弁護士は彗星の「核」のごとくであれ。
弁護士の仕事のイメージを、彗星のかたちで教えられ、そう思い続けてきた。
彗星は先頭の核と後部に広がった尾からなる。弁護士とは常に先頭の核となって社会の矛盾に飛び込んで解決の道を切り開く。核がその仕事を終えれば、切り開かれた道筋を他の士業や業者が日常業務として処理するようになる。これが彗星の尾のイメージ。
弁護士とは常に核であれ。恋々として尾たるなかれ。というわけだ。
好例が、グレーゾーン金利の過払い金請求。かつてサラ金禍は大きな社会病理であり、その蔓延は放置できない社会問題となった。この社会病理は、サラ金の過剰融資と高金利によって生じた。
もっとも、高金利が出資法に定める金利(年109.5%)を超えると刑事罰対象となって警察的取り締まりが可能となる。利息制限法(年利15?20%)を上まわる高金利ではあるが、出資法に定める刑事罰対象となるほどではない、この枠の中の金利水準を「グレーゾーン」と称した。サラ金禍の社会病理はこの「クレーゾーン」金利で生じた。
この範囲の金利については、民事上約定が無効で支払う義務のないことは明らかだが、任意に支払ったグレーゾーン金利について返還請求ができることは法文上明らかではない。むしろ、かつて法文はその反対に読めるものとなっていた。
この課題に多くの消費者弁護士が果敢に挑戦した。その結果最高裁判例が、利息制限法を超える既払い金利を「過払い金」として不当利得返還請求可能と判断するに至った。また、業界の意を受けて成立した新法についても同様の問題が生じ、同様の結論となった。個別の1事件だけではこのようにならない。全国で取り組まれた束になった無数の事件の、その最先端が固い岩盤に穴を開けたのだ。
判例が代わり、法も変わった。かつて、この分野では多くの弁護士が集団で知恵を絞った。今や、過払い金請求は、弁護士の手を煩わせる必要はない。素人が自分でできるようになっている。簡裁の裁判所の窓口で指導を受けながら自分で定型化された訴状を書けばよい。法廷でも、解決を指導してくれる制度ができている。
自分でやるのが不安なら、司法書士の出番である。訴状を書いてもらうだけでもよし。法務大臣の認定を受けた司法書士は、簡易裁判所において、140万円を超えない請求事件では代理業務を行うことができる。もちろん、弁護士を依頼して悪かろうはずはないが、既に本来的な弁護士の業務ではない。
実は、借地借家の明け渡し正当事由の存否も、交通事故の損害賠償額の定型化や過失相殺割合認定も、かつては最先端の分野だった。今や、その業務のほとんどは宅地建物取引主任や保険業者が担っている。
弁護士は、常に新しい問題、あるいは難問を切り開く「核」であり続けたい。弁護士でなくては出来ない分野で働くことこそが生きがいなのだから。自分にそう言い聞かせている。
(2017年7月13日)