澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

警察は、安倍晋三の私兵になり下がってはならない。

マッチは生活に必要な小物だが、芥川の言うとおり「重大に扱わないと危険」である。マッチすら危険なのだ。権力機構の実力組織としての警察の危険はその比ではない。

マッチ同様、警察は国民生活に必要で有益だから存在している。しかし、その内在する危険のゆえに、遙かに慎重に取り扱わねばならない。

警察に内在する危険とは、何よりも時の権力者の私兵に堕することにある。権力を握る特定の人物、特定の勢力のために、警察に与えられた実力が行使される危険である。「安倍一強」と言われる異常事態が長く続き過ぎた今日、その危険顕在化の徴候に敏感でなくてはならない。国民は常に警察を監視し、その逸脱した警察権の行使には、一斉に批判の声を上げなくてはならない。

札幌市中央区で7月15日に行われた安倍晋三の参院選街頭演説の際、演説中にヤジを飛ばした市民(男性と女性)を北海道警の複数の警官が取り押さえ、演説現場から排除した。男性市民は、「ものすごい速度で警察が駆けつけ、あっという間に体の自由が奪われ、強制的に後方に排除されてしまった」と言っている。女性市民に対しては、その後2時間以上も警察が尾行、つきまとったという。18日には、大津でも同様のことが起こった。その動画がネットに掲載されて、何が起こったか警察が何をしたのかが明確になっている。

安倍晋三は、政治と行政を私物化した首相と刻印されているが、本来各都道府県公安委員会の管轄にあるはずの警察権力までも私物化しているのだ。国民的な批判と弾劾が必要である。

警察法第2条《警察の責務》の第2項を確認しておきたい。
「警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。」

これに基づいて、第3条《服務の宣誓の内容》はこう定める。
「この法律により警察の職務を行うすべての職員は、日本国憲法及び法律を擁護し、不偏不党且つ公平中正にその職務を遂行する旨の服務の宣誓を行うものとする。」

当然のことだが、警察組織にも、警察官個人にも、「不偏不党且つ公平中正」が求められる。「いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる警察権濫用の行為」があってはならないのだ

現実はどうか。北海道警も滋賀県警も、厳格に公共の安全と秩序の維持という責務の範囲に限られるべき警察権の行使を、安倍晋三個人の利益のために行使したのだ。市民の言論の自由を侵害して、「安倍やめろ。安倍かえれ」「増税反対」という言論を封殺し、日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる警察権濫用の行為を敢えてしたというほかない。

東京都在住の男性が、北海道警の警官らによる市民への排除、拘束が特別公務員職権濫用罪(刑法194条)と公務員職権濫用罪(刑法193条)に該当するとして札幌地検に刑事告発したと報道されている。地検の捜査と処分に注目したい。

道警の頭には、安倍晋三の「選挙活動の自由」という価値しかない。これを批判する市民の批判的言論は対抗価値としての位置づけはなく、不逞の輩の狼藉としか考えられていない。これが恐いところだ。

「不偏不党且つ公平中正」を厳正に貫くためには、市民の側よりも権力の側により厳しい姿勢を保持しなければならない一強体制の継続の中では、この本来あるべき姿勢が忘れられ、権力に対する忖度行政が横行する。道警の行為は、その氷山の一角の露呈であって、看過してはならない。

さっそく、自由法曹団の北海道支部と国民救援会とが行動を起こした。昨日(7月19日)下記の抗議の「申入書」を道警本部長宛に提出している。その迅速な対応に、敬意を表したい。
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北海道警察本部長 山岸 直人 殿

申  入  書

2019年7月19日

国民救援会北海道本部 会 長  守 屋 敬 正
自由法曹団北海道支部 支部長  佐 藤 哲 之

1 本年7月15日午後、安倍総理大臣が来札し、JR札幌駅前で、参議院選挙の自民党公認候補応援の街頭演説を行った。その際、「安倍やめろ、帰れ」などと声を発した男性と「増税反対」と叫んだ女性が、事前の声かけもなく、多数の警察官に取り囲まれ、腕をつかまれるなどして、数十メートルも強制的に移動させられ、その場から排除されるという事態が発生した。同様のことが地下道を移動中の安倍総理大臣に対して大声でヤジを飛ばした若い男性に対しても行われたと報道されている。

2 警察官によるこれらの行為は、強制的に排除された聴衆の行為が当初の北海道警察本部の説明にあった公職選挙法225条(選挙の自由妨害)に該当しないのは明白であり、法令上の根拠など全くなく、些かも正当化することができないものである。
それどころか、警察官によるこれらの行為は、特別公務員職権濫用罪(刑法194条)ないし特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条)に該当する可能性さえあるものだと言わなければならない。

3 更に問題なのは、これらの行為が、複数の場所で、複数の人々に対して、複数の警察官によって行われ、現場にいた警察官が誰もそれを注意したり、制止したりしていないということである。このことから言えるのは、警察官によるこれらの行為が北海道警察による組織的なものだということである。
いうまでもなく、警察法2条は、警察の活動について、「不偏不党且つ公正中立」を旨とし、「いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない」としており、警察は公平・中立・適正にその職務を遂行しなければならない。特に、国政のあり方を決める選挙の期間中はとりわけ慎重でなければならない。
 北海道警察の対応は、時の政権におもねり、公権力が有形力を行使して時の権力者に対する批判を強制的に封じ込めることにもつながりかねないものである。

4 われわれは、民主主義社会の根幹を支える政治的言論の自由を擁護し、警察権力の違法、不当な制約を受けることなく主権者が旺盛に政治活動を行うことができるよう様々な活動を行ってきた。
 われわれは、今回の北海道警察の行為やその後の対応に対し、強く抗議するとともに、今回の事態の責任の所在を明らかにし、二度と同様の事態を引き起こさないことを強く求めるものである。

以上

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なお、公選法225条は、「交通若しくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、又は文書図画を毀棄し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害したとき」を選挙の自由妨害罪の構成要件とし、4年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に当たるとする。
さて、「演説を妨害し」とは、どんな行為がこれに当たるか。公選法ではなく、衆議院議員選挙法時代のものではあるが、次の最高最判例(1943年12月24日)がリーディングケースとされている。

弁護人上告趣意について。
 論旨は、原判示第一の事実に関して、原判決が被告人の所為を選挙妨害の程度と認定したことを非難している。しかし原判決がその挙示の証拠によつて認定したところによれば、被告人は、市長候補者の政見発表演説会の会場入口に於て、応援弁士B及びCの演説に対し大声に反駁怒号し、弁士の論旨の徹底を妨げ、さらに被告人を制止しようとして出て来た応援弁士Aと口論の末、罵声を浴せ、同人を引倒し、手拳を以てその前額部を殴打し、全聴衆の耳目を一時被告人に集中させたというのであるから、原判決がこれを以て、衆議院議員選挙法第一一五条第二号に規定する選挙に関し演説を妨害したものに該当するものと判断したのは相当であつて、所論のような誤りはない。仮りに所論のように演説自体が継続せられたとしても、挙示の証拠によつて明かなように、聴衆がこれを聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為があつた以上、これはやはり演説の妨害である。(以下略)

以上のとおり、選挙の「演説妨害」とは、「演説の継続を不能とせしめること」、または「演説自体が継続せられたとしても聴衆がこれを聴き取ることを不可能又は困難ならしめること」である。札幌や大津の例が、これに該当するはずもないことは、明白と言って良い。

さらに、この構成要件に該当する場合でも、権力者の選挙演説に対する市民の対抗意見の表明が、憲法に保障された表現の自由の行使として、違法性が阻却されることも考えられる。警察権の行使は、慎重の上にも慎重でなくてはならない。

明日(7月21日)投票の参院選、安倍一強体制崩壊のきっかけとしたい。そうしなければ、この国のあらゆるところが、際限なく腐ってゆく。

(2019年7月20日・連続更新2301日)

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