日弁連の、「特定秘密保護法案」反対姿勢の本気度
弁護士とは、法を駆使して国民の人権を擁護するための専門職である。人権擁護の職務は必然的に国家権力と切り結ぶことになるのだから、在野に徹しなければならない。在野の職務ではあるが、法的に弁護士法に基づく存在である。その法が弁護士会に自治を保障していることによって、国家権力と切り結んでも身分が剥奪されることはない。
戦前はそうではなかった。もっとも良心的にもっとも果敢に人権のために闘った優れた弁護士の多くが、法廷で権力と切り結んだ弁護活動を理由に起訴され有罪になり、弁護士資格を剥奪された。3・15事件、4・16事件などの弾圧で逮捕された多くの共産党員活動家が治安維持法で起訴され、その弁護を担当した良心的な弁護士が熱意をもって弁護活動を行った。この法廷での弁護活動が治安維持法違反の犯罪とされて起訴されたのだ。悪名高い、「目的遂行罪」である。「外見上は弁護活動に見えるが、実は共産党の『国体を変革し私有財制度を否定する』結社の目的遂行のために法廷闘争を行ったもの」と認定されて有罪となった。有罪となった弁護士が司法省(検事局)から資格を剥奪されたとき、弁護士会が不当な資格剥奪として闘うことはなかった。
戦後、1949年に制定された弁護士法は、戦前における痛恨の反省から、高度の弁護士自治を認めた。珠玉のごとくに大切なこの弁護士自治は、国民の貴重な財産である。弁護士の不祥事などはもってのほか。多くの国民に、弁護士自治の積極的な意義を理解してもらい、支えてもらわなくてはならない。
弁護士法第1条に「弁護士の使命」が記されている。第1条1項「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」は、よく知られている。しかし、同条2項の「弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない」は余り知られていない。注目すべきは、「(弁護士は)法律制度の改善に努力しなければならない」ということである。「法律制度の改善」は、当然に「改悪の阻止」を含む。その最たるものが、「改憲の阻止」であり、諸悪法反対闘争への寄与である。悪法を制定しようという権力に臆するところがあっては、遠慮のない批判ができない。つまりは弁護士の使命を全うすることができない。
これを受けて、弁護士法第33条は、「弁護士会は、日本弁護士連合会の承認を受けて、会則を定めなければならない」「弁護士会の会則には、次に掲げる事項を記載しなければならない」として、弁護士会に「建議及び答申に関する規定」を措くことを義務づけている。全国51の単位弁護士会の全部、そして日本弁護士連合会(日弁連)のいずれもが、「建議及び答申に関する規定」を有して、「決議・声明・要望書・会長談話・申し入れ」などの形式で、旺盛に官公署等への建議を行っている。
日弁連の会長人事は複雑で不透明ではある。特に識見豊かで、仲間内で尊敬されている弁護士が会長になるわけでもない。しかし、誰が会長になっても日弁連の方針にブレはない。人権擁護、被疑者・被告人の権利伸長、司法の独立、使いやすい司法の実現などというテーマは、一貫したものになっている。その日弁連の姿勢は評価に足るものと思う。
最近の日弁連の動きを紹介したい。10月3日?4日に、広島市において、第56回人権擁護大会・シンポジウムが開催された。シンポジウムには2490名、人権擁護大会には1235名の参加があり、次の4本の決議が採択された。
☆立憲主義の見地から憲法改正発議要件の緩和に反対する決議
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2013/2013_1.html
☆福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2013/2013_2.html
☆恒久平和主義、基本的人権の意義を確認し、「国防軍」の創設に反対する決議
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2013/2013_3.html
☆貧困と格差が拡大する不平等社会の克服を目指す決議
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2013/2013_4.html
いずれも、時宜を得た、なかなかの内容である。
なお、昨年のテーマの一つに、「日の丸・君が代」強制問題に触れた決議があった。これも紹介しておこう。
☆子どもの尊厳を尊重し、学習権を保障するため、教育統制と競争主義的な教育の見直しを求める決議
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2012/2012_1.html
ところで、喫緊の課題である「特定秘密保護法案」についての日弁連の姿勢である。1985年当時の国家秘密法を全力をあげて阻止した、その伝統に陰りは見えない。この法案の成立を阻止しようという本気度は十分である。
日弁連ホームページをご覧いただきたい。以下のとおり、たいへんな努力が重ねられている。
2013年10月23日 秘密保護法制定に反対し、情報管理システムの適正化及び更なる情報公開に向けた法改正を求める意見書作成
2013年10月21日 チラシ「いま、『秘密保護法』案が国会で審議されようとしています!」を作成してホームページに掲載
2013年10月03日 特定秘密保護法案に反対する会長声明
2013年09月12日 「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対する意見書
2013年09月05日 憲法と秘密保全法制?私たちの「表現の自由」を守れるか
そして、昨日には「日弁連会長先頭に緊急宣伝」活動が行われた。山岸憲司会長を先頭に、「秘密保護法案」反対を訴える、有楽町マリオン前の弁護士たちの写真が報道された。会長以下がマイクを握って、「国民の知る権利を侵害する同法案を廃案に追い込みましょう」「情報は国民のものです。必要な情報は公開されなければならない。政府にとって都合の悪い情報を隠そうとするのは民主主義にとってきわめて危険です」「法案が成立することのないよう、反対の声を上げていきましょう」と呼び掛け、通行人にビラを配った。
そして、本日の記者会見で、新たな秘密保護法反対の意見書がマスコミに公表された。重要な秘密を漏らした公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法案に反対して「漏えい防止は厳罰化でなく、情報管理システムの適正化で実現すべきだ」と訴えるもの。むしろ、国民への情報開示を充実させるため、公文書管理法や情報公開法の改正を求めている。そして、情報管理システムの充実によって必要な秘密の漏えいを防ぐことができ、秘密保護法の制定は必要ないとしている。
日弁連は、全弁護士の強制加盟団体である。決議や声明は、会内合意形成の結果として出てくる。そのため、自由法曹団や日民協などの任意団体の決議内容と同じようには行かない。それでも、人権擁護の立ち場の徹底が、あるいはオーソドックスな現行日本国憲法の解釈が、安倍自民の悪法量産に対する強い批判とならざるを得ないのだ。
臆するところなく、在野に徹し、人権擁護を貫く日弁連の本気の姿勢を、私も弁護士の一員として誇りに思い、改めての支持を表明したい。
(2013年10月24日)