んだ密室行政を是正するために不可欠な制度である。行政文書の開示請求への拒絶が問題となるのは、文書の公開を不都合とする行政当局者の姿勢の故である。公開を不都合とする行政の実態があり、これを隠蔽しなければならないとする行政側の意図が働いているからである。国民の目の届かないところで、国民に知られては困る行政が進められていることが根本の問題としてある。

 この点に関しては、NHKが自ら定めた情報公開制度においても、その理念も事情も異にするところはない。本件のごとき「経営委員会が隠したい議事録」こそが、正確に、且つ速やかに作成され、公表されなければならないのだ。

 『議事起こし』が、法41条の要求する文書であるなら、遅滞なく、誰もが閲覧できるように、ホームページに掲載する方法で、「公表」しなければならない。そうすれば、誰にも、外部勢力と通じてNHKの良心的な番組の制作に圧力を掛けた森下俊三の違法行為がよく分かるだろう。森下と、森下を任命した安倍晋三内閣の責任が厳しく問われなくてはならない。我が国の民主主義を救うために。

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