ウクライナの事態は「9条の危機」だなんて、ご冗談を。
(2022年2月26日)
さすがに産経である。産経の紙面では、何ごとも反共のネタとなる。
ロシアのウクライナ侵攻を平和に対する深刻な危機と捉えての素早い対応で気を吐いているのが日本共産党。いち早く、ロシアへの抗議の声を上げ、「国連憲章違反の侵略行為を許さない」「平和を守れ」という旺盛な論陣を張っている。私には、日本共産党の存在感発揮の好機に見える。ところが、これが産経にかかると、こんな記事になる。
《「9条で日本を守れるの?」ロシア侵攻で懸念噴出、共産は危機感》
「9条の危機」故の《共産党の危機感》というのだ。「9条で日本を守れるの?」「非武装で国を守れるのか?」。もっと素朴には、「攻められたらどうするの?」は、今に始まった問ではない。日本国憲法制定時の制憲議会での質疑から今日まで、同様の問いかけが繰り返されてきた。もちろん、真面目な議論もあり、護憲勢力を叩こうというだけの不真面目な議論もおりまざって、様々に積み重ねられてきた。
産経記事の本文はこうなっている。
「ロシア軍によるウクライナ侵攻を受け、『憲法9条で国を守れるのか』という懸念の声が会員制交流サイト(SNS)などで増えている。対話が通用しない国際社会の厳しい現実を目の当たりにし、最高法規に『戦争の放棄、戦力及び交戦権の否認』を掲げることへの危機感を受けたものだ。護憲勢力は警戒を強めており、特に夏の参院選に向けて『9条改憲阻止』を訴える共産党は火消しに躍起となっている。」
ここで、日本共産党委員長・志位和夫のツィッターが引用される。
『憲法9条をウクライナ問題と関係させて論ずるならば、仮に(ロシアの)プーチン大統領のようなリーダーが選ばれても、他国への侵略ができないようにするための条項が、憲法9条なのです』
「共産の志位和夫委員長は自身のツイッターで、ロシアによるウクライナ侵攻を強く批判する一方、ネット上で一気に噴出した9条懐疑論を牽制した。機関紙「しんぶん赤旗」も25日付で「ウクライナ問題 日本は9条生かし力尽くせ」との記事を掲載した。
ただ、プーチン氏のようなリーダーに率いられた覇権国家が日本への侵攻を試みた場合の9条の効力は不透明だ。」
次いで産経は、日本維新の会の松井一郎(大阪市長)の志位ツィッターへのツッコミを紹介する。
「志位さん、共産党はこれまで9条で他国から侵略されないと仰ってたのでは?」
松井の言うことはよく分からない。が、忖度して舌足らずな松井の言を補えば、こう言いたいのであろう。
「共産党はこれまで『憲法9条があるから、日本が他国から侵略されることはない』と言っていたはずではないのか。ところが、今回のウクライナの例を見よ。《仮にウクライナが憲法9条をもっていたにせよ》ロシアの侵攻を防げただろうか。同様に日本に憲法9条があるからといって、他国から侵略されることはないとは言えないだろう」
また、産経は、「自民党の細野豪志元環境相も『論ずべきは、憲法9条があれば日本はウクライナのように他国から攻められることはないのかということ。残念ながら答えはノーだ』」と紹介している。
松井・細野とも、その言から9条に対する敵愾心だけは伝わってくるが、9条を論難する論理にはなっていない。ウクライナに憲法9条はない。人口4000万を超える国なりの軍事力はある。けっして、「9条類似の憲法条項」をもっていたからロシアからの侵略を受けたわけでも、非武装だから侵攻の対象となったわけもない。松井・細野は、「9条をもたない国が侵略を受けたのだから、9条は有害だ」という、間の抜けた非論理を展開しているわけだ。明らかになったのは、武力では侵略を止めることができなかったということ。
強いて松井・細野の側に立って議論を膨らませれば、「もっと強い軍隊を」「もっと多数の兵士を」「もっと多額の軍事費の負担を」ということになろう。しかし、果たしてそのようなことが可能だろうか。そして、そうすれば安全だろうか。却って相互不信から危険を招くことにはならないか。
日本国憲法9条は、大戦の惨禍を招いた苦い経験への反省から、際限なき軍備拡張の愚をくり返さぬよう制定されたのだ。今、松井や細野が言っているような軍備正当化の見解を克服してのことである。その初心を思い起こそう。
制憲議会での政府答弁には、何度か「捨て身の態勢で平和愛好国の先頭に立つ」という覚悟と決意が述べられている。9条の平和主義は、けっして怠惰な消極主義ではない。積極的に国際平和を実現すべき努力を積み重ねて、安全な環境を作ろうとするもの。従って、「攻められたらどうする」「武力侵攻されたらどうする」という問を想定していない。原発にでも、コンビナートにでも、ミサイルを撃ち込まれれば、「そこでどうする?」という問は無意味なのだ。
なお、志位和夫のツィッターだけではよく分からない。共産党の公式見解は、9条についてどう言っているだろうか。ホームページから引用する。
「憲法をめぐるたたかいでは、第九条が最大の焦点となっている。…改憲のくわだてとむすびついて、軍国主義的 な思想・潮流の動向が強まっていることも重大である。
憲法九条をとりはらおうという動きの真の目的は、アメリカが地球的規模でおこなう介入と干渉の戦争に、日本を全面的に参戦させるために、その障害となるものをとりのぞくところにある。
昨年強行された戦争法は、そのための仕組みをつくろうとするものであった。しかし、九条があるために、戦争法においても、「自衛隊が海外で武力行使を目的に行動することはできず、その活動は後方地域支援にかぎられる」ということを、政府は建前にせざるをえなかった。政府が「後方地域支援」とよんだ兵站活動は、戦争の一部であり、政府の建前はごまかしである。同時に、なお九条の存在が自衛隊の海外派兵の一定の制約になっていることも また事実である。
戦後、日本は、一度も海外での戦争に武力をもって参加していない。これは、憲法九条の存在と、平和のための国民の運動によるものである。憲法九条は、戦後、自民党政治のもとで、蹂躙されつづけてきたが、自衛隊の海外派兵と日本の軍事大国化にとって、重要な歯止めの役割をはたしてきたし、いまなおはたしている。この歯止めをとりのぞき、自由勝手に海外派兵ができる体制をつくることを許していいのか。これが憲法九条をめぐるたたかいの今日の熱い中心点である。この点で、九条改憲に反対することは、自衛隊違憲論にたつ人々も、合憲論にたつ人々も、共同しうることである。
日本共産党は、憲法九条の改悪に反対し、その平和原則にそむくくわだてを許さないという一点での、広大な国民的共同をきずくことを、心からよびかける。」
以上のとおり、共産党の九条論は「自衛隊の海外派兵と日本の軍事大国化に対する重要な歯止めの役割」という位置づけであって、「9条で他国から侵略されないと仰ってた」「憲法9条があれば日本が他国から攻められることはない」などとは言っていない。共産党の九条論が、9条擁護論を代表するものであるかは措くとして、松井・細野の論理は、反共攻撃としては的を外している。