澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

大嘗祭は、飽くまで天皇の私的行事に徹しなればならない。

本日は「勤労感謝の日」。昔から、この祝日の趣旨も意義もさっぱりわからない。

勤労とはいったい何だ。賃労働のことか、搾取のない異世界の労働か。感謝とは何だ。誰が誰の勤労にどのように感謝せよというのか。失業者は感謝されないのか。働かずしてたらふく喰っている者が、汗水たらして働いている者に感謝する日という趣旨なら分からないでもないが、それならばどうして5月1日ではなく、11月23日なんだ。

祝日法には、「勤労をたつとび、生産を祝い、国民たがいに感謝しあう」と記されている。この記載、なんとも出来がよくなく、座りが悪い。「国民たがいに感謝しあう」は、一般人の感覚として気持ちが悪いフレーズではなかろうか。

戦前の典型的な宮中祭祀であった新嘗祭の日を、天皇主権が否定された戦後においても国民に記憶させようという見え透いた企て。無理を通した涙ぐましい努力の結果。出来は悪くても、新嘗祭の日を祝日にし、そのたびに多くの国民に新嘗祭を思い出させ、語らせることには成功している。

本日も天皇の家族はしきたりに従った新嘗祭を行っている。それは、純粋にその家族限りの宗教行事であって、国家とも国民ともまったく無関係なものとしてである。それが憲法の政教分離が要求するところなのだ。

来年(2019年)、天皇が交代する。来年の新嘗祭はなく、代わって大嘗祭が行われる。大嘗祭は、天皇の代替わりのあと、在位中に一度だけ行われる宗教的秘儀とされる。秘儀なのだから、何がどう行われるかは実はよく分からず、よく分からないから諸説紛々としている。いずれにせよ、五穀豊穣や生殖による繁栄を祈る宗教儀式であり、天皇としての霊力がこの儀式で承継されるという。

天皇という国家公務員職の交代に伴うセレモニーが許されないはずはない。しかし、宗教色をもつことは固く禁じられている。ところが、憲法を無視して大嘗祭を国家行事としてやりたいという勢力が確実に存在する。国民主権の徹底を嫌い天皇主権に郷愁をもつ保守勢力、憲法改正の突破口として厳格な政教分離条項に穴を開けようという政治家たち。

農業社会に成立した呪術的な未開宗教は、必然的に五穀豊穣を祈ることになる。新嘗祭とはそのような由来の宮中祭祀であっただろう。未開宗教が祈りの対象としたもう一つの重要課題は、生殖による繁栄である。この二つの課題は、避けて通れない。大嘗祭は何らかの形でこの両者にコミットするのだろう。

純粋に天皇家族限りの私的な宗教行事である限り、どんな行事を行おうと、他からとやかくいう筋合いはない。しかし、これにいささかでも公的な色彩が付されれば、とやかく言わずにはおられない。主たる問題は、けっして原始宗教の名残を後生大事に墨守しようとすることの滑稽さにあるのではない。

かつて神であり、それゆえ主権者とされたのが天皇である。国民主権、民主主義の最大の敵対物であり、いまだに民主主義政治に危険な存在と認識しなければならない。

かつて天皇とは、政治権力者のこの上なく便利で調法な支配の道具であった。政治的権能は失った今も、社会的権威としては生き延び、確実に影響力を有している。天皇の権威と、民主主義の成熟度とは反比例する。天皇を権威付ける方策に手を貸してはならない。

来年行われるはずの大嘗祭を公的行事としてはならず、これに公金を投入してはならない。
(2018年11月23日)

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ウソとごまかしの『安倍政治』総検証!
アピール運動の署名集約集会

12月3日(月)18時?20時(17時30分開場)

衆議院第1議員会館 地下1階「大会議室」

衆議院第1議員会館は丸ノ内線・国会議事堂、有楽町線・永田町駅
(どなたでもご参加いただけます。
議員会館ロビーで入館証をお受け取り下さい。)

民意を無視して9条改憲を強引に進めようとしている「安倍政治」。その「安倍政治」において、公文書・公的情報の隠蔽・改竄・廃棄・捏造が横行し、権力のウソとごまかしが国民主権や議会制民主主義を脅かそうとしています。
私たちは、森友・加計学園に典型的にみられる権力の私物化、「働き方改革」のウソ、外交交渉の内容の捏造等々、ウソとごまかしによる「ポスト真実」の政治を許せず、アピールを発表して賛同の署名を呼びかけました。
下記のとおり、賛同署名集約の集会を開催いたします。この日、署名簿を安倍晋三氏に届けるとともに、この集会にさまざまな分野からの発言を得て、「安倍政治のウソのごまかしを総検証」いたします。そして、どうすれば、安倍政治に終止符を打つことができるか考えてみたいと思います。どうぞご参加ください。

  司会 澤藤統一郎(弁護士)
  挨拶 浜田桂子(絵本作家) 

 「安倍政治」と「ポスト真実」
   小森陽一(東京大学大学院教授)

 「働き方改革」一括法と「ポスト真実」
?   上西充子(法政大学キャリアデザイン学部教授)

 「公文書管理」と「ポスト真実」
?   右崎正博(獨協大学名誉教授)

 日米FTA(自由貿易協定)と「ポスト真実」
?   古賀茂明(元経済産業省官僚)

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昔「首斬り浅右衛門」、今「首斬りゴーン」

江戸時代に、代々山田浅右衛門を名乗った首切り役人の家系があった。ご存知、時代劇の(アンチ)ヒーロー「首斬り浅右衛門」である。歴代のうち一人だけが山田朝右衛門を名乗っているが、その本職は斬首の執行ではなく、試し切りだったという。代々のいずれも、試し切りの達人だった。

その考証に関心はないが、家格は一万石相当とされ、実入りは莫大だったという。死体の臓器から家伝のクスリを製造して販売もしていたと伝えられている。

しかし、実入りは良くとも、旗本としての取り立ての機会はなく、明治期にはいるまで士分であっても浪人の身分とされた。「首斬り」は高い技術を要求される職分ではあったが、卑しい職として蔑まれたからであろう。

さて、現代の首斬りヒジネスマン、カルロス・ゴーンのことである。これまでも、毀誉褒貶激しかった人。「稀代のコストカッター」とは、冷酷な首切りをやったということにほかならない。その数、2万人に及ぶという。これを経営手腕として褒めそやすのは、恐るべき頽廃である。真にやむを得ないリストラであったにせよ、卑しい行為として蔑まれなければならない。

これまでゴーンは、労働者の首斬りを敢行した対価として、年間10億円の報酬を得ていたとされていた。この高額報酬を唾棄すべきものと反感をもつべきが正常な感覚である。「人の不幸で肥え太る」ことは、古今を通じて卑しむべきことなのだから。

今、明らかになりつつあるのは、彼の首斬り報酬は実は年間20億円だったという。さらに、会社のカネでの贅沢三昧をほしいままにしていたのだ。いったい、幾らの浪費になるのだろうか。「コストとは、オレのことかとゴーン言い」なのだ。これまで、ゴーンを礼賛していた人々は大いに恥じるがよい。ゴーンの礼賛までには至らずとも、「日産を立て直したのだから、それなりの額の報酬があってしかるべき」などと思い込んでいた人々も。

ゴーンの報酬を最小限とし、冗費を削っていれば、多くの労働者の首を切らずに済んだはずではないか。それをこそ経営手腕という。資本の冷酷な論理を前提にものを見るか。それとも、働く人々の立場からものを見るか。評価は天と地ほどに分かれる。

ちなみに、浅右衛門の斬首の手間賃は、刀砥ぎ代として金2分であったという。
(2018年11月22日)

「企業のための海づくり」を許さない ― 「沿岸漁民緊急フォーラム」報告

一昨日(11月19日)、盛岡で「東北沿岸漁民緊急フォーラム」が開催された。東北各県から80名を越える参加者があって、盛況だったという。二平章さん(茨城大学客員研究員・北日本漁業経済学会/会長)からいただいたご報告を紹介したい。

プログラムは以下のとおり。
■開催趣旨説明 二平 章
■主催者挨拶 瀧澤英喜(全国沿岸漁民連絡協議会共同代表・大船渡)
■報告「漁民に知らせず成立ねらう改定漁業法案の驚くべき内容」
      長谷川 健二(福井県立大学名誉教授)
   「沿岸漁家・漁協経営を破綻に導く改定漁業法案に反対」
      濱本 俊策(香川海区漁業調整委員会会長)
■意見表明 赤間廣志(宮城県漁業調整委員会委員)
      菅野修一(岩手県漁業調整委員会委員)
      片山知史 (東北大学教授)
      綱島不二雄 (元 山形大学教授) そのほか参加者より

長谷川福井大学名誉教授、濱本香川県漁業調整委員会会長の講演で「改正」漁業法案の問題点を学習、綱島山形大学名誉教授、横山岩手大学教授、赤間宮城県調整委員会委員、管野岩手県調整委員会委員、鈴木千葉県調整委員会委員らから、漁業法「改正」に反対する立場から意見表明があり、活発な質疑が行われた。

なお、昨日(11月20日)の河北新報は、「漁業権見直しに異議 東北の漁師が緊急集会『漁業者に一切説明のない改定許せぬ』」と次のとおり報じている。

 企業などに漁業への新規参入を促す水産改革関連法案の閣議決定を受け、漁業法改定に反対する「東北沿岸漁民緊急フォーラム」が19日、盛岡市であった。全国沿岸漁民連絡協議会などが主催し、約70人が参加した。
 改定案は、地元漁協や漁業者を優先していた漁業権の割り当てを廃止する方針。長谷川健二福井県立大名誉教授(漁業経済学)は「漁協による漁場の利用調整が働かなくなり、混乱を招く。企業利益は地元に還元されない」と指摘した。
 各都道府県の海区漁業調整委員の選任を選挙から知事の任命に変更する政府案には、塩釜市の漁師で宮城海区の赤間広志委員が「漁業者が自分の意見を主張する機会を奪う」と反対を表明した。
 岩手海区の菅野修一委員は「海の資源は効率化を求める企業だけのものではない。漁業者に一切説明のない改定は許せない」と表明。全国海区漁業調整委員会連合会が「地方議会に改定反対の意見書を提出するよう働き掛けてほしい」と呼び掛けた。

下記は、このフォーラムに配布された、二平さんの報告資料。分かり易く、問題点を鋭く指摘している。少し長いが、貴重な資料として全文をご紹介しておきたい。

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東北沿岸漁民緊急フォーラム資料(2018・11・19)

「漁業法改悪と沿岸家族漁業」

二平 章(茨城大学客員研究員)

●はじめに  
安倍首相は2018年10月24日の臨時国会冒頭で「70年ぶりに漁業法を抜本的に改正し、
?漁獲量による資源管理を導入する。
?船のトン数規制をなくして大型化を可能とし漁業の生産性を高める。
?漁業権の付与は法律で優先順位を定めた現行制度を廃止し、養殖業への新規参入、規模拡大を促す。」との施政方針演説をしました。
続いて11月6日には「漁業法の一部を改正する等の法律案」(以下、改正漁業法案)を閣議決定し、国会に提出したのです。
規制緩和で企業活動を刺激することなどを柱とした成長戦略は2012年12月から始まった第2次安倍内閣が掲げた経済政策「アベノミクス」の3本の矢のうち、大胆な金融緩和、機動的な財政出動に続く政策でした。それに基づき、安倍首相は2013年の第183国会で施政方針演説し「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指し、聖域なき規制改革を進め、企業活動を妨げる障害を一つひとつ解消する」として「規制改革会議(座長:岡素之 住友商事相談役)」を設置しました。
規制改革会議は、翌年の2014年5月には農業分野において、
?農業委員会の等の見直し、
?農地を所有できる法人の見直し、
?農業協同組合の見直し
の3本を柱とする「農業改革に関する意見」を提言し、安倍内閣は企業参入の障壁になるとして農協法、農業委員会法、農地法を「改悪」しました。
さらに、規制改革会議を受け継ぎ2016年9月に発足した規制改革推進会議(座長:大田弘子 政策研究大学院大学教授)にも提言を出させ、安倍政権は2017年5月に「農業競争力強化支援法」など8法案を国会で可決・成立させたのです。
その主な目的は「生産、資材、流通、種子など食の安定供給を支えてきた制度の変更や収入保険の導入によって競争力のある一部の農業経営体に資源を集中させ、川上・川下部門における民間参入を促すもの」(植田2018)であり、また「自主・自立の農協組織に過剰介入して民間企業に農業・農村でのビジネスチャンスを拡大し農業には全く似合わない新自由主義の効率化と市場競争原理を農村社会に持ち込むもの」(松澤2017)でした。

●漁業権と漁協への攻撃
「農業改革」の名のもとに、農協組織を弱体化させ、農業への大企業の参入・支配力を強め、家族農業経営を破壊へと導く法案を次々と成立させていった安倍内閣は、次には漁業関連法の見直しに乗り出します。
規制改革推進会議は、2017年5月23日に「第一次答申」を発表し、「岩盤規制改革に徹底的に取り組み、ここで一気にアクセルを踏み込む」とし、「漁業改革」について答申は「漁業の成長産業化等の推進と水産資源の管理の充実」を掲げ、2017年に検討を開始し2018 年に結論を出し、結論を得次第速やかに措置するとしたのです。この第一次答申では直接漁業権問題には触れていませんが、答申直前の5月10日に開かれた規制改革推進農業ワーキンググループ(WG)会合では、水産庁に対して「沿岸の漁業権が漁協を通じて管理されていることについての見直し」についてヒヤリングをおこなっており、当初から規制改革推進会議の狙いは、漁業権の見直しにあったことは明瞭でした。
2017年の9月からは規制改革推進会議の中に「漁業改革」を専門的に議論するための水産WG(座長:野坂美穂 多摩大学経営情報学部専任講師)がつくられ、2018年5月までに17回の会合を重ねて、6月に最終答申を行っています。
この水産WGがスタートする直前の2017年7月27日には、安倍内閣の漁業改革への意向を公表する形で、行政改革推進本部行政改革レビューチーム水産庁特別班が、河野太郎行政改革推進本部長、平将明、中西健治、小林史明行政改革本部役員らの出席のもと横やりを入れる形で「区画漁業権の運用見直し」と題する提言をわざわざ記者発表しています。
その内容は、クロマグロ養殖業や真珠養殖業などの区画漁業権の運用について、「漁業法で定められた区画漁業権の優先順位などの参入ルールが漁業への新規参入の障壁となっている。(新規参入にあたっては)企業などが漁業協同組合の組合員となって参入せざるを得ない状況にある。養殖業への参入に際しては、養殖漁場の運用管理上で優位な立場にある漁業協同組合との交渉や調整などで、参入事業者は膨大な時間や労力を費やしている。こうした状況は、養殖業を営む漁業経営者の不必要なコスト増につながり、漁業の成長産業化などの政策推進の妨げになっている。意欲と能力のある者が漁業に円滑に参入できるよう参入ルールや養殖漁場の運用管理について見直しを検討すべき」としたのです。つまり、企業が活躍しやすい海面利用のためには、漁業権や漁業協同組合は企業活動を妨げる障害であり、その影響を排除することが安倍政権の行政改革推進であることを明確に述べたのです。
「農業改革」でなされた実績から見てもわかるように、漁業における「規制改革推進」=「水産改革」のねらいが、企業活動の妨げになる漁業協同組合の弱体化と公選制である漁業調整委員会の権限を縮小し、海面での大規模養殖や風力発電などの企業活動や諫早湾などの開発行政、辺野古などの軍事基地建設での海面埋め立てなど、これまで様々な開発事業の物理的・経済的障害となってきた「漁業権」をなくし、「企業資本が自由に海と資源を利用できる体制に作り変えること」にあることは明瞭といえます。
「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指す」と公言し、農業や林業つぶしの悪法を次々と成立させてきた安倍政権が、最後の漁業分野で漁民から海を取り上げ「企業のための海づくり」を狙っていると言えるのです。

●「改正漁業法案」の問題点
改正漁業法案は、
第1に水産資源管理手法の見直し、
第2に許可漁業の見直し、
第3に漁業調整委員会制度の見直し
を主要な改革としています。
「法案」は「水産資源の保存および管理」を筆頭に掲げて、あたかも「水産資源の持続的な利用」をめざした法案であるかのような装いを凝らしていますが、その一番のねらいは、企業資本が自由に海面を利用し利潤追求の場にできる漁業権制度の見直しです。
漁業権には共同漁業権、定置漁業権、区画漁業権とよばれる3種類の漁業権があります。戦後民主化の動きの中、1949年にできた戦後漁業法では、地元に居住し、海で働く沿岸漁民に優先的に漁業権を与え、そのために地元漁民が加入する漁協を地元海面の漁業権の一括した受け手とし、漁協内の合議のもとに漁場の円満な利用をはかろうとしました。それは戦前の不在地主的企業免許制度下では、地元漁民は地元資源を利用することができずに、企業の利潤が都市に流出していった反省からつくられた制度でした(加瀬,2018)。
今回の改正漁業法案では、養殖のための区画漁業権を漁協を通さずに企業に直接免許したり、定置漁業権についても、申請が重複した場合これまでは漁協や地元漁民に優先的に与えられていた漁業権を知事の裁量で企業に直接免許することができるようになっています。まさに戦前の「不在地主的企業免許制度」に逆戻りの内容といってもよいものです。

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●漁業権制度の歴史と現状
魚は海の中を自由に泳ぎ回り、漁民はそれを追って漁を営むことから、海面には農業のような排他的な個人所有の「農地」は存立しえません。江戸時代から小さな舟でヒラメを釣る、地引網でイワシを捕る、目の前の磯や浜でアワビやハマグリを捕るといった地先の海がその漁村の専有的な漁場とされ、地元漁民がルールをつくり共有で利用してきました。村と村の境界が地先漁場の境界でもありました。カツオなどの回遊魚が来遊する沖の漁場は少数の大きな舟しか行けず、広大な海なので各船の競合もなく調整も必要ではないことから、各漁村から自由に入り会える自由な漁場として利用されました。現在の漁場利用制度も、基本的にはこのような江戸時代からの「磯は地付、沖は入会(いりあい)」の制度が受け継がれてきていたのです。
地元漁村の漁業者が優先して地先の漁場を利用できる制度としてできた漁業権漁場制度ですが、距岸距離で漁場利用をながめると、日本漁船だけが利用でき、他国の漁船が操業できないのが排他的経済水域(EEZ)で、国連海洋法会議で決められています。これが200海里ラインといわれ岸から370kmで、200海里の外が公海となります。ちなみに日本の領海は12海里で22.2kmです。これに対して漁業権漁場は各地で若干の違いもありますが、おおよそ距岸3?5km以内で極めて狭い範囲に限定されています。

●漁業権の種類
先に述べたように漁業権には漁場の利用の仕方によって、共同漁業権、定置漁業権、区画漁業権があります。
共同漁業権は一定の水面を多数の漁業者が利用する漁業権で、アワビやサザエ、ハマグリやアサリ、ワカメやコンブ、フノリなど地域的な資源を守りながら一定地区の漁民が皆で漁業を営む権利です。一定漁場を多くの漁民で集団的に利用することから漁民の間で混乱が生じないよう利用上の規則をつくり、資源の増殖・管理のために漁場造成、種苗放流、密漁対策などを行っています。そのためにその地区の関係漁民全員が加入している地元漁業協同組合に対して知事が免許を与え、漁協が組合内協議の上で希望漁民に免許を与えています。 定置漁業権は、一定の水面で定置網などの漁具を設置して漁業を営む権利で、網の目合を変えてブリやマグロからサバ・イワシまでをねらう大型定置網および北海道ではサケ定置を営む権利で、経営者の申請に対して県知事が免許します。広い範囲の地先海面を長期間独占することから、その収益を地元漁村・漁民に還元させる趣旨から、商人よりは漁民、個人よりは団体、よそ者よりは地元人を優先する優先順位が現行漁業法には定められています。 区画漁業権は、海面にブリやタイ、最近ではクロマグロ育成用の大型生簀(いけす)や、カキやホタテをつるす筏(いかだ)を設置して、養殖業を営む権利です。養殖業では多数の漁民が内湾など限られた静穏な一定海面に入り会いながら集団的に利用することから、共同漁業権同様、漁場利用のためのルールづくりや漁業者間調整、監視や監督が必要となります。そのため、関係漁民全員が加入している地元漁業協同組合に対して知事が免許を与え、漁協が個人を決定しています。多数の組合員が免許申請することから、県では漁民一人ひとりのことも、漁場の条件も判断できないことから、漁民が全員加入している地元漁協内で協議のうえで養殖施設の台数や設置場所を組合員合意のもとで決定しているのです。ただし、企業などの個別経営であっても漁協の組合員となれば養殖業を営むことは可能で、現在も企業は地元に子会社をつくり、漁協組合員になって養殖業を行っています。

●クロマグロ養殖と企業
海面養殖業は多岐にわたりますが、大多数が小規模・家族経営の形態です。そこに近年、マルハニチロやニッスイ、双日などの大手企業資本が現地に子会社を設立し、漁協に加入してクロマグロ養殖業に参入してきています。「世界6位の排他的経済水域(EEZ)を有効に活用し持続可能で成長力ある漁業を実現する」と規制改革推進会議水産WGの審議事項(2018年9月20日)では「広い海」を喧伝しています。しかし、クロマグロ養殖漁場も、実は多数の沿岸漁民が漁業を営む内湾など狭い共同漁業権内の沿岸域なのです。混乱を起こさずに養殖業を行うためには、内湾域を利用する企業経営体も漁民もすべてが地元漁協に加入した上で、全組合員合意でその水面の有効利用と環境管理につとめることは至極当然のことといえるでしょう。
漁協では養殖漁場を利用する組合員からは個人であれ企業であれ、漁場使用料や市場出荷・販売した場合の販売手数料を徴収しています。これは漁協の運営経費にあてられます。漁場利用にあたっては組合内調整のための協議や漁場管理の労役義務も当然、漁協組合員としては義務となります。また、漁協は漁船登録などの行政代行業務や、種苗放流、漁場監視や海難事故対策などいろいろな公益的な役割も果たしています。まさに協同組織として地先の海の環境と地域漁業を守る役割を担っているのが漁協なのです。利潤追求の企業資本にとっては、漁業権免許を漁協からでなく知事から直接受けることにより、漁協から離脱して、漁協に対する費用負担や調整協議、労役負担をなくし、地元漁民や漁協に制約を受けることなく、企業本位に海面を自由に利用して利潤追求したいというのが本音でしょう。行政改革レビューチームの自民党議員からの提言内容もそのままです。

●企業資本優先の海づくり
沿岸漁場の中に地元漁協と無関係の直接経営者免許の企業養殖が出現すれば、どうなるでしょう。これまでは漁協内で組合員である養殖漁家が協議して海を汚染しないよう過剰な餌やりを防止したり、価格暴落を起こさないように養殖魚の数量調整を行ってきました。その漁場に漁協には所属しない経営者免許の企業養殖ができてきたら、彼らは漁協には無関係に企業の論理で養殖生産することができます。そうなれば漁協を中心とする沿岸の共有海面利用の秩序と体制が崩壊し、沿岸漁場には混乱と対立が生じるのは必然です。株主の利益を優先し、ともすると「今だけカネだけ自分だけ」となる企業論理では、利潤を最優先して共有漁場環境を荒廃させ、利潤がなくなればさっさと撤退して他へ資本を投下するのは、これまで各地で営まれた参入企業養殖の事例をみても明らかです。漁協に支払う各種負担金がいらないとなれば、個別養殖漁家からも直接経営者免許に切り替える経営体が出現し、漁協を中心とした地域の共同体制は壊され、無秩序な養殖生産から次第に小規模・家族経営の養殖漁家は駆逐され、地域漁協も組合員や収入が減少することから縮小していくことになります。地域資源から生み出される富が企業資本によって中央に流出する戦前の状況が生み出されることになり、地域自治体も一層衰退していくことは明らかです。
漁民と漁協の努力でブランドのブリやマダイ養殖業を成功させ豊かな漁村を築いてきている愛媛県うわうみ漁協の佐々木譲組合長も、今回の水産改革について「知れば知るほど正に漁業の成長を企業にゆだねるものであり、歴史的に連帯・協調・相互協力の精神を基本に漁業・漁村社会を守るため、浜の力を漁協に結集し、将来にわたって、その役割を果たすべき零細漁民の救済・成長とは逆に企業の成長を促進するものであり絶対に許せない改革だと思う」とし「協同漁業権区域内に経営者免許での企業参入で漁場行使すれば、生産のすべてにおいて調整不能となる。魚類養殖の免許は組合免許である現状を変更しないこと。共同漁業権内には企業参入を認めないこと」と提言する意見書をまとめています(2018年9月4日意見書)。
定置漁業権でもこれまで、地元漁民や漁協に優先的に免許された定置漁業権が、行政の裁量で企業的経営に直接免許されることになります。また、全国の漁業調整委員会の反対意見を無視して漁業調整委員会委員を公選制から知事の任命制に変更します。今回の漁業法改正は、養殖漁業権や定置漁業権における漁協の漁場管理や漁場調整の権限を無くし、漁業調整委員を任命制にして地方の行政機構にその責任を負わせ、企業資本に優先的に漁場利用権を与え、沿岸漁場を企業資本に明け渡す企業のための海づくりなのです。

●漁船の規模撤廃で強まる漁獲圧力
次に、漁船漁業の企業資本のために「規制緩和」をねらって盛り込まれたのが、大臣許可漁業・沖合漁業における「漁業許可制度の見直し」です。「漁船の数や船の大きさである総トン数規制をなくして船の大型化を可能とし漁業の生産性を高める」条項です。一般的に魚類資源に対する漁獲圧力は漁船の数や漁船の大きさに比例します。現代の漁獲行為は最新鋭の漁網漁撈装置、遠くの海中の魚群を探索できる高性能な魚群探索機器類を用いて行われます。漁船のトン数規模が多くなればより大きなエンジンを積み込み、より高度な魚群探索機器を導入して、魚群を探索する範囲と能力を高め、より大きな漁網を曳く力も強くなります。一隻あたりの漁獲効率が上昇するのは歴然です。漁獲効率をめぐって企業間では漁船装備の船間競争も激化します。高額な漁撈装置や探索機器類ですので導入コストも上昇するでしょう。国は漁獲可能量(TAC)制度を導入するので心配は要らないと言うのでしょうが、企業資本同士が競争する海の上の世界はそう単純にはいかないのが現実の世界です。海上では制限された漁獲量の元、低価格の小型魚は海上廃棄され高価格の魚だけを漁獲したり、資源豊富な沿岸漁場へ違法侵入することが起きてくるでしょう。漁獲効率を高める沖合漁業の出現で沿岸漁業・漁船との間で今以上に資源と漁場をめぐる軋轢が一層顕在化してくると思われます。
また、知事許可漁業・沿岸漁業にたいしても、「制限措置など、大臣許可漁業に関する所要の規定を準用する」となっています。知事許可漁業である県まき網漁業や底びき網漁業においても、トン数規定が外されていったならば、大臣許可船同様、漁獲効率の高い船が地域内漁場に出現し、沿岸資源に対する漁獲圧力は一層強まり、釣り漁業など小規模沿岸漁業は窮地に追い込まれていくことは必然です。現に、今でもM県では一本釣りの天然礁漁場に夜間、灯火で魚を集めて一網打尽に魚をまく、まき網船が出現、一夜にして小規模漁民の釣り漁場が消滅したり、まき網船が一度に多量に魚を水揚げすることから、小規模漁民が水揚げする魚の単価が下落したりする事例が生じて議会でも問題化しています。また、C県では内湾で操業していた県知事許可のまき網が漁船装備を高度化してそれまで操業できなかった外海漁場へ進出、深場のつり対象魚種を漁獲して、小規模つり漁民の操業を不安に落とし入れている事例もあります。漁船のトン数規模制限の廃止は漁船間競争を一層激化させ、小規模漁民が多数で利用していた海を、次第に資本力のある企業の船だけが独占する海につくりかえていくことにつながるでしょう。

●TACによる資源管理
海洋生物の資源管理手法には
?漁船隻数や漁船のトン数規模制限、操業期間の制限、漁船の馬力制限など漁獲圧力を入口で制限する投入量規制(インプットコントロール)、
?漁船設備や漁具の制限による技術的規制(テクニカルコントロール)、
?漁獲可能量(TAC)の設定による漁獲量を制限する漁獲量規制(アウトプットコントロール)の3つがあります。
日本では従来、?の投入量規制や?の技術的規制により漁業管理が行われてきました。?の漁獲量制限管理(TAC管理)は欧米で普及した方法で、魚種ごとに総漁獲可能量(TAC)を決めて、最大持続生産量(MSY)を直接実現しようという管理手法です。
MSY理論とは、ある資源水準に資源を維持しておけば、毎年、最大の漁獲量(MSY)が得られるという理論で、国連海洋法条約では加盟国に資源をMSY資源水準に維持し、MSYを達成することを奨励しています。日本では1996年に国連海洋法条約の批准を行い、TAC法(海洋生物資源の保存及び管理に関する法律)を成立させTAC制度の導入が始っています。 TACによる漁獲量規制はこれまで、サンマ、マアジ、サバ類、マイワシ、スルメイカ、スケトウダラ、ズワイガニの7種で行われていましたが、2018年からクロマグロが8番目の魚種として加わっています。
改正漁業法では、8割の漁獲量魚種にTAC管理を拡大し、魚種ごとの総漁獲可能量(TAC)を計算、個々の漁船へ漁獲量を割り当てる制度(IQ制度)にするとしています。
規制改革推進会議の議論のなかでは2017年9月の水産WGのスタートにあたり野坂美穂座長が「水産ワーキンググループにおける今期の主な審議事項」を示し、第1項の「漁業の成長産業に向けた水産資源管理の点検」において、「産出量規制や個別割当の積極的活用を含め、必要な見直しを行う」としました。これは社団法人日本経済調査協議会の「提言」(2007)以来、規制改革論者が賛美してきた西欧型漁業における出口管理や個別漁獲割当IQ/譲渡制ITQ論を引き継ぐものでした。第6回WGに提出された、「これまでの議論の整理」文書には、「インプットコントロールを重視する漁業許可制度のあり方について検証し改革することが重要」とし、「漁業資源管理の方法は、アウトプットコントロールを基本に・・・可能な限り個別割当(IQ)方式を活用することが重要」と記しています。
しかし、個別漁獲割当であるIQ方式だけで、漁獲権利を商品化して自由に売買できる譲渡制ITQの導入がなければ、漁業資本にとっては「規制緩和」ではなく「規制強化」の面だけが強く出ることになり、必ずしも「一番企業が活躍しやすい国」になるわけではありません。そこで第7回WGに出席した太田弘子規制改革推進会議座長は、「これまでの議論の整理文書」に不満を示して、「これで漁業が成長産業になるかというと、心もとない」と述べ、経営力、資金力、技術力をもつ能力ある担い手(企業資本)が円滑に漁業参入できるよう、漁業資源管理、漁業許可制度、漁業権の配分権を持つ漁協機能の見直しについて、さらなる具体的方策を提示するよう求めました。ここに規制改革推進会議のめざす本質が端的に現れていたと言って良いでしょう。

●TAC管理とMSY理論
MSY理論は密度効果の存在を前提に成り立つ概念で、密度(個体数)の増大により、増加率、死亡率、成長率が変化し、密度効果によって持続生産量に最大値が存在する場合にしか適用可能ではありません。密度効果は親の量と子供の量との関係性で判断されますが、世界中の海洋生物資源のうち親魚量と子供の量に関係性が認められるのは224魚種のうちわずか36種(16%)との報告もあり、近年はMSY理論そのものに科学者たちの批判が高まっています。
川崎(1996)は、FAOはじめ西欧で用いられている水産資源管理理論=MSY理論は、漁業資源の変動を漁業努力量と資源量だけの関係としてとらえ、環境変動が水産生物資源にあたえる影響を無視している。資源変動には環境変動(=レジームシフト)影響の方が一般的であり、日本も世界の漁獲量変動も「乱獲」による「資源枯渇」とするMSY的乱獲理論では説明できないとし、渡邊(2017)は海洋動物の特性は、小型の卵を多量にばらまき、低い生残確率を持つ個体の寄せ集めに次世代を依存するため、当たり年とはずれ年が生じやすく、資源量の変動が大きい。このような特性を持つ資源の安定化にはMSYは使えない。親と子の量的な関係に依拠して加入量を予測することはできないとしています。
片山(2017)は、沿岸資源は「親を獲り残せば増える」例は極めて少なく,もともと親子関係に依存しないで変動する資源特性を持つとしています。産卵親魚量確保のためにIQ等で出口管理を徹底する「ノルウエー型漁業管理」を行っても、加入量の増加は保障されないと述べています。さらに桜本(2018)は、西欧型資源管理手法であるTAC管理の基本にあるMSY理論については、「マユツバ」ものであり、MSY理論に基づいて管理を行おうとすること自体が、管理を失敗させる主因となっていると厳しく批判しています。

●資源乱獲論の流布
FAO(国連食糧農業機関)は、1992年に世界の海産魚類資源の3分の2以上が、乱獲か、これ以上漁獲すると乱獲になるレベルであると発表し,2004年には、「資源が枯渇状態に近い」種類が8%、「過剰な漁獲に陥っている」種類が16%、「これ以上の漁獲圧力が加わると乱獲で資源減少の危機にさらされる」種類が52%、「まだ、漁獲量を増加させる余地がある」種類が24%であると評価しています。また、FAOは1995年12月に京都で開催された「食料安全保障のための漁業の持続的貢献に関する国際会議」において、世界の水産物の供給量の横這いは乱獲の結果だとし、その原因は不適当な漁業管理制度であるとする基調報告を提出しました。まさに近年の日本における規制改革会議の水産資源乱獲論議と同様です。
FAOの報告のあと2000年代に入り,国内外で水産資源の乱獲を「告発」する出版物(例えばC.Clover,2004・井田2005,小松2007)が相次いで刊行されます。これらの著書に特徴的なことは、資源減少の著しい魚種を事例的に取り上げる傾向が強く、増加傾向を示す魚種があることについてはほとんど触れていない点と、資源減少の主な要因を過剰漁獲におき、乱獲の危機を強調する傾向にある点です。
このような漁業資源問題を規制改革推進のための政策作りの一環として、取り上げたのが日本経済調査協議会水産業改革高木委員会でした。「魚食をまもる水産業の戦略的な抜本改革を急げ」とする緊急提言を2007年2月に、ついで提言を同年7月に発表します。これらの提言は同年12月に政府審議会である規制改革会議の「規制改革推進のための第二次答申」に、そのまま盛り込まれます。答申には、わが国水産業は悪循環に陥っており、その背景には、水産資源が枯渇状態にあること、そのことが漁業の衰退と過剰漁獲を招き、さらには漁業の衰退に拍車をかけていると記載されています。現在の規制改革推進会議の議論もまさにこの流れの上にあったと言って良いでしょう。

●日本周辺の魚類資源の動向
規制改革会議の「規制改革推進のための第2次答申」(2007)に盛り込まれた抽象的な「乱獲による資源枯渇論」に対して、「日本沿岸域における漁業資源の動向」を具体的に調べる調査研究委員会(座長:二平章)が組織され、日本沿岸・沖合の漁業資源の個別動向が調査され、結果が東京水産振興会報告書(2011,2012,2013)にとりまとめられました。
そこでは、マイワシ、マサバ、スルメイカ、サンマ、ブリ、ニシン、カタクチイワシなどの浮魚類は1970年代に起きた温暖から寒冷、80年代末に起きた寒冷から温暖への海洋環境のレジームシフトによって資源変動が起きたことが改めて明らかにされています。
さらに、資源変動は比較的安定で漁獲努力量の調節で資源量はコントロールされると長く考えられてきた底魚類についても検討され、漁業が盛んな東北太平洋岸および日本海北部における底魚類、イシガレイ・マガレイ・キアンコウ・ヤナギムシガレイ・アカガレイ・キチジ・ソウハチ・スケトウダラなどが、浮魚類と同様に20年規模の海洋環境のレジームシフトによって資源変動したことが示されました。
また、高木委員会の資料・データ集に「3年間の禁漁で回復させた」として漁業管理成果とされた1990年代の日本海北部のハタハタ資源の復活についても、他魚種の同時的増加現象もふまえ、基本的要因は海洋環境のレジームシフトにあったとされました(二平2013)。

●自然環境破壊による漁業資源の減少
また、東京水産振興会報告書には魚類資源の減少要因として、人為的な環境改変(開発行為)が重要魚種を減少に追い込んだ事例が数多く報告されました。
魚介類資源の減少を続けている瀬戸内海の貝類では、西部のアサリが1973年、サルボウが1976年で消滅、その要因は干拓事業による底質環境の悪化とされています。また、山口県周防灘での底魚類やクルマエビの減少は貧酸素水の影響、兵庫県のカレイ類の減少は、ポートアイランドの二期工事や神戸空港建設工事による潮流の弱勢化による貧酸素の影響、大阪湾のシャコの減少は関西空港工事の影響とされました。兵庫県播磨灘、山口県沿岸でも、埋め立てによりアサリやカレイ・エビが減少し、貝類減少が、植物プランクトン利用の物質循環を遮断し、貧酸素水塊形成を助長、また、埋め立てが多くの魚類の産卵場と幼稚魚の成育場を奪ったと指摘されました。また瀬戸内海の重要資源であるイカナゴは、砂中で夏眠する生態から生息場は海砂の存在に依存します。その瀬戸内海の海砂採取は1960年代から顕著となり6億立米(?)もの膨大な海砂が採取されました。海砂採取実績のない和歌山・大阪、初期に採取禁止にした兵庫県と、岡山・香川・広島・愛媛の4県のイカナゴ漁獲量の比較によれば、前3府県の漁獲量は変動が少ないか増加傾向を示すのに対して、後の4県の漁獲量は1980年代に急減したまま回復することなく低迷していることが明らかにされました。海砂採取の窪地の回復は容易でなく4県でのイカナゴ資源への影響は長期におよぶと報告されています。
伊勢・三河湾では、?埋め立てによる浅海環境の喪失による産卵場、幼稚魚の成育場の減少、?浅海環境の喪失による水質浄化機能の低下、貧酸素化、?資源減少による漁民側の漁獲圧力の増加が起こっているとされ、干潟の埋め立てによる二枚貝資源の減少が海水交換に匹敵する生物ろ過機能を低下させていることが指摘されています。伊勢・三河湾のカレイ類資源では1980年代半ば以降漁獲量の低迷が著しく、休漁しても資源増加はなく、その要因は貧酸素水塊の形成や長良川河口堰建設にともなう海水流動の停滞による泥の堆積など環境悪化にあるとされました。
人為的環境改変の影響は、海面ばかりでなく、湖沼や河川にも現れています。全国第2位の湖水面積をもつ霞ヶ浦の魚類生産量は1970年代半ばの18000トンから現在の2000トンレベルまで低下したが、その要因は河口堰水門の閉鎖による湖水の停滞が湖内の物質循環機能を変化させ魚類群集の構成を変化させたことによるとされました。また、利根川・霞ヶ浦流域は日本でも有数の天然ウナギの生産地でしたが、河口堰建設にともない400トンあった霞ヶ浦の漁獲量は10トンに、700トンあった利根川での漁獲量は50トン以下に減少しています。ウナギ資源の回復には、河口堰建設や河川・湖沼のコンクリート護岸化などで喪失したウナギの生息環境の復元が大きな課題であるとされました。
環境悪化による沿岸資源の生物生産量の低下は、内湾域ばかりではなく、外海域でも起きています。外海域では河川からの砂の供給量の減少や大型港湾建設による砂浜海岸の浸食が全国で問題化しています。鹿島灘のハマグリ漁業は漁業管理の優良事例として有名でしたが、港湾建設による大規模な海岸侵食の影響でハマグリの生育環境はほとんど喪失したことが示されています。

●資源管理と漁業者の合意形成
親子関係に依存しないで変動する資源特性を持つ水産資源についてどのような管理方策を講じるのかが現代の資源管理に問われている課題です。大事な点は海洋環境の変動にも注意を払いながら、毎年の新規加入資源の動向をしっかりとモニタリングし、新規加入の幼魚が確認された場合はできるだけ小型魚の漁獲を控えながら、最大限の経済効果を生み出すような漁獲管理(成長管理)を実行できるよう関係漁業者間で協議・実行すれば良いのです。小型・若齢魚の漁獲実態がある場合、小型魚の漁獲を控えれば単価の高い大型魚に成長するのは明らかです。ただ、漁業現場には資源計算の理屈通りに「管理」の方向に操業が転換できない様々な要因が存在します。小型魚の「管理方策」を実現するには、生産者である漁業者らと徹底した議論を積み重ねながら、実施を阻む様々な課題を漁業者合意のもとで解決しながら「管理方策」の実現に向かうべきです。東北6県の30?以下のヒラメ小型魚管理宣言は県水産試験場の資源担当者らが、利害が複雑にからみあう各地区沿岸漁業者らと小型魚保護効果について度重なる協議を重ねて実現にこぎ着けたものです。コンピュータ上の資源計算結果だけを上意下達に示して、このとおりに操業しない漁業者は「乱獲」をする「悪者」であり許可を取り消すなどと脅すような議論だけでは、問題の解決にはなりません。行政や資源研究者たちが漁業現場に降りて実践化のための具体的論議を漁業当事者らと徹底して行うことがなくては、合意形成はつくられず、資源管理体制へ向けた「改革」にはなりません。また、漁業現場との意見交換がなければ資源計算の元となる数字の信憑性や計算結果の妥当性の検証も不十分になりがちであり、西欧型TAC管理だけが資源管理の唯一の方策であるなどという「西欧崇拝主義」の誤りにも気づかないのです。現在のクロマグロの規制をめぐる国内の混乱も現場実態を精査せず上意下達に実行させようとした点に最大の問題があると言えます。

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●国連家族農業(漁業)10年に向けて
我が国の海岸線の総延長は35,308kmありますが、離島も含め、その海岸線に6,298の漁業集落が存立します。平均して海岸線5.6kmごとに漁業集落が立地しています。漁業集落が条件不利地と言われる島々や半島も含め海岸にくまなく立地することにより、国境を監視し、海岸環境を守り、国土の保全とその均衡ある発展に寄与しています。
また、雇用機会の限られる条件不利地にあって、漁業は地域経済を支える重要な産業の役割を果たしています。養殖漁業を含めると全漁業従事者の79%が沿岸漁業に従事し、全漁業経営体数の94%、漁船漁業の78%が地域に根ざす沿岸漁業を営む経営体となっており、文字通り沿岸漁業が日本の漁業、漁村を支える存在になっています。
これまで沿岸漁業・家族漁業が一方的に衰退してきた背景には、大規模漁業に偏重した対策や土木・開発企業向けの海の公共事業を重視し、小規模・家族漁業経営体の振興対策・所得対策をなおざりにしてきた国の水産政策にその原因があります。
いま国の水産政策に必要なのは、規制改革推進で利潤追求の一部企業資本に漁業権を開放し、沿岸漁場を崩壊させることではありません。沿岸漁場の管理主体として重要な役割をはたしてきた協同組織である漁業協同組合の機能強化をはかり、地域の主体である小規模・家族漁業を育成し、地域漁村を活性化させていくことこそが大切です。このことが、真の「地域創生」であり、島々を含め海に囲まれる日本の国境を守り、国土を守る「安全保障」につながるのです。
 国連は来年から10年を「家族農業10年」と決議し、世界でも9割以上を占める小規模家族農業・漁業の振興を打ち出しました。日本漁業でも94%は小規模沿岸家族漁業です。今回上程された改正漁業法案は日本の沿岸漁業・家族漁業を衰退に導く意味で国連の決議に背を向ける法案といえるでしょう。(にひらあきら)

文献
Clover.C(2004)飽食の海.岩波書店,pp318.
井田哲治(2005)サバがトロより高くなる日.講談社現代新書,pp280.
加瀬和俊(2018)沿岸漁業への企業参入と漁業権..経済,No.269,118-126,新日本出版社.
片山知史(2017)資源操作論の限界.漁業科学とレジームシフト,.東北大学出版会,432-449.
川崎 健(1996)世界の漁業生産量の停滞は乱獲の結果なのか.漁業経済研究,41,114-139.
小松正之(2007)これから食えなくなる魚.幻冬舎新書,pp199.
松澤 厚(2017)戦後農政の総決算へ暴走する安倍政権.労農のなかま,2017年5月号,28-36.
二平 章(2013)秋田県産ハタハタの資源動向と漁業実態.日本沿岸域における漁業資源の動向と漁業管理体制の実態調査.東京水産振興会.87-109.
桜本和美(2018)マグロ類の資源管理問題の解決に向けて.水産振興,605,pp55.
東京水産振興会(2011,2012,2013)日本沿岸域における漁業資源の動向と漁業管理体制の実態調査.各年度版.
植田展大(2018)農業競争力強化に向けた制度改革と農業政策の課題.農林金融,2018年1月号,27-41.
渡邊良朗(2017)自然変動する海洋生物資源の合理的利用..漁業科学とレジームシフト,東北大学出版会,395-412..

(2018年11月21日)

 

長期の一強体制は、必ず堕落し腐敗する。今のうちに終止符を。

いやあ、驚いた。表は立派に見えても、裏では汚いことに手を染めていた。この落差にはびっくりだ。

 そうかい。それほどびっくりするほどのことではない。次第に、本性が明らかになってきているじゃないか。

一強の長期君臨は、必ず腐敗するものなんだね。

 ああ、「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対に腐敗する」というあのテーゼのとおりだね。

結局はウソとごまかしで、私腹を肥やしていたというわけだ。

 そんなもんだ。周囲の誰もが、見て見ぬふりだ。忖度と面従で、ますますつけあがる。

いつの間にか、自分は特別で何をしても許されると思い込んだのだろうね。

 批判のない権力、有効な批判に曝されない権力者は結局堕落するというわけだ。

だから、権力や権限をもつ者には、徹底した批判が必要なんだね。批判が過剰なんてあり得ない。今回の件でよく分かった。

 適切な批判の前提として、情報の透明性が必要だ。その一強がいったい何をしているのか、適切な記録の作成が不可欠だし、その記録は誰にも閲覧できなければならない。あらゆる情報の公開請求には機敏に誠実に応じてもらわなければならない。

多くの人の不幸の上に、自分の地位を築き、利益をむさぼってきたのだから、当然に説明責任が伴うということだね。

 誰よりも法を守らなければならない立場にあるのに、法を守ろうという姿勢がない。気に入らない法は変えてしまえという無茶苦茶なやり口。

文書の虚偽記載程度で何が問題なんだという、舐めきった態度が許せない。

 コンプライアンスの重大性の認識がまったくない。自分がどれほど原則からはずれたか、その自覚がない。何も分かってないんだ。

今のところ問題は形式的な文書の虚偽記載だけだが、その裏に私利私欲の追求があるようだね。

 すべての形式犯の裏には、実質犯が控えている。背任や横領があっても、驚くような話しではない。

どうやら、離婚の訴訟費用や再婚の費用という私的な支出の流用があったようだと噂されているね。

 えっ? 離婚して再婚していたの? 知らなかったな。

ボクも逮捕のニュースがあって初めて知ったんだけど。

 えっ? とうとう逮捕? いったいいつ逮捕されたんだい。そりゃ大ニュース、特捜の大手柄じゃないか。

昨日(11月19日)夜の話し。日本中大騒ぎじゃないか。

 なんだ、ゴーンのことか。私はまた、政権トップのことかと。

いやあ、それにしても、よく似たはなし。あらためて驚いた。

(2018年11月20日)
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12月3日(月)18時?20時(17時30分開場)

衆議院第1議員会館 地下1階「大会議室」

「ウソとごまかしの『安倍政治』に終止符を!」
アピール運動の署名集約集会

丸ノ内線・国会議事堂、有楽町線・永田町駅
(どなたでもご参加いただけます。
議員会館ロビーで入館証をお受け取り下さい。)

民意を無視して9条改憲を強引に進めようとしている「安倍政治」。その「安倍政治」において、公文書・公的情報の隠蔽・改竄・廃棄・捏造が横行し、権力のウソとごまかしが国民主権や議会制民主主義を脅かそうとしています。
私たちは、森友・加計学園に典型的にみられる権力の私物化、「働き方改革」のウソ、外交交渉の内容の捏造等々、ウソとごまかしによる「ポスト真実」の政治を許せず、アピールを発表して賛同の署名を呼びかけました。
下記のとおり、賛同署名集約の集会を開催いたします。この日、署名簿を安倍晋三氏に届けるとともに、この集会にさまざまな分野からの発言を得て、「安倍政治のウソのごまかしを総検証」いたします。そして、どうすれば、安倍政治に終止符を打つことができるか考えてみたいと思います。どうぞご参加ください。

  司会 澤藤統一郎(弁護士)
  挨拶 浜田桂子(絵本作家) 

 「安倍政治」と「ポスト真実」
   小森陽一(東京大学大学院教授)

 「働き方改革」一括法と「ポスト真実」
?   上西充子(法政大学キャリアデザイン学部教授)

 「公文書管理」と「ポスト真実」
?   右崎正博(獨協大学名誉教授)

 日米FTA(自由貿易協定)と「ポスト真実」
?   古賀茂明(元経済産業省官僚)

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徴用工も技能実習生も、人権保障を欠いた国外労働力の導入である。

今大きな話題となっている二つの問題。入管法改正の前提にある技能実習生制度と、韓国徴用工判決。両事案の本質が酷似していることに驚かざるをえない。両者とも、企業が要求する劣悪な条件での「外国人」労働者雇用の問題。資本の利潤追求の衝動が、民族差別と結びつくとこうなるという実例。70年余の以前も現在も、すこしも変わらない。

安価な外国人労働力を大量に確保したいという企業の欲求が法案になった入管法「改正」案。日本人労働者の扱いにはさすがに法の規制を守らざるをえないが、外国人労働者なら搾取も収奪もほしいままという企業の認識があり、そのような現実がある。これが、外国人技能実習生であり留学生の実態である。財界や政権のいうがままでは外国人労働者の労働条件は奴隷労働に等しい。その労働力の流入は、国家的規模の奴隷売買と指弾されかねない。

企業は安価な外国人労働力を要求するが、安価な外国人労働力の導入は明らかに日本の労働市場における賃金水準の低下をもたらす。日本の労働者・労働組合にとっては、基本的に賛成しかねる政策。外国人労働者の日本の労働市場への参入については、労働者の権利を侵害することないよう、慎重な配慮が要請される。

戦時中、企業は大いに儲けた。需要は膨れあがり好景気に沸いた。一方、賃金は下げることができたし、労働強化は思いのままだった。しかし、強壮な労働力は徴兵され、慢性的に労働力が不足した。国家総動員法に基づく徴用はこれを補うものだった。当時は外国ではなかった朝鮮各地からの徴用工は、各企業で苛酷な労働を強いられた。当時頻発した徴用工の職場からの逃亡は、現在の技能実習生の失踪と変わるところはない。

資本は、酷薄である。企業間競争に勝たねばならず、利潤を生み続けなければならない以上、厳格に法による規制がなければ、労働条件の改善は期待しがたい。利潤追求の手段として外国人差別や民族的差別意識が利用できるのなら、その利用に躊躇する理由はない。

国外の労働力流入は、国内の労働者にとって歓迎すべきことではない。このことについて、思い出すことがある。今はなき、「赤い尾翼のノースウェスト航空」の運行を止めたストライキと、その国際スト破り阻止問題である。国外からの労働力流入は、スト破りにも使われる。以前にも触れたことがあるが以下に再掲しておきたい。

成田開港以前の1974年秋のこと、当時羽田にあったノースウェスト航空日本支社労働組合(当時500人規模)が45日間の全面ストライキを打ち抜いた。この間、組合は航空機運航のための諸機材を全面的に押さえてピケを張り、会社の使用を阻止した。そのことによって現実に相当便数の運航が止まった。

会社は対抗策として、スト破りを考えた。まずは羽田空港内の国内他社の従業員と機材を使おうとした。これに対しては、ノースウェスト航空労働組合か加盟する産別組織・民間航空労働組合連合(民航労連)が大きな力を発揮した。各社の現業部門の労働組合が、スト破り参加を拒否したのだ。そこで、会社が企てたのが、国際的スト破りだった。

ノースウェスト航空は、自社の労働者を集団で羽田に送りこんでスト破りの業務に使おうとした。現に、ハワイにまでは作業者を結集させて訓練を行うとともに、日本への入国手続に着手した。

私が所属していた東京南部法律事務所が、民航労連の顧問事務所だった。ノースウェスト航空は、私が主担当者だった。ストに伴う多くの法的問題があったが、国際スト破りの入国阻止がメインテーマとなった。

出入国管理法と職業安定法と労組法とを根拠に、意見書を何度も書き換えて「スト破り集団の入国ビザを出すな」「目的を詐って入国した労働者がスト破り作業に従事したら直ちに刑事告発をする」。そのように関係各所を言ってまわった。

外国からの労働力の流入を日本の労働市場の撹乱要因として、国内労働者の雇用の安定のために単純労働者の入国は制限するという出入国管理法と職業安定法の目的規定の最大限利用。スト破りは不当労働行為であって、その労働者の供給は職安法20条に違反するという主張。結果として、国際スト破り集団の入国はなかった。

安易な外国人労働者の国内流入は、労働市場を撹乱して労働者の就労条件を切り下げ、あるいはスト破りまで導入することを可能にする。ことは慎重を要する。そして、受け容れる以上は、人権保障を徹底しなけばならない。

徴用工も技能実習生も、人権保障を大きく欠いた環境での国外労働力の受け入れだった。同じ過ちを繰り返してはならない。
(2018年11月19日)

始まった参院選に向けての野党共闘協議 ― 市民連合と5野党1会派

改憲派にとっては、「アベのいるうち、両院の議席が3分の2あるうち」が改憲のチャンスという認識。ということは、「アベが首相の座から去ることになれば」、あるいは「衆参どちらかの議院で改憲派議席が3分の2のラインを失えば」、千載一遇のチャンスは喪失することになる。いま、アベ9条改憲の策動による憲法の危機ではあるが、改憲派にとってもけっして明るい展望が開けているわけではない。

右派が描いたアベ改憲シナリオは綻びを見せつつある。国民世論の動向が、改憲を優先課題と認識していないからである。このことが、改憲を軸とした野党の共闘を促しているし、与党内にもアベ改憲に冷ややかな空気を漂わせてている。

憲法改正の課題ばかりは、議会での審議を強行採決で乗り切ろうというアベ政権の常套手段は使えない。そのあとに国民投票が控えているからだ。国民大多数の意見の集約点を国会審議で見極めなければならない。しかし、今国民は、「現政権での改憲には反対」なのだ。だから、改憲勢力も展望を持てない。客観的に改憲は困難なのだ。

アベ改憲がもとより困難なのだから、当初のシナリオのとおりにはことが運ばない。だから焦りが出て来る。その焦りが下村博文の自民党・憲法改正推進本部長への登用。こんな、焦りの結果のタカ派人事でうまく行くはずがない。下村は、「職場放棄失言」でボロを出した。政権と下村の焦りが裏目に出たのだ。かえって、野党を硬化させ臨時国会での憲法審査会開催を困難にしている。

しかも、下村の失態に対する公明党の冷ややかさはどうだ。いま、国民から改憲加担勢力と見られては選挙に勝てないとの思惑が強いのだ。自民党内も、下村に冷たい。アベの求心力低下を思わせる。

アベ改憲実現のためには、今臨時国会で憲法審査会を開き自民党改憲案の提示くらいはしておくことが改憲のためのシナリオだったがそれができない。とすれば、来年6月公示7月投開票の参院選前に、国会が改憲発議をすることは絶望的といってよい。となれば、2019年参院選こそが改憲阻止の重要なキーポイントとなる。半数の改選だが、これで改憲勢力の議席を3分の2以下にすることができれば、当面の改憲の危機を回避できることになる。

9月の沖縄知事選の教訓が大きい。野党の共闘ができれば、「自・公・維(・希)」の改憲勢力に勝てるのだ。安倍政権の露骨な利益誘導の総力戦も民意を動かせなかったではないか。アベ政権、けっして見掛けほど強くはない。

参院選ではいつものことだが、一人区の野党共闘の成否が結果を分けることになる。その一人区は32。いずれも、アベノミクスの恩恵からは置いてけぼりだ。TPPも、農業改革も水産改革も、この一人区では極めて評判が悪い。アベ政権の人気は地に落ちている。むしろ、怨嗟の声か満ちている。スムースな形での野党共闘さえできれば、勝算十分だ。現在の世論動向は、各政党を「与党連合対野党共闘」の対決構図に巻き込まざるを得ない。どちらかの陣営に入る以外に、一人区での当選の目はないのだから。

せっかくの勝機。共闘の協議開始時期としてはもうぎりぎりではないか。具体的な共闘のあり方の協議と候補者の選定を始めなくてはならない。

改憲勢力である与党連合とは「自・公・維」のこと。そして共闘に加わる野党は、立憲民主党・国民民主党・日本共産党・自由党・社会民主党・無所属の会の5党1会派。なかなか難しい野党のとりまとめを買って出ているのが、市民連合。これが、「市民と野党の共闘」の具体的な構図。

一昨日(11月16日・金)、「立憲野党と市民連合の意見交換会」が開催された。
意見交換会参加者は、下記のとおり。

立憲民主党 福山哲郎幹事長・辻元清美国対委員長
国民民主党 平野博文幹事長・小宮山泰子衆議院議員
日本共産党 小池晃書記局長・穀田恵二国対委員長
自由党   森裕子幹事長・日吉雄太国対委員長
社会民主党 吉川元幹事長
無所属の会 大串博志幹事長・広田一国対委員長

同日のTBSニュースは、次のように伝えている。

https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3526461.html
《野党と市民連合が意見交換、来年の参院選に向け選挙協力を確認》

 立憲民主党など主な野党と、安全保障関連法などに反対する団体「市民連合」が会談し、来年の参院選に向け、選挙協力を進めることを確認しました。

 「前回の参院選挙の前に、やはりこの市民連合と政党との意見交換が大きな役割を果していただいた。来年の参院選挙に向けて、より具体的、建設的な意見交換が出来るようにお願いをしまして」(立憲民主党 福山哲郎 幹事長)

 立憲民主党など野党5党1会派の幹事長らが、「市民連合」のメンバーと会談し、来年の参院選挙に向けて、全国に32ある「1人区」で野党の候補者を一本化することなど、選挙協力を進める方針を確認しました。市民連合は、2016年の参議院選挙でも1人区における野党統一候補擁立を後押ししていて、立憲民主党などは、来年の参院選でも候補者の調整で市民連合に仲介させたい考えです。

 しかし、無所属の会の岡田代表は16日、記者との懇談で、「市民連合が重要なプレイヤーであることは間違いないが、基本は政党がしっかり主導しないと候補者は出てこない」と述べています。

 一方、これまで安全保障や憲法についての考え方の違いなどから出席を見合わせていた国民民主党は、初めてこの会談に出席しました。

また、市民連合自身は、こう報告している。(抜粋)

はじめに立憲民主党福山幹事長より挨拶がありました。
「財務省の文書改ざん、加計学園問題、防衛省の日報隠しといったことで国会が大紛糾している最中に、前回の市民連合との意見交換会が行われました。半年が経った今、安倍政権は臨時国会で入管法改正を無理やり採決しようとしており、その体質は全く変わっていません。一方で、9月には沖縄県民の皆さんの力と、市民の皆さん、そして政党の皆さんの力の中で、玉城デニー知事が当選しました。安倍政権の体質が全く変わらず、民主主義を壊し続けているという状況の中で、今日このような形で集まれたことはとても意義が深いと思います。また、国民民主党の平野幹事長にお越しいただきました。我々としては歓迎させていただきたいと考えております。安倍政権を倒すために、来年の参院選に向けて、より具体的かつ建設的な意見交換をしていきたいと考えています。」

続いて安全保障関連法に反対する学者の会・広渡清吾より挨拶がありました。
「前回の参院選では、野党と市民の努力により32全ての1人区で候補者の1本化が実現し、大きな成果をあげました。来年の参院選に向けて、この水準を後戻りしてはならないと強く思っています。先日『あたりまえの政治』を掲げ、街頭宣伝を行いました。『あたりまえの政治』を求めなくてはならないというのが、今の安倍政権が陥っている状況です。憲法を守る、民意を尊重する、嘘をつかない。このあたりまえのことができない政治を変えなければなりません。そのためにも立憲野党の皆さんと市民との協力を深めていきたいです。」

さらに、立憲デモクラシーの会・山口二郎より安保法制の廃止、改憲阻止、さらに今の日本政治が直面するいくつかの重要な課題について、前回と同様に政策合意を何らかの形で結び、共通の旗印としていきたいといいう提起がありました。

その後、立憲民主、国民民主、共産、自由、社民、無所属の会の各党・会派と、市民連合の各構成団体から、幅広く意見交換が行われ、参院選に向けて市民と野党の協力をさらに強く深めていくことが確認され、意見交換会は終了となりました。

市民連合は、11月28日(水)19時から王子・北とぴあにて、野党とのシンポジウムを開催予定です。私たちは、このような機会を通じて、参院選に向けた協力体制をさらに深化させていきたいと考えています。ぜひご参加いただけますと幸いです。

共闘は容易なことではない。しかし、共闘しなければ選挙に勝てない。選挙に勝てなければ、アベ改憲を阻止することができない。アベ改憲を許せば、この国の平和主義が不可逆的に崩れる。憲法政治に取り戻すことのできない疵がつく。憲法を擁護しようとする諸勢力には、来夏の参院選に向けて選挙共闘するしか途はない。
(2018年11月18日)

第49回司法制度研究集会 ― 「国策に加担する司法を問う」

本日(11月17日)は、日本民主法律家協会が主催する第49回司法制度研究集会。テーマは、「国策に加担する司法を問う」である。

独立した司法部存在の意義は、何よりも立法部・行政部に対する批判の権限にある。立法部・行政部の活動が憲法の定めを逸脱し国民の人権を侵害するに至ったときには遠慮なくこれを指摘し、批判して国民の人権を救済しなければならない。たとえ、国策の遂行に対してでも、司法が違憲・違法の指摘を躊躇してはならない。当然のことだ。

それが、「国策に絡めとられる司法」「国策に加担する司法」とは、いったいどうしたことだ。日本の司法は、そう指摘されるまでに落ちぶれたのか。

われわれは、違憲審査権行使をためらう裁判所の司法消極主義を長く批判し続けてきた。「逃げるな最高裁」「違憲判断をためらうな」「憲法判断を回避するな」と言って来たのだ。

ところが、最近の判決では、司法部が積極的に政権の政策実現に加担する姿勢を示し始めたのではないだろうか。つまりは、われわれが求めてきた「人権擁護の司法積極主義」ではなく、「国策加担の司法積極主義」の芽が見えてきているのではないかという問題意識である。言わば、「人権侵害に目をつぶり国策遂行に加担する司法」の実態があるのではないか。これは社会の根幹を揺るがす重大な事態である。

冒頭、右崎正博・日民協理事長の開会の挨拶が、問題意識を明瞭に述べている。

これまでの長期保守政権下における裁判官人事を通じて、行政に追随する司法という体質が形成された。その結果として、国策を批判しない司法消極主義が問題とされてきた。しかし、昨今の幾つかの重要判決は、むしろ政権の国策に積極的に加担する司法の姿を示しているのではないか。

国策は民主主義原理によって支えられているが、民主主義原理の限界を画するものが立憲主義の原理、すなわち人権という価値の優越である。日本国憲法は、民主主義原理と立憲主義とのバランスの上に成立している。そのような憲法のもとで、はたして現実の司法は日本国憲法の理念を実現しえているのか。

この問題意識を受けての基調報告が、岡田正則氏(早稲田大学・行政法)。「国策と裁判所―『行政訴訟の機能不全』の歴史的背景と今後の課題」と題する講演。そして、国策に加担した訴訟の典型例として、沖縄・辺野古訴訟と原発差し止め請求訴訟の2分野からの問題提起報告。「国策にお墨付きを与える司法─辺野古埋立承認取消訴訟を闘って」と題して沖縄弁護士会の加藤裕氏と、「大飯原発差止訴訟から考える司法の役割と裁判官の責任」と題する樋口英明氏(元裁判官)の各報告。その詳細は、「法と民主主義・12月号」(12月下旬発行)をお読みいただきたい。いずれの報告も、有益で充実したものだった。参加者の満足度は高かったが、同時に現実を突きつけられて暗澹たる気持にもならざるを得ない。

たいへん興味深かったのは、辺野古弁護団の加藤さんと、大飯原発差止認容の判決を言い渡した樋口さんの語り口が対照的だったこと。淀みなく明晰で理詰めの語り口の加藤さんと、人柄が滲み出た穏やかな話しぶりの樋口さん。鋭い切れ味の加藤さんと、抗いようのない重い説得力の樋口さん。加藤さんは沖縄の民意を蹂躙する政権の国策に加担した判決を糺弾する。樋口さんは国策加担という言葉を使わないが、誰にもそのことが分かる。お二人の話しぶりの対比を聴くだけても、今日の集会に参加の甲斐はあった。

私は樋口さんには初めてお目にかかった。この人なら、当事者の言い分に耳を傾けてくれるだろうという、裁判官にとっての最も必要な雰囲気を持っている。その樋口報告は、私が理解した限りで次のようなものだった。

3・11福島第1原発事故後の原発差し止め訴訟では、認容判決は私が関わったものを含めて2件しかない。棄却判決は十指に余る。「どうして原発差し止めを」と聞かれるが、原発は危険で恐い物だという思いがまずある。差し止めを認めなかった裁判官に、「どうして恐くないのか」聞いてみたい。

また、自分の頭で考えれば当然にこの危険な物の差し止めの結論となるはず。自分の頭で考えず、先例に当てはめようという考え方だから差し止め請求棄却の結論になるのではないか。

危険とは(1)危険が顕在化したときの被害の大きさ
    (2)被害が生じる確率
の2面で測られ、通常この2面は反比例する。一方が大きければ他方が小さい。ところが、原発は両方とも大きい。

原発事故の桁外れの被害の大きさは福島第1原発事故で実証されている。普通、事故の機械は運転を止めれば被害の拡大を阻止できるが、原発はそうはいかない。「止める⇒冷やす⇒閉じ込める」が不可欠で、福島の6基の事故ではそれができなかった。だから、福島第1原発事故の被害があの程度で済んだのは、いくつもの好運の偶然が重なった結果に過ぎない。その僥倖の一つでも欠けていれば、首都東京も避難区域に入っていたはずなのだ。

また、原発事故が起こり被害が生じる確率はきわめて高い。そもそも、基準地震動を何ガルに設定するか極めて根拠が薄い。地震学は未成熟な学問分野というべきで地震予測の成功例はない。気象学に比較してデータの集積もごく僅少に過ぎない。しかも、原発の規準地震動は、通常の木造家屋よりも遙かに低い。その設計において耐震性は犠牲にされている。それが、世界の地震の巣といわれる危うい日本の地層の上にある。

差し止め認容判決の障害は行政裁量といわれるが、既に日光太郎杉事件判決(東京高判1973 年)で十分な批判がなされている。自分の頭でものを考えれば、人格権に基づく原発差し止めも同様の結論になるはず。

会場からは、「日の丸・君が代」強制問題原告からの訴えもあった。これも国策だ。しかも軍隊の匂いがする国策の強制。自分の頭でものを考えず、先例追随のコピペ判決裁判官が、国策加担判決を積み重ねている。「先例追随主義」と「国策加担」とは紙一重というべきものなのだろう。

あらためて思う。事態は深刻である。
(2018年11月17日)

東北沿岸漁民緊急フォーラムのご案内 ― 『漁業法改定』は沿岸漁業に何をもたらすか(その4)

国会で審議入りした漁業法等の改正案。漁民対企業の対決法案となっている。これは、けっして革新対保守の対決ではない。「浜の生活」派と「新自由主義」派との争いなのだ。かつては、地元の保守政治家が漁民の生活の守り手だった。いま、安倍自民党は、漁民の生活を企業に売り渡そうとしている。

この問題で「東北沿岸漁民」の緊急フォーラムが、19日(月)午後盛岡で開かれる。本日はそのご案内。
この案内チラシに、具体的な問題点が次のように指摘されている。
 ?養殖用漁業権免許を漁協を通さず知事が企業に直接免許
 ?地元漁民に優先的に与えられた定置漁業権を知事裁量で直接企業に免許
 ?海区漁業調整委員会を公選制から知事の任命制に変更
 ?沖合漁業の漁獲効率を一層高め、沿岸資源圧迫につながる漁船トン数制限撤廃
 ?大規模漁業を優遇し小規模漁業を困窮化へ導く漁獲量割当(TAC)制度の導入

この法案が成立すれば、やがて沿岸漁業は、大企業に取って代わられることになる。個人経営、家族経営が主体の地域経済は確実に衰退する。浜はさびしくなる。ちょうど、商店街のにぎわいが消えて枯れ葉の舞うシャッター街になったように。

これを、漁業資源の持続性のための望ましい改革とミスリードしてはならない。
関心ある方、条件の許す方は、ぜひご参加を。
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東北沿岸漁民緊急フォーラム

『漁業法改定』は沿岸漁業に何をもたらすか
【日時】2018年11月19日(月)14:00 ? 17:00
【会場】サンビル7 階 ホール
(岩手県盛岡市大通1丁目2. 1 岩手県産業会館)
安倍内閣は11月6日に、沿岸漁民の漁業権を企業に売り渡す「漁業法改定案」を閣議決定。「今国会で成立させる」と表明しました。
この法案では
?養殖用漁業権免許を漁協を通さず知事が企業に直接免許
?地元漁民に優先的に与えられた定置漁業権を知事裁量で直接企業に免許
?海区漁業調整委員会を公選制から知事の任命制に変更
?沖合漁業の漁獲効率を一層高め、沿岸資源圧迫につながる漁船トン数制限撤廃
?大規模漁業を優遇し小規模漁業を困窮化へ導く漁獲量割当(TAC)制度の導入
…などを行うとしています。
この案が通れば沿岸漁家・漁協の経営はいっそう困難になり、地域経済も疲弊してしまいます。地域創生とは真逆の悪法だと言わざるをえません。漁業関係者に「ていねいな説明」もせず、声も聞かずにすすめている改定案。その内容と問題点をさぐります。

資料代:1000 円 どなたでも参加いただけます

『漁業法改定』は沿岸漁業に何をもたらすか
主催:JCFU 全国沿岸漁民連絡協議会,
漁業法改正法案に反対する漁業経済研究者の会,
NPO 法人21 世紀の水産を考える会
連絡先:JCFU 全国沿岸漁民連絡協議会事務局

〒299-5241 千葉県勝浦市松部1963-2 千葉沿岸小型魚船漁協内 事務局長:二平章 080-3068-9941(携帯)
〔開催地 事務連絡先〕FAX:019-635-9753 E-mail:Iwate.Nouminren@kamogawa.seikyou.ne.jp(岩手県農民連)

プログラム

■開催趣旨説明 二平 章(茨城大学客員研究員)
■報告「漁民に知らせず成立ねらう改定漁業法案の驚くべき内容」
      長谷川 健二(福井県立大学名誉教授)
   「沿岸漁家・漁協経営を破綻に導く改定漁業法案に反対」
      濱本 俊策(香川海区漁業調整委員会会長)
■意見表明 赤間廣志(宮城県漁業調整委員会委員)
      菅野修一(岩手県漁業調整委員会委員)
      片山知史 (東北大学教授)
      綱島不二雄 (元 山形大学教授) そのほか参加者より
■各党地元国会議員要請

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(2018年11月16日)

漁業法改正は対決法案に ― アベ政権の水産改革批判(その3)

昨夕(11月14日)NHKラジオ「Nらじ」に、二平章さん(JCFU全国沿岸漁民連絡協議会事務局長・茨城大学客員研究員)が出演し、今回の水産改革について沿岸漁民の立場からの解説をされた。19時30分からの約25分間。落ち着いた語り口で分かり易く説得力があった。下記のURLで、2か月間聞けるという。
http://www4.nhk.or.jp/nradi/24/

「アベ様のNHK」という揶揄は、最高幹部や政治部には当てはまっても、その決め付けが必ずしも常に正しいわけではない。一緒に出演していたNHKの専門解説委員も司会者も、公平な態度だった。

先日、TBSラジオ・荻上チキの「セッション22」が、このアベ水産改革を手放しで礼賛していたのに驚いたが、これに較べてNHKの姿勢が遙かに真っ当なのだ。

また、NHKは下記のURLで聴取者の意見を募集している。ネトウヨの世界とは違った、真面目な意見が寄せられている。反響が大きければ、また「Nらじ」は水産改革関連問題をとりあげたいとの意向だという。
http://www6.nhk.or.jp/nradi/bbs/commentlist.html?i=54038

そして、本日(11月15日)衆院本会議で、漁業法改正案が審議入りした。

本日衆院本会議で各党の代表質問質問に立ったのは以下の議員。

細田健一(自由民主党)  
神谷裕(立憲民主党・市民クラブ)  
緑川貴士(国民民主党・無所属クラブ)
金子恵美(無所属の会)
田村貴昭(日本共産党)
森夏枝(日本維新の会)

下記のURLで、動画を見ることができる。
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=48459&media_type=fp

維新を除く全野党が、明確に漁業法「改正」案に反対の立場からの質問。立憲民主党の神谷裕などは迫力十分。緑川貴士もなかなかのもの。そして、田村貴昭の質問も鋭い。

メディアはこう報道している。

日経の見出しが、「漁業法、企業参入で与野党対決 衆院審議入り」というもの。
「企業が新規参入しやすいように漁業権制度などを見直す漁業法改正案が15日、衆院本会議で審議入りした。漁業権を地元の漁業協同組合に優先する仕組みなどを見直し、漁業を成長産業に育てる狙いがある。野党は小規模漁業者への影響が大きく拙速だと批判しており、今国会で対決型法案となりそうだ。」

「企業の参入規制を緩和して漁業を成長産業に」がアベ水産改革のスローガンだ。これに対して、野党が「小規模漁業者への影響」の立場から反対という図式。明らかに法案の狙いは、「漁民のための漁業法」から、「資本のための漁業法」に、というものだ。

この構図、一見すると「漁民」対「企業」の角逐のごとくである。多くの国民にとっては、「『漁民』の獲った魚も『企業』が獲った魚も、味に変わりはなさそうだ」「それなら、どちらでも廉い方がよい」のだろうか。実はそうではない。

多くの国民は、消費者であると同時に勤労者でもある。かつ勤労者はそれぞれの分野で、企業と共存しつつも対峙している。労働者として、自営業者として、商店主として、農民として、そして漁民として。あるいは、小規模経営者として、より大きな企業と。資本の放縦に対する規制においては、利害を共通にしているのだ。

労働に関する規制をなくして企業が小児労働を雇用すれば、その企業の商品は安価となる。しかし、消費者がこのような商品を安価だからとして歓迎することはできない。アンフェアーな企業の商品流通を許せば、たちまち多くの労働者の賃金の引き下げ圧力として波及する。大店法の規制があった時代には、各地の商店街が賑わった。いま、その規制がなくなって大規模スーパーとショッピングモールに席巻されて、商店街のにぎわいが消えた。多くの商店主の稼働の場が失われたのだ。

規制の緩和ないし撤廃は、一面効率と生産性を向上させるが、他面多くの勤労者の生計の場を奪う。消費者は、市場における適正な競争原理の働きを歓迎はするが、規制の撤廃や過度の緩和は望まない。結局、それは自分の首を絞めることにつながるのだから。漁業の参入規制を緩和して企業に漁業を営ませる。それは、けっして多くの消費者(=勤労市民)にとって歓迎すべきことではない。

いずれにせよ、アベ政権とその取り巻きの思惑のとおりにはことが運んでいない。漁業法改悪問題は、対決法案となってきた。
(2018年11月15日)

「漁民のための漁業法」から、「資本のための漁業法」に ― アベ政権の水産改革批判(その2)

経済という言葉の語源は、「世経済民」《世を經(おさ)め民を濟(すく)う》なのだという。むべなるかな。経済政策は、常に民の生活の安定を第一義とするものでなければならない。

しかし、いま世は資本主義の時代である。この社会の主は、資本ないし企業であって、民ではない。資本の恣の利潤追求の衝動に、政治的な民主主義がどれだけの掣肘を課することが可能か。そのことによって、民衆の福利をどれだけ向上させることが可能か。それが、この社会の最も中心的で基本的な課題である。

もし、法による規制をまったくなくして資本の放縦を許せば、この世は資本という怪獣が民を食い尽くす修羅の巷とならざるを得ない。「世経済民」とは、資本に規制を課することによって「民を済う」ことにほかならない。

規制緩和・規制撤廃とは基本的にそのような、資本の欲求による修羅の巷への一歩である。労働分野や消費生活の分野における規制とその緩和が分かり易いが、至るところに資本対民(生身の人)との対立構造の中で、どこにも規制があり、規制緩和との闘いがある。

漁業法「改正」問題も同様だ。漁業法は戦後の経済民主化策の賜物である。財閥解体と農地解放に続いた、漁業分野の民主化が漁業法に結実した。その目的に「漁業の民主化を図ること」が明記された意味は重い。

1949年の制定当時、「漁業調整」と「水産資源の保護培養」が漁業法の2本の柱であった。その後、「水産資源の保護培養」の課題は水産資源保護法に移され、漁業法と水産資源保護法の両者が漁業を規制してきた。

「漁業調整」が漁業法の最大課題である。農業と異なり、不可避的に水面の総合的利用が必要な漁業においては、他の水面利用者との利害関係の調整が不可欠である。しかし、どのように漁業調整をなすべきかを法自体は語っていない。

法が語るものは、漁業調整の究極理念としての「漁業の民主化」と、「漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用」である。この漁業調整機構は、海区漁業調整委員会として具体化されている。つまり、法はそれぞれの地元に設けられた「各海区漁業調整委員会」の運営によって漁業調整をすることにより、漁業の民主化を達成せよというのだ。

「漁業の民主化」という目的規定、そして「海区漁業調整委員会」という漁民の意思反映手続の制度、これが漁業法の眼目、言わば「両目」である。今回の漁業法『改正』は、この両目を共に潰そうというものなのだ。納得できるはずがない。

改正法案では、「漁業の民主化」という目的規定の文言はなくなる。そして、「海区漁業調整委員会」は公選制から知事の任命制になる。

「民主化」とは、弱い立場の者が強い者と同等に権利主張ができることではないか。政治的、社会的、経済的な弱者が堂々と権利主張をし、相応の権利主張が認められるべきことである。海区漁業調整委員会は、零細漁民、少数派漁民が堂々と権利主張できる場でなくてはならない。その活性化こそが課題なのに、改正法案は、この「民主化」を潰して、弱い立場の者の権利主張を抑えて、強い者の権利を通しやすくしようとするものである。

「民主化」は効率化を意味しない。零細漁民の漁法の生産性は、大規模な企業的漁業に劣ることになるだろう。効率や生産性を規準にすれば、企業的漁業が勝ることは当然のことだろう。しかし、農業も漁業も市場原理だけに任せておくべき産業分野ではない。

なによりも、零細漁業者の経営の安定が第一である。まさしく「経世済民」を優先しなければならないのだ。

大切なことは、効率でも生産性でも、資本の利益でもない。漁民が生計を維持し次世代に繋げる漁業経営を可能にすることこそ大切なのだ。そのような漁業政策を手続的に保障するものが海区漁業調整委員会である。これを骨抜きにしてはならない。

経済原則に任せることでよいのか。外部資本の参入規制を緩和して零細漁民の経営を潰し、浜の地域経済を潰し、漁民の生活を窮地に追いやってよいのか。効率の名で、人の生活を奪うことが許されるのか。

今次水産改革は、そのような問題を提起している。
(2018年11月14日)

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