澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「法と民主主義」5月号紹介。「ロシアのウクライナ侵略に抗議する ― 9条徹底の立場から」

(2022年5月6日)
 「法と民主主義」2022年5月号【568号】が、連休にはいる前の4月27日に発刊になっている。特集は、「ロシア―ウクライナ問題」だが、メインタイトルは、「ロシアのウクライナ侵略に抗議する」。そして、副題が「9条徹底の立場から」。拠って立つ立場を明確にしての、平和論であり、9条改憲反対論の特集である。いずれも、時宜にかなった力作。掛け値なく読み応えは十分。学習(会)資料としても使える。ぜひ、ご購読だけでなく、熟読いただきたい。

特集・ロシアのウクライナ侵略に抗議する ― 9条徹底の立場から

◆戦争はやめろ! 絶対に殺すな! ── 特集にあたって … 新倉 修
◆巻頭論文●ウクライナ危機における国際法と国連の役割 … 松井芳郎
◆インタビュー●軍事侵攻の根本原因と市民社会の役割を考える … 君島東彦
◆ウクライナ戦争と日本政府の責任、そしてわれわれは … 和田春樹
◆歴史の針を巻き戻すプーチンの戦争 … 木畑洋一
◆軍事侵攻を契機とする反9条論と改憲論 … 清水雅彦
◆台湾有事の発生を阻止するための外交力こそ … 猿田佐世
◆ウクライナ侵攻を考える ── イラク訴訟の経験から … 川口 創
◆そして、誰もいなくなる前に ── 核兵器による威嚇を許さない … 和田征子
◆ロシアにおける「言論抑圧」 … 竹森正孝
◆ロシアの軍事侵攻に抗議する各地の運動 … 大山勇一
◆【資料】
 ・ウクライナ侵略をめぐる動き
 ・ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対する平和を求める声明等を発出した団体

◆連続企画・憲法9条実現のために(37)
 「核共有論」の非現実性 … 前田哲男
◆司法をめぐる動き〈73〉
 ・旧優生保護法国賠訴訟 大阪高裁判決の意義 … 安枝伸雄
 ・3月の動き … 司法制度委員会
◆メディアウオッチ2022●《「核時代の戦争」と世論・情報・メディア その2》
 君は「核戦争」を想定するのか? テレビ、新聞での議論を考える … 丸山重威
◆とっておきの一枚 ─シリーズ?─〈№12〉
 明るいリアリスト … 松井繁明先生×佐藤むつみ
◆改憲動向レポート〈№40〉
 敵基地攻撃能力について「〔基地だけでなく〕中枢を攻撃することも含むべき」と
 主張する安倍晋三元首相 … 飯島滋明
◆インフォメーション
 あらためて緊急事態条項創設改憲案に反対する法律家団体の緊急声明/
 「改憲ありき」の拙速な憲法論議に異議あり(いま、憲法審査会は?4・7院内集会)
◆時評●プーチンによるウクライナ侵略 … 大久保賢一
◆ひろば●司法の限界? ── 一部に停止命令、一方で工事進行 … 丸山重威

https://www.jdla.jp/houmin/backnumber/pdf/202205_01.pdf

 松井芳郎巻頭論文が必読であることは当然として、君島東彦インタビューが短いながらも印象的である。ウクライナ国内にも、ウクライナの軍事行動を批判する平和運動があることを紹介したあとに、次の言葉がある。

 「日本国憲法の平和原理の核心は、安全を確保するために軍事力依存を極小化し(軍事主権の放棄)、他国との信頼関係を構築するというもの(共通の安全保障)です。安全保障のためにはなによりも武力紛争を「予防」するために積極的に行動することが大切です。21世紀に入って、『受け身の応答から積極的な予防へ』と言われるようになりました」

 そして、「積極的な武力紛争予防」のキーワードが「信頼関係」の構築であるという。「市民に求められているのは、軍事力を使えない環境―信頼関係―を作る努力です」「国境を越えて連帯する市民、越境的市民の連帯が東アジアにおいて平和を構築する努力をしているのです」

 また、清水雅彦論稿が、こういう比喩を述べている。耳を傾けたいと思う。
    
「人が強盗にあったとき、
   ? 強盗が刃物を持っていようが闘う
   ? その場から逃げる
   ? 強盗の要求通り財布を差し出す
という選択肢が考えられるが、?や?の選択を責めることはない。
 しかし、これが国家による戦争だと、なぜ戦うことが当然かの議論になるのだろうか」
 「今回の件でも、ウクライナ国民が
   ? ロシア軍と戦う 
   ? 国内外に逃げる
   ? 降伏する
という選択肢から自身の判断で選択できるのが望ましく、兵役の拒否も保障されるべきである。特に?は屈辱的なことではあるが、犠牲者を最小限にする。時間がかかっても国際世論を背景にした非軍事・不服従等で抵抗するという選択肢もあるはずだ。単純に「非武装」「非戦」(無抵抗ではない)がダメとはならない」

https://www.jdla.jp/houmin/index.html

そして、お申し込みは下記URLから。
https://www.jdla.jp/houmin/form.html 

 なお、「『維新』とは何か」を特集した「法と民主主義」4月号【567号】の売れ行きが好調で、在庫が枯渇しそうとの報告。ぜひ、こちらも、お早めの申し込みを。

https://www.jdla.jp/houmin/backnumber/202204.html

規制緩和論の危険性と論者の本音 ー「DHCスラップ訴訟」を許さない・第199弾

(2022年5月5日)
 連休はありがたい。散歩ができる、本も読める。そして、DHCスラップ訴訟の顛末について出版予定本の校正作業の時間もとれる。

 この本の原稿の第一稿、身内の評価はさんざんだった。「こんな漢字ばかりが詰まった文章、読む気にもならない」「せっかく出版するんだから、予備知識なしにすらすら読める本でなくちゃ」「分かり易く書く能力に欠けているんじゃないの」などという無遠慮な。これは罵倒か、はたまた励ましなのか。

 めげずに書き直して、出版社側は「一応これでよいでしょう」となり、第二校のゲラができた段階。だが、校正の筆を入れ始めると実は際限がない。どこかで妥協するしかない。それでも、読んでいただけるだけの水準のものはできそうではある。完成したら、ぜひお読みいただくようお願いしたい。

 《DHCスラップとの闘いの記》の中心テーマは、「表現の自由」である。実質的には「言論の自由」。教科書に書かれた「言論の自由」の解説ではなく、この現実の社会における「言論の自由」を実現するための闘いの記録。誰もが、「言論の自由こそは、民主主義の基盤をなす重要な基本権だ」という。が、実はその自由を獲得するのは容易なことではない。「言論の自由」に敵対しこれを潰そうとするものとの闘いの覚悟が求められる。

 私は、「言論の自由」の主要な敵は以下の5者であると思っている。
 (1) 公権力
 (2) 社会的権威
 (3) 経済的強者
 (4) 右翼暴力
 (5) 社会的同調圧力

 「言論の自由」の敵とは、要するに社会の強者であり、多数派なのだ。この社会の強者・多数派に抗い、これを批判する言論が保障されなければならない。このような保障に値する言論は、宿命的に強力な対抗圧力との軋轢を伴う。論者にはこの軋轢に怯まない覚悟が必要なのだ。

 DHC・吉田嘉明は、典型的な経済的強者としての「言論の自由の敵」となった。自らは差別的言論を恣にしながら、カネに糸目を付けずに、自分を批判する言論は許さないとするスラップ訴訟をかけまくった。これに加担する弁護士もいたのだ。出版予定の本は、この点をめぐっての記述となっている。

 ところで、「言論の自由の保障」というときの「言論」は内容を捨象した言論一般を指しているが、現実の「言論」は常に具体的な内容を伴っている。DHC・吉田嘉明が攻撃した私の「言論」の内容の一つに、《消費者問題としての行政規制緩和》というテーマがあった。

 みんなの党の渡辺喜美への8億円提供を自ら暴露した、「吉田嘉明手記」(週刊新潮・2014年3月27日発売号に掲載)を批判して私は同月31日に、ブログに下記のとおり記載した。これが、2000万円スラップの対象となった最初の記述。後に、損害賠償請求額は、合計5本のブロクに対して6000万円請求に拡張された。

「DHCといえば、要するに利潤追求目的だけの存在と考えて大きくは間違いなかろう。批判に遠慮はいらない。DHCの吉田は、その手記で『私の経営する会社にとって、厚生労働行政における規制が桎梏だから、この規制を取っ払ってくれる渡辺に期待して金を渡した』旨を無邪気に書いている。刑事事件として立件できるかどうかはともかく、金で政治を買おうというこの行動、とりわけ大金持ちがさらなる利潤を追求するために、行政の規制緩和を求めて政治家に金を出す、こんな行為は徹底して批判されなくてはならない。」

 私が批判の対象とした吉田嘉明の手記の中に、次の一節がある。

「私の経営する会社(DHC)は、主に化粧品とサプリメントを取り扱っています。その主務官庁は厚労省です。厚労省の規制チェックは他の省庁と比べても特別煩わしく、何やかやと縛りをかけて来ます。天下りを一人も受け入れていない弊社のような会社には、特別厳しいのかと勘繰ったりするくらいです。いずれにせよ、50年近くもリアルな経営に従事してきた私から見れば、厚労省に限らず、官僚たちが手を出せば出すほど、日本の産業はおかしくなっているように思います。つまり霞が関・官僚機構の打破こそが、今の日本に求められる改革であり、それを託せる人こそが、私の求める政治家でした。ですから、声高に“脱官僚”を主張していた渡辺喜美さんに興味を持つのは自然なこと。」

 さて、この言。なにか思い当たることはないだろうか。次のようにも言えるのだ。

 「私の経営する会社(「知床遊覧船」)は、主に知床観光の遊覧船の運航をしています。遊覧船で旅客運送を行う場合は、海上運送法における「旅客不定期航路事業」又は「人の運送をする内航不定期航路事業」の許可・届出が必要となり、その主務官庁は国交省・運輸局です。その規制チェックは他の省庁と比べても特別煩わしく、何やかやと縛りをかけて来ます。天下りを一人も受け入れていない弊社のような会社には、特別厳しいのかと勘繰ったりするくらいです。いずれにせよ、リアルな経営に従事してきた私から見れば、国交省に限らず、官僚たちが手を出せば出すほど、日本の産業はおかしくなっているように思います。つまり霞が関・官僚機構の打破こそが、今の日本に求められる改革であり、それを託せる人こそが、私の求める政治家でした。ですから、声高に“脱官僚”を主張していた政治家を応援したくなるのは、自然なこと。少なくとも、本件重大事故を起こす前はそうでした

 こう並べれば、DHC・吉田嘉明の妄言の本質も本音もよく分かろうというもの。

連合とはなんだ ー 「労務管理機構」であり、「改憲推進装置」でもある。

(2022年5月4日)
 昨日の有明憲法集会でもらったビラに掲載されていた一句。
   アヒルから、番犬になる大労組 (一志)

 戦後労働運動の興隆期、主流に位置していたのが「産別会議」だった。階級闘争をスローガンに掲げた運動スタイルで占領軍と日本の政権から弾圧を受けると、それに代わる労使協調派が「総評」を結成した。ところが、間もなく「総評」は変身する。労働者の利益実現のために闘う組織となり、日本社会党の護憲路線を支えることにもなる。当時これを、「ニワトリの卵からアヒルが孵った」と話題になった。

 おとなしいニワトリと思って育てた総評が、反米・反権力のうるさいアヒルになったという喩えだが、その総評も今はない。大企業の大労組は連合に組織され、資本と権力の番犬になり下がっているという川柳子の一喝。さて、この番犬、いったい誰に吠えかかり、誰と闘っているのだろうか。

 出版社「ロゴス」が発行している「フラタニティ」という季刊誌がある。最新号(№26、2022年5月号)の特集が「ウクライナ危機が提起するもの」として充実しているが、巻頭に「連合は果たして労働組合なのか? ― 『連合』序論」(掛川徹)という論文が掲載されている。現場からの具体的な情報の発信として、興味深く説得力がある。そのうちの貴重な一節を引用させていただく。

 「筆者が経験した職場では『経営の必須事項だからオマエ労務のことも勉強しとけ』という会社の意向で組合役員に取り立てられるケースがほとんどだった。事前の内示もなく勝手に組合役員に立候補すれば会社から報復人事を含めて凄まじい攻撃を受ける、という生々しい話も直接耳にした。ある会社では給与を年収ベースで100万円切り下げる事態も経験したが、組合役員が何度も行う職場『オルグ』では組合員の疑問に対して組合役員が会社の立場を滔々とまくしたて、うんざりした組合員が『もういいです』と話を切り上げるのが常であった。いざ賃下げとなった暁には「あれだけ何回も意見を聞いたのにあんたはその時黙ってたじゃないか」と言われてしまうので全員が黙々と条件の切り下げを飲み込んでしまう。ある意味で実に民主主義的なやり方で労働条件切り下げを飲ませる手法に筆者も舌を巻いた記憶がある。

 職場集会が終わればロッカールームで「あいつは会社側の人間だ」「どうせうちは御用組合ですから」「俺たちの高い組合費でうまいもんばっかり食いやがって」とボロクソの批評が飛び交うが、表だってこれを口にする人間はいない。

 こうした職場で「労働組合」とは労務課の出先機関にすぎず、組合役員は労務担当係長相当としか思われていない。ユニオンショップの下では組合から除名されれば会社もクビになる。組合に逆らうことは会社の上司に逆らうのと同じことなのである。

 …企業内労働組合は会社が命令できないことを労働者に飲ませる資本の別働隊というのが現場の実感である」

 以上は、「労働組合の体をした労務管理機構」という小見出しの一節。また、「格差拡大に加担する連合」という節もある。そこには、次のような生々しい体験が語られている。

 「以前勤めた会社で予定されていた私の正社員登用がコロナ禍で取り消しとなったため救済措置を求めて職場労働組合に援助をお願いしたことがある。私鉄総連傘下の組合書記長は私の申し出を言下に断った。

書記長「掛川さんはうちの組合員じゃないし、組合費も払っていないので組合としては動けません。個人と会社の雇用関係なので嫌なら辞めればいい」

掛川「動けないというのはどうでしょう。非正規雇用の同僚が切り捨てられるんだから、広い意味で職場環境の問題として組合が動くのは別に構わんじゃないですか」

書記長「職場環境を言うなら組合が要求して頑張ってきたからこんなに職場がきれいになったんです。組合費を払っていない掛川さんは組合の成果にタダ乗りしているんですよ」

掛川「…(絶句)会社も組合も話を聞いてくれないんだったら合同労組に加盟して団体交渉を申し入れるしかないですね」

書記長「それだけは絶対やめてください。うちはユニオンショップだから他の組合に加盟したらクビですよ」

掛川「私は正社員じゃないからそもそもオタクの組合に入っていません。労働者が労働組合に入ることは法律で認められた権利じゃないんですか」

書記長「経営危機を乗り切るため職場一丸で頑張っているときに掛川さんが外部勢力を引き込めばあなたの居場所はこの会社にはありませんからね」

 こういうエピソードを添えられると、連合についての幾つかの常套句が、真実味を帯びてくる。「正社員クラブ」「労働貴族」「裏切り者集団」「経営者予備軍」…。これらの呼称は、いずれも連合が「資本の番犬」であって、「正社員クラブ」の会員権を持たない労働者に吠え、噛みついているという一面を表している。だが、実はそれにとどまらないのだ。

 ところで、連合もメーデーには集会もする、デモもする。もっとも5月1日にではない。かつての天皇誕生日4月29日に、「労働者の祭典」を開催して恥じない。今年の連合メーデーを一瞥すれば、連合のなんたるかは一目瞭然である。何しろ、護憲も改憲阻止も、「9条守れ」も一切出てこない。政府や労働行政や小池百合子を来賓に呼んでの集会。これが労働組合の集会とはとても思えない。

 芳野友子(連合会長)による冒頭の挨拶は、資本や政権への対決姿勢は毛ほどもない。来賓挨拶の内容を連合自身のホームページ記事から引用する。

 政府を代表して松野博一内閣官房長官が「かつて労働政策は経済政策に従属的なものとされていたが、今日、雇用・労働政策は社会・経済政策を牽引するものとなっています。これには連合の活動も大きく貢献しているものと思っています。人への投資を起点とした成長と分配の好循環の実現に向け、これまで以上のご支援・ご協力をお願いします」と述べました。

 次いで、労働行政を代表して後藤茂之厚生労働大臣は「成長と分配の好循環を実現するためには、持続的な賃金の引上げとそれを支える生産性や労働分配率の向上が必要になります。賃上げを可能とする条件を支えられる労働政策を実行していきます」と述べました。

 続いて、メーデー中央大会を後援している東京都から、小池百合子知事が「組合員の皆様には、都民の生活を支える現場で尽力いただいている。私は現場を守る労働者の皆様をしっかりと支え、迅速に政策を実行していきます」と述べました。

 この連合の政府や行政との蜜月ぶりはいったいどうしたことか。本日の「毎日」朝刊トップの大型記事の見出しが「労組分断(その1) 自民、改憲狙い連合接近 4年前、国民民主に布石」となっている。その冒頭の一文が、以下のとおり。

 「政権交代を目指してきたはずの連合がおかしい。夏の参院選が迫る中、立憲民主、国民民主両党への支援に力が入らず、むしろ自民党への接近が目立つ。約700万人を擁する労働組合のナショナルセンターは、どこに向かうのか。」

 毎日が、「連合がおかしい」というのだ。結論から言えば、これまでは資本の犬でしかなかった連合が、今や政権の犬にもなっているということなのだ。ことは、今夏の参院選に影響を与え、さらには「改憲問題」における保守派の手駒になりつつあるということなのだ。

 連合は、野党共闘を積極的に妨害し、改憲阻止派の議席を減らして、憲法改悪に途を開こうとしている。権力の番犬となって、憲法や民主主義に吠えかかっていると言わざるを得ない。

 毎日の記事の一部を紹介する。

 「4月18日には芳野氏が自民党本部で講演。終了後、記者団の取材に応じる芳野氏の背後に、岸田首相のポスターに加え、『憲法改正の主役はあなたです』と記したポスターが張られていたのは偶然ではないだろう。」

 実はこの記事、ネットの有料記事として読める。下記のとおりのネットで全8回の企画だが、現在7回までがアップされている。

第1回 加速する「自民シフト」
第2回 消去法で芳野氏に
第3回 「トヨタショック」直撃
第4回 「組合=野党」もはや過去
第5回 内部分裂の兆し
第6回 参院選 現場は混乱
第7回 声を上げる女性たち
第8回 どうなる連合 専門家に聞く

その第7回の最終行は以下のとおり。大新聞の論調としてはかなりの突っ込み方ではないか。

 「芳野会長が誕生した時に膨らんだ女性たちの期待は急速にしぼんでいる。連合関係者の女性も「芳野さんが何をやりたいのか分からない。働く者と横につながるでもなく、説明もなく一人で進む。とてもじゃないが一緒にやれる人ではない」と困惑する。女性たちが怒りの声を上げ始めた。」

 芳野体制は連合内部でも評判すこぶる悪く長くもちそうにはないようだ。しかし、ここまできた資本や権力に対する姿勢を軌道修正できるのだろうか、そこが問題なのだ。

参加者の自信を深めた、「九条のネジ締め直した」集会。

(2022年5月3日)
 空は青く澄みわたり、緑の風が心地よい。絶好の「平和憲法」日和である。
 本日の東京新聞「筆洗」欄に、
  憲法記念日天気あやしくなりにけり (大庭雄三)
という句が引用されているが、そのような懸念を吹き飛ばす上々の好天なのだ。

 本日の「改憲発議許さない!守ろう平和といのちとくらし 2022 憲法大集会」、事前の主催者呼びかけでは、「新型コロナウィルスの感染を極力回避するため、当日はオンライン中継での視聴を積極的に活用して」という調子だったが、参加者の出足は好調だった。

 なんとも多種多様いろんな団体の旗を立てて人々が集まってくる。家族連れも、個人参加の人々も、老いも若きも、猫も杓子もてん。そして、数知れないビラを渡される。署名を求められる。そしてカンパも…。「天気あやしい」を意識してか、3年ぶりの大集会だからか。参加者のボルテージが高い。 たくさんもらったビラの中に、「世直し川柳瓦版」(レイバーネット日本・川柳班)というものがあった。その中の一句が、「憲法記念日天気あやしくなりにけり」を吹き飛ばしている。
  九条の螺旋(ネジ)締め直すデモに立つ (阿Q)

 凛としたこの姿勢、おそらくは多くの参加者の気持ちを代弁する句。この集会は、「九条のネジを締め直している」のだ。いや、 不粋に解説すれば「九条を守ろうという自分自身の気持ちのネジを締め直そう」というのだ。 もう一つこの集会参加の心意気。
  この星の憲法作れとデモに行く (今朝)

 ほかにも感心した句をいくつか。
  憲法を教え偏向だと言われ (奥徒)
  この国に空気のようにある差別 (芒野)
  国旗振るたびに命が軽くなり (一志)
  星条旗星に紛れて丸一つ (J・ポンド)

 川柳があれば、短歌もある。「平和万葉集(巻五)ー憲法とコロナの時代ー」(新日本歌人協会)の掲載作品募集についてのビラに、「巻一」?「巻四」からの幾つかの歌が掲載されている。そのうちの何首かに目が惹かれた。

  海の水わけても夫の骨返せよと狂いし母が天皇を責む(中里奈津子)
  たかが藁なれど人形その胸を竹槍に突きしこの手おぞまし(黒崎米子)
  千羽鶴幾百万羽供ふるとも帰り来るなし失せたる一羽(斉藤史)
  声あげて発語なすべき時至る国会前にわれは来たれり(来嶋靖生)
  ああ子らにごめんなさいと言ふだけで許さるると思ふな戦をとめず(木村雅子)

 改めて思う。一見「憲法をめぐる天気の模様はあやしく」なってはいる。しかし、平和を願う国民の願いは深く切実である。この国民の平和への願いや思いがある限り、憲法をめぐる天気が、一天にわかにかき曇るようなことはけっしてならない。この集会への参加者は、そう確信できたのではないか。
 
 東京新聞(電子版)が「護憲派1万5000人声合わせ『今こそ憲法を守れ』 憲法記念日の大規模集会、3年ぶり開催」と報道した。

 「日本国憲法施行から75年を迎えた憲法記念日の3日、護憲派の大規模集会が東京都江東区の有明防災公園で開かれ、1万5000人(主催者発表)が参加した。過去2年はコロナ禍で中止され、護憲派が「5・3」に結集するのは2019年以来3年ぶり。改憲派がロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、戦争放棄をうたう9条改正論を声高に叫ぶ中、「今こそ憲法を守れ」と声を合わせた。」

 集会参加者の気持ち表した、よいリードだと思う。本文で大江京子弁護士の呼びかけが紹介されている。「残念ながら9条は戦後最大の危機を迎えている」。しかし、「市民の尊い犠牲の末、戦争の惨禍を起こさせないと誓い、日本国憲法を定めた。この決意を捨てさって良いわけがない

 まったくそのとおりである。これまでも、幾たびもの「憲法の危機」を乗り越えて、今日の日本国憲法がある。そのたびに、国民は憲法を選び直してきたのだ。この度の「危機」を乗り越えられないはずはない。

 さあ、九条のネジを締め直そう。 

幸徳秋水に学ぶー「戦争反対」「改憲反対」「9条を守れ」と絶叫せざる可からず

(2022年5月2日)
 プーチン・ロシアのウクライナ軍事侵攻という深刻な事態のさなかに、明日75回目の憲法記念日を迎える。好機到来とばかりに、改憲派が日本国憲法の平和主義を侵攻している。とりわけ、維新がその尖兵の役割を担っている。これこそ「火事場泥棒」以外のなにものでもない。この火事場における泥棒の被害には十分な警戒を要する。

 歴史を顧みたい。我が国近代にも反戦・平和の思想は脈々と息づいている。日露戦争開戦時における反戦・平和の言論には、今学ぶべきところが多々あると思う。とりわけ、平民新聞に拠った幸徳秋水の言説に耳を傾けたい。

 日露の開戦は、1904〔明治37〕年2月の上旬である。その直前の同年1月17日付「平民新聞」第10号に、幸徳秋水の「吾人は飽くまで戦争を非認す」という論説が掲載されている。その中に下記の有名な一節がある。

 「吾人は飽くまで戦争を非認す、之を道徳に見て恐る可きの罪悪也、之を政治に見て恐る可きの害毒也、之を経済に見て恐る可きの損失也、社会の正義は之が為めに破壊され、万民の利福は之が為に蹂躙せらる。吾人は飽くまで戦争を非認し、之が防止を絶叫せざる可からず。」

 日本中が憎むべきロシアに開戦を叫ぶときに、敢えて戦争違法の本質を語り、「吾人は飽くまで戦争を非認し、之が防止を絶叫せざる可からず」という姿勢を宣言したのだ。

 開戦後には、さらに悲痛な論陣となっている。

「戦争は遂に来れり。平和の撹乱は来れり。罪悪の横行は来れり。日本の政府は日く、其責露国政府に在りと。露国の政府は日く、其責日本政府に在りと。是に由て之を観る。両国政府も亦戦争の忌むべき平和の重んずべきを知る者の如し。少なくとも平和撹乱の責任を免れんことを欲する者の如し。」

 「吾人平民は飽くまで戦争を非認せざる可らず。速に平和の恢復を祈らざる可らず。之が為めには、言論に文章に、有ゆる平和適法の手段運動に出でざる可らず。故に吾人は戦争既に来るの今日以後と雖も、吾人の口有り、吾人の筆有り紙有る限りは、戦争反対を絶叫すべし。而して露国に於ける吾同胞平民も必ずや亦同一の態度方法に出ると信ず。否英米独仏の平民、殊に吾人の同志は益々競ふて吾人の事業を援助すべきを信ずる也」

 ここでも、「言論に文章に、有ゆる平和適法の手段運動に出でざる可らず。吾人の口有り、吾人の筆有り紙有る限りは、戦争反対を絶叫すべし」と咆哮している。立派なものだ。その姿勢を学ばなければならない。いま、幸徳秋水ありせば、「戦争反対」に続けて、「改憲反対」「9条を守れ」と絶叫するであろう。

 幸いなことに、憲法改悪反対の世論は、ウクライナ侵攻後もけっして脆弱化していない。昨日発表となった共同通信の世論調査が「改憲機運は『高まっていない』とする回答が70%」というもので、護憲派に勇気を与えるものとなっている。

 下記は、その共同の世論調査を報じる産経の記事(全文)である。

「9条改正、賛否拮抗 施行75年の共同世論調査
 共同通信社は1日、憲法施行75年となる3日を前に郵送方式で実施した世論調査結果をまとめた。9条改正の必要性は「ある」50%、「ない」48%と賛否が拮抗した。昨年の同時期の調査で9条改正は、必要51%、不要45%だった。

 岸田文雄首相が自民党総裁任期中に目指す改憲の機運は、国民の間で「高まっていない」が「どちらかといえば」を含め計70%に上った。「高まっている」は「どちらかといえば」を含め計29%。大規模災害や感染症の爆発的蔓延時の緊急事態条項として国会議員任期を延長できるようにする改憲は賛成76%、反対23%だった。

 調査では、改憲機運に関し国会で改憲論議を「急ぐ必要がある」は50%で、「必要はない」49%と二分した。改憲問題に「関心がある」「ある程度関心がある」は計69%だった。

 調査はロシアのウクライナ侵攻後の3?4月、全国の18歳以上の男女3000人を対象に実施した。」

 自信をもって、私も声を上げ続けよう。「戦争反対」「改憲反対」「9条守れ」と。そう、私に口があり、ペンがあり紙があり、そしてパソコンがある限りは。この声は、必ずや世界の理性ある人々に通じるに違いないのだから。

祝・第93回メーデー。労働運動の発展を祈念する。

(2022年5月1日)
 本日、第93回メーデー。労働者が階級的な団結と連帯を確認し合う日。団結して闘うという働く者の誇りを示すべき日。国内的にも国際的にも、労働者の主要な闘いの課題を語り合い決意を固める日。そして来たるべき働く者が主人公となる未来の社会を語るべき日…。

 ではあるが、メーデーについても理想と現実の落差は覆いがたい。昨日の毎日朝刊の「ふんすい塔」欄に、百言居士氏(長野)の自嘲的な投稿。

 メーデー
   団結ガンバロー
         ――連合
         ――自民

 労働者の団結の以前に、労働者としての自覚と資本からの独立が求められる。が、それが実現していない。政府やら、自民党やら、電力会社と「団結」していることを隠そうともしないのが、連合である。これが、我が国最大のナショナルセンターなのだから、労働運動昏迷の時代を嘆かざるを得ない。

 私が初めてメーデーを体験したのは、1962年5月だった。私は、その年の4月に東京外国語大学に入学したばかり。誘われるままに中央メーデーに参加した。当時18歳だった私は、その大群衆に感動もし興奮も覚えた。

 「労働者階級」なるものが、単なる観念ではなく実体として存在するものなのだと思わされる衝撃だった。ときは、安保闘争の直後、若者はすべからく革新であり反体制であった時代のことである。

 あのときのメーデーで特に記憶に残ることが二つある。デモを待つ間に、間近かに野坂参三の演説を聴いた。とげとげしいアジテーションではなく、とても穏やかな口調だったことが印象に残った。そしてもう一つは、デモ行進のさなかに、ヘルメットと竹竿の部隊から突然に襲われたこと。これには驚いた。

 わたしは、自分の隊列がどのような政治的色分けをされ、どのセクトからなにゆえに襲われたのか、まったく理解できなかった。怪我人が出るような事態にはならなかったが、腹立たしさが残った。このとき以来、暴力的な運動スタイルには拒否の姿勢を貫いてきた。

 あれから60年である。長く、日本の未来は労働運動の発展如何にかかっていると考え続けてきた。必ずしも、社会主義を理想としたわけではないが、もっと公正で、もっと自由にものが言えて、みんなが豊かになって、人権や民主主義や平和が重んじられる、そんな日本の未来である。弁護士として労働事件に関わる中で、悪辣な資本の手先となる御用組合の犯罪性を見せつけられ、幾たびも歯がみをしてきた。今、集団的労働事件が少ない。闘う労働者の姿が見えてこない。

 啄木の苦い思いを噛みしめざるを得ない。
 
  新しき明日の来るを信ずといふ
  自分の言葉に
  嘘はなけれど―

 それでも、メーデーだ。平和で自由な社会を求める労働者の祭典 メーデー万歳。

えっ? 共産党が「自衛隊感謝決議」に賛同?

(2022年4月30日)
 4月25日の那覇市臨時市議会。「本土復帰50年に際し、市民・県民の生命を守る任務遂行に対する感謝決議案」なるものが上程され、採決の結果賛成多数で可決となった。このタイトルには感謝の宛先についての記載はなく、決議の手交や郵送は行わないというが、自衛隊に感謝する内容である。自衛隊への「感謝決議」は県議会を含め、沖縄県内の市町村議会では初めてのことと報じられている。自民党議員が提案し、これに共産党が賛成にまわったことが、大きな話題となっている。

 提案理由は以下のとおりである。

 「本年で本土復帰 50 周年を迎えるにあたり、関係機関が行った緊急患者等の災害派遣で市民県民の多くの命が救われた。
よって本市議会は、関係機関に対し感謝の意を表すためこの案を提出する。」

採択された決議の全文を引用しておきたい。

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 「戦後 27 年の米国統治を経て沖縄県が本土復帰をして、本年は 50 年の節目を迎える。
 多くの離島を抱える島しょ県の沖縄は、これまで「島チャビ(離島苦)」に挑戦しながら振興発展の歩みを進めてきた。復帰とともに配備された自衛隊は、本来任務ではなかった緊急患者空輸を昭和 47 年、粟国島を皮切りに開始し、本市消防局や医療機関と連携しながら、本年 4 月 6 日に南大東島の緊急患者空輸をもって搬送数が総計 1 万件を超えるに至った。
 その他にも災害派遣として市内外における不発弾処理や、行方不明漁船等の捜索など市民・県民の生命を守る活動を継続して行っている。
 また、海上保安庁も同様に本土復帰以来、3 千百件余の離島患者空輸や漁船等からの救助をおこなっているほか、ドクターヘリも同様な任務を行い、この復帰 50年には様々な行政機関や医療機関などの連携と協力があり市民・県民の生命と財産が守られてきた。
 よって本議会は本土復帰 50 年に際し、関係機関並びに関係各位における市民・県民の生命を守る任務遂行に対して、深甚なる敬意と感謝の意を表するものである。

令和 4 年(2022 年)4 月 25 日
那 覇 市 議 会    

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 市議会の定数は40。欠員が2で、採決に加わらない議長を除くと、決議の投票権者数は37。そのうち15名が退席して表決に加わらず、有効投票数は22となった。無所属の2人が反対にまわり、採決結果は賛成20、反対2。この賛成票20の中に、共産党の5票がある。

 地元紙報道の見出しは、【自民・共産が賛成 那覇市議会 感謝決議 自衛隊 緊急搬送】(琉球新報)、【自衛隊に感謝決議 那覇市議会で県内初 離島患者の搬送1万件で】【自衛隊への感謝決議 「党派を超えて可決され喜ばしい」と岸防衛相 那覇市議会で共産も賛成】(沖縄タイムス)など。

 採決時退席したのは、立憲民主・社大、公明、ニライ会派など。ときは、ウクライナ侵攻のさなか。ところは、参院選・知事選を間近にした沖縄の県庁所在地である。影響は大きい。なんとも、分かりにくいことが起きるものだ。

 琉球新報社説の一節は次のように述べている。「共産党は決議が民生に限った内容だとして賛成した。これまでの自衛隊に対する党の立場とどのように整合を図ったのかは分かりづらい」。私も同様の感想を持つ。

 今、「自衛隊に感謝を」「自衛隊を侮辱するな」「国土の防衛という崇高な任務に敬意を」という、意識的な世論づくりが進行している。当然のことながら、9条改憲の地ならしである。その策動に乗せられてはならない。にもかかわらず、9条改憲反対の中心勢力である共産党が、「自衛隊感謝決議に賛成」とは、いったいどうしたことか。

 アジア太平洋戦争での唯一の地上戦において、日本軍の被害を経験した沖縄ではないか。住民がガマから追い出され、あるいは集団自決を強要され、「軍隊は住民を守らない」と骨身に沁みた沖縄県民ではないか。その地での自衛隊感謝決議自体が信じがたい。

 「離党の患者搬送や、災害派遣や、あるいは不発弾処理や、行方不明漁船等の捜索等々の市民・県民の生命を守る活動に限っての感謝」だから問題ないと言ってはならない。自衛隊の『本質』『本務』は、紛れもなく軍事力の行使にあって、民生にはない。自衛隊の『非本質』的部門における『非本務』活動をもって、自衛隊の存在を肯定評価してはならない。

 本来、必要な民生活動を自衛隊に任せていてはならない。それぞれの専門活動機関を創設し、専門性の高い活動を目指すべきである。離党の患者救援や災害派遣は、その用途に特化した機材や装備を有し専門的な訓練を積んだ機関に任せるべきべきである。軍事用装備品の流用で済ましてよいはずはないのだから。

 そして、ことさらに自衛隊に感謝してはならない。全ての公務員が国民に奉仕しているのだ。警察も消防も清掃も海保も気象庁も、そして教育も司法も行刑も…。自衛隊の任務のみを崇高としたり、特別に感謝の対象とすべき理由はない。

 さらに、日本国憲法は、武力を保持しないと定めている。自衛隊はその存在自体が違憲である可能性が高い。仮にこれを違憲な存在でないとすれば、専守防衛に徹した規模や装備や編成に限定しなければならない。果たして、自衛隊は違憲の存在ではないのか。この議論の徹底を躊躇させる空気はきわめて危険である。

 自衛隊とは、暴走すれば、国民の人権も民主主義も破壊する危険な暴力装置である。これに対しては、徹底した文民(主権者国民)の統制下に置かねばならない。自衛隊のあり方に対する批判を躊躇させる空気が社会に蔓延したときには、軍国主義という病が相当に進行していると考えざるを得ない。その病は、国民にこの上ない不幸をもたらす業病である。予防がなによりも肝腎なのだ。

 だから、自衛隊感謝決議は、自衛隊批判を口にしにくくする空気作りの第一歩として危険なのだ。ましてや、共産党が賛成となればなおさらではないか。革新を名乗る党が、このような決議に賛同してはならない。猛省を促したい。

9条改正「不要」57%ー北海道新聞世論調査の朗報

(2022年4月29日)
 本日は「昭和の日」。大型連休の初日だが、東京は生憎の本降りの雨。しかも肌寒い。ツツジも、サツキも、フジも、冷雨にうたれて気の毒の限り。
 
 このぐずついた天候のごとく、このところよいニュースがない。コロナ・ウクライナ・知床事故・道志村…。そして、諸式の物価高である。世の物価はなべて上がるが、賃金は上がらない、年金は下がる。株価だけが人為的な操作で持ちこたえ、持つ者と持たざる者との格差拡大に拍車がかかる。これでどうして、政権がもっているのやら。さらには、敵基地反撃能力だの、中枢機能攻撃だの、核シェアリングだの、防衛費倍増だの。ヒステリックで物騒極まりない見解が飛びかっている不穏さ。

 そう思っていたら、北海道新聞のデジタル版に、以下の記事。
 「改憲の賛否再び拮抗 9条改正「不要」57% 本紙世論調査」というのだ。これは朗報である。闇夜に一筋の光明とは大袈裟だが、元気が湧く。

  「5月3日の憲法記念日を前に、北海道新聞社は憲法に関する全道世論調査を行った。

 憲法を「改正すべきだ」は42%(前年調査比18ポイント減)、
 「必要はない」は43%(同13ポイント増)

 で拮抗(きっこう)した。
 前年は新型コロナウイルスへの不安の高まりなどを背景に改憲意見が強まったが、再び賛否が二分する状態に戻った。

 戦争放棄を定めた憲法9条については「改正すべきではない」が前年から横ばいの57%で、「改正すべきだ」の35%(同1ポイント減)を上回った

 自民党などはロシアによるウクライナ侵攻を機に9条改正に向けた議論の進展を図っているが、市民の間に改憲論は強まっていないことが浮き彫りになった。

 これが、憲法記念日直前の、全道の憲法意識なのだという。これから、順次全国の世論調査が実施され結果が発表されることになるだろうが、「市民の間に改憲論は強まっていないとは幸先のよい調査結果ではないか。

 いま、ロシアのウクライナ侵攻を奇貨として、反憲法勢力が懸命に笛を吹いている。曰わく、「自分の国は自力で防衛しなければならない」「平和を望むなら、軍事力の増強が不可欠である」「それに桎梏となっている憲法を、とりわけ9条を変えなければならない」と。

 この笛を吹いている側の勢力が、自・公・維・国の保守4党。しかし、国民はけっしてこの笛に踊らされてはいないのだ。むしろ、平和への危機意識が「9条守れ」の声に結実しているのではないか。道新の世論調査が、貴重なその第一報となった。さて、これから、メーデーがあり、憲法記念日となる。改憲阻止の世論を大きくしていきたいもの。

 ところで、「昭和の日」である。昭和という時代は1945年8月敗戦の前と後に2分される。戦前は富国強兵を国是とし、侵略戦争と植民地支配の軍国主義の時代であった。戦後は一転して、「再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることの決意」から再出発した、平和憲法に支えられた時代。戦前が臣民すべてに天皇のための滅私奉公が強いられた時代であり、戦後が主権者国民の自由や人権を尊重すべき原則の時代、といってもよい。

 本日は、戦前の軍国主義昭和を否定し、戦後の平和主義昭和を肯定的に評価すべき日でなくてはならないが、なんと、本来の「昭和の日」に、もっともふさわしからぬ人物の誕生日を選んだことになる。疑いもなく、昭和天皇と諡(おくりな)された裕仁こそが、戦前の狂信的軍国主義を象徴する人物にほかならないのだから。

 あの昭和前期の軍国主義の時代、国民には裕仁や軍部の手口が、見えなかった。いま、プーチン・ロシアが、隣国ウクライナに侵略戦争中の「昭和の日」を迎えてこのことを思い起こすべきだろう。

 プーチンの国内世論の支持はすこぶる高いと報じられている。皇軍の侵略を支えた日本国民の民意はそれを圧倒するものだったろう。プーチンの手口はヒロヒトの軍隊とよく似ている。戦前の日本の歴史を見据えて、プーチン・ロシアの責任を見極めよう。そして、プーチンもヒロヒト同様に、内外に戦争の惨禍をもたらした戦争犯罪者であり、平和への敵であることを確認しなければならない。

 戦前の軍国主義昭和を否定し、戦後の平和主義昭和を肯定する立場からは、憲法の理念を擁護し、憲法の改正を阻む決意あってしかるべきである。そうであって初めて、「昭和の日」の意義がある。

東京「君が代」裁判5次訴訟。原告と代理人の意見陳述に改めて感動。

(2022年4月28日)
 石原慎太郎教育行政時代の悪名高き「10・23通達」から18年余。都立学校での「日の丸・君が代」強制の嵐はおさまることなく、猛威をふるい続けている。

 本日、第5次処分取り訴訟の第4回口頭弁論が、東京地裁709号法廷で開かれた。原告側が2通の準備書面を提出し、原告2人、代理人1人が、口頭で意見陳述をした。裁判官諸氏はよく耳を傾けてくれたと印象をもった。

 本日の法廷での、意見陳述、私も代理人席で聞いて感動した。弁護士として、自分が受任した人の発言に感動し、自分が受任している事件の意義を再確認するのは、至福のひとときである。

 「日の丸・君が代」の強制に服することができないと決意した人々とは、教育という営為を真剣に考え、子どものことを真面目に考える、優れた教師なのだ。自分に忠実でなければならないとする高潔な人々なのだ。その真面目さ、高潔さへの共感が感動となる。そしてその感動は、東京都教育委員会や背後で指図している東京都知事の理不尽への怒りとなる。

 本日の代理人意見陳述の原稿をご紹介したい。とても分かりやすい。誰にも、説得力があると思う。ぜひ、ご一読いただきたい。

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原告ら代理人国旗国歌法立法趣旨に関する意見陳述要旨

 原告ら訴訟代理人白井劍です。このほど提出した準備書面(6) では、国旗国歌法の立法趣旨からして起立斉唱の義務づけは許されないことを述べました。その要約に6分ほどのお時間を頂戴いたします。

 国旗国歌法の法案作成過程では、国旗国歌の尊重義務が条項から慎重に除外されました。2009年8月18日付朝日新聞には、法案作成に携わった人たちのインタビューが載っています。
 当時の官房副長官はこう述べています。「尊重義務などを書けば,罰則がなくても『義務を守らないのは,けしからん』などと言い出す人がいるかもしれない。そうした余地はないほうがいい』」。
 当時の内閣法制局長官はこう言っています。「君が代を歌わないことをとやかく言われたり,国旗に敬礼しなければいけなかったりする社会は窮屈だ。歌いたくなければ歌わずに済む社会が私はいい」。
 内閣官房長官であった野中広務氏は、法制化から4年経って10・23通達が発出されたのちに、教職員に対する懲戒処分について日弁連のインタビューに答えて、「立つ,立たん,歌う,歌わんで処分までやっていくというのは,制定に尽力した私の気持ちとしては不本意で,そのような争いを残念に思っております」と語っています。
 国旗国歌を尊重することを義務づけすべきでないとして、国旗国歌の尊重義務が法案作成過程で慎重に除かれたのです。

 しかし、それでも国会審議が進むにつれ国論を二分する国民的大議論が沸き起こりました。これを反映して国会でも白熱した議論になりました。政府は、「強制しない」、「教育現場での取り扱いに変更をもたらさない」と、くり返し一貫して答弁しました。
 内閣総理大臣「学校における国旗と国歌の指導は・・義務づけを行うことは考えておらず,現行の運用に変更が生ずることにはならない」。
 内閣官房長官「学校現場におきます内心の自由というものが言われましたように,・・式典等においてこれを,起立する自由もあれば,また起立しない自由もあろうと思うわけでございますし,斉唱する自由もあれば斉唱しない自由もあろうかと思うわけでございまして,この法制化はそれを画一的にしようというわけではございません」 
 文部大臣「教育の現場というものは信頼関係でございますので,・・処分であるとかそういうものはもう本当に最終段階,万やむを得ないときというふうに考えております」。
 政府委員「単に起立をしなかった,あるいは歌わなかったといったようなことのみをもって,何らかの不利益をこうむるようなことが学校内で行われ・・るということはあってはならないこと」。

 そうして、ようやく成立にこぎつけたのが経過です。法制化直後の文部省通知も、「学校におけるこれまでの国旗及び国歌に関する指導の取扱いを変えるものではありません」と確認しています。
 教育公務員に対しても義務づけはしない。教育現場での取扱いを変えない。この国の立法府におけるその確認が、東京都においては一片の行政通達で簡単に反故にされてしまいました。それから18年余りが経ちます。

 10・23通達の異常さの本質は,「多元的価値を認めない」ことにあります。日の丸に向かって起立して君が代を歌うことだけが正しい。この価値観を生徒たちに教える。それが10・23通達の狙いだと都教委自身が述べています。将来,生徒が社会に出て,「国歌斉唱をする場に臨んだとき,一人だけ,起立もしない,歌うこともしない,そして,周囲から批判を受ける,そのような結果にならないよう指導する」と都教委の答弁書に述べられています。
 「周囲から批判を受ける結果にならないよう指導する」と都教委は言います。都教委のいう「指導」が効果を上げれば,尊重義務規定などなくても,国旗に向かって起立し国歌を斉唱しない人は、間違ったことをして「周囲から批判されるべき」人である、ということにされてしまいます。「指導」の効果を上げるため、教職員に起立斉唱を命じ懲戒処分を科して、「指導」を徹底しているのです。「指導」を受けた生徒が卒業して次々と社会に出ていく。時が経過すれば、「指導」の効果は、生徒を介して広く一般社会におよびます。それは、国旗国歌法に国旗国歌の尊重義務規定を入れたのと実質的に同じです。

 法案作成過程で慎重に尊重義務規定が除外されました。国会審議でも侃々諤々の議論を経て義務づけしないとくり返し確認されて成立にいたりました。その法律の立法趣旨を下位規範である通達が打ち破るという倒錯が起きています。起立斉唱の義務づけは、国旗国歌法の立法趣旨からも許されないことといわねばなりません。

                            以上

経営委員会委員長・森下俊三による経営委員会議事録記録データ廃棄が大きな問題に

(2022年4月27日)
NHK情報開示請求訴訟、本日の103号法廷でのパワポの概略は以下のとおり。

NHK情報開示等請求事件
第3回期日
東京地裁令和3年(ワ)第15257・24143号
原告ら代理人弁護士澤藤大河

原告第3準備書面の概要

1.被告NHKの文書開示義務は未履行
2.被告NHKに対する文書開示請求権の根拠
3.各被告への損害賠償請求の根拠

被告NHKは請求にかかる文書を開示したのか

開示請求文書目録
(1) 2018年4月24日に放送された「クローズアップ現代+」を巡ってNHK経営委員会でなされた議論の内容(上田良一会?に対して厳重注意をするに至った議論を含む)がわかる一切の記録・資料
(2) 「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」が提出した答申第797号、第798号、第814号、第815号、第816号を受けて、NHK経営委員会が行った当該議事録等の開示を巡る議論の内容がわかる一切の記録・資料

提訴への経緯(1)

? 本件訴訟は、放送法において法的な義務とされている経営委員会議事録の公表がされず、開示にも応じないことから、なんとか、その内容を開示させようと提起された。
? 放送法41条は経営委員会委員長に議事録を作成し公表する法的義務を課しているが、その公表手続は被告NHKが実行しなければならない。
? しかし、被告NHKは議事録を公表しなかった。

提訴への経緯(2

? 2名の視聴者が情報開示請求
? 被告NHK、8点について開示拒否(2018年10月23日)
? 審議委員会がすべて開示すべきとの答申(2020年5月22日)
? しかし、なお下記3点の文書が不開示とされた
「第1315回経営委員会議事録」(2018年10月9日開催)
「第1316回経営委員会議事録」(2018年10月23日開催)
「第1317回経営委員会議事録」(2018年11月13日開催)

提訴への経緯(3)

? 新たに3名の視聴者が議事録について開示請求
? NHK不開示決定
? 審議委員会は3件について、すべて開示すべきと答申(2021年2月4日)
? しかし、NHKは、この開示請求に対してもなお開示しないまま現在に至っている。

原告の開示請求には議事録が含まれる

原告開示請求対象の第1項
(1) 2018年4月24日に放送された「クローズアップ現代+」を巡ってNHK経営委員会でなされた議論の内容(上田良一会?に対して厳重注意をするに至った議論を含む)がわかる一切の記録・資料
経営委員会の正式な議事録があれば、「NHK経営委員会でなされた議論の内容・・・がわかる・・・記録」に該当し、当然、本件訴訟の開示請求の対象となる。

議事録はないのか?

? 被告NHKも被告森下も、正式な議事録は存在しないとしている。
? しかし、議事録作成は放送法41条で被告森下に課された義務
? 議事運営規則(丙2)は、議事録「公表」義務の一部免除は認めても、「作成」義務免除の例外は認めていない。
? 今までの経営委員会については議事録を作成しているのに、本件にかかる会議だけ議事録を作成しない不自然さ。
? 何より、先行する開示請求にかかる手続きでは、議事録が存在することを前提に進んでいる。

審議委員会は何を見たのか?

? 審議委員会答申は、議事録を開示すべきとしている。
? 存在しない書面を開示せよと答申したのか?
? 開示すべきかどうか、審議委員会は現物を見て判断したはずではないか?
? これらの開示請求手続きで、議事録「不存在」の主張は一切なかった
? 今まで、4年間も議事録が存在することを前提に手続きが進んできたのに、いきなり「実はない」と言われても・・・・・

本件訴訟における開示請求の履行はない

? 原告の請求は、「一切の記録・資料」の開示
? 当然、録音・録画も含まれる。
? いわゆる「粗起こし」の正確さをみれば、録音・録画が存在する可能性は極めて高い。
? にもかわらず、NHKは録音・録画を提出していない。「粗起こし」は、電磁的記録を文字におこしたものであることを明示しておらず、「電磁的記録の開示」にはあたらない。

議事録は本当に不存在なのか?

? 今までの手続きで、存在を前提に4年間もやりとりがなされてきた議事録について、突然不存在と主張する。
? しかし、被告NHKは、存在可能性が極めて高い経営委員会の録音録画データを提出していない。誠実でなく信用できない。
? 原告としては、議事録が不存在とはとうてい考えられない
? 議事録不存在については、被告において蓋然性をもって証明されなければならない。
? 議事録の存否を明らかにするための被告森下の尋問が必要である。

被告NHKに対する損害賠償請求の根拠

? 被告NHKは、原告らの情報開示請求について、受信契約に基づく債務を負っている。
? この点、被告NHKは、情報開示制度は契約に基づくものではないとするが、「合意」に基づくものとしている。
? いずれにせよ、少なくとも合意に基づく法的効果としては、契約と同様となる。
? 被告NHKには開示すべき債務がある。
? 原告の請求はこの債務不履行損害賠償請求である。

被告NHKの開示義務履行遅滞

? 被告NHKは、開示請求から47日以内に開示する法的義務を負っていた。
? 具体的には2021年5月24日の経過を持って履行遅滞となった。
? 請求にかかる文書がすべて開示されていたとしても、5月24日から開示までの履行遅滞がある。
? 請求にかかる文書が開示されていないということなら、現在まで履行遅滞が続いている。

被告森下の損害賠償義務

? 被告森下は、被告NHKにおいてなすべき開示の履行を妨害した不法行為を行った。
? 放送法41条違反の公表義務を怠ったことから、一連の活動として履行を妨害している。
? 被告森下が放送法41条に基づき公表していれば、そもそも開示請求にいたらない。
? 被告森下の放送法41条違反行為に始まり、一連の行為として、被告NHKに絶対に本件議事録を開示させないように活動した。

被告森下が何をしたか?

? 被告森下が、被告NHKにどのように働きかけたのかは、原告らにはわからない。
? しかし、被告NHKには、議事録を不開示にする動機がない。審議委員会の答申が出ている以上、これに反対する理由がない。
? 被告森下には、議事録を不開示にする動機がある。自らの放送法32条2項に違反して、放送に介入した行為を隠蔽する必要があるという強烈な動機である。
? また、被告森下には、働きかけることのできる能力もある。経営委員会委員?として、NHKの最高幹部の人事権も有している。

被告森下の尋問が必要

? 被告森下が、被告NHKにどんな働きかけをしたのかは、原告らには具体的にはわからない。
? しかし、前述のように、被告森下が働きかけた蓋然性が高い。
? 働きかけをした被告森下、働きかけられた側NHK会?を尋問して明らかにする必要がある

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 原告は、本件の提訴後に原告らに公開された「粗起こしの議事録草案」の取り扱いについて被告両名に提案した。
 これは、適式の議事録ではないものと明記された代物である。このままでは、被告NHKの文書開示義務の履行があったと認めることはできない。内容の真実性を確認するすべもない。
 しかし、他の議事録と同様に、適式の手続きを履践してこれに所定の責任者が署名捺印のうえNHKのサイトに掲載するのであれば、議事録と認めよう、というものである。これに対して、被告NHKは異議を述べなかった。「経営委員会委員長である被告森下の意向次第」という姿勢。
 ところが、被告森下は「ノー」なのだ。驚くべき頑なさである。

それなら、原告は徹底して請求を続けるというしかない。「41条に基づいて経営委員会委員長が作成した議事録があるはずだから、これを開示せよ」「これが存在しないと言うのなら重大な任務違背だ」と追求するも、「ない」との回答。

 さらに、本日の法廷では以下のことが問題となった。
 原告が開示を求めているのは、「一切の記録・資料」であって、当然に電磁的記録を含む。音声記録か画像記録か、元データがあるはずだから提出せよ。それと照合することによって、「原告らには公開されたが、国民には公表されていない、《粗起こしの議事録草案》」の正確性を確認することができる。

 これに対する被告森下の回答が驚くべきものである。「消去して、現在存在しない」というのだ。文書の隠匿の次は、廃棄である。とうてい納得できない。これから、この点が大きな問題となる。

 まずは、誰が、いつ、なぜ、どのように、消去したのかを問い質さなければならない。また、復元可能性についても追求しなければならない。そして、被告森下の悪性を明確にし、その任命者である安倍政権の責任も追及しなければならない。

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