法曹界にはびこる『憲法教』? 稲田朋美炎上ツイートの怪説
月が変わった。戦争と平和をめぐるいくつもの出来事の記憶を喚起すべき8月である。日本国憲法制定の出発点は1945年8月にあった。憲法の平和主義・国民主権・人権尊重を当時に立ち返って確認し、その理念が今にどう生きているかを検証すべき8月。
その8月の入りが異様に暑い。ぶり返しの猛暑は体にこたえる。朝からの暑さを不快と思いつつ赤旗をひろげたら、その2面に不愉快な人物の不愉快な言動についての記事。
稲田朋美の憲法誹謗である。見出しは、「『憲法教という新興宗教』 稲田氏がツイッターで暴言」というもの。皆すなるツイッターもて、落ち目の稲田朋美も復権をはからんとするか。
問題のツイッターは7月29日の夕刻にアップされた下記のもの。
「日本会議中野支部で『安倍総理を勝手に応援する草の根の会』が開催され、私も応援弁士として参加しました。支部長は大先輩の内野経一郎弁護士。法曹界にありながら憲法教という新興宗教に毒されず安倍総理を応援してくださっていることに感謝!」
これが炎上して、30日の昼過ぎに削除されたという。赤旗には、「(すでに削除ずみ)」の投稿写真と「稲田朋美元防衛相のツイート」が掲載されている。ツイートの内容もみっともないが、批判されての翌日の削除は、みっともなさの極み。こんなのが、アベ政権の防衛大臣だったのだ。こんなのを当選させていたのでは、誇り高き越前福井の恥だろう。
赤旗は、「自民党の稲田朋美元防衛相(衆院議員)がツイッターに憲法を敵視した暴言を投稿(7月29日)したことに対し、世論の批判が高まっています。同氏は30日までに投稿を削除しました。」と経過を説明した上で、「国の最高法規である憲法を擁護する立場を『憲法教』『新興宗教』などと攻撃し、安倍首相応援と憲法擁護が対立することを自白した形です」「稲田氏の投稿は、国会議員の憲法擁護義務に明確に反します。投稿を削除したからといって責任は免れません」と手厳しい。
さて、このツイートの憲法に関わる内容が興味深い。「法曹界にありながら憲法教という新興宗教に毒されず安倍総理を応援してくださっていることに感謝!」というだけの短いものだ。稲田は、自分では気の利いた内輪受けの文章を書いたつもりだったのかも知れない。が、こんなときにこそ普段は隠している本性が表れる。憲法に対する無知・無理解、不真面目で揶揄的で真摯に憲法と向き合おうという姿勢を欠くという本性である。実はそのことは、憲法の理念尊重の姿勢に欠けるということ。端的に言えば、稲田は、人権も民主主義も平和もキライなのだ。
「法曹界にありながら憲法教…に毒されず」とは、恐れ入った表現。法曹界とは、実務法律家である裁判官・検事・弁護士の三者をいう。稲田は法曹三者からなる法曹界が「憲法教…に毒されて」いるというのだ。ここには、憲法と宗教の双方に対する侮蔑のニュアンスが込められている。「憲法教」とは、憲法を人類の理性が尊重すべきものとして確認した理念の体系であることの否定にほかならない。あたかも教典のごとく、教祖の祖述をひたすら信仰の対象とする非理性的な観念の体系として拝跪しているという揶揄である。
しかし、法曹界が憲法を尊重し厳格に憲法に従ってその職責を果たすべきことはあまりに当然なのだが、稲田にとっては揶揄すべきことなのだ。稲田は、憲法を知らないだけでなく、法の支配という大原則を理解していない。信仰は個人それぞれに信ずる内容が異なるが、憲法は普遍性を有し誰もが受容せざるを得ないもの、という基本認識に欠けている。
アベ政権は、こんな人物を内閣の一員としたことの政治責任を自覚しなければならない。文民統制の要の立場にあるのが防衛大臣。こんなのがその地位にあったのだ。自衛隊制服組の暴走を心配せざるをえないではないか。
稲田は、問題ツイートの3日前の7月26日夜、「深層ニュース」(BS日テレ)なる番組に出演してこう語っていたそうだ。
「ツイッターで私のイメージというか、本当に右で、歴史問題では修正主義者っていう向きも多いが、いろんな面を発信することができればいいなあと思いまして…。まだまだ未熟なので、手探りで…。まだ1個しかやってないんですけれども…炎上しないように頑張っていきたいと思います!」
「炎上しないように頑張って」発言直後のツイート炎上のお粗末。そもそも、大臣や代議士の柄ではないのが無理して背伸びするからこんなことになる。ツイッターも、やればやるほど、「本当に右で、歴史問題では修正主義者って」イメージを固めるばかり。悪いこと言わない。背伸びや無理はおよしなさい。ツイートも。
(2018年8月1日)