澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

戦争は「真実」を犠牲にする。昔も今も。

(2022年3月5日)
 戦争の最初の犠牲者は「真実」だという。古代ギリシャ以来の筋金入りの格言だそうだが、現代にも健在である。戦争が絶えない限り不滅というべきかも知れない。アジア太平洋戦争での皇軍の手口を顧みても、この度のロシアのウクライナ侵攻を見ても、なるほどこのとおりだ。敵を騙し、味方にも嘘をつかなければ、戦争の遂行はできないのだ。

 とりわけ、形だけでも民意によって作られている権力が、民衆を戦争に動員するには、意識的に「真実」を抹殺しなければならない。端的に言えば、国民を騙すことなく戦争はできない。

 戦争の準備とは、戦費を調達し軍備を増強するだけでなく、周到に「真実」を抹殺しておくことでもある。歴史を修正し、自国の正義と相手国の不正義を捏造し、戦争即ち大量殺人を正当化する「論理」と「実益」を作りあげなくてはならない。教育と報道の統制によってそのような民衆のマインドコントロールに成功した権力が精強な軍事力を作って戦争に突入する。

 ロシアのウクライナへのこれ以上の軍事侵攻を断念させ、侵略ロシア軍を撤退させる確実な方法は、ロシアの民衆のプーチン勢力からの離反である。だまされていた民衆の逆襲がウクライナの平和を回復する。その恐れに対する、プーチン政権の警戒は強い。

 ウクライナ進攻開始以来、ロシア国内で言論統制の動きは活発である。軍事侵攻を批判するデモを弾圧し、メディアを取り締まっている。当局は「虚偽情報を流した」として独立系テレビ局「ドシチ」や、独立系ラジオ「モスクワのこだま」の口を封じた。この2つのメディアのサイトは閲覧できない状態になっているという。

 「虚偽情報を流した」とは、ロシアのウクライナに対する「軍事侵攻」という表現を用いた記事についてのこと。当局はウクライナへの軍事進攻を、《親ロシア派地域の住民保護のための「特別な軍事作戦」》だとする政権の立場と異なった表現の報道は許されないというのだ。ロシア下院の治安・腐敗防止委員長は、「ロシア軍の行動について偽情報を広めた場合、最長で15年の懲役が科せられるだろう」と述べたという。プーチンは、ウクライナへの侵略行為について、国内で報道されるのを完全に阻止する構えとみられている。既に、「真実」も「報道の自由」も、危篤状態にある。

 ロシア国内で取材し報道を続けていた西側メディアも、報道規制の例外とはされない。米ブルームバーグ通信の編集長が4日、ロシアでのメディア規制強化に伴って、「ロシア国内で取材を一時停止しなくてはならないのは、大変残念」との通知を編集スタッフ向けに出したと報じられている。ロシアやウクライナなどに関する報道は継続するが、ロシア国外から行わざるをえないという。さらには、本日、ロシア語サイトも持つ英公共放送BBCもアメリカのCNNも、職員の安全確保のためにロシアにおける記者らの業務を一時停止すると明らかにした。また、ロシアの通信規制当局は、米国の大手SNSの「フェイスブック」と「ツイッター」を国内から接続できなくする措置を決定した。

 こうして、戦時下に報道の自由は蹂躙され、国民が真実を知る権利は剥奪されていく。国民が知らされることは、権力に迎合したメディアを通じた、権力に都合のよい情報ばかり。こうして戦争は、確実に「真実」を犠牲にするのだ。

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