澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

22年間頓挫していた「東京都平和祈念館」建設に光明

(2021年8月19日)
 現代の日本は、先の大戦における敗戦の惨禍の中から生まれた。「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすること」こそが国是である。この「戦争の惨禍」「敗戦の惨禍」を繰り返し記憶し承継することによって平和を守ろうとする勢力と、「戦争の惨禍の強調よりは戦前の栄光をこそ」という大国化を求める守旧勢力との角逐が連綿として続いている。

 その角逐を象徴するものの一つが、「東京都平和記念館」構想である。東京都は、かつて都民の戦争被害の情報センターとして、都立の「平和祈念館」設立を構想し、その準備に着手している。展示予定の相当の戦争遺品を収集し、300本余の貴重な証言ビデオも作成した。だが、その構想は立ち消えとなり、いま貴重な戦争遺品は倉庫に眠ったままなのだ。

 この「東京都平和記念館」構想と受難の経過は、美濃部都政から、鈴木・青島都政を経て、石原都政を成立させた政治状況の変化を反映するものである。だが、本日の毎日新聞の記事によると、この構想が再度日の目を見る希望が出てきているという。先の都議選の結果によってである。

 東京都がこの構想を頓挫させて以来、市民運動がこれを受継している。「東京都平和祈念館(仮称)」建設をすすめる会(柴田桂馬代表)である。会のホームページに経過が略述されている。

 「東京都は、(美濃部都政のもとで)有馬頼義さん、早乙女勝元さんや松浦総三さん、橋本代志子さんなど「東京空襲を記録する会」が調査・編集した「東京大空襲・戦災誌」(1973年3月10日)の発行を支援しました。
 さらに都は、「東京空襲資料館」建設の運動や非核東京都宣言実現を求める運動の広がりの中で、(鈴木都政のもとで)3月10日を「東京都平和の日」とする条例を公布・施行(1990年7月)、その後毎年この「平和の日」には記念式典・行事を開催しています。
 1992年6月には都知事のもとに「東京都平和記念館基本構想懇談会」を発足させ、1993年7月には同懇談会が都知事に報告、…「平和記念館」の基本的な性格としては、次のようなことを挙げています
 1、東京空襲の犠牲者を悼み、都民の戦争体験を継承すること。
 2、平和を学び、考えること。
 3、21世紀にむけた東京の平和のシンボルとすること。
 4、平和に関する情報のセンターとすること。
 そしてこの「平和祈念館(仮称)」建設に賛同し、期待した広範な都民からは、5000点にのぼる資料が寄せられました。
 ところが、かつて日本がすすめた戦争を「アジア解放の戦争だった」などとする一部極右の都議と、それに迎合した石原都政になってから、東京都は都議会各会派代表や有識者が名を連ねる「平和の日」記念行事企画検討委員会をいっさい開催せず、「東京都平和祈念館(仮称)」建設のための努力を一切放棄し、都民から集めた資料はほとんど倉庫にしまい込んだままにするというように、都民の願いに逆行する、まったく無責任な都政をすすめてきたのです。」

 施設の趣旨に賛同する都民らから、多くの関係資料が寄贈されている。 展示品の目玉とされたのが被災した330名のビデオ証言記録であり、先の大戦でこれほどの多数の戦争体験者の証言を集めた資料は国内には他にない。証言者の中には歌手の並木路子もいるという。都は現在も、これらの資料を非公開扱いとし、目黒区の都施設に保管したままである。広島平和記念資料館が、資料のネット公開など、多岐にわたり活用されているのとは対照的であるとされる。石原都政下で、「祈念館建設」が暗礁に乗り上げて、以来22年である。

 その状況の打開に光明が見えるという本日の毎日新聞(東京・地方版)の記事。「祈念館建設、都議会で議論を」「議席を得た会派の3割『前向き』」「市民団体『働きかけ、力入れる』」という内容。以下、林田七恵記者の報告による。

 毎日がまとめた経過は、以下のとおり。

「1945年3月の大空襲では約10万人が亡くなったとされ、90年代に祈念館建設が持ち上がった。都は遺品など資料5040点や空襲体験者330人の証言ビデオを収集。しかし展示内容や歴史認識を巡って都議会各会派や議員の意見が対立した。99年の関連予算案審議で「展示内容は、都議会の合意を得た上で実施する」という付帯決議が可決された後は、22年間、実質的な議論はなく計画は凍結されてきた。」

 つまりは、「都議会の合意」がキーワードだ。石原都政下では圧倒的な議席を維持した自民党が、軽々に「合意」形成に協力するはずもない。

 今年7月の都議選で会派構成が新しくなった。「建設をすすめる会」の14政党・会派へのアンケートでは、当選した127人のうち、共産党(19人)、立憲民主党(15人)、東京・生活者ネットワーク、(1人)――が建設に向け「尽力する」と答えた。また東京みらい(1人)は「資料の共有や閲覧を可能とするよう取り組むべき」とした。最大会派の自民党(33人)は「付帯決議が前提」とし、都民ファーストの会(31人)と公明党(23人)は答えなかった。ただ公明は17年都議選では同様のアンケートで建設に賛成している。

 「建設尽力」と明言する会派が議席のほぼ3割、過去に賛同した会派も含めれば45%が「前向き」になるという。さらに興味深いのは、積極的に反対という会派のないこと。過半数まではもう一歩。

 もう一歩の達成は、都民の民意次第だ。是非とも、「東京都平和祈念館」建設を実現しようではないか。 

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