「虎に翼」にご用心。桂場等一郎の美化にご用心。この人物のモデルは、憎むべき石田和外。
(2024年4月30日)
新聞とネットで拝見する限りだが、NHKの朝ドラ「虎に翼」の好評が続いているようだ。結構なことである。だが、喜べないこともある。このドラマがとんでもない反動裁判官の実像隠蔽や美化になりかねないことだ。ドラマと史実を混同してはならないという当然の警告が必要であって、今後何度もこの点を繰り返さねばならないことになろうかと思う。
このドラマに、桂場等一郎なる人物が出てくる。このドラマのある紹介記事では統一郎という私の同名となっており、なんとなくその人物像に親しみを感じてしまいそう。これがくせもの。くわせもの。
桂場等一郎は、このドラマの第1話から登場するのだという。戦後、新憲法制定の直後に、主人公猪爪寅子が「憲法14条に基づき、女性にも裁判官任官の道が拓けた」と考えて、当時の司法省に採用願いを提出する。その際の面談の相手となった人事課長が桂場等一郎。つまり、人事行政を行う官僚としての裁判官という立場。これが、ドラマではモノの分かった好人物に描かれている模様なのだ。
この桂場等一郎のモデルが、石田和外と聞いて驚いた。石田和外とは、本来がパージとなるべき戦前の亡霊のごとき思想判事だったが、戦後典型的な司法官僚として出世し5代目の最高裁長官となった男。疑う余地とてなき反動として知られた人物である。
任期中に名を馳せたのは、民主的な若手裁判官の自主的集団であった青年法律家協会裁判官部会を弾圧したこと。当時は、ブルーパージと呼ばれた。その高圧的な姿勢に接して、私は反権力に生きることを決めた。私にとっての、忘れることのできない憎むべき「反面教師」である。
定年退官後は「英霊にこたえる会」の初代会長となった。さらに「元号法制化実現国民会議」の議長ともなる。これが、「日本を守る国民会議」に改称し、現在の「日本会議」となっている。右翼の親玉となった元最高裁長官なのだ。
寅子のモデルである三淵嘉子(当時は和田姓)が新憲法制定後に、任官資格が「大日本帝国男子に限る」とされていた裁判官の採用願いを提出したこと、当時の司法省人事課長が石田和外だったことはおそらく史実なのだろう。しかし、石田の姿勢がどうだったかは分からない。桂場等一郎の人物像は、飽くまでドラマでの設定に過ぎない。
現在ドラマでは、寅子の父が大規模な疑獄に巻き込まれて逮捕され起訴されるという大事件に遭遇している。この疑獄のモデルが帝人(帝国人造絹絲)事件で、政争に絡んだでっち上げとして知られた事件。16名の被告人全員が一審無罪で、検事控訴なく確定している。その無罪の判決書を左陪席として起案したのが石田和外。
ハテ? 三淵嘉子の父の経歴には逮捕も起訴もないというから、ドラマはことさらに桂場等一郎の出番を作ったことになる。おそらくは、これから等一郎裁判官の善玉としての活躍を描くことになるのだろうが、この等一郎の美化には、警戒を要する。ドラマの等一郎の美化が、右翼反動の石田和外美化につながりかねないのだから。「寅に翼」全面礼賛というわけにはまいらぬ。