日弁連会長選挙 ー 弁護士人口増員反対派健闘の意味。
(2022年2月6日)
2年に1度の日本弁護士連合会(会員数約4万3000人)の会長選挙の結果が出た。
詳しくは、下記URLを参照されたい。
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/news/2022/20220204_sokuhou.pdf
一昨日(2月4日)の投開票の各候補の獲得投票数は以下のとおり。
・小林元治(33期、東京弁護士会) 8944票
・?中正彦(31期、東京弁護士会) 5974票
・及川智志(51期、千葉県弁護士会) 3504票
当選(内定)者は、小林元治(70歳)である。予想よりも票差が開いたという印象。2月14日の選挙管理委員会で正式に確定することになる。任期は、4月1日から2年間。
なお、当選には、全国52弁護士会のうち3分の1超(18会以上)でトップになる必要があるが、仮集計によると、小林候補は39会でトップを獲得している。投票率は43.24%だった。
時事通信は、「小林氏は立憲主義の堅持を掲げ、高中氏は裁判IT化への対応、及川氏は弁護士の激増反対を主張」と3候補の姿勢の特徴をまとめた。単純化の不正確は否めないとしても、「理念派」「実務派」「福利派」と色分けしてもよいかも知れない。「理念派」とは、弁護士自治や立憲主義の堅持を掲げて人権擁護の姿勢を貫こうという伝統的な分かり易い立場。「実務派」は、弁護士業務のあり方について実情に合った合理的な改革を目指す立場。そして、「福利派」は、弁護士の経済的な地位の向上を強く訴える立場。
小林候補が、立憲主義の堅持を掲げる候補として認識されて、会員の信任を得たことを心強く思う。高中候補は、「実務派」としての姿勢を評価されて第一東京弁護士でトップをとっている。一方で、「弁護士の激増反対主張」を掲げた「福利派」及川候補の善戦に注目せざるを得ない。彼は地元千葉だけではなく、埼玉・長野・富山・宮崎でもトップをとっている。大健闘と言ってよい。
同候補の主張は「弁護士増員反対」である。弁護士増員反対は、弁護士会の総意と言って過言ではない。そして、それはけっしてギルドのエゴではなく、弁護士の使命に鑑みてのことでもある。
私が、弁護士になった1971年ころ、司法試験の合格者は長く毎年500人だった。2年間の司法修習を終えて、同期のうちの150人近くが判事・検事に任官し、毎年350人前後が弁護士となった。当時、弁護士人口は8000人台で、これで弁護士が過少とは思わなかった。50年を経て、司法試験の合格者は1500?2000人となり、弁護士総数は4万人を超えた。この環境の変化が、弁護士の質に影響を及ぼさないはずはない。
私は恵まれた時代に弁護士として働いてきた。ありがたいことに経済的な逼迫を感じたことはない。不定期ではあるがそこそこの水準の収入を得て、金のために嫌な仕事をする必要はなかった。自らの良心に照らして恥じるべき仕事は遠慮なく断ったし、良心を枉げての事件処理をすることもなかった。
しかし、今弁護士激増の時代をもたらした者の罪は深いと思う。弁護士は明らかに、経済的な地位の低下を余儀なくされている。弁護士は、望まぬ仕事を、望まぬやり方でも、引き受けなければならない。経済的余裕がないから、金にならない人権課題に取り組む余力はない、という声が聞こえる。同時に、弁護士が人権の守り手ではなく、コマーシャルで集客をしてのビジネスマンになろうとしている。弁護士の不祥事は明らかに増えている。
弁護士が魅力のない仕事に見えれば、弁護士志望者は減っていく。ますます、その質が落ちていくことにもなりかねない。弁護士増員は、主としては安く弁護士を使いたいという財界の要請によるもの。これを「司法改革」として推し進めたのは、新自由主義政策を推し進める政権の思惑に適ったからであった。
小林次期会長は、当選記者会見で「弁護士の業務基盤、経済基盤をしっかりつくっていく」「女性と若手弁護士の活躍機会を増やし、日弁連を変えていきたい」「法テラスの民事法律扶助や国選弁護について、弁護士の報酬が不合理に低い事例がある」「国民の権利・人権擁護に努めるとともに、持続可能性の観点から、弁護士が労力に見合った報酬を得られるよう議論していきたい」などと抱負を語ったが、これは弁護士業務の需要開拓による弁護士の経済的地位確立が喫緊の課題であることの認識によるものである。
人権擁護の任務遂行のためには弁護士の経済的基礎の確立が必要なことのご理解をいただきたい。