澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「NHK経営委員会よ。森下俊三よ。公的機関としての自覚はあるのか」

(2021年3月6日)
本日(3月6日)の毎日新聞夕刊の第5面(放送欄)に、「問われる公的機関の自覚」の大きな横見出し。「公的機関」とはNHKのこと。「NHKよ。汝に公的機関としての自覚はあるのか」と、問うているのだ。
https://mainichi.jp/articles/20210306/dde/018/040/006000c

もっとも、自覚を問われているのは、けっしてNHK全体ではない。その最高意思決定機関である経営委員会であり、なかんずく経営委員長の森下俊三である。もっとも、この人に公的機関幹部たるの自覚を求めることは無意味といわざるを得ない。既に経営委員としての資質を欠落していることが明らかなのだから、速やかに辞職してもらわねばならない。

毎日記事の見出しは、「NHKかんぽ報道問題 審議委が議事録全面開示再び答申 元委員・宍戸常寿教授に聞く」と続いている。新事実の報道はないが、問題点を上手にまとめている。読者は、「元委員・宍戸常寿教授」と一緒に、怒らざるを得ない。NHKとは、経営委員会とは、そして森下俊三とは、なんて酷いんだ、と。その酷さは、政権の酷さに直結している。

私なりに、経過と問題点を噛み砕いて説明してみよう。まず、何があったか。

◇ NHKは2018年4月の「クローズアップ現代+」で、かんぽ生命保険の不正販売を報道した。これは、スクープであっただけでなく大規模な消費者被害摘発報道としてNHKの制作現場の能力と意気込みを示した優れた番組であった。NHKの健在を示す表彰ものと言ってよい。

◇ ところが、これに加害者側の日本郵政グループが噛みついた。7月に、「クローズアップ現代+」が続編の放送を予告し、情報を募るネット動画を投稿したところ、「悪役その1」が登場した。元総務次官で日本郵政筆頭副社長の鈴木康雄。NHK経営委員会に、番組続編報道予告の削除を要求した。

◇ このような外部からの理不尽な攻撃から、番組制作現場を守るのが、NHK本部や経営委員会の役割である。とりわけ、放送法上NHKは、「予算、事業計画を総務大臣に提出しなければならず、総務大臣はこれに意見を付し、内閣を経て国会に提出し、その承認を受けなければならない」。NHKは総務省には弱い立場にある。だからこそ、元総務次官や郵政グループの圧力に屈してはならない。

◇ しかし、「悪役その1」に同調したNHK経営委員会は10月の会合で、当時の上田良一会長を厳重注意とした。この議事をリードしたのが、森下俊三経営委員長代行(当時)、「悪役その2」の登場である。上田会長は事実上の謝罪文を郵政側へ届けさせた。厳重注意を行った経営委会合で委員複数が番組を批判したことも明らかになり、放送法が禁じる委員の番組介入が疑われている。

◇ こうして、番組続編の放送は無期延期となり、情報を募るネット動画は削除された。立派な番組を作った現場は、悪役の2人とその取り巻きによって、一時的にせよ、押し潰された。いったい、どんな議論によって「石流れ、木の葉沈む」理不尽な結論に至ったのか。誰がどんな発言をしたのか。議事録を見たい。議事録を見せろ。

◇ 放送法41条は、経営委員会の会義議事録の作成と公開を義務付けている。ところが、経営委員会は議事の要約は出しても議事録は出さない。そこで、毎日新聞社が、NHK自身の定めによる情報公開制度に基づいてこの議事録を請求した。NHK本部や経営委員会が公開を拒否した場合、NHKが設置する第三者機関「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」(以下、「審議委」という)がその当否を判断する。審議委は2020年5月、経営委議事録を全面開示すべきだとする答申を出した。

◇ それでも、経営委員会はこれに従わない。そこで審議委の元委員でもある宍戸常寿・東京大大学院教授(憲法・情報法)らが2回目の情報公開請求をした。これに対して、この2月改めて再度の全面開示答申が出た。これが、経営委員会が挙げてきた公開できない理由を全て否定した立派な内容。これについて、毎日新聞が宍戸教授から、要点を聞いているのが、以下の本日夕刊の記事。

◆ 宍戸教授の今回の答申についての総括的な感想は、「前回の答申の後、経営委が挙げた『開示できない理由』を全て否定し、かなり踏み込んだ内容だ。審議委の強い思いを感じる」

◆ 答申が特に問題視したのは、前回の全面公開答申に対し経営委が要約した文書しか開示しなかったこと。今回の答申では「要約された文書は開示の求めの対象文書との同一性を失ったもの」として、「制度の対象となる機関自らが手を加えることは制度上予定されておらず、対象文書の改ざんというそしりを受けかねない」と経営委を厳しく批判した。宍戸教授は「そもそも情報公開制度は、対象文書をありのままに見せることが大前提。答申では、不開示の理由があったとしても、対象文書の全部または一部を黒塗りにし、不開示部分が分かるように回答するものだとも述べている。情報公開について一から教えてくれている、教科書のような答申だ」と話す。

◆ 放送法41条の存在にもかかわらず、経営委は内規を根拠に議事録全体の公開を拒んできた。しかし、今回の答申では「当該組織体が非公表としたことだけで(議事録が)当然不開示になるということではない」と指摘。「視聴者から開示請求があった場合は、その都度、情報公開の可否について当審議委員会の審議に付される必要がある」と強調した。宍戸教授は、この記述に注目。「経営委が『非公開にしたい』と思うものを、いくらでも非公開にできるわけではないと言っている。審議委の存在も含め、NHK全体の情報公開制度やガバナンスが成り立つことを強調した」と指摘する。

◆ また答申では、当時委員長代行だった森下氏ら複数の経営委員が放送法違反の番組介入が疑われる発言をし、会長を厳重注意していたことなどが国会やメディアで取り上げられ、「NHKの公共性、透明性、経営委の議事の経過などに疑念が呈されている」ことにも言及。受信料で運営される公共放送として「視聴者に対する十分な説明責任が求められている」とも述べた。宍戸教授は「これでも審議委の答申を無視するならば、開示しない理由を国民に説明する責任がある。経営委の公的機関としての自覚が問われている」と話す。

市民運動としての第3次の情報公開請求の取り組みが準備中である。仮に、それでも情報公開に応じないようなら、提訴の工夫があってしかるべきである。経営委員会・森下俊三、なにゆえにかくも頑なであるのか、NHKと総務省の闇は果てしなく深い。

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