「貯蓄から投資へ」とは、いったいどんなことなのか。
(2022年6月13日)
いまや流行り言葉になってしまった「貯蓄から投資へ」。岸田内閣の大真面目な経済政策なのだが、これは、一昔前からの悪徳業者のセールストークなのだ。「リスクを取らねば損をする」「何もしないのも実はリスク」というのも、昔からの「欺しのテクニック」。それを今や、金融庁も文科省も、そして政権本体まで加わっての大合唱である。なけなしの庶民の資産までがむしりとられようとしている。
まずは、国民全体を投資家にしようという壮大なたくらみが進行している。リスク金融商品のセールスマンは、ネット世界だけでなく、学校教育の現場を占拠しつつある。
「学生時代に投資になじむ機会があれば、社会に出た後の資産形成の大きな力となることでしょう」「学生時代から金融教育を行う背景には、人生100年時代に備えた資産形成の知識を身につけておくべきという時代の流れもあります」「それは、新学習指導要領のテーマである「生きる力」の一部でもあると言えそうです」「教育の過程で学び始めれば、投資はもっと身近なものとなることでしょう」「学生でも銀行や証券に口座を持って、投資信託の積立をすることは可能です」「数百円のおこづかいで投資信託の積立を行う学生も増えるかもしれません」「口座の開設?税金の還付を受けるための確定申告を行えば、より詳しく金融について学ぶことができます」「親世代も子どもたちの見本となるべく、投資になじんでおきたいもの「今まで二の足を踏んでいた人も、積立投資を始めてみてはいかがでしょう」
既に、2022年4月より、新しい指導要領に基づく高校家庭科の「投資教育」授業がスタートしている。事態は深刻と言わねばならない。
「家計管理については, 収支バランスの重要性とともに,リスク管理も踏まえた家計管理の基本について理解できるようにする。その際,生涯を見通した経済計画を立てるには,教育資金,住宅取得,老後の備えの他にも,事故や病気,失業などリスクへの対応が必要であることを取り上げ,預貯金,民間保険,株式,債券,投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット,デメリット),資産形成の視点にも触れるようにする。」(※高等学校学習指導要領(平成30年告示)「家庭基礎」より抜粋)
今年の新一年生から、高校生は家庭科の授業内で株式や債券、投資信託など基本的な金融商品の特徴を学ぶことになるという。金融庁も『国民一人一人が安定的な資産形成を実現し、自立した生活を営む上では、金融リテラシーを高めることが重要である一方で、そのための機会が必ずしも十分とは言えない』(金融庁「金融経済教育について」)としている。
「さあ、子どもたちに十分リスクは教えたぞ。あとは自己責任だ。どれもこれもカモだ」という政権と財界のホンネが聞こえる。
狙われているのは、家計の貯蓄である。庶民は老後や教育や住宅や不時の備えに貯蓄せざるを得ない。その貯蓄を金融市場に吐き出してもらわなければ資本の利益にはならない。そのため、貯蓄に対する利息は限りなくゼロとし、あるいは実質マイナスにして、投資に誘導しようとする。まずは投資や金融商品のリスクに対する恐怖心を取り除こうというのだ。そのための甘い誘いが始められている。ご用心、ご用心。岸田と政府に騙されてはならない。
政治や行政が本来やるべきことは、老後や教育や事故や病気に心配不要の社会政策の充実である。そうすれば、庶民は「宵越しの銭」をもたなくても済む。貯蓄にこだわる必要はなくなるのだ。
金融商品のリスクについて教育するのなら、悪徳商法と闘ってきた消費者弁護士の意見を十分に取り入れなければならない。投資や投機勧誘がどれほどの不幸を招いてきたかのリアルな語りに耳を傾けなければならない。
そして、きちんと原則を踏まえなければならない。投機にも投資にも、必ずリスクがある。リスクは一定の確率で必ず顕在化する。投機も投資も、働かずして利益に与ろうという非倫理性を本質にする。投機とは、他人の不幸を自分の利益に変えようという反社会的存在である。投資も証券市場での他人との売買で利益を上げるのは、証券市場の規模が一定している現在、やはり他人の損を自分の利益としていると考えねばならない。
投資も投機も賭博と変わらない。国民全部がギャンブラーになれば、この社会の生産活動は成り立たない。
今政府がやろうとしていることは、「カジノで経済活性化」「国民階投資家社会へ」である。不健全で危うい。合い言葉は、「キシダニダマサレルナ」でなくてはなない。