澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「検察庁法改正案」(検察人事介入法案)への抗議を貶めようという人々

先日、今年の流行語大賞候補には滅入る言葉ばかりと愚痴ったが、必ずしもそうでもなさそうだ。「Twiterデモ」や、「巣ごもりデモクラシー」などには、勇気づけられる。アベ政権とその応援団だけの天下ではない。いや、今やアベ政治の終焉が見えている。コロナ対応の失策と「Twiterデモ」とは、その象徴である。

5月8日17時40分発信という、歴史的な1件のツィートの主は、「笛美@fuemiad」と名乗る方。「広告業界の片隅にいます。20代で女性蔑視に染まり、30代でフェミニズムを知りフェミニズム関連の意見を発信していましたが、新型コロナきっかけで政治にも関心を持つようになりました。」と自己紹介をしている。「fuemiad」は、フェミニズムとアドバタイズの連結語なのだろう。

そのツィートは、下記のとおりである。
「1人でTwiterデモ #検察庁法改正に抗議します」「右も左も関係ありません。犯罪が正しく裁かれない国で生きていきたくありません。この法律が通ったら『正義は勝つ』なんてセリフは過去のものになり、刑事ドラマも法廷ドラマも成立しません。絶対に通さないでください。」

この方が、ネットに一文を寄せている。そのごく一部を抜粋して紹介したい。
「#検察庁法改正案に抗議します デモで知った小さな声を上げることの大切さ」
https://note.com/fuemi/n/n56bdee1d8725

「5月8日にいきなり内閣委員会で野党欠席のもと審議されて、来週には法案が通ることになったというニュースを見て震え上がりました。マスコミも大々的に報道せず、こっそり隠して採決まで持ってこうとしているようにも見えました。いても立ってもいられなくなり、とりあえず金曜の夜に1人でTwitterデモをやってみました。自分から発信した初めてのオンラインデモでした。」

「これまでグルグル考えていたことをベースにしながら、見た人がリツイートする敷居を低くしたいなと思いました。だから燃えるような怒りというより、静かな意思を感じられる表現にしました。それはデモビギナーの自分にとっても、自分らしく気負いなく言えるワードだったなと思います。ドラマなどの例えは、まだ知らない人にも分かりやすく伝わるようにと心がけました。独りぼっちで寂しかったので、バニーの絵文字を入れて行進してるっぽく見せました。…ぶっちゃけ本気で拡散させるぞ!なんて言う気は全くありませんでした。」

「最初はいつも仲良くさせてもらってるフェミニストの方々が投稿に反応してくださいました。…しばらくして、手作りバナーや相関図を作るアカウントさんが出てきたり、政治にアンテナの高いアカウントさん、作家さん、さらには野党の議員さんにも、ツイートが広がっているのに気付きました。」と予想外の事態の展開が述べられている。

この人の文章は、「次はあなたが、どんな声でもいいので出してみませんか?」という呼びかけで締めくくられている。

このたった一人のTwitterデモの呼びかけに多くの人が呼応した。まさしく燎原の火のごとき勢いで。これは、政治的・社会的事件である。本日(5月13日)の東京新聞の紹介では、同じハッシュタグを付けたツィートは900万件を超えたという。多くの人が、この政権への潜在的批判者となっているのだ。

有名無名を問わない多くの人々がツィートに賛意を表し、自分の言葉でこの法案に抗議した。当然これを面白くないとする勢力がある。このTwitterデモの「山が動くがごとき盛り上がり」を貶めようという、いつもながらのアベシンパは少なくない。

これまでその名が目立っているのは、高橋洋一、百田尚樹、加藤清隆、足立康史、竹内久美子、堀江貴文、鈴木宗男などである。総じて、取るに足りない。

彼らの立論のひとつは、「反対論者バッシング」である。「反対論者は、法案を読んで理解の上で反対しているのか」という、上から目線の無礼な物言い。反対論者の反対理由に噛み合った反論はなく、自らは積極的に法案賛成の理由を述べるところはない。ひたすらに反対論者をバッシングし、「政府は正しい。反政府論者は根拠なく騒いでいるだけだ」という発言によって、自らの忠勤な御用ぶりを見せようという、さもしい論者の言でしかない。

立論の二つ目は「陰謀論」である。「検察庁法改正案を反民主主義的悪法と宣伝する陰謀に乗せられるな」というわけの分からない論法。わけが分からないが、政権が論理的に追い詰められたときには「陰謀論」は万能薬として使われる。もっとも、どんなときでも使えるという万能薬の効き目は薄い。普通は、陰謀論を持ち出した途端に論拠破綻の自白とみなされ、みっともなさをさらけ出したことになる。

立論の三っ目は、「すりかえ論」である。「法案に対する反対論は、こう言っている」と的はずれのすり替え論点で、反対論を批判するやり口。反対論の内容を正確に把握しての批判であれば有益な議論になるが、検察庁法改正問題については、官邸も法務省も的確な反論をしていない。

立論の四っ目は、検察権力の過剰な強化に反対の立場からの、体験的な官邸権力強化擁護論である。これは、堀江や鈴木の立場である。検察権力の過剰な強化に反対は納得できるが、今問題は、検察を政権の番犬に貶めてよいかという局面での議論である。現在の法案に賛成する理由にはならない。

問題の本質は、検察官の定年延長にあるのではない。これまでなかった定年延長を導入するに際して、内閣がその恣意に基づき、「特例」として、検察官役職と定年の延長・再延長の可否を決することができることが問題なのだ。この法改正によって、内閣が検察幹部人事に介入し、検察のトップを官邸の息のかかった人物で固めることができる。この権力分立の崩壊は民主主義の根幹に関わる。

その問題性の本質を理解するためには、政権というものに対する批判の基本姿勢、とりわけ数々の政治の私物化をしてきたアベ政権に対する批判の姿勢がなくてはならない。そして、検察官という職能は、他の公務員とは根本的に異なり、犯罪行為あれば安倍晋三をも逮捕し起訴する権限をもっていることの重要性の把握が不可欠である。その地位の保障は、公務員一般と同等に考えることはできない。準司法的立場にあって、政権の清廉のために、検察官は政権からの介入を厳格に排除した独立性の確保が求められる。これを切り崩すことにならざるを得ないというのが、法案反対論の核心である。
これに対する、真正面から噛み合った反論も弁明も提起されていない。
(2020年5月13日)

コロナ風だけではない。アベ暴風の中、本郷三丁目交差点で。

ご近所のみなさま、ご通行中の皆さま。お騒がせしますが、もう少しの時間。耳を傾けていただくようお願いします。
本郷湯島九条の会は、日本国憲法とその平和の理想をこのうえなく大切なものと考え、毎月第2火曜日の昼休み時間を定例の街頭宣伝活動の日と定めて、ここ本郷三丁目交差点「かねやす」前で、雨にもまけず風にも負けず、新型コロナの緊急事態にも負けずに、ささやかな訴えを続けています。

緊急事態と言われる今だからこそ、国民の声が封じ込められるようなことがあってはならない。このようなときにこそ、大切な表現の自由を錆び付かせず、訴え続けなければならない。そのような思いからの、本日の宣伝活動です。

先月同様、私たちからご通行中の皆様に、署名を求めたり、ビラの配布のために近づいたりはいたしません。基本的には、全員マスクをして、スタンディングのスタイルで訴えております。横断幕や、スローガンを書いたプラスターをご覧ください。そして、昼休みの限られた時間、マイクでの訴えに耳をお貸しください。

「この非常時だ、国を信頼して思いきったことをやらせるべきだ」という声もあります。しかし、それは明らかに間違っています。権力には常に批判が必要です。このようなときにお上にお任せしていては、徹底した弱者の切り捨てが行われます。しかも、安倍政権まやることです。政治と行政を私物化し、ウソとごまかしに明け暮れ、散々に公文書を隠し改竄してきた、薄汚い政権ではありませんか。こんな政権を信頼してお任せできるはずはありません。

アベ内閣のコロナ禍対策には、後手後手という批判が集中しています。しかし、それだけではありません。この汚い政権は、コロナに国民の意識が集中している間に、どさくさ紛れの悪法成立をたくらんでいます。まさしく火事場泥棒。その典型が、検察庁法改正法案です。

先週の金曜日5月8日に、衆院内閣委員会は、国家公務員法と検察庁法の抱き合わせ法案の審議を行いました。野党抜きの審議強行です。国家公務員の定年延長については問題がない。問題は、幹部検察官の人事に官邸が介入できるように仕組みをあらためる検察庁法改正案にあります。

アベ政権は、各省庁の幹部人事に介入することによって、その権力を固めてきましたが、検察庁人事にも手を出したい。そうすることによって、マクラを高くして眠りたいのです。

かつて、検察は国民からの信頼を得る存在でした。田中角栄をも逮捕し、起訴した実績を持ちます。検察のトップは、「巨悪を眠らせない」と名言を吐いています。そんな検察では、安倍は安眠することができない。アベは、検察を我が手におさめることで、ぐっすり眠りたいのです。

この法案のねらいは、官邸による官邸のための検察人事への介入を認めることなのです。人事への介入を通じて政権に対する検察の牙を抜こうというのです。この法案は、官邸が幹部検察官を選り好みして、政権に擦り寄るヒラメ検察官には定年を延長し、硬骨漢には定年延長の途を閉ざそうというのです。

こうして、検事総長や検事長や、あわよくば検事正までの全ての検察官を官邸寄りの人物で固めてしまおうということなのです。

アベ政権とは、後ろ暗い政権です。政治を私物化し、行政を私物化してきた。しかも、その手法は嘘とごまかしで固められたもの。公文書の隠匿・廃棄・改竄はお手のもの。モリ・カケ・サクラでは、内閣の関係者多数が刑事告発されています。安倍晋三本人も告発対象となっています。

硬骨な検察幹部が決意を固めれば、政権トップに対する刑事訴追がなされて、たちまち政権は崩壊の危機に陥ることになります。そこで、アベは、黒川弘務東京高検検事長を検事総長にしようと考えました。彼こそは、安倍政権の守護神と異名をとった検察官。そのための布石として、定年となった黒川の定年を延長した。2021年8月に定年退職する稲田検事総長のあとがまに据える含み。

この露骨な検察幹部人事介入強行は実は違法なのです。これに対する非難が巻きおこると、アベはまたまた考えました。違法・脱法だというのなら、法律を変えてしまえ。そうすれば問題ないじゃないか。いかにもアベらしいやり口。

これが、どさくさ紛れの法案の正体です。検察を手中に置くことでのアベの安心は、国民の不安、民主主義の不安でもあります。何よりも、刑事司法の公正に対する国民の信頼を失墜させることにほかなりません。このことに危機感を抱いた一人の女性が、8日に「ツイッターデモ」を呼びかけて、「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグを付けたツイッターを発信しました。これに賛同する同じハッシュタグのツイートが600万件を超えたと報じられています。

しかし、それでも政権は明日(5月13日)の委員会審議強行を明言しています。強行採決もあるかも知れません。これを止める力は、世論しかありません。

皆様。ツイッターでも、メールでも、ブログでも、ファックスでも、声を上げてください。鑑定や国会や、与党に声を届けてください。よろしくお願いします。

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薄曇りの夏日になった本郷三丁目かねやす前の昼街宣になりました。
男女合わせて7人の方々が結集しました。これまでのように署名・チラシ配布は控え、かつ social distance を取るという気の配り用なのです。マイクの声は本郷通り、春日通りに響き渡りました。さまざまな plasterを一人2枚持ち、かねやす前に立ち道行く人々に訴えました。

マイクはやはり検察庁法改定案に集中しました。黒川弘務東京高検検事長の定年は2月8日で、その前の1月31日に「黒川弘務東京高検検事長の定年延長の閣議決定」を安倍晋三首相は強行したのです。黒川検事長を検事総長に据えようという魂胆がみえみえなのです。ということは安倍晋三首相は自らの罪を自覚し、罰を恐れている証左とも言えます。このことを訴えました。かつ国家公務員法改定案に潜り込ませる「束ね法案」ということです。検察庁法が一般の国家公務員法と別につくられている意義は、検察官は起訴の権限を独占し準司法官的な役割を担っていることにあります。安倍晋三政権は、法体系・法解釈を破壊し、法の支配から「人の支配」に変えるというクーデターを強行しようとしているのです。

plaster のいくつかを書いておきます。
●アベ政権の検察私物化ゆるさない
●憲法改悪許さない
●おそいおそい 急いで給付を
●倒産・廃業・失業 ストップ
●はやく家賃給付・給料補償・雇用助成金を
●だまされないぞ コロナ不安につけこむ憲法改悪
●エッセンシャルワーカーの給料引き上げよう、みなさんありがとう
まだまだいっぱいありますが、このへんにしておきます。

道行く人々もそれとなく聴いているようでした。これからが正念場です。

「本郷・湯島九条の会」石井 彰

(2020年5月12日)

アベ政権の火事場泥棒にご注意を

今年の流行語大賞の選考は、気が滅入る言葉ばかりとなる。「コロナ」と「サクラ」、それに「ソーシャル・デスタンス」と「マスク」は当確だろう。「3密」と「アマビエ」も有力。さらに「後手後手」と「火事場泥棒」もダークホースだ。これまでは、「嘘とごまかしのアベ政権」、「公文書、隠匿・改竄・破棄のアベ政権」、「政治と行政私物化のアベ政権」と言ってきたが、このたび目出度くも「後手後手のアベ政権」、「火事場泥棒アベ政権」と枕詞が増えたわけだ。

「後手後手」は誰の目にも分かり易い。なにしろウィルスは融通がきかない、アベに忖度してくれないのだからこうなる。これに対して、「火事場泥棒」には、一言説明が必要だろう。昔から、火事場泥棒は卑劣極まりない犯罪と非難されてきた。混乱に乗じた手口が汚いということもあろうが、被害者の不幸に付け込んで私益をむさぼろうという心根こそが卑劣極まりないという非難の本質なのだろう。アベ政権と与党が今国会でしていることは、まさしく「火事場泥棒」と非難を受けねばならない。

いま、コロナ禍という大火の真っ最中である。国政は、国民のために、全力を上げて鎮火に努力しなければならない火急の事態。人びとが火を避け、火を消そうと必死で右往左往しているその火事場で、政権と与党はずる賢く立ち回ろうとしている。国民の関心がこの火勢に集中しているのをこれ幸いと、普段ならできないことを火事場の混乱に乗じて一気呵成にやってしまおうというのだ。薄汚い、「火事場泥棒」以外の何ものでもない。

政権が火事場泥棒として狙うものは、まずは改憲である。その第一歩としての憲法審査会での審議入り。そして今注目の検察庁法改正問題(検察人事コントロール法案)。その他、種苗法改正、「スーパーシティ」法案(国家戦略特区法改定案)、サクラ疑惑封じ込め、森友事件収束等々。油断も隙もない。

この火事場で盗まれようとしているのは、法の支配であり、立憲主義であり、 三権分立であり、刑事司法の公正であり、農産物の自給体制と農家の経営であり、行政の公平性等々である。コロナだけにではなく、アベ政権と自公の与党、そして急速に政権に近づこうとしている維新の動向に目を光らせねばならない。

火事場でも、泥棒の被害を避けるための警戒が必要なのだ。火事にだけでなく、戸締まりにも用心していることを示さなくてはならない。普段なら、集会、デモがその役目を果たすことになるのだが、今それができない。

それでも、知恵のある人はいるもので、この事態での火事場泥棒被害を避けるための工夫として、「Zoomで『#検察庁法改正案に抗議します』の反対集会をしよう」という呼びかけが始まっている。さて、どんなものになるのか、これは興味深い。

(2020年5月11日)

「官邸による検察の私物化を許すな」「どさくさ紛れの不要不急審議強行をやめよ」

本日(5月10日)の朝日新聞デジタルに、「検察庁法改正に抗議、ツイッターで470万超 著名人も 」という記事。20時18分の掲載である。

 検察官の定年を65歳に引き上げる法改正案を認めていいのか――。作家や漫画家、俳優、音楽家らが10日未明、疑義を唱える声をツイッター上で次々と上げた。「#(ハッシュタグ)検察庁法改正案に抗議します」の投稿が相次ぎ、その数は午前8時過ぎには約150万件、同10時過ぎには200万件、午後8時には470万件を超えた。

NHKオンライン(5月10日16時59分)では、この数が380万件を超えたと報じられている。

 検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案について、ツイッター上では、9日夜から10日にかけて、俳優や演出家などの著名人による抗議の投稿が相次ぎ、同じハッシュタグをつけた投稿が10日午後3時半の時点で380万件を超えるなど、広がりを見せています。

 朝日の記事を抜粋する。

 「もうこれ以上、保身のために都合良く法律も政治もねじ曲げないで下さい。この国を壊さないで下さい」。俳優の井浦新さんが10日朝に投稿すると、「いいね」が1万(後には3万)件以上ついた。

 法改正案への抗議として、ハッシュタグ(#検察庁法改正案に抗議します)で賛意を示したのは、俳優の浅野忠信さん、秋元才加さん、芸人の大久保佳代子さん、漫画家のしりあがり寿さん、羽海野チカさんら。小泉今日子さん本人によるものとみられる投稿もあった。

 9日午後に10万件程度だった投稿数は、10日午前3時ごろに100万件を突破。「三権のバランスをくずすこと、国を『国民』ではなく『自ら』の都合のよい形にするのはやめてほしいです」という声があがり、著名人に対しては「勇気あるツイートに感謝します」「とっても頼もしい」という賛意も寄せられた。

ネットメディア言論に詳しいジャーナリスト津田大介さんは、驚きを隠さない。
「新型コロナウイルスへの政府の対応は緩慢な一方、『不要不急』にみえる定年延長の法改正は迅速に進む。一般に馴染みがなく、わかりにくい問題だったが、政府に注目が集まる今だからこそ気づかれることになった」と読み解く。

 内閣の判断で検察幹部の「役職定年」を延長できるようにする検察庁法改正案の委員会審議は今月8日、与党が強行する形で始まった。黒川弘務・東京高検検事長(63)の定年延長問題を追及する野党側は、森雅子法相の出席が必須などと求めているが、与党は応じず、与党は週明けの委員会採決をめざすとみられる。

 安倍内閣は、1月末に政権に近いとされる黒川氏の定年延長を閣議決定。検察トップの検事総長に就ける道を開くことになったため、「検察の私物化」との批判の声が上がっていた。

 これは、凄いことになってきた。山が動くという感がある。この法案は、単なる検察官の定年延長法案ではない。この法案のねらいは、官邸による官邸のための検察人事への介入である。人事への介入を通じて政権に対する検察の牙を抜くことにある。この法案は、官邸が幹部検察官を選り好みして、政権に擦り寄るヒラメ検察官には定年を延長し、硬骨漢には定年延長の途を閉ざそうというのだ。こうして、検事総長(全国の検察官のトップ)や検事長(全国8高検のトップ)の人事を、あわよくば検事正(各地検のトップ)までの全て官邸寄りの人物で固めてしまおうという狙いが見え見えである。

アベ政権とは、後ろ暗い政権である。政治を私物化し、行政を私物化してきた。しかも、その手法は嘘とごまかしで固められたもの。公文書の隠匿・廃棄・改竄はお手のもの。モリ・カケ・サクラでは、内閣の関係者多数が刑事告発されている。安倍晋三本人も告発対象となっている。

硬骨な検察リーダーが決意を固めれば、政権トップに対する刑事訴追がなされて、たちまち政権は崩壊の危機に陥ることになる。今はそのような事態なのだ。安倍晋三はマクラを高くして、眠ることができない。

かつて、検察のトップは、「巨悪を眠らせない」と名言を吐いている。そんな検察では、安倍は困るのだ。アベはぐっすり眠りたい。

そこで、アベは考えた。黒川弘務東京高検検事長を検事総長にしよう。黒川こそは、安倍政権の守護神と異名をとった検察官。かつて、彼が法務事務次官に就任したときも、官邸のゴリ押しだったと報道されている。そのための布石として、定年となった黒川の定年を延長した。来年8月13日に定年退職する稲田検事総長のあとがまに据える含み。

検事の定年の定めは検察庁法に記載してあるが、定年延長の定めはない。そこで、アクロバティックに国家公務員法の規定を使った。まったく前例のないことである。この露骨な検察幹部人事介入強行に対する国民の非難が囂囂と巻きおこった。違法だ、脱法行為だ。官邸による検察を支配を許すな。

そこで、アベはまたまた考えた。違法・脱法だというのなら、法律を変えてしまえ。そうすれば問題ないじゃないか。自公で十分な議席をもっている。維新まで、アベに擦り寄っているいま、国会は思いのままだ。今のうちに、できることはやってしまえ。

これが、火事場のどさくさに紛れての検察人事コントロール法案の正体なのだ。
(2020年5月10日)

『検察官人事コントロール法案』に反対。強行審議に抗議する。

最近の会合は、オンラインで行われる。そのほとんどが、Zoom(ズーム)を使ってのもの。あっという間に、このアプリが社会に入り込み生活に定着した。その普及の迅速さに、感覚がついていけない。振り返って、「コロナとともに蔓延したZoom(ズーム)」と思い起こす日が来るのだろう。

確かに便利ではある。しかし、どうも機械を介しての複数の遠隔会話は勝手が違う。場の空気を読めない。従って発言がしにくい。どうしても絞られた要件だけの発言となる。事務的な会議ではそれでよいわけだし、時間の節約にもなる。だが、談論風発して弾んだ話が思いがけない方向に進展して新しい方針として結実する、などという会合の妙味には乏しいのではないだろうか。まだ、単に慣れないせいなのかも知れないが。

昨日(5月8日)は、日民協の執行部会。ややぎこちないZoom(ズーム)での会議だが、要領よく発言する方に感心した。

テーマのひとつが、検察庁法改正問題。昨日(5月8日)に、唐突な衆院内閣委員会での審議入りである。立・国・社・共の野党が欠席のまま、自・公の与党に準与党の維新が加わっての審議強行と報告された。次回予定は13日、来週の水曜日とされている。野党は強く反発しているが成り行きは予断を許さない。13日までの運動が喫緊の重要事となっている。

報告の中に、法案の問題点が意識的に分かりにくくされているとの指摘があった。
「国家公務員法と検察庁法の二つの改正法案が意図的に抱き合わせにされているところが注意点。国家公務員の定年延長に問題はない。しかし、官邸が恣意的に検察庁幹部の定年延長人事を左右できるようにすることは大問題だ。官邸の非違を質すべき立場にある検察が、官邸に忖度する検察になり下がってしまう。

「だから、国家公務員法改正法案と、検察庁法改正法案を分離して審議せよというのが、野党の主位的な主張だが、数の力のゴリ押しでなかなかそれが通らない」
 「せめて、内閣委員会だけではなく、法務委員会との連合審議にせよというのが、野党の妥協線なのだが、これにすら耳を貸さないのが、本日の内閣委員会での審議強行」

改正案は、毒まんじゅうなのだ。餡にくるまれた毒が入っている。アベ内閣の、またまたの暴走。普段なら、大問題としてメディが大きく取りあげるところが、コロナ禍に隠れた格好で報道がまことに小さい。また、メディアが的確に問題点を把握していないのではないか。与党と維新の側も、問題が大きくならないうちに、コロナ禍に隠れて一気呵成にことを進めようという魂胆がありあり。まさしく、「火事場泥棒」

ここで、ジャーナリストの丸山重威さんから的確な発言があった。
「分かりにくい抱き合わせ改正法案は、これまでも経験してきたところ。こんなときには、まずネーミングに工夫が大切。」「『検察庁法改正案に反対』では、訴える力がない。本質に切り込んだ法案のネーミングを考えなければ」「たとえば、『検察官人事コントロール法案』ではどうだろうか」

なるほど、おっしゃるとおりだ。火急の問題。あれこれ考えているよりは、この提案を生かしたい。

なお、共産党・山添拓議員からは、メーリングリストでこんな報告があった。
「今日(5月8日)は午前9時から、衆院内閣委員会で実質審議入りが強行されました。自民2名、公明、維新各1名が質疑し、野党の持ち時間は「空回し」せず休憩に入り、そのまま散会となりました。
 与党も維新も、検察庁法について全く質問していません。そもそも法務省の政府参考人を誰も呼んでいませんので、ハナから審議するつもりはなく、世論の批判などおかまいなしに(あるいは批判を恐れて?)、国会審議でスルーと決め込んでいます。通常、批判のある法案であれば与党も一応気にして、政府に弁明させる質問を一問ぐらいはするものですが、それすらできなかったようです。」

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本日(5月9日)の赤旗一面トップは、次のように、報じている。
「検察庁法改定案 与党が審議入り強行」「コロナの最中に 野党、抗議し欠席 衆院内閣委」

自民、公明などの与党は8日、衆院内閣委員会で、検察人事に内閣が露骨に介入する仕組みが盛り込まれた検察庁法改定案を含む国家公務員法等改定案の審議入りを強行しました。野党議員は、与野党の合意がないままの委員会開催と検察庁法改定案の審議入り強行に抗議し委員会を欠席しました。

野党側はこれまで、検察庁法の改定は憲法の要請に基づく三権分立にかかわる問題だとして、国家公務員法改定案と検察庁法改定案の切り離しを要求。検察庁法を所管する森雅子法相の出席を求めてきました。

ところが、与党側はこれらを拒否。与野党の合意がないままに委員長職権で委員会を開催し、改定案の審議入りを強行しました。

野党の内閣委員は同日、そろって記者会見し、日本共産党の塩川鉄也議員と、立憲民主党、国民民主党などの共同会派の大島敦(国民民主党)、今井雅人(無所属)両議員が抗議を表明しました。

塩川氏は、同改定案が昨年段階ではなかった検察官の勤務延長を突如盛り込んだ点について、この改定の出発点は、官邸に近いとされる黒川弘務東京高検検事長の勤務延長の閣議決定にあると指摘。「憲法の基本原則である三権分立と司法権の独立を脅かし、官邸の意のままになる検察人事を行い、その勤務延長にあわせようとするのが今回の法改定だ」と批判しました。
その上で、「審議を強行するのは、道理のない法改定についてまともに説明することができないことを認めたのと同然だ」と強調。「新型コロナ感染症対策に全力を挙げるべきときに、火事場泥棒的に悪法を強行する安倍政権の姿勢が厳しく問われる」と抗議しました。

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35弁護士会「反対」検察官定年延長 「三権分立脅かす」

検察の独立性を侵す検察庁法改定案の審議を自民・公明と維新が衆院内閣委員会で強行する中、全国に52ある単位弁護士会の3分の2にあたる34都道府県の35弁護士会の会長が検察官の定年延長と同法案に反対する声明を発表したことが8日、本紙の集計でわかりました。
同法案をめぐっては、日本弁護士連合会の荒中(あら・ただし)会長が4月6日に反対する声明を発表。これを受けて、10を超える弁護士会で続々と声明が発表されています。
安倍晋三首相の地元、山口県弁護士会は先月23日に反対の会長声明をあげています。
声明では「この改正案が、最高検察庁次長検事などの役職人事に政府の介入を認めるものであって、検察官の独立性をより強く侵害し、三権分立を定める憲法秩序を脅かす」と指摘しています。

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検察官の定年延長 有志団体「弁護士1500人が反対」と批判
(NHK2020年5月8日 17時)

検察官の定年延長を最長で3年まで可能にする検察庁法の改正案に反対する団体がオンラインで会見を開き、団体の活動に賛同する弁護士が全国で1500人に上ることを明らかにしたうえで「新型コロナウイルスの影響が広がる中、拙速に国会での審議を進めるべきではない」と訴えました。
検察官の定年を段階的に65歳に引き上げ、定年延長を最長で3年まで可能にする検察庁法の改正案は、国家公務員の定年を引き上げるための法案と合わせて8日から衆議院内閣委員会で審議が始まりました。

これについて法改正に反対する有志の弁護士で作る団体が8日、オンラインで記者会見を開き、「改正案は検事長らの定年延長の判断を内閣や大臣に委ねるもので、検察の政治的中立性や独立性を脅かす」と訴えました。

そのうえで、呼びかけを始めた4月下旬からのおよそ2週間で、活動に賛同する弁護士が、日弁連(日本弁護士連合会)の会長や副会長経験者を含め全国で1500人に上ったことを明らかにしました。

(2020年5月9日)

ウィルスもアベもとおくにとんでいけ

毎日新聞の仲畑万能川柳、これが常にも増して面白い。憂さ晴らしに、川柳はもってこいである。本日(5月8日)選の中に次の一句。

コロナうつ万柳詠んで吹き飛ばせ 尾道 瀬戸の花嫁

のみならず、このご時世ネタは尽きない。この万柳のためだけに、毎日新聞を定期購読しているファンもあると聞く。むべなるかな、この川柳欄に群がる投稿者たちは独特の部分社会を形作っている。社会の本流からは少しはずれた、それゆえに健全な部分社会。

※最近の句で目立ったのは、マスクネタである。

マスク二枚配りみんなの口封じ  浦安 さやえんど
  これは秀逸。愚かな意図を見抜いた上で、笑い飛ばしている。

アベマスク家族4人であみだくじ 鹿沼 鹿沼土
  ハズレの二人がバツゲームとして使うことになる。

マスクよりお似合いですよ「頰っ被り」 戸田 小松多代
  もちろん、マスクを配ったあの人のこと。

二枚ずつアベノマスクの二百億 北九州 エミリー
  当初は200億の報道だった。いずれにしても愚かの極み。

10万とマスクのどっち先か賭け 静岡県 増田謙一郎 

布マスク変えられないか前広に 千葉県 姫野泰之 

散会時マスク総理は即外す 東京都 後藤克好 

躊躇なくマスク二個とは情けない 町田 不銹鋼

一世帯一人もいれば七人も 宗像 水芭蕉

売れる程手作りマスク上手くなり 寝屋川 ヒロポン

マスクかけ佐保姫別れの袖を振り 埼玉県 磯貝満智 

春うららマスクの形に日焼けして 柏原 年中無給

香港のマスク禁止は終わったの? 大野城 ぶび子

完売の文字が褪せても来ぬマスク 多治見 和宇茶中

※マスク以外のコロナ禍も笑いのネタに

二週間いつまでたっても二週間 東京都 新井文夫 

捲(めく)っても出口見えないカレンダー 茨城県 清水方子 

検査する代わりコーヒー嗅がされる 青森 よしのまち

オナラして臭い感じて安心し 大阪 板はん

コーヒーのたびに匂うか確かめる 東京 緑カレー

恐ろしやコロナ対策銃を買う 西宮 軒の小雀

取った税貸してあげると言う政治 海老名 しゃま

言い訳のアベオンステージNHK 別府 タッポンZ

志村さん「だいじょぶだあ?」って言ってたじゃん 千葉 ペンギン

オレなんざもともと距離を置かれてる 行田 ひろちゃん

ニュースから消えて下さいコロナの字 大田原 武田正子

メモを読む総理に空気読まぬ嫁 福岡 猫懐

クラスター→オーバーシュート→ロックダウン 交野 令和の令子

怖いのはコロナニュースに慣れたとき 神奈川 カトンボ

新聞が痩せた戦中思い出す 神奈川県 金澤紀六 

ステイホーム肥後で申せば「籠城じゃ」 長崎県 前田一笑 

あるんだね皆テレワークできる社も 宝塚 おーい銅将

ウイルスは「やってる感」では騙せない 東京 三次

コロナ禍も議員歳費はご安泰 水戸 むっちゃん

コロナから知る全国の知事の顔 岐阜 金子錆男

消毒をした手でノブを触るドジ 和歌山 松原まつこ

予定表消してばかりだこの春は 高槻 風頼坊

ひと月の長さ感じる新コロナ 山形 かみやじい

こんな時弱い人から解雇され 相模原 アンリ

日本語で怖さがわかる都市封鎖 茨木 イシマリ

我も彼もマクベスのごと手を洗う 熊本 しゅ

こんな事あるんやなあと空見上げ 伊丹 しずく

世界から握手抱擁消える日が 芦屋 言閑マダム

目に見えぬコロナこわくてひきこもる 三豊 泣きっ子

呼吸器もベッドも足らぬ医療大国 白石 よねづ徹夜

※川柳子は安倍晋三にも優しい

万柳の良いとこ安倍の支持もいる 白石 よねづ徹夜

もう既に「あきれ夫人」と呼ばれてる 川崎 さくら

後手後手の旦那のたまう「前広」と 神奈川県 安藤隆喜 

取る気ない責任だから軽く言え 東京 城山光

※9月始業もネタになる。

新入生引き受けますと秋桜(コスモス)が 埼玉県 磯貝満智
  これは優しい。コスモスがサクラにささやいている。

袴(はかま)から浴衣に変わる卒業式 埼玉県 金子雄一 
  なるほど。それも楽しい。

九月から始業コロナが薄笑い 東京都 大和田淳雄
  これは恐い。9月からの始業などできるものかと鬼のよう。

※ そして健全な精神は森友事件を忘れない。赤木さんのことも。

悪代官しっぽ切りまで部下にさせ 鹿沼 鹿沼土

部下死んだかまっちゃおれぬ出世道 周南 石丸壽人

忖度は懲戒受けても出世する さいたま 高本光政

権力の凄まじさ遺書見せつける 日立 北の馬場

忖度は人を殺すと皆知った 福岡 ナベトモ

もういいよ事実を言っても佐川さん 豊川 雨ニモ負太

起訴不起訴凄い力の検事さん 兵庫 新ポスト

(2020年5月8日)

不要不急の防衛費の支払いが大切か、コロナ禍に苦しむ国民の生活が大切か。

お代官様。
3郡16か村の百姓一同からのお願いでごぜいますだ。よろしくお聞きくだされ。

ほかでもねえ、今年の年貢のことでごぜいますが、どうしたって払えっこねえ。

ご存じのとおり、今年はこの領内に悪疫が流行りましてな。疫病神は、田にも畑にも、森にも林にも、はびこりましたでごぜいます。疫病神から逃れる場所と言えば、疫病退散のお札を貼った家の中だけでごぜいましてな。

そんな案配で、お代官様の指図もありまして。田起しから出穂の季節まで、村人一同は、外に出ることはかないませんで、一家揃って家内で自粛でございました。もちろん、子どもの寺子屋通いも、できねいありさまで。

だあれも、田にも、畑にも出ることとてなく、薪を切ることも、山菜摘むこともできんまま。これまでの蓄えを食い潰して、とうとう秋を迎えたでごぜいます。いつもの年であんしたら、五公五民で米俵を積み上げとるころですが、今年ばかりは納めるにも米はない。米に代わる金目の物もない。村人は、芋ばかりを食って生き延びておりやんす。そんなわけで、今年ばかりは年貢をご勘弁いただきたい。

いや、おねげいはそれだけではごぜいませんだ。来年の種籾は村内のどこを探しても、一粒たりともござりませんので。このままでは、来年の米の作付けはおぼつかねいことでございましてな、来年の年貢を納めることもできません。ここは、代官様の思し召しで、村民一同の全所帯に種籾一俵ずつを、お助け米として一律にお配りいただきとうごぜいます。

もとはと言えば、百姓どもが毎年この場に積み上げて納めた年貢の内のちょびっとをお返しいたただきたいというだけのこと。ぜひとも、お聞き届け願いたいものでごぜいます。

もちっと、おねげいがごぜいます。村の子どもたちが、今年は手習いやら稽古事も満足にできません。立派な子どもは、領国の宝でごぜいますし、親の願いでもごぜいます。子どもたちの学びのためのお金の工面を、代官様、是非ともおねげいしますだ。

いんや、それだけではねい。村人みんな、疲れ果て、腹を空かせ、病んでおります。ご領主様が、領民のためにやってくれたのはマスク2枚を配っただけ。あとは、ご城内にこもって犬と遊びほうけているちゅうとか。このままでは、領民は飢えて死ぬか、他国に逃げるかするより外はございませぬ。領民がいなくなれば、ご領主様もあの奥様も、食べてはいけなくなりますぞ。ぜひとも、お城と代官所の藏を開けて、お助け米を領民にお配りいただくよう、お願いしますだ。

まだある。すっかり荒れた田畑も山も林も手入れをしなけりゃならん。疫病退散のお祝いの祭りも盛大にやらねばならん。川のさらいも、堤防の直しもせねばならん。村人の薬も買わねばならん。ここは、思い切って、ドーンとお助け金を弾んでもらわねばなんねい。

この段、覚悟のお願いじゃ。お気付きなされまたかな。村人3千人。鉈だの鎌など携えてこの代官屋敷を取り巻いておりますぞ。必ず聞いてくだされい。

なんとな。そんなカネはないとな。そうは言わせぬ。ご領主は、遠国のバカ殿からF35ステルス戦闘機やイージス戦闘システムを買い付ける約束をしたそうじゃと聞いておる。なんと愚かなご領主様よ。百姓どもの汗と涙が不要不急の武器の買付に消えて、それでも疫病で苦しむ民百姓を見殺しにするとおっしゃるか。

同じ遠国のバカ殿から、同じような兵器買付の約束をした隣国のご領主の方はウチのご領主とはずいぶん違って、こうじゃというではないか。
「韓国政府は4月16日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う対策として追加補正予算を編成し、全世帯に支給する「緊急災害支援金」の財源として、国防費9047億ウォン(約795億円)を削減して充てることを決定。4月30日に補正予算が成立しました。削減対象はF35ステルス戦闘機やイージス戦闘システムの米国からの購入費で、支払いを来年に先送りする方向だといいます。」(半田滋)

隣国にできたことが、どうしてご領内ではできぬことがありましょうや。いずれ、ご承知いただけないときは、われら一揆に立ち上がる覚悟はとうにできている。この屋敷を取り巻いた百姓どもの鬨の声が聞こえませぬかの。そっちの覚悟はいかがかの。
さあどうじゃ、肚をくくってご返答をいただきたい。さあ、さあ。さあさあさあさあ。
(2020年5月7日)

信頼できる首相は私たち自身の手で

5月3日・憲法記念日に何紙かの紙面に目を通した。その中で、神奈川新聞の投書欄の記事が目についた。

■信頼できる首相が欲しい 中村祐一 74 (厚木市)

 緊急事態宣言を先月7日発令した安倍首相は会見で「どうか正しい情報に基づいて冷静な行動を心よりお願いする」と国民に呼び掛けた。おやっ!? と思った。

 森友・加計に財務省の文書改ざん、「桜を見る会」、東京高検検事長の定年延長問題。選挙演説中に聴衆をののしり、国会審議中に答弁席から下劣なやじを飛ばす。国のトップとして責任感も品位もない首相に呼び掛けられても素直に「はい、分かりました」と受け入れる気持ちにはなれない。

 緊急経済対策で国民に「一律10万円給付」との会見では、プロンプターに映る官僚の作文を棒読み。これでは国民の胸には響かない。現金給付を巡る政治的混乱について 「私自身の責任であり、国民に心からおわびを申し上げたい」と陳謝。なぜ「おわび申し上げる」と言わないのか、私には理解できない。

 新型コロナウイルス対策で、ドイツのメルケル首相の国民に語りかける誠実で説得力のある言葉に、私は同国民がうらやましい。つくづく心から尊敬し信頼できる首相が欲しい。

なるほど、まったくそのとおりと思いつつも、反面、軽々に同意してはならないとの思いもある。国家の主人公は、飽くまで国民であって、政治的なリーダーではない、と考えるからである。

私も、ドイツ国民を羨ましいと思う。が、それは真っ当な国民の代表者を選任する能力を備えている点において、である。

「安倍晋三 その存在こそが国難だ」という認識が国民の一定部分に定着して久しい。それでもの長期政権である。この人には、その能力にも、資質にも、品性にも、政治姿勢にも、とるべきところはない。文化的素養は乏しく、なによりも政治家としてのビジョンにもパッションにも欠ける。

この人が一番生き生きし、はつらつとしているのは、「ニッキョーソ!」とか、「キョーサントー」と、大臣席に着席して野次を飛ばしているとき。神妙に国民に語りかけるときは、投書子の指摘のとおり、プロンプターに映る官僚の作文を棒読み。学級委員が作文を読んでいる風情で、国民の胸に響くものがない。

安倍晋三を支える右翼勢力の好みは、儒教にいう「徳治」であろう。しかし、安倍晋三に、民を感化する「徳」の一片もあろうはずはない。近年これほど政治の私物化が目に余る政治家はいない。

「修身斉家治国平天下」こそが、天皇制教育が拠って立つイデオロギーであった。この視点から安倍晋三はどうであろうか。「嘘つきは、安倍の始まり」と囁かれているほどなのだから修身失格である。だから、「あきれ夫人」の暴走を押さえての斉家は望むべくもない。その結果、国は治まらず、天下は乱れているのだ。

尊敬される人物とは、真・善・美を語ることができなければならない。敬愛される政治家とは、正義と友愛を体現していなければならない。安倍晋三ほど、この条件に真逆な人物も少ない。安倍晋三ほど尊敬や敬愛とは無縁な政治家もいない。

それゆえ、良識ある国民からは、疎まれ蔑まれているのが安倍晋三である。にもかかわらず、有権者の総体は、この「ミスター国難」「ミスター不徳」を是認し、政権の座に留めている。だから、引きずり降ろすことができない。

もっとも、政権トップの資質という点では、トランプと安倍晋三は、兄たりがたく弟たりがたし。価値観だけでなく、嗜好も品性も政治姿勢もよく似ている。アメリカ国民もお気の毒ではないか。いや、サウジアラビヤも、ハンガリーも、ポーランドも、トルコも、ブラジルも、実はお気の毒な国民は、全世界に目白押しだ。ロシアも、中国も、北朝鮮も大同小異。

他国の国民には「お気の毒」というしかないが、自国のリーダーは、私たちの手で変えることができる。「信頼できる首相が欲しい」ではなく、「安倍晋三には退陣願って、信頼できる真っ当な首相に変更しよう」。多くの人と力を合わせて、そのための算段を工夫しよう。
(2020年5月6日)

尾身茂発言に驚く。これでは、国民の信頼を得られない。

安倍晋三には、とうの昔に見切りを付けている。この人物を信頼してはならない。現下の国民的な災厄に適切に対応する適性も能力も誠実さもない。しかし、チームとして事に当たる、官僚諸君や医療人は信頼に足りるのではないか。その期待は捨てていない。頑張っていただきたいと願っている。

問題は専門家会議(新型コロナウイルス感染症対策専門家会議)に対する信頼の可否である。当初は、その分野での日本の最高知が集められているのだと思いこんでいた。だから政治性とは無関係に、無能な官邸にも適切なアドバイスができるだろうと期待は高かった。が、どうもそうではないらしい。次第に馬脚が現れてきた。そして、昨日(5月4日)の「緊急事態延長宣言」首相記者会見に陪席した尾身茂の発言は、国民の前に、「これはダメだ」「到底信頼しえない」ことをさらけ出した。

率直に申しあげよう。こんなにも注目された場で、こんなにも能力を期待される人の、こんなにもわけのわからぬ記者会見発言は前代未聞のことではないか。私が浅はかだった。思い起こせば、政権にくっついた「専門家」の不甲斐なさは、3・11原発事故でよく分かっていたはずではないか。安倍政権にくっついている「専門家」には、国民からの厳しい批判が必要なのだ。

官邸のホームページから当該部分を抜粋してみる。以下の質問は要約で、回答は全文である。原文は下記URLを参照されたい。
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0504kaiken.html

質問 ビデオニュースの神保(哲生)です。
PCR検査の話、総理は御自分もどこに目詰まりがあるのかをいろいろ聞いてみたというお話がありました。PCR検査は感染状況を知る上でも、自分が感染していることを知らないで人にうつしてしまうケースがあるという意味でも非常に重要だと思うので伺うのですが、内閣総理大臣がPCR検査が少ないので増やせと指示をしても、今の日本は実力的にPCR検査を増やすことができないと総理はおっしゃっているのでしょうか。それとも、まだ、これまでは本気で増やすことをしてこなかったということなのか。そして、なぜ民間を使うという選択肢が出てこないのか。詳しくお話しください。

(安倍総理)
 これはもちろん本気でやる気がなかったというわけでは全くありません。私は何回も、とにかく能力を上げていくと。実際、能力は上がってきているわけであります。国としてできることは、予算をつけて能力を上げるということでありまして、1万5000。しかし、1万5000、能力を上げたら、1万5000人分行くかといったら残念ながらそうなっていないのでありますが、多く見て、多くは東京に集中をしているわけであります。ですから、先ほど申し上げましたように、PCRセンターを20か所増やす中、東京に集中的に12か所増やしました。医師会にも御協力を頂く。言わばそういう体制をつくっても、なぜかと言えば、これはまず、それをPCRをやる方を迎えなければいけなかったわけでありますが、それをやる、言わば人的な目詰まりもあったわけでありまして、医師会の皆さんにも御協力を頂き、また、歯科医師会の皆さんにも御協力を頂くことになったわけでありまして、そういう意味において、全力を挙げていきたいと思っています。
 補足的にもまた尾身先生に御説明を頂きたいと思います。

 予てから、安倍は「PCR検査能力を上げていく」「1日2万件」と表明しながら、現実にはその半分にも到達せず、他人事のように「目詰まり」云々と言ってきた。質問の眼目は、この「目詰まり」にある。安倍晋三よ、本気でやる気があるのか、という問いかけなのだ。これに対する安倍答弁は、かろうじて最初の一文だけが理解可能であるが、それ以下は何を言っているのか分からない。忖度すれば、「これからは全力を挙げていきたい」というものだが、質問者の意図に的確に応えるなどという芸当は望むべくもない。この人、プロンプターやメモがなければ、この程度にしか語れないのだ。これが、わが国の行政府のトップの「能力」なのだ。

ここで尾身茂にバトンが渡される。以下、5パラグラフに分けて感想を述べる。

(尾身会長)

実は、もう民間の方は、先ほども申し上げましたように、3月6日から保険の適用が始まって、少しずつ増えております。今、いろいろ統計を我々は始めて、いわゆる感染研とか地方研でやられていることは分かっています。それと、民間の検査会社でやっているのも分かっていますが、実はこれはなかなか複雑でして、病院でやったものを、今、医師会なんかの御協力で保健所を通さないで行くというシステムができたのは皆さん御存じですけれども、入院されている患者さんは退院するまでに数回やることがありますよね。退院のために2回。そうすると、そのことが全部報告されてきてしまうと、分母、やっている件数が増えますよね。だから、我々、今、非常にジレンマで、今、大変難しいと思って、何とか解決しようと思っているのは、一つの報告、分母は感染研とか公的機関だけのものと、それから民間を入れると今度は増え過ぎてしまって、そこはオーバーになっているということが今、現実ですけれども、しかし、確かにトータルとしては、今日の専門家会議の方で見せましたけれども、検査件数が全く上がっています。

 こりゃまったくダメだ。発言の意味が分からん。とても科学者の言葉ではない。少なくも、新しいウィルス禍と闘おうという高度な知力を要するプロジェクトのチームリーダーの言とは思えない。この人の属するチーム内でのコミュニケーションが成立しているとは思えない。
「今、いろいろ統計を我々は始めて、…実はこれはなかなか複雑でして」という文理からは、「保健所を通す検査」に、「保健所を通さない検査」が加わったから、「実はなかなかPCR検査の統計が複雑でして」、「非常にジレンマで、今、大変難しいと思って、何とか解決しようと思っている」というように読める。この程度の統計処理を難しいというこの人の正直さは憎めないが、到底大事を託することはできない。
あるいは、「民間を入れると今度は増え過ぎてしまって、そこはオーバーになっているということが今、現実です」との意味は、こうであろうか。「これまでは、保健所を通した検査に限定することで、自分たちの対応できる範囲での陽性患者数に抑制してきたが、検査に民間が入ってくるとその意図が崩れてしまって、事態は大変難しい」 これも、バカげた話。PCR検査増加の必要についてまったく理解していないと言うことだ。
発言の趣旨が分からない。何が言いたいんだか理解し難い。問われているのは、これまでどうしてPCR検査に民間活用をしてこなかったのかということ。あなたは、民間の検査や報告を歓迎しているのか、「増え過ぎてしまって、そこはオーバー」だから邪魔で反対というのか。

 それと、先ほど、そういう中でも実は日本の死亡率は、これは一番の我々の目標、全ての感染を知っているわけ、これはなかなか難しいですね。分かりませんが、死亡率という意味で、今のあれでも死亡のことはピックアップして、その死亡の数は、これはヨーロッパのほうに比べても10分の1以下ということですから、必ずしもPCR、私自身はPCRはもう少し、総理がこの前2万件と。そのぐらいまでは行ったほうがいい。それに今、努力をしています。ただ、それと同時に、私は専門家として、一応事実としては、PCRは日本は最も少ない国の一つですけれども、人口当たりの死亡率、それから絶対数もヨーロッパの国の10分の1以下であるということは、これは事実です。しかし、だからといって、今のPCR体制がこのままでいいというように申し上げているのでは。

これも、いったい何を言っているのか。何を言いたいのか分からない。分かるのは、PCR検査不足の言い訳をしようという魂胆だけ。聞かれているのは、PCR検査の実数が伸びない「目詰まり」の実態。安倍得意の論法ずらしと同様に、問題を死亡率にすり替える。類は友を呼ぶというが、なるほど尾身も安倍流なのだ。

 もう一つは実は、PCRというのは、もう皆さんも御承知のように、やるのはそう簡単ではなくて、今、我々が、先ほど治療薬の話が出ましたけれども、私自身は治療薬の研究に直接は関わっていませんが、この5月あるいは6月で臨床治験の結果が出る。

これも、すりかえ論法である。しかし、PCRという検査を話題としているのに、唐突に治療薬の話。いったい、質問とどんな関係があるのか。質問に答える場での、このトンチンカンさは、この人には対話の能力のないことを表している。この人が臨床医であればインフォームドコンセントはできない。この人が教官であれば、生徒は不幸だ。そして、もしかしたら、今日本国民を不幸にすることにもなるのだ。

 それともう一つ、今のPCR関係で非常に重要なのは迅速診断キットです。抗原。これが、まだ最終的な結果はありませんけれども、これは簡単です。唾液を取ってできますから、実は、これは日本がインフルエンザでずっとやってきた、あれなのです。それで、私はこのPCRはこれからも、PCRとこれは補完的な関係ですから、この迅速診断キットというのが私はかなり期待をしています。もちろん早計に簡単なことは言えませんけれども、今、私たちの入っているところでは、比較的、特にウイルスの排出の多い、これが一番感染をしやすいケースですよね。この人たちを探知するのは十分。もちろんPCRの方が感度はいいですよ。だけれども、感染の症状の始まる前、2日ぐらいが一番多いんですね。
 このレベルのウイルスだと引っかける可能性があるということで、私自身はPCRはもちろん、これから様々な困難がありますけれども、努力して、2万件のところまでとりあえず行く。と同時に、迅速診断キットができると、かなり今の状況は変わるということがあるので、この2つを見ながら、また死亡率を、死亡率はだんだん今、死亡者は上がっていますから、死亡者をこのまま他の国に比べて少ないという維持をするためには様々な努力が必要だと思います。

この記者会見発言は一般国民に向けのもので、医療従事者向けでもジャーナリスト向けでもない。拙劣な日本語解説で、一定の知識なくしては内容を推察しえない。 迅速診断キットとは、「新型コロナウイルス検出PCR検査キット」のことではない。過日、楽天が「検査キット(COVID-19 PCR Testing Kit)」を販売するとして話題になったが、結局は販売は中止となった。尾身発言が言及したのは、そのPCR検査キットではない。そして今注目度の高い血清抗体検出キットのことでもなく、「抗原簡易検査キット」のことである。
果たして、どれだけの人が尾身解説を理解できたであろうか。また、知識あって、この人の言うことを推察できた人には、この発言は無用の長物である。

そして最後の「死亡率を、死亡率はだんだん今、死亡者は上がっていますから、死亡者をこのまま他の国に比べて少ないという維持をするためには様々な努力が必要だと思います。」は、ダメ押しの意味不明。
「死亡者の絶対数も、感染者に対する死亡率も、他国に比べて低く押さえるには今後の努力が必要」と言いたかったのだろうか。そんなことなら、あまりにも当然のうえ具体性がなくしゃべる価値も聞く価値もない。

これが、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議・副座長」であり、「基本的対処方針等諮問委員会・会長」の発言である。安倍の持ち上げに乗じられて、恐れ入ってはならない。目を見開き、聞き耳を立てて、よく言い分を吟味しよう。いま、国民の厳しい批判こそが必要である。遠慮などしている余裕はない。
(2020年5月5日)

これが行政の行うPCR検査の実態。この貴重な情報を削除せよとは。

表現はまことに多種多様である。社会に有用な表現もあれば無用な表現もある。人畜無害の表現もあれば、特定の人や組織を傷つける表現もある。歴史における経験が教えるところによれば、社会に有用有益な表現は、多くの場合特定の人の耳に痛いものである。そのような表現が封殺されるようなことがあってはならない。あるいは、表現が躊躇されてもならない。

表現の自由とは、有用無用・有害無害を問わず、原則として表現一般に認められる建前ではある。しかし、有用有益な内容をもちながら、権力や社会的強者に嫌われる表現こそが、表現の自由保障の対象として最もふさわしい。これこそが、表現の自由の本領である。

ときに、公権力あるいは社会的な強者から、社会的に有用な表現の削除や撤回が求められる。私(澤藤)の場合は、DHC・吉田嘉明からの6000万円請求スラップ提訴であった。

実際には提訴にまで至ることなく、訴訟提起をチラつかせて恫喝し表現の自粛を求めることが、この社会で多く行われているのだろう。DHCが組織としてこういう動きをしていたことは、DHCスラップ訴訟の中で明らかとなっている。

このコロナ禍での行政の動きは不透明のままである。とりわけ、いっこうに増えないPCR検査の実態がどうなっているのかさっぱり分からない。実際に検査を受けた人の情報は貴重なものである。そのような貴重な情報が社会に多数提供され集積されるることが、合理性ある政策決定と、決定された政策への信頼確保に不可欠だからである。「お上」が密室で拵えた、検証不能の政策の合理性に信頼がおけないのは当然ではないか。

コロナについて、とりわけ検査の実態について、もっと情報の公開を、と考えていたところに、知人からこんなメールをいただいた。「独自のドキュメンタリーを創り続けている映画監督、早川由美子さんは、新型コロナへの感染不安を感じ、PCR検査を受けた。そして、そこに至るまでのプロセスと、検査会場での観察を、自身のブログで報告した。ところが、その記事について、一部削除の「要請」圧力を、世田谷区役所から受けている。貴重な体験ルポをシェアする。」 これはありがたい。

早川さんは、こう述べている。

現在、私は世田谷に住んでいますが、世田谷区のPCR検査を受け、その記録をブログで公開したところ、世田谷区保健所から削除を求められています。あくまでも削除の「お願い」としつつも、要請に従わない場合は法的措置をとるとまで言われています。
ぜひ、以下のブログを読んでくださればと思います。

■世田谷区のPCR検査を受けました
https://www.petiteadventurefilms.com/setagaya_pcr/

■「PCR検査会場を区民に知らせるな!」世田谷区健康企画課からの電話(2020年4月27日)
https://www.petiteadventurefilms.com/20200427/

以上は世田谷区の例ですが、おそらく他の自治体も似たような状況かもしれません。
このメールやブログは転載歓迎です。問題意識を共有してくださればありがたいです。

このレポートは、一般人がPCR検査を受けようと望んでも、容易には検査を受けられない実態が、生々しく分かり易く詳細に語られている。これは貴重な情報である。早川さん夫妻は結果として、検査を受けることができた。その場所は、保健所ではない別の場所だった。そのことの詳細もブログに記載されている。

そして、4月27日世田谷区健康企画課の課長さんからのブログ削除要請に関する電話の内容が書き起こされている。区側は「どうしてものお願い」として、「ブログとツイッターを削除頂けないでしょうか」と言う。理由は、区として公開していないPCR検査の場所を、ブログなどで公開されては不都合ということ。PCR検査の場所を非公開とすることも、これを公開したら大きな不都合が生じることも、到底理解し難い。なによりも、市民の表現を削除せよという根拠が考えられない。

できるだけ文意を損なわず、当該部分を抜粋してみよう。

:削除をお願いするというのが、私たちの立場です。

  早:お願いを、今、していただいているというのは分かりました。

:で、お願いではないです。これ、このままお願いではなくて、ずっと(ツイッターやブログを)出し続けた場合というのは、わたくしのほうも、区の弁護士のほうとご相談させていただくということになりますけど?

:あ、そうですか。じゃあ、そのような手続きについても分かりました。

  区:「わかりました」っていうのは、どういうことですか?

:あの、「言い分について分かりました」っていうことです。

  区:削除の約束は…。削除の約束はしていただけますか?

:それは、今ここで約束することはできないです

  区:なぜですか?

:なぜですかって言われても、わたし今…

:ここにツイートが残っていれば…必ず関係者の方が、(検査会場に)行きますよ。それによって、検査を受けられない人がまた増えるんですよ。責任取れますか? 検査に殺到した場合に、検査の体制を覆すことによって、救われる命も救われなくなるんですよ。それに対してご自身が個人で責任を取れますかって申し上げているんです。

:私にそういう一個人のね、責任とかっていう風におっしゃる場合、例えば、電話が全くつながらないっていう間に、重症化して亡くなる方の責任も、区役所のほうは取れるんですか?

:それは当然認識しています

:「認識」っていっても、(責任は)取れるんですか?

:認識はしています

  早:でも全然つながらないです。

※4月30日追記

世田谷区は、「検査会場が知られてしまったら、検査を受けたい区民が殺到する」と主張していますが、本当にそうでしょうか? とあるメディアの記者の方によれば、他の自治体では、検査会場でメディアの取材対応などをしており、検査会場が事実上公となっているところもあるそうです。

果たして、それらの場所に人々が検査を求めて押し寄せているでしょうか? むしろ、感染のリスクが非常に高い場所ですから、うかつには近づきたくないと考える人の方が多いのではないでしょうか??

私がブログに掲載した、検査会場内部の写真をご覧になった方からは、「感染対策がほとんどされていないようで、検査を受けに行くことで二次感染してしまいそう」という意見を頂きました。世田谷区が、検査会場の場所や内部の写真を削除せよと私に求める背景には、「検査件数を増やしたくない」「感染防止策の緩さを指摘されたくない」という思惑もあるのかもしれません。

上記のブログをたいへん興味深く読んだ。そして驚いた。今どき、行政がこんなにも軽々しく、市民の表現を削除しようとするものだろうか。これではまるで、区がDHCや吉田嘉明なみではないか。しかも、世田谷と言えば、革新区長ではなかったか。行政が「どうしてものお願い」といえば、市民は当然に削除に応じるだろうという思い上がりが見え見えである。そして、一転して「お願いではないです。これ、……区の弁護士のほうとご相談させていただくということになりますけど?」となる。法的手続ともなれば、市民にとってはたいへん荷が重い話となる。要請ではなく、恫喝と言っても差し支えなかろう。

早川ブログに虚偽や不正確な記述があるからこれを是正せよというのではない。正確な記述の内容が不都合だというのだ。さて、健康企画課の課長さんは、既に「区の弁護士のほうとご相談」を終えていることだろう。その結果を知りたいものである。名誉毀損訴訟なら、どんな弁護士もさらさらと訴状だけは書ける。こんな簡単な訴訟はない。しかし、このケースは違う。早川ブログは、誰の名誉を毀損してもいない。そもそも、違法の要素は微塵もない。にもかかわらず、行政が憲法に保障された市民の表現の自由を奪おうというのだ。所詮は無理なはなしというほかはない。

市民の権利や自由は、常に試練に曝されている。早川さんが区からの削除の要請に応じれば、せっかくの憲法上の基本権も眠り込んでしまう。そうすれば、国民の知る権利も知らぬうちに眠り込まされるのだ。早川さんが、くじけることなく、区の要請を拒否し、ブログの掲載を継続しておられることに敬意を表したい。
(2020年5月4日)

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