安倍晋三の反共意識は、祖父岸信介譲りで最後まで揺るがなかった。
(2022年7月23日)
安倍晋三の死は衝撃だった。誰の生も等しく尊重さるべきであり、誰の死も等しく痛ましい。安倍晋三の死を他の人以上に特別に悼まねばならない理由はない。ただ、権勢を誇った者の突然の銃撃死に衝撃を受けた。
安国寺恵瓊が織田信長について予言したという「高転びに、あおのけに転ばれ候ずると見え申し候」というとおりの死に方。「おごれる人も久しからず ただ春の世の夢のごとし たけき者も遂には滅びぬ ひとへに風の前の塵に同じ」と思わせる死に方でもある。衝撃を受けて当然であろう。
この衝撃に続くものとして心配されたことが2点。ひとつは、模倣犯の連鎖が生じはしないかということ。そしてもう一つが、この右翼政治家の死の政治利用である。前者については、まだ結論を言える段階ではないが、犯行の動機が明らかになるにつれてその可能性は低くなっているように思われる。報復的なテロなどは考えられないからだ。
しかし後者「安倍晋三の死の政治利用」は国葬の強行という形で現実化しつつある。人の死とは厳粛なものであり誰の死についても、死者を鞭打つことははばかられる。ましてや、衝撃的な死を遂げた人物への批判は口にしにくい。その社会心理が、安倍晋三の死の政治利用を許すことになる。今必要なのは、安倍晋三の生前の悪行批判に口を閉ざしてはならないということ。言いにくい雰囲気に抗して、敢えて意識的に安倍晋三の政治姿勢を批判しなければならない。
安倍晋三の数々の所業のうちに、まずは銃撃犯が語った犯行動機の文脈に沿って、統一教会との関係から、徹底してあぶり出さねばならない。統一教会とはなにかということと、その統一教会と安倍はなにゆえにどう関わったのかということ。それによって、安倍晋三とは何者であったかを明確にすることができるだろう。私はだれの国葬もあってはならないと考えるが、安倍晋三ほど、国葬にふさわしからぬ人物はない。
統一教会とは宗教団体ではあるが、反共政治団体でもある。安倍晋三はこの反共政治思想と共鳴していたのだ。周知のとおり、この教会が反共政治団体としての側面で活動するときは、「世界勝共連合」を名乗った。この勝共連合は、文鮮明と岸信介・笹川良一・児玉誉士夫らの日本の右翼が連携して結成した。冷戦下での反共の防波堤という構想によるもの。岸信介・安倍晋太郎・安倍晋三の3代が、統一教会と反共という熱い太い糸で結ばれていたのだ。
岸信介と文鮮明の結びつきの深さを語るエピソードがある。
ジャーナリスト徳本栄一郎氏が現地で発掘した貴重な資料によれば、岸信介は、脱税で実刑の有罪判決を受けて収監された文鮮明について、アメリカ大統領・レーガンに釈放要請の嘆願書を書いている。84年11月のこと。日本の元総理がアメリカの現職大統領に宛てて、韓国人「脱税犯」の逮捕が不当だとして釈放を要請するという、極めて異例の内容。その概要が以下のとおりである。
「文尊師は、現在、不当にも拘禁されています。貴殿のご協力を得て、私は是が非でも、できる限り早く、彼が不当な拘禁から解放されるよう、お願いしたいと思います」
「文尊師は、誠実な男であり、自由の理念の促進と共産主義の誤りを正すことに生涯をかけて取り組んでいると私は理解しております」
「彼の存在は、現在、そして将来にわたって、希少かつ貴重なものであり、自由と民主主義の維持にとって不可欠なものであります」
安倍晋三は、この岸を師と尊敬して政治家となった。反共の思想をそのまま引き継ぎ、統一教会との関係も維持し続けた。彼が、その関係を公然と見せつけた最後の機会が、昨年(2021年)9月12日の『天宙平和連合(UPF)』主催大規模集会でのリモート基調講演。トランプとの共演で話題となった。
以下、信頼できる「やや日刊カルト新聞」の報道から引用させていただく。
「統一教会」(天の父母様聖会世界・世界平和統一家庭連合)フロント組織『天宙平和連合(UPF)』の大規模集会に安倍晋三前内閣総理大臣がリモート登壇し、教団最高権力者・韓鶴子におもねる基調演説を行った。
安倍晋三が基調演説を行ったのは韓国の教団聖地・清平の清心ワールドセンターで9月12日午前9時半から開かれた『神統一韓国のためのTHINK TANK 2022 希望前進大会』なる大規模集会。教団のオンラインプラットフォームであるPeacelinkから全世界に配信された。
安倍晋三とともに特筆すべき人物としてドナルド・トランプ前米大統領がリモート基調演説を行い韓鶴子に賛美の言葉を贈った。
教団と深い関係にあった岸信介元首相や安倍晋太郎元外相についても言及した司会から「韓鶴子総裁とTHINK TANK2022の主旨に積極的に支持してくださり本日の基調演説を担当してくださいました安倍晋三総理を大きな拍手でお迎えください」と紹介を受けた安倍晋三がリモート登壇。以下その概要。
「ご出席の皆さま、日本国、前内閣総理大臣の安倍晋三です。UPFの主催の下、より良い世界実現のための対話と諸問題の平和的解決のためにおよそ150か国の国家首脳、国会議員、宗教指導者が集う希望前進大会で世界平和を共に牽引してきた盟友のトランプ大統領とともに演説の機会をいただいたことを光栄に思います。ここにこの度出帆したシンクタンク2022の果たす役割は大きなものがあると期待しております。今日に至るまでUPFとともに世界各地の紛争の解決、とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子総裁を始め皆様に敬意を表します」
「UPFの平和ビジョンにおいて家庭の価値を強調する点を高く評価します。世界人権宣言にあるように家庭は世界の自然且つ基礎的集団単位としての普遍的価値を持っています。偏った価値観を社会革命運動として展開する動きに警戒しましょう」
「とてつもない情熱を持った人たちによるリーダーシップが必要です。この希望前進大会が大きな力を与えてくれると確信いたします」
これまで、拉致問題や慰安婦・徴用工問題で、安倍晋三の対朝鮮韓国差別意識を感じてきたものとしては、この韓国の宗教団体へのおもねりぶりは理解しがたい。反共での連帯意識がナショナリズムの壁を凌駕しているということだろうか。いずれにせよ、安倍晋三は岸信介の反共思想を受け継ぎ、反社会性の高い悪徳商法主催者と反共で結ばれていたのだ。