細田博之による文春への提訴もスラップである。その違法の追及が必要だ。
(2022年6月19日)
18日付の各紙が、「細田博之衆院議長が文芸春秋社を提訴 『セクハラ報道、事実無根』」と報じている。細田は17日、女性記者へのセクハラ疑惑を報じた週刊文春の記事で名誉を傷つけられたとして、発行元の文芸春秋社に2200万円の損害賠償、謝罪広告の掲載、オンライン記事の削除を求めて東京地裁に提訴したとのこと。
『週刊文春』5月26日号(同月19日発売)は、細田が過去に女性記者に対して、深夜自宅に「今から来ないか」と誘うなどセクハラ発言を繰り返していたと報道。翌週と翌々週にも続報記事2本を掲載した。細田側は「記事に記載されたセクハラや虚偽の説明、口止めを行ったことはなく、事実無根だ」と主張している。
一方の文芸春秋側は、「小誌のセクハラ報道以来、国権の最高機関のトップである細田議長が、公の場で一度も説明されないまま提訴に至ったことは残念に思います。記事は複数の証言、証拠に基づくもので十分自信を持っており、裁判でセクハラの事実を明らかにしてまいります」と余裕のコメント。
私は週刊文春も週刊新潮も大嫌いである。しかし、その報道の自由は尊重しなければならない。とりわけ、衆議院議長のセクハラ報道である。政治的・社会的圧力によって、その報道が闇に葬られてはならない。
この件については、「細田博之・セクハラ疑惑報道に対するスラップの構造 ー 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第200弾」(2022年5月28日)として、既に当ブロクに私の見解をアップした。
https://article9.jp/wordpress/?p=19220
スラップ訴訟の定義は必ずしも定まらないが、この細田による文春への提訴もスラップと呼んでよい。侵害された自分の権利の救済を求めての訴訟提起ではなく、自分の意に染まない言論を牽制しての提訴なのだから。
但し、この提訴。言論に対する恫喝であるよりは、言論からの防衛の動機が透けて見える。あるいは、沸騰した世論の糾弾をかわすための時間かせぎの提訴。セクハラは事実無根と主張した以上は提訴せざるを得ず、訴訟の継続で時間を稼いでいる内に、世論が報道を忘れて沈静化するだろうという思惑。それでも、被告とされる側の応訴の手間暇や経済的負担に変わりはない。
この種の訴訟には、社会的な要請として反訴が必要ではないか。その反訴では、細田の提訴の意図を徹底して追及してもらいたいと思う。
この細田の対文春2000万円請求提訴はそれ自体が、不当なスラップとして違法となり得る。その理由は以下のとおりである。
本来、民事訴訟とは、正当な権利や利益の侵害を救済するための制度である。ところが、そのような民事訴訟法本来の趣旨からは明らかに逸脱した提訴がある。被告に応訴の負担をかけることで言論を妨害しようとするものが典型で、このような場合は、提訴自体が違法行為となり、提訴者において損害賠償の責めを負わねばならない。細田の対文春提訴も、その種の提訴である。
? どのような場合に提訴が違法になるか。1988(昭和63)年1月26日?最高裁判所第三小法廷判決は、このように定式化している。
「訴えの提起は、提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り、相手方に対する違法な行為となる」
これを本件に当て嵌めてみれば、次のとおりである。
「細田博之の文春に対する訴えの提起は、
(A)提訴者である細田が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、
(B1)細田がそのことを知りながら、又は
(B2)通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、
裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合は、文春に対する違法な行為となる。」
この(A+B(1or2))の充足がスラップ違法の方程式。本件では、客観要件である(A)も、主観要件である(B1)も、事前に細田にはよく分かっているはずのこと。
結局のところ、「2人きりで会いたい」「愛してる」「お尻を触られた」「文春はほぼ正しい」「抱きしめたいと言われ…」云々の週刊文春の記事が真実であれば、原告細田の名誉毀損訴訟が敗訴となるだけでなく、その提訴自体が違法となって反対に損害賠償債務を負担することになる。
DHC・吉田嘉明は、私を名誉毀損で訴えて6000万円を請求してゼロ敗しただけでなく、その提訴が違法なスラップとして165万円の損害賠償を命じられた。スラップは民主主義の根幹をなす「表現の自由」に敵対する社会悪である。この社会悪をなくすために、文春にも「表現の自由」の旗を掲げて、細田と徹底して闘ってもらいたい。