澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

加計学園が経営する獣医学部ー文科大臣による設置認可のストップを

刑法学でも刑事司法実務でも、保護法益という概念が多用される。ある犯罪類型を作ることで、法が守ろうとしている価値ないし利益のことをいう。殺人罪の保護法益は人の生命。偽証罪の保護法益は、適正な国家の司法作用。では、賄賂罪の保護法益はなんだろうか。

最高裁判例は、「公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼を保護法益とする」と言っている。「公務員の職務の公正」だけでなく、「公務員の職務の公正に対する社会一般の信頼」も守られるべき価値なのだ。

賄賂罪の基本である単純収賄罪の構成要件は、「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をすること」(刑法197条第1項前段)である。現実に職務の公正が害されたことを要件としていない。公務員たるもの、職務の公正を害してはならないだけではなく、職務の公正に対する社会一般の信頼を損ねてはならないのだ。

以上は、刑事法レベルでの議論。政治的道義的レベルにおいてはなおさらのことだ。公務員たるもの、職務の公正を害してはならないだけではなく、職務の公正に対する社会一般の信頼を失わぬよう、よくよく注意して職務の執行にあたらねばならない。これが、閣僚や、官邸の最高レベルの公務員ともなれば、最高レベルの注意が要求されることになる。いささかも職務の公正に対する疑惑を持たれてはならない。そのように身を持さねばならない。

加計学園事件に関する安倍晋三の弁明の見苦しさは、このあたりの理解を決定的に欠いていることである。もともと、首相の座にふさわしい人物ではないのだ。

国家戦略特区諮問委員会議長としての行為によって、腹心の友に利益をもたらした。しかも、自らも「岩盤に穴を開ける」という、強引なやり口でのこと。のみならず、そこに至るまでの経過が不透明で、「ご意向」「忖度」の文字が躍る文書が数多く出て来ている。洗いざらい経過を説明せよという真っ当な要求にたいしては、「書類は廃棄」「記憶にない」、不都合な発言者には、身辺調査と人格攻撃で威嚇して黙らせようとする。誰が見ても、政権は真実の露呈を恐れているとしか思えない。

この期に及んで、「具体的に指示したり、働きかけたりしたことは一度もない」「法律にのっとった意思決定だったことに一点の曇りもない」と言っていることが的はずれ。既に首相の職務の公正に対する社会一般の信頼は完全に失われているのだ。

日本テレビ系NNNの世論調査に次の問の項目がある。
問 あなたは、加計学園の獣医学部開設のいきさつについての、安倍総理の説明に納得しますか、納得しませんか?
その回答が次のとおりだ。
(1) 納得する 9.6 %
(2) 納得しない 68.6 %
(3) わからない、答えない 21.7 %

首相の説明に納得できるという国民は、10人中にたった一人。7人ほどは首相を信じられないというのだ。だから、防衛的に「疑惑の実体はない」と言うだけではダメ。行政の経過は透明でなくてはならず、行政には説明責任が伴うという大原則の原点に戻って、すべての経過を積極的に明らかにする覚悟が必要なのだ。

それができなければ疑惑を甘受しなければならない。「政治の私物化」、「公正であるべき行政がゆがめられた」、「官邸は、既得権益者攻撃の名で、新たな既得権益者をつくり出している」「首相と、その取り巻き一味の利益のための政治が横行している」という疑惑を真実として受け入れるという意味の甘受である。

具体的な対象検証の一つとして、2017年6月30日に閣議決定された「4条件」(あるいは、「3条件+1留意事項」)充足の可否がある。同日、「『日本再興戦略』改訂2015」が決定され、国家戦略特区における獣医学部の新設に満たすべき「4条件」が確定された。以下のとおりである。

「獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討
1. 現在の提案主体による既存獣医師養成でない構想が具体化し、
2. ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき具体的需要が明らかになり、かつ、
3. 既存の大学・学部では対応困難な場合には、
4. 近年の獣医師需要動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。」

前川前文科事務次官や農水相の担当を呼んで徹底審議をすれば、この4要件充足の有無は明瞭になる。そのことを明瞭するまで、加計学園が経営する岡山理科大獣医学部の設置は、ペンディングとするしかない。

なお、同学部設置手続の進展は、国家戦略特区諮問会議での区画計画認定(2017年1月20日)には至っているものの、文科大臣による獣医学部設置認可には至っていない。

文科大臣宛の認可申請は本年3月31日になされた。8月下旬に認可、来年(18年)4月開校予定と伝えられているが、明らかに事情変更の事態となっている。「文科大臣による獣医学部設置認可ストップ」が、声を合わせて叫ばなければならない、喫緊のスローガンとなろう。
(2017年6月19日)

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