澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

香港の次期行政長官に、民主派弾圧の警察トップ

(2022年5月8日)
 本日、香港の次期行政長官が決まった。就任は7月1日だという。
 この人事、形式は選挙だが実質は中国共産党の任命である。任命された李家超(ジョン・リー)とは、「北京への忠誠」故に取り立てられ、共産党支配の手駒となった人物。これまでもこれからも、露骨に民意を抑圧しようという姿勢を隠そうともしない。

 選挙とは、民意が権力を構成する作用をいう。民意のあるところを見定め、民意が選任する人物に権力を託す手続である。残念ながら、香港では、徹底して民意が押さえ込まれてしまっている。選挙の条件が破壊されているのだ。国外からの武力侵略を受けて傀儡政権が作られたのとまったく同じ構図である。

 民意を反映する公正な選挙の実現のためには、公正な普通選挙制度のみならず、政治的言論の自由、政治活動の自由、政治的結社の自由、報道の自由、教育の自由、等々の諸条件の整備が必要である。その総体を民主主義と呼ぶ。香港にはこの諸条件が備わっていたが、残念ながら野蛮な暴力によってこれを奪い取られたのだ。

 その民主主義諸条件強奪の尖兵となったのが李家超にほかならない。200万人のデモを鎮圧したと言われる。こんな人物を行政トップに据える手続を選挙というのは、ひどいブラックジョークというほかはない。こんな手続が選挙の名に値するものではありえない。
 
 この人、本日の記者会見で、「内外の脅威から香港を守る」と語ったと報じられている。聞いてみたい。あなたのいう守られるべき香港とは、いったいその実体は何なのか。そして、いったい誰から守ろうというのだ。

 伝えられるこれまでの彼の言動からすれば、「内外の脅威」とは、「これまで香港に根強く育ってきた民主主義と、それを支援する民主的な国際世論」である。強権的な為政者にとっては、香港に民主主義が育つことが脅威なのだ。だから、「守られるべき香港」とは、民主主義の対立物としての一党専制ないしは個人独裁以外にはない。

 香港の民意を制圧しての安定的な中国共産党支配の確立、これこそが北京の意を受けた警察トップ・李家超の役割である。これまでも、そのために民主派弾圧の先頭に立ってきた。北京に抜擢されて行政トップの地位を得た以上は、今後その期待に応えて、なお一層、民主派と民主主義の弾圧に精を出すことにならざるを得ない。

 新行政長官は何をしようとしているのか。まずは、「フェイクニュース法」の制定を目指しているという。これまでも、李家超は、民主主義を奉じジャーナリズムの矜持を貫いたメデイアに対する弾圧を敢行してきた。だから、李が「フェイク」を取り締まるといえば、当局に不都合なニュースは全て「フェイク」とされるだろうと考えるべきが当然なのだ。合わせて、記者の個人情報を登録させ、政府が管理することも検討されていると報じられている。目指すは、報道管制社会である。

 のみならず、国安法を上回る弾圧を可能とする、「国家安全条例」の制定について「必ずやる、迅速に制定する」とも述べているという。そこには、「反逆罪」や「国家機密窃取罪」などの創設も含まれているとか。民主主義の香港は、弾圧の香港に様変わりしつつあるようだ。

 ロシアといい、中国といい、革命を成し遂げた大国の末路に唖然とするしかない。 

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