澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「社会に復讐する」という言葉の重み

千葉県柏市で起きた連続殺傷事件で、24歳の被疑者が強盗殺人容疑で逮捕された。この被疑者が、警察の取り調べに「社会に復讐する」と話したことが大きく報道されている。

被疑者の成育環境も現在の生活状況も、そして「社会に復讐する」(報道によっては、「報復する」)という言葉がどのような文脈で語られたのかも、まだよくはわからない。分からないながらも、20代の無職男性が社会との断絶感と、将来への絶望感とを抱いている状況が見えてくる。これまでも、似たような多くの事件の報道に接してきた。

本件にあてはまるかは即断できないが、図式的には、
 新自由主義政策⇒経済格差の拡がり⇒若者の貧困化⇒絶望感⇒犯罪
と描いて、さほど無理がないのではなかろうか。
もっとも、こういう図式化を皮相とする、次のような指摘もある。

事件が起こると、まず「犯行の心理的動機を明らかにせよ」という掛け声だ。メディアに心理学者が登場して心理学的な推理が重ねられる。
同時並行する形で、「犯行の社会的背景を究明せよ」とキャッチフレーズが唱えられる。犯罪や家族や教育を専門とする社会学者たちの発言が華々しく飛び交う。
最後に、「性格異常ではないのか、精神に欠陥があるのではないか」と、精神病理的な分析または解釈が語られる。これがお決まりの成り行き。
「犯罪」の心理学的還元、社会学的還元、精神医学的還元といってもいい。「殺人事件」を解決するための三種還元である。

山折哲雄さんが歎異抄を語った「悪と往生」(中公新書)からの要約抜粋である。
この著名な哲学者は、「三種還元の手法には、その還元の総和によって人間の理解が可能になるとするうさん臭い人間観がひそんでいるのではないだろうか。人間には『心の闇』があるなどといいながら本当のところは誰もそれを信じてはいないのだ」と言う。実は誰も人間の心の闇を見すかすことなどはできない。犯罪を起こした人間の心など理解は不可能、とおっしゃる。

なるほど、私たちは「三種還元の手法」で、犯罪と犯罪者を理解したつもりになる。いや、むしろ犯罪の起承転結を理解したと自分を納得させて安心したいのだ。多くの場合、「三種還元の手法」は、犯罪者はこの社会の例外的な存在で、自分は犯行とも被害とも無縁で安全だと教えてくれる。しかし、哲学者はこの姿勢を人間観察における浅薄という。

「安易にすべてが分かったなどとと思い上がってはならない」との戒めとしてこれを聞き置くとして、「三種還元の手法」自体は、犯罪の動機や原因を特定して講じるべき対策を考案するためには有効である。おそらくは、すべての犯罪に三種の要因が、濃淡様々に絡みあっているのだ。

なかでも、社会的な要因を重要なものとして看過することはできない。「恒産あるところに恒心あり」で、格差少なく貧困のない社会では犯罪が少ない。しかし、現今の為政者が拠り所とする新自由主義とは、飽くなき競争至上主義を是認するものだから、優勝劣敗の敗者あることを当然とする。むしろ、格差と貧困の存在を積極的に肯定する政策といってよい。しかも、できるだけ小さな政府で企業負担を減らそうというのだから、自助努力が強調されて福祉は切り捨てられる。市場原理にお任せの格差貧困と安価で使い捨て自由な労働力が求められている。

この政策は必然的に多くの人々の絶望を生みだす。絶対の格差、絶対の貧困の底に沈んだ絶望の人々。統計的にみれば、経済的困窮が犯罪の温床となることは否定し得ない。また、絶望は自殺念慮や、社会への復讐の行動につながる。自由競争にすべてを任せようという強者の論理は、結局のところ犯罪多発の不安定な社会に向かわざるを得ない。

それでも、為政者は「格差や貧困をなくす政策に転換を」とはならない。「格差や貧困に甘んじる従順な性格の国民をつくればよい」というのが彼らの発想だ。そのために教育の管理が徹底される。また、「なかには従順ならざる人格も育つだろう。それに対しては、治安の強化だ」という発想となる。

新自由主義とは、古典的な資本のやりたい放題の横暴を認めよという主張だ。儲けのためにはカジノでも、高利貸しでもなんでもやれるようにしよう。労働市場の規制をなくして人を安く使い捨てができるようにし、法人税の負担を軽くし、福祉は削ろうというもの。その結果としての格差・貧困は積極的に容認する。しかも、「自由」の主体は企業であり、資本であり、大金持ちでしかない。一般庶民は、権力に従順であれとの教育の対象となり、長じては治安対策の対象ともなる。そして、天皇を戴くこの民族の歴史と伝統とによるイデオロギー統制によって擬似的な国民の一体感の醸成がはかられる。

だから、自民党改憲草案は、新自由主義と、復古的天皇制イデオロギーや公序による治安政策とが、木に竹を接いだような不自然をなしている。しかし、それはやむを得ないこと。経済的な新自由主義という木に、治安政策という竹を接がざるを得ないのだ。治安政策の根本に教育統制や復古主義的イデオロギー教化がある。

連続殺傷事件の被疑者の「社会に復讐」という言葉は、今の為政者に、重く響いているはずなのだ。

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NHK籾井会長、百田・長谷川両経営委員の辞任・罷免を求める署名運動へのご協力のお願い

下記URLから
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/post-3030-1.html
http://chn.ge/1eySG24

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    NHKに対する「安倍首相お友だち人事」への抗議を
☆抗議先は以下のとおり
 ※郵便の場合
  〒150-8001(住所記入不要)NHK放送センター ハートプラザ行
 ※電話の場合 0570?066?066(NHKふれあいセンター)
 ※ファクスの場合 03?5453?4000
 ※メールの場合 下記URLに送信書式のフォーマット
    http://www.nhk.or.jp/css/goiken/mail.html
☆抗議内容の大綱は
 *籾井勝人会長は即刻辞任せよ。
 *経営委員会は、籾井勝人会長を罷免せよ。
 *百田尚樹・長谷川三千子両経営委員は即時辞任せよ。
 *経営委員会は、百田尚樹・長谷川三千子両経営委員に辞任を勧告せよ。
以上よろしくお願いします。
(2014年3月7日)

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Published in 金曜日, 3月 7th, 2014, at 23:06, and filed under 未分類.

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